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長編

「……いえ、きっと、勘違いです」


「……そうか」


心の奥に何か引っかかるものを感じる。そして、懐かしさもあった。物見族。単語一つ一つから考えると、フルシャの言葉が頭に浮かび上がる。


「お主、また人には見えていないものが見えとるよ」


度々言われるこの言葉。自分の経験上、〝物見族〟という言葉は忘れてはならないだろう。後でフルシャに聞いてみるか。


「………あの!」


「うん?」


思いを巡らせていると、ノワーリアが意を決した様子で声をかけた。


「私、この町に出かけたことがないのです。案内をしてもらっても?」


王女様の頼み事とあらば断れない。それは無礼というものだ。フィアスは王女の前にひざまずき、右腕を腹の前に通して頭を下げた。


「王女様の頼みとあらば」


「お願いします」


フィアスが見上げると、そこには汚れを知らぬ無垢な少女の笑顔があった。夜の街は危ない。この方に何かあってはいけない。そう分かっていても、断ったりして表情を曇らすことだけはしたくなかった。そして何より、自分が守り通せばいいだけの話なのだ。ただ、それだけの話なのだ――。


「その情報、間違いないな?」


「ああ、王女様は確かにこの宿に泊まっている」


ボロ宿がギリギリ見える路地裏で、黒装束の男達がヒソヒソ話す。果たしてそれは昼間の盗賊の服装だった。ドアが開くと、二人はそこを見る。


「ちっ、側近か…」


「奴は昼間の田舎者だ。都会の特長を使えば敵ではない」


「ふふ、そうだな」


男達は不適に笑い、すっと音もなく闇に紛れた。

「少し寒いです…」


「マントいりますか?」

「ありがとう」


夜のエクセルはやはりというか、冷える。薄着の王女には少し寒かったようだ。フィアスはマントを外し、王女につけてあげる。その際、辺りを見回した。誰かに見られている気がする――というのではなく、成人男性が十代淑女と歩いていたら一見にして攻撃されかねない。ましてや風貌は誇り高き剣士。剣士から切りかかられるのが一番厄介だ。警戒せねば……そのピリピリした気持ちは盗賊に伝わり、隙を見せないでいるのが幸いしている。そして、王女様はフィアスのそんな気も知れないで、楽しそうに笑っていた。


「自分の住む町に行ったことないなんて…王女として失格ですよね」


「いや、城での生活が忙しかったのだろう?ならば仕方ないことではありませんか。我も実はエクセル自体初めてで…」


「あら」


お互いに笑い合う。その時、闇を駆け抜ける足音が聞こえてフィアスは剣を抜いた。盗賊は存在を感づかれたのを知ると、ナイフを構えてフィアスと王女に襲いかかる。王女の悲鳴と同時に、フィアスは盗賊のナイフを手早く弾き飛ばした。そして構え直して睨む。


「何が目的だ!」


「くっ…」


「一旦退くぞ!」


盗賊は弾き飛ばされたナイフを手に取り、足早に去ってゆく。深追いはせずに、フィアスは剣を収めた。後ろで怯えている王女に振り返り声をかける。


「お怪我は」


「ありませんわ。しかし今のは…」


「貴女の部下、ティルアに聞きました。近頃エクセルで暗躍している盗賊団らしい。影の支配者とまで呼ばれているとか」

「……怖いですね…」


その後は何事もなく、平和で静かな夜の散歩が続いた。
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