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長編

「旅をする仲間を?」


「そうだヨン」


立ち話のまま、フィアスはピエロから事情を聞いた。立ち去ろうとしたのは、フェイントをかけるためだったらしい。それより先にフィアスが気づいてしまったから、フェイントに失敗したそうだ。戦った時も、賄賂の時も、フィアスの事を見据えていたという。そして、滑稽な格好で周りからはのどかな会話をしていると見せかけておいてから、ピエロは笑っていた目を開け、ピエロには似つかわしくない鋭い眼光をフィアスに向けた。


「――君、〝物見族〟って知ってるヨ?」


「も、物見族じゃと!?」


やはりフルシャは知っていたらしく、目を丸くする。ピエロの発言で思い出したフィアスも、丁度いいとそれとなく顎に手を当てて聞こえるように呟いた。


「そう言えば、ノワーリア王女様も我が水晶玉を眩しいと言ったら、貴方は物見族なのかと…」


「……この話題を立ち話にするには危険なようじゃの」


フルシャは辺りをぎょろりと大きな目で睨みつけると、杖をついてゆっくりと歩き出した。


「宿に戻るよ。そこのピエロさんもついてきな」

「――ヒヒッ、分かったヨン」


笛で楽しげな音を吹きながら、楽しそうなステップでフルシャについてゆく。フィアスは、周りを見渡した。自分達を狙う黒装束の盗賊がいる。それらごと宿に連れて行くのは、エクセルの人々を巻き込まないためにとフルシャの配慮だろうか。


「…全く、愉快だな」


頭でそこまで考えてから、フィアスは肩で笑った。そして、マントを翻して手つきが後ろから見えないように覆うと、左手を鍔の下に当てていつでも抜けるように構えながら、二人の後をゆっくり歩いて追った。


(敵の数は…ざっと十人。多いな。しかし何故我らを狙う必要が?)


フィアスは警戒していないように思わせるため、後ろを振り返らずに、ただフルシャだけを見て歩いた。宿のドアを開け、受付に会釈し、部屋に入る。途端、フルシャは言った。


「分かっておるな?フィアス」


「ああ、奴らは素早い。貴女は下がっていてくれ。我は…剣士ではないが、男として貴女を守る」

「おやおや、随分な大口を叩くもんだね!」


フルシャは大笑いする。ピエロは、肩に乗ってるキツネに合図をして、フルシャの元へ行かせた。ライフは扉側にいるフィアスとは違い、窓際に行く。これで戦闘準備は整った。


「ヒヒッ!鬼さんこちら、オイラまでおいで!」


ピエロが元気な声を発した時、盗賊達はナイフを持って、ドアから、窓からと五人ずつ襲ってくる。フィアスは容赦なく、剣を斜めに広く滑らせた。盗賊達のナイフだけが弾かれ、壁に刺さる。ナイフを失うと退散する質を知っているならではの行動だった。案の定、盗賊達は持ち前の逃げ足で消え去ってゆく。追おうとしても無駄だった。ピエロの方を見ると、しなやかな蹴りを首に決め、床に後頭部を叩きつけるように倒して気絶させる。事情聴取のために誰かいればよかったのだろう。ピエロは四人に向き直って、あの笛を吹いた。音の風に、盗賊達は窓の外へと飛ばされて、やはり逃げる。もう少ししぶとく攻撃しないのかとフルシャは文句を言っていた。ピエロはキツネの方に腕を伸ばし、口笛を吹く。するとキツネはフルシャからピエロへ跳んで、腕を伝って肩に登った。そのピエロは気絶している盗賊の上で片足で乗っていて、もう片足を後ろにあげて滑稽な格好をする。癖だろうか?フィアスがそう思っていると、ピエロは言った。


「ちょっと部屋の中を調べさせてもらうヨ」


盗賊から飛び降り、家具を動かして何かを探す。ベッドの下に潜ったり、バネが出ているソファーの中に指を突っ込んだり。仕舞いには植木鉢を探っているので、フィアスは尋ねた。


