長編
「キツネがこんこん…あ、ピエロだ!」
「ホントだ!さっきの芸楽しかったよ!」
「ありがとヨ!」
街を歩いていると、子供達が笑顔でピエロに声をかけてゆく。フィアスは、無邪気にエクセルを駆け回る子供達を見て、寂しそうな目をした。
(そういえば、我は旅や剣のことばかりで遊ぶことなどなかったな…)
ふと、身に纏っている魔法防御もこなす鎧の腕と、自分の手を見た。旅を始めた頃の幼さはもうない。改めて自分が大人であることを確認した。
「ここだヨ」
ピエロから声がかかり、フィアスは目の前を見る。路地裏の行き止まり、コンクリートの壁の隅に、下へと続く階段があった。ピエロが器用にスキップで階段を降りてゆくのに対し、フルシャが危なっかしく杖をついて降りてゆく。フィアスはいつ彼女がバランスを崩しても対処できるように心構えをしていた。階段を降り終わった所、左右に二つのかがり火が立っている。その奥は狭く、そこに絨毯を広げ、あぐらをかいている人がいた。目以外の全身を布で覆っているから商売人の性別は分からない。前にはフィアスも見たことのないMAが沢山置いてある。
「ヒヒッ、ここにいる人は毎日時間制で交代するヨ。今は午後十二時半。この時間帯にMAを売ってるんだヨ~ン」
コン、とキツネも鳴く。フィアスは商品に近付き、黄色いハンカチのようなMAを指さして尋ねた。
「このMAは…どんな効果があるのだ?」
「…武器に巻くと雷属性の攻撃を追加する」
(属性攻撃か…)
くぐもった声で言われ、フィアスは考えた。一口にMAとは言っても、いろんな種類がとあり、さらにその中でもいくつかの種類に分けられる。別の似たような形のMAを指さして、また尋ねた。
「ということはこれは茶色だから、土属性だな?」
無言で頷く商人。一通り見渡して、フィアスは驚くべきものを見つけた。一見、赤い帽子を被った小人の人形だが、その正体は壊れたMAを修理するという、超レア物だ。それに目をつけ、フィアスはMAを指さした。
「これはいくらだ?」
「…目がいいね、お客さん。ソイツは二億カリルだ」
「に、二億じゃと!」
あまりの金額に、フルシャが頭を抱える。
「そんな大金がつくほどの凄いものなのかい?フィアス」
「ああ。超プレミア物だ。だが、二億は高すぎる…交渉してもいいだろうか」
「断る」
フィアスがその場にあぐらをかいて言っても商人はすぐに拒否したが、フィアスは引かなかった。
「それがたとえ武士団の情報だとしても?」
「…いいだろう。内容次第で金額を下げる」
商人の言葉に頷き、フィアスは話し始めた。
「…武士団は五年後に我が国を攻撃するが、噂によると実はもう既にショウグンが、我が国を訪れているとか」
「…二千万カリル」
「その名は…確かオオダノーガと言った。とても気が短く、血の気が多いそうだ」
「…二百万カリル」
「………」
そこで話を詰まらせたフィアス。後もう少しねぎりたいが…と、思い出すようにぽんと手を打って人差し指を立てる。
「目印は黒髪とダサいちょび髭」
「ぷっ…ダサいちょび髭」
目が若干細くなる商人。どうやらおかしくて笑ったようだ。少しすると、分かったと商人は言う。
「いいだろう、二十万カリルだ」
「ヒヒッ…やるね兄ちゃん」
二億から二十万まで値切ったことを、ピエロは誉める。フルシャも無言だが、感心したような顔でいた。フィアスはギルドカードを取り出そうとポケットに手を入れる。
「つけることはできるか?」
「勿論」
「なら頼む」
そのままギルドカードを取り出し、渡す。商人はどこからか読み取り機を出してカードを読み込ませた。カードをしまうと商人は言う。
「最近、盗賊団がエクセルの陰で動いている。兄ちゃん達も気をつけな」
「そりゃどうも」
軽く手を振って別れを告げ、小人のMAを持って行きと同じように階段を上る。途中、フルシャが転けそうになったが、後ろにいたフィアスが支えて助かった。一同が外に出ると、ピエロがぽつりと呟く。
「…ここでお別れだヨ。宿へは戻れるかな?」
「ん?あぁ…大丈夫だ。戻れる」
「――ヒヒッ!じゃあね、また会おうヨ!」
空を見上げて小さな笑い声を漏らすと、ピエロはスキップしながら去ってゆく。二人は暫くその姿を見送っていたが、フィアスがはっとしてそのピエロを追いかけた。
「おい、待て!何故我の名を知ってるかまだ聞いてない!」
「ヒヒッ、バレたヨン」
フィアスがピエロの肩を掴むと、振り返ってちょろっと舌を出すのがまた憎めない。そしてピエロは体をフィアスに向けてこう言った。
「それは依頼者がオイラだからだヨ~ン!」
「…何?」
「いつもピエロの格好してるから分からなかったんだろうけど、オイラ、化粧落として柄にもないスーツ姿の七三眼鏡で依頼したんだヨ」
「……やるな。するとあの笛はまさか…元々お前のだというのか?」
「ピンポン!大正解だヨ~ン!」
「しかし何故あんなことを…」
「ヒヒッ、それはね」
くるりと一回転するピエロ。その状態のピエロの肩で跳ねるキツネ。
「オイラ、旅がしたいんだけど一人じゃつまんない。だから一緒に行く仲間が欲しかったヨ」
