長編
「全く、どうしてくれるんだい?ロークアーシャの基地に皆をおいてアタイ等だけ狩りなんて…これじゃあ長の名に泥を塗っちまうよ!しかも石を取り返すチャンスだってのに……。」
「す、すまない…。」
「ふん、まぁいいさ。だけどウルフ!いつまで寝そべってんだい、このすっとぼけが!さっさと起きて謝りの一つでもしな!この馬鹿ウルフっ!」
ドカドカと爪を引っ込ませた前足で、獣の弱点であるお腹を蹴りつけられたウルフは咳込みながら意識を取り戻した。目を開けるより早くガバッと起き上がってキインの首筋に噛みつく。沙姫は息を呑んだ。噛み殺すのだろうか?抵抗しないキインにも驚く。しかし、違った。噛みついたことで鼻に入ってきたキインの匂いで目を覚ましたのだ。牙を首筋から放し、耳と頭を少し下げる。ロウルサーブなりの軽い謝り方だと沙姫は認識した。
「弱点を突かれて起き上がった時はすかさず噛みつけ…長老の残していった戦闘教訓がよく染み着いてるじゃないか。」
「そのようだな。」
今度は尻尾の先をちょっと振ったウルフ。得意げなんだろうな。沙姫はそう思った。ここに来る前は日本に居て、ウルフと一緒に暮らすごとに普通は一目見ただけでは分からないロウルサーブの難しい仕草が分かってきたのだ。そして今、ディメッシュリーンに来て殆どの仕草が瞬時に認識できるようになったのだ。自分のこの能力を、沙姫は少なからずとも自慢に思っている。キインはそんなウルフを睨みつけ、さっきとは打って変わった態度にでた。
「ごめんなさいはどうしたんだい!?」
「んっ?あぁそうか。ごめんなさい?」
素っ頓狂な声であり、まず何に対して謝ってるのか分からない様子を思わせるウルフのおとぼけ振りにキインは怒り、感情任せに気を溜めた。プロースは危険を察知し、沙姫の腕を優しくくわえて茂みに引っ張り込む。くわえた時にこのまま噛み千切りたいという思いを馳せながら…沙姫は茂みから改めてキインを見、初めてそれは爆発寸前な危険物だと認識した。
「地・盛突上(チ・セイトツジョウ)!」
キインが両前脚を上げて思い切り地面に叩きつけると、ウルフの足下の地面が盛り上がる。いきなり盛り上がって突き上げられた地面に飛ばされ、ウルフはお腹を思い切り打った。彼の短い悲鳴と共にプロースが目を前脚で覆う。
「あれは痛い。あの高さであれは痛い。」
(人間だったら骨折かなんかしてると思うんだけど…痛いで済むんだ。流石魔物、ロウルサーブ。)
プロースが低い体勢のまま歩き――匍匐前進し、茂みから出るのを見て沙姫も安全だと思い、プロースの後に続いて出た。ウルフが苦痛に顔を歪めながら、よろよろと立ち上がって体についた汚れを振るって飛ばす。キインがさて、と座った。
「反省会を開こうか。お仕置きはグラントフェザーを見つけたからチャラにしてやるよ。」
「キイン…!」
(流石姐さん。器がデカい!つか反省会?)