「さっきから何をしているのだ?」


「ヒヒッ…盗聴器探しヨン。今までので六つ見つけたヨン!」


「そんなにあったのか!?」


二人は驚きの表情になってピエロを見つめる。ピエロは念入りに、何度も何度も調べて、結局七つも見つけてくれた。ライフは電源をオフにしたついで壊している。暫く見ていると、形が全く同じなのに気づいてもしやとフィアスは雪の結晶の模様をしたMAを取り出す。


「我の捜し物、それは盗聴器」


盗聴器の姿を覚えて、目を瞑って脳内に強くイメージすると、MAが光って盗聴器が映し出される。MAは部屋中を回った後、フィアスの頭上で激しく回転してブーッと珍しくエラー音を出した。


「イッパイアリスギテワカリマセン」


「いっぱい?宿中にあるということなのか?」


フィアスはMAをしまい、考えに耽る。すると、ピエロが愉快そうに笑った。


「オイラ、知ってるヨ。だけどこれを教えたらオイラはこの街から出なきゃいけなくなるヨ。だから教えられないヨン!」


笛を取り出して、軽く吹くピエロ。せめてもの余興に、音楽を奏でているのだろう。フィアスは、フルシャの顔を見た。フルシャは無言で頷く。それにフィアスも頷いて、ピエロの目を見た。腕を腹に当てて剣士の礼をする。


「我が名はフィアス。フィアス・ファクトリー。別名、天地水を操りし者だ。剣士のように見えるが、我はつい最近回復魔法士になったばかりだ。こちらの女性はフルシャネードントラッセ。魔女だ。お前は何者だ?」


自己紹介をすると、ピエロは嬉しいのかぴょんぴょん跳ねてフィアスを回る。正面に立って、ピエロは足を真横にかかとを揃えて腕を広げた。ピエロ式の挨拶だ。


「ヒヒッ、仲間になってくれるんだね!オイラはピエロのライフ!こいつはラッチ。よろしくヨー!」


「コン!」


キツネが肩から降りて、バック宙してから頭を少し下げる。挨拶してくれたようだ。それで、とフルシャは目を見開く。


「話してくれるんじゃろ?万が一追われてもあたし達が責任とってやるよ」


「ヒィ!お婆さん、その目つき怖いヨ!ついでにしわも増えたみたいヨ!」


(言ってしまった!)


フィアスは手で顔を覆って首を振った。指の隙間からフルシャの表情がみるみる変化してゆくのが見える。しかもこれは完全にライフが悪い。フィアスは耳に手を当て、フルシャの怒鳴り声をシャットアウトしていた。フルシャの怒りが治まると、フィアスはライフに説明を促した。


「ヒヒッ、実はね…ここの店主は黒装束の盗賊と連んでるんだヨ~ン。だからドロボウが入ってきてもお構いなし、客が持ち物盗まれようがお構いなし。それで自分は金稼ぎして、その金のいくらかを盗賊に回して、あれこれとパシリに使ってるんだヨ」


一通り言ってからライフは小躍りし、してやったりな笑顔で衝撃的な言葉を口にした。


「あの黒装束はエクセルで影の支配者と呼ばれる盗賊団。そして、それを顎で使ってる店主は、盗賊団の親玉なんだヨン!あれを敵に回すとエクセルの大半を敵に回すヨ。だから本当は言えないヨ」


最後まで聞くと、フィアスはエクセルの黒さに頭を悩ませる。フルシャは許せんと杖を振り回して意気込んでいた。さらにライフは言う。


「ちなみにさっきの奴らも、オイラが喋るのを恐れて消しにきたのかもヨ。だけど確証がないから聞き出すつもりヨ」


起きてるかどうか確認するためか、ライフは盗賊の上で思いっきりジャンプして、踏みつける。体は動くが、微かな声も聞こえないと分かると、ライフは手の平を上に向けてお手上げポーズ。


「強くやりすぎちゃったかもヨン」


足下に目線をやると、ラッチが鼻で匂いを嗅いでいた。そんな状況を見て、フルシャは深いため息をついていた。


「全く、これじゃ話もできないねぇ!」
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