「ホントだ!さっきの芸楽しかったよ!」
「ありがとヨ!」
街を歩いていると、子供達が笑顔でピエロに声をかけてゆく。フィアスは、無邪気にエクセルを駆け回る子供達を見て、寂しそうな目をした。
(そういえば、我は旅や剣のことばかりで遊ぶことなどなかったな…)
ふと、身に纏っている魔法防御もこなす鎧の腕と、自分の手を見た。旅を始めた頃の幼さはもうない。改めて自分が大人であることを確認した。
「ここだヨ」
ピエロから声がかかり、フィアスは目の前を見る。路地裏の行き止まり、コンクリートの壁の隅に、下へと続く階段があった。ピエロが器用にスキップで階段を降りてゆくのに対し、フルシャが危なっかしく杖をついて降りてゆく。フィアスはいつ彼女がバランスを崩しても対処できるように心構えをしていた。階段を降り終わった所、左右に二つのかがり火が立っている。その奥は狭く、そこに絨毯を広げ、あぐらをかいている人がいた。目以外の全身を布で覆っているから商売人の性別は分からない。前にはフィアスも見たことのないMAが沢山置いてある。
「ヒヒッ、ここにいる人は毎日時間制で交代するヨ。今は午後十二時半。この時間帯にMAを売ってるんだヨ~ン」
コン、とキツネも鳴く。フィアスは商品に近付き、黄色いハンカチのようなMAを指さして尋ねた。
「このMAは…どんな効果があるのだ?」
「…武器に巻くと雷属性の攻撃を追加する」
(属性攻撃か…)
くぐもった声で言われ、フィアスは考えた。一口にMAとは言っても、いろんな種類がとあり、さらにその中でもいくつかの種類に分けられる。別の似たような形のMAを指さして、また尋ねた。
「ということはこれは茶色だから、土属性だな?」
無言で頷く商人。一通り見渡して、フィアスは驚くべきものを見つけた。一見、赤い帽子を被った小人の人形だが、その正体は壊れたMAを修理するという、超レア物だ。それに目をつけ、フィアスはMAを指さした。
「これはいくらだ?」
「…目がいいね、お客さん。ソイツは二億カリルだ」
「に、二億じゃと!」
あまりの金額に、フルシャが頭を抱える。
「そんな大金がつくほどの凄いものなのかい?フィアス」
「ああ。超プレミア物だ。だが、二億は高すぎる…交渉してもいいだろうか」
「断る」
フィアスがその場にあぐらをかいて言っても商人はすぐに拒否したが、フィアスは引かなかった。
「それがたとえ武士団の情報だとしても?」
「…いいだろう。内容次第で金額を下げる」
商人の言葉に頷き、フィアスは話し始めた。
「…武士団は五年後に我が国を攻撃するが、噂によると実はもう既にショウグンが、我が国を訪れているとか」
「…二千万カリル」
「その名は…確かオオダノーガと言った。とても気が短く、血の気が多いそうだ」
「…二百万カリル」
「………」
そこで話を詰まらせたフィアス。後もう少しねぎりたいが…と、思い出すようにぽんと手を打って人差し指を立てる。
「目印は黒髪とダサいちょび髭」
「ぷっ…ダサいちょび髭」
目が若干細くなる商人。どうやらおかしくて笑ったようだ。少しすると、分かったと商人は言う。
「いいだろう、二十万カリルだ」
「ヒヒッ…やるね兄ちゃん」
二億から二十万まで値切ったことを、ピエロは誉める。フルシャも無言だが、感心したような顔でいた。フィアスはギルドカードを取り出そうとポケットに手を入れる。
「つけることはできるか?」
「勿論」
「なら頼む」
そのままギルドカードを取り出し、渡す。商人はどこからか読み取り機を出してカードを読み込ませた。カードをしまうと商人は言う。
「最近、盗賊団がエクセルの陰で動いている。兄ちゃん達も気をつけな」
「そりゃどうも」
軽く手を振って別れを告げ、小人のMAを持って行きと同じように階段を上る。途中、フルシャが転けそうになったが、後ろにいたフィアスが支えて助かった。一同が外に出ると、ピエロがぽつりと呟く。
「…ここでお別れだヨ。宿へは戻れるかな?」
「ん?あぁ…大丈夫だ。戻れる」
「――ヒヒッ!じゃあね、また会おうヨ!」
空を見上げて小さな笑い声を漏らすと、ピエロはスキップしながら去ってゆく。二人は暫くその姿を見送っていたが、フィアスがはっとしてそのピエロを追いかけた。
「おい、待て!何故我の名を知ってるかまだ聞いてない!」
「ヒヒッ、バレたヨン」
フィアスがピエロの肩を掴むと、振り返ってちょろっと舌を出すのがまた憎めない。そしてピエロは体をフィアスに向けてこう言った。
「それは依頼者がオイラだからだヨ~ン!」
「…何?」
「いつもピエロの格好してるから分からなかったんだろうけど、オイラ、化粧落として柄にもないスーツ姿の七三眼鏡で依頼したんだヨ」
「……やるな。するとあの笛はまさか…元々お前のだというのか?」
「ピンポン!大正解だヨ~ン!」
「しかし何故あんなことを…」
「ヒヒッ、それはね」
くるりと一回転するピエロ。その状態のピエロの肩で跳ねるキツネ。
「オイラ、旅がしたいんだけど一人じゃつまんない。だから一緒に行く仲間が欲しかったヨ」