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長編

「一匹残らず喰いな!ただし太らないように、分け合って食べるんだよ!いいね!」

「分かっている!」

ロークアーシャの基地に真っ正面から堂々と乗り込むキインに他のロウルサーブも続いた。しかし、基地の外で待っているロウルサーブが二匹。いや、細かく言うと人間の女の子も一人。

「行かなくていいの?」

ウルフは沙姫を背中に乗せているため、地面に伏している。プロースのように座ると、沙姫が背中からずり落ちてしまうからだ。基地で火炎系の技をぶっ放し、思う存分暴れまわる皆を羨ましそうに見ながら、プロースは溜息をついて答えた。

「行きたくとも、行けないのだ。」

「どういうこと?」

「俺達は勝手に行動し、ロークアーシャを喰った。それ故にキインから来るなと仕置きをくらったという訳だ。」

「なるほどね…詳しい説明をありがとう、ウルフ。」

沙姫は納得し、ウルフを撫でる。プロースが不安げに呟いた。

「石を取り戻すはいいが、もし奴等が既に石を悪用していたらどうする?」

「……………。」

ウルフはその言葉を聞き、耳をぴくりと動かす。何か気にかかったか、黙れと言っているのか。両方だろう、と沙姫は思った。ふと空を見上げるが、日本とは違う緑色の空に赤い星。ああ、ここは本当に異世界なんだなと思い知らされる。上空には大きな金色の鳥が羽ばたいていた。あれも…あの空も星も、人間の目には悪くてもウルフ達にはいいのだろうか。そうだとしたらまるでウルフ達のためだけに作られた自然だ。

「それにしても朝だったら眩しいよね…あの鳥。」

「ん?どうした沙姫。鳥…がどうしたのだ?」

「え?ううん、何でもないよ。ただあの鳥を見つめ……」

沙姫はそこで重大なことに気づいた。遙か遠くにいても、あんな大きいなんて……とんでもない巨大鳥だ。

「…ごめん、何でもなくない。あのとんでもないデカ鳥は何!あれも魔物?」

「何だと!」

沙姫の指さす所を狼二匹が見上げる。金色の鳥が赤紫の瞳に映った時、二匹のロウルサーブは歓喜に吠えた。それは大きく、雄々しい…だが、高い。興奮しているのだ。前にこの声を耳にした時、ウルフからこれを〝歓びの告げ〟の時に使う声だと聞いた。おまけに瞳はらんらんとしている。沙姫は理解した。あの金色の鳥はご馳走という立場なのだと。一方、キインはロークアーシャの長…長老の首をくわえていた。

「さぁ、この追いつめられた状況でどうやって食べられずに石を渡すんだい?お姉さんは気が短い。早く教えてくれたらいいんだけどねぇ!」

「くっ…あんたら本当にしつこいね!」

「しつこいのはあんたらの方だよ!毎度毎度うちの守り石をつけねらって……さあ教えな!石はどこだい?」

ロークアーシャの長老がキインを睨むが、彼女はいたって冷静に言い返したので悔しそうに歯ぎしりしながら観念した。

「くっ……アタイだって命は惜しいよ。ついてきな、教えるから。」

「あぁ、やっとかい?よかったよ……途中に罠なんか仕掛けてないだろうね?もしあったら外しときな、でなきゃあんたを喰うよ!」

「……ちっ。」

バレていたかとでも言わんばかりの悪人顔で(この場合は悪鳥顔かもしれない)長は黒い羽で落とし穴の場所を明かしながら石が隠されている場所へと案内した。やがて落とし穴が二つか三つ明かされたところだったろうか、待機しているはずのウルフとプロースから歓喜に満ちた遠吠えが聞こえた。

(あいつら、反省する気なんか微塵もないね!〝歓びの告げ〟をするなんて……全く。)

罰をくらってるはずの二匹に憤慨しながら、叱るために遠吠えをしようと空を見上げて、止めた。遙か上空に金色の大きな鳥を見つけたのだ。その瞬間、石のこともロークアーシャのことも二匹のことも全てキインの脳内から吹っ飛んだ。瞳はその鳥を見つめ、らんらんと輝いている。そして興奮気味に鼻をならした。

「あいつら、いい物を見つけてくれるじゃないか!」

前足を高く上げ、上空に向かって駆空を始めたキインの頭の中はもう金色の鳥のことで埋め尽くされていた。その様子を見ながら、(鳥だけに)取り残されたロークアーシャの長が羽を広げて呆れる。

「本当に昔っから変わってないね!餌を見つけると無我夢中で狩りに行くあやつらの癖は!」

そういう長老の声は、空に虚しく響いた。一方、沙姫はウルフの体毛を必死に掴んでいることで精一杯。おかげでウルフはプロースのような速さが出せない。

「う、うわわわっ!」

「しっかり掴まっていろ。プロース!俺はこいつを落とさないようにしなければならず、これ以上は速く走れない。だから先回りしてくれ!挟み撃ちだ!」

「分かった。横に逃げることもあるが、どうする?」

「その時は…そうだな、曇天返しだ!」

「は?」

ウルフの発言に唖然とする沙姫とプロース。自分の間違いに気づいたウルフは、尻尾を下に引っ張るようにしながら言い直した。

「すまない。どんでん返しだ!下から攻撃して、あいつが仰け反った瞬間に空・強烈圧迫で地面にたたき落とせ!」

プロースは了解の代わりに耳をくるりと回すように動かしながら金色の鳥めがけて超特急並の速さで空を駆けていく。それを見ながら沙姫は素直に凄いと思った。普段はどこか抜けているが、いざとなれば今のように頭が回るのだ。まぁ、そうでなければ生き残れないのだろうが――沙姫はウルフに掴まりながらも少しだけ余裕があるので聞いてみた。

「ねえウルフ、あの鳥ってどんな名前?」

「あれはグラントフェザーという魔物だ。」

「グラントファザー?」

「いい加減にしろ。ロークアーシャの時も今回も…おじいさんではない。フェザーだフェザー!」

「あれ、ウルフ英語分かるんだ。」

意外そうにする沙姫をよそに、ウルフは得意げに尻尾を揺らした。

「……まあな。それよりこれから少し静かにしろよ?作戦が失敗したら取り逃がすどころか、キインに何をされるか分かったものではない。さっき声が聞こえたと思うからな。」

鳥だけにね。と言い掛けて喉に詰まらせた言葉を飲み込んで、キインを思い浮かべる。

「………確かに、あの姐さんが何するか!」

「だろ?だから、な?」

「分かったよ、静かにしてる。」

沙姫は飛びやすいようにと身を屈め、ウルフはグラントフェザーの後ろからゆっくり近づいた。
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