「だけどねぇ!あんな作戦で上手くいくはずないだろ?互いにごっつんこなんてカッコ悪いったらありゃしない!」
「う、それは…。」
「俺のせいではない。ここにいるウルフが曇天返しだと…。」
「どんでん返し。」
間違いを沙姫に正されたプロースは、誤魔化すように耳をくるりと動かした。だが、呆れるキインに思わぬ追い討ちをかけたのは沙姫である。
「でもキインだって氷の棒を作ったけど外してばっかだったよね。」
「こ、こら小娘…!」
「何だと?キイン!お前も魔物のこと言えないではないか!」
「自分のことだけ棚に上げるなど卑怯だぞ!」
(あ、人のことじゃなくて魔物になるんだぁ。)
キインが焦り、ウルフから、プロースから非難の声があがる。尻尾をせわしなく回して二匹を落ち着かせようとしているのが見て取れた。結局、あのグラントフェザーは賢かったことにしようということで反省会は終わる。
(自分の経験不足とか思わないのかな。道具を使えばよかったとか、前の道を塞いだらよかったとか、檻に閉じこめたらよかったとか…)
一同が再びロークアーシャの巣に向かっている時、ウルフの背中で沙姫は言えずにいることをずっと思っていた。そして耐えきれなくなり、小声で聞いてみる。
「ねえウルフ。自分達の経験不足とは思わないの?」
「む?どういうことだ。」
沙姫は抱いていた疑問をウルフにそっと打ち明けた。すると、ウルフは小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「そんなネガティブな考えでいたら狩れるものも狩れなくなるからな。反省会はお互いを慰め合う行為でもあるのだ。」
「ふ~ん…ウルフ。」
「ん?」
「らしくない。」
「何だと?」
沙姫の言う「らしくない」には、「普段馬鹿なキミが」という言葉が含まれている。ウルフは沙姫を振り下ろし、牙を見せて威嚇した。
「もう一度言ってみろ。処刑するぞ?」
「処刑されると分かっていてわざわざ言う馬鹿はいないよ。」
「小娘の分際でぇっ!」
ウルフは飛びかかるが、沙姫はウルフの背後で静かな怒りを露わにするキインを見ていたので落ち着いていた。キインの前脚がウルフの脳天に落とされ、攻撃は中断される。ギッと睨まれてウルフは怯んだ。
「がちゃがちゃ煩いね。次騒いだら小娘ごとあんたのはらわたを引き裂くよ。今度は本気でね!」
「ひぃっ!」
「姐さん怖いっ!」
沙姫とウルフは竦み上がり、キインは鼻をならしてずんずんと前を歩く。そんな双方に挟まれて歩くプロースはただ溜息をつくだけだった。
「す、すまない…。」
「ふん、まぁいいさ。だけどウルフ!いつまで寝そべってんだい、このすっとぼけが!さっさと起きて謝りの一つでもしな!この馬鹿ウルフっ!」
ドカドカと爪を引っ込ませた前足で、獣の弱点であるお腹を蹴りつけられたウルフは咳込みながら意識を取り戻した。目を開けるより早くガバッと起き上がってキインの首筋に噛みつく。沙姫は息を呑んだ。噛み殺すのだろうか?抵抗しないキインにも驚く。しかし、違った。噛みついたことで鼻に入ってきたキインの匂いで目を覚ましたのだ。牙を首筋から放し、耳と頭を少し下げる。ロウルサーブなりの軽い謝り方だと沙姫は認識した。
「弱点を突かれて起き上がった時はすかさず噛みつけ…長老の残していった戦闘教訓がよく染み着いてるじゃないか。」
「そのようだな。」
今度は尻尾の先をちょっと振ったウルフ。得意げなんだろうな。沙姫はそう思った。ここに来る前は日本に居て、ウルフと一緒に暮らすごとに普通は一目見ただけでは分からないロウルサーブの難しい仕草が分かってきたのだ。そして今、ディメッシュリーンに来て殆どの仕草が瞬時に認識できるようになったのだ。自分のこの能力を、沙姫は少なからずとも自慢に思っている。キインはそんなウルフを睨みつけ、さっきとは打って変わった態度にでた。
「ごめんなさいはどうしたんだい!?」
「んっ?あぁそうか。ごめんなさい?」
素っ頓狂な声であり、まず何に対して謝ってるのか分からない様子を思わせるウルフのおとぼけ振りにキインは怒り、感情任せに気を溜めた。プロースは危険を察知し、沙姫の腕を優しくくわえて茂みに引っ張り込む。くわえた時にこのまま噛み千切りたいという思いを馳せながら…沙姫は茂みから改めてキインを見、初めてそれは爆発寸前な危険物だと認識した。
「地・盛突上(チ・セイトツジョウ)!」
キインが両前脚を上げて思い切り地面に叩きつけると、ウルフの足下の地面が盛り上がる。いきなり盛り上がって突き上げられた地面に飛ばされ、ウルフはお腹を思い切り打った。彼の短い悲鳴と共にプロースが目を前脚で覆う。
「あれは痛い。あの高さであれは痛い。」
(人間だったら骨折かなんかしてると思うんだけど…痛いで済むんだ。流石魔物、ロウルサーブ。)
プロースが低い体勢のまま歩き――匍匐前進し、茂みから出るのを見て沙姫も安全だと思い、プロースの後に続いて出た。ウルフが苦痛に顔を歪めながら、よろよろと立ち上がって体についた汚れを振るって飛ばす。キインがさて、と座った。
「反省会を開こうか。お仕置きはグラントフェザーを見つけたからチャラにしてやるよ。」
「キイン…!」
(流石姐さん。器がデカい!つか反省会?)
「だけどねぇ!あんな作戦で上手くいくはずないだろ?互いにごっつんこなんてカッコ悪いったらありゃしない!」
「う、それは…。」
「俺のせいではない。ここにいるウルフが曇天返しだと…。」
「どんでん返し。」
間違いを沙姫に正されたプロースは、誤魔化すように耳をくるりと動かした。だが、呆れるキインに思わぬ追い討ちをかけたのは沙姫である。
「でもキインだって氷の棒を作ったけど外してばっかだったよね。」
「こ、こら小娘…!」
「何だと?キイン!お前も魔物のこと言えないではないか!」
「自分のことだけ棚に上げるなど卑怯だぞ!」
(あ、人のことじゃなくて魔物になるんだぁ。)
キインが焦り、ウルフから、プロースから非難の声があがる。尻尾をせわしなく回して二匹を落ち着かせようとしているのが見て取れた。結局、あのグラントフェザーは賢かったことにしようということで反省会は終わる。
(自分の経験不足とか思わないのかな。道具を使えばよかったとか、前の道を塞いだらよかったとか、檻に閉じこめたらよかったとか…)
一同が再びロークアーシャの巣に向かっている時、ウルフの背中で沙姫は言えずにいることをずっと思っていた。そして耐えきれなくなり、小声で聞いてみる。
「ねえウルフ。自分達の経験不足とは思わないの?」
「む?どういうことだ。」
沙姫は抱いていた疑問をウルフにそっと打ち明けた。すると、ウルフは小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「そんなネガティブな考えでいたら狩れるものも狩れなくなるからな。反省会はお互いを慰め合う行為でもあるのだ。」
「ふ~ん…ウルフ。」
「ん?」
「らしくない。」
「何だと?」
沙姫の言う「らしくない」には、「普段馬鹿なキミが」という言葉が含まれている。ウルフは沙姫を振り下ろし、牙を見せて威嚇した。
「もう一度言ってみろ。処刑するぞ?」
「処刑されると分かっていてわざわざ言う馬鹿はいないよ。」
「小娘の分際でぇっ!」
ウルフは飛びかかるが、沙姫はウルフの背後で静かな怒りを露わにするキインを見ていたので落ち着いていた。キインの前脚がウルフの脳天に落とされ、攻撃は中断される。ギッと睨まれてウルフは怯んだ。
「がちゃがちゃ煩いね。次騒いだら小娘ごとあんたのはらわたを引き裂くよ。今度は本気でね!」
「ひぃっ!」
「姐さん怖いっ!」
沙姫とウルフは竦み上がり、キインは鼻をならしてずんずんと前を歩く。そんな双方に挟まれて歩くプロースはただ溜息をつくだけだった。