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長編

「何やってんだい!」

「げっ、どうやってこの事を嗅ぎつけた、キイン!?」

キインはくわえていた沙姫を放し、どさっと地面に尻もちをつく沙姫。キインの鼻にほんのり甘い肉の匂いが広がり、思わず尻尾が揺れてしまうが、涎が垂れるのを、食欲をぐっと堪える。そんな彼女に怒鳴られ、プロースは冷や汗を垂らすがウルフは顔をあげない。キインが歯を剥き出しにして、あわあわとしているプロースに詰め寄っている時、沙姫はお尻についた汚れを払い、ウルフに近づいて声をかけた。

「ウルフ、ウルフ。」

「…む、んん?」

少し濁った声が返ってきた。沙姫がしかめっ面でウルフに飛び乗ると、彼はギクリとする。

「…それ以上食べて太らない?」

「……ふ、ふぁんほほほぁ?(な、なんのことだ?)」

振り返ったウルフの頬は、膨らんでいた。

「こんのバカチンが!ロークアーシャの基地に行って寝ずの番をしていた見張り鳥を喰ったってェ!?」

「す、すまん…ι」

「すまんじゃないよ!まったく………。」

ロウルサーブの基地、長老のテントで狼二匹は長の勢いにしゅんとなっていた。キインはかんかんに怒っていて、下手したら研ぎ澄まされた鋭い牙で攻撃されかねない。二匹が説教を受けている中、沙姫はふさふさな毛をしたウルフの背中でキインに乱暴に連れて行かれていった時にボサボサになった髪をとかしていた。キインが溜息をついてギッと睨んだ時、二匹は次の言葉を覚悟した。

「…どうしてアタイを誘わなかったんだい、そんな楽しそうなことに!」

「なっ!」

「え、姐さん、そういう問題?」

一同が驚いて顔をあげる。そこには涎をたらして尻尾をぶんぶんと回しているキインがいた。空腹と欲求の合図。沙姫はすぐさま七面鳥を投げた…自分の命を守るために。

「ふぅ……危なかった。」

「と、いうかウルフ。この小娘、どこに七面鳥を携帯しているのだ?」

ふと、プロースが素朴な疑問を口にした。しかしウルフはそんな彼に対して黙れと尻尾を振る。プロースは怪訝そうな顔になるが、それ以上は何も言わなかった。

「で、何か事は掴めたのかい?腹を満たしただけで手ぶらで帰ってきたなんてことはないだろうね。」

キインが七面鳥をかじりながら、二匹を見る。ウルフが前へ進み出て、事を話した。ロークアーシャの情報見張り鳥が殺される前に何を言ったか、その時どんな技を使ったか、包み隠さず全てだ。

「……へえ…やっぱりロークアーシャかい。もうそうきたら黙ってちゃいられないじゃないのさ!」

キインは七面鳥にがっついて残りを急いで食べ終えると、テントを飛び出し、淡い青色の月を見上げ、遠吠えをする。その声は基地中に広がり、雌なのにも関わらず声は低く、そして全員から反応があるまで長く、大きく響いた。ロウルサーブ達がぞろぞろ集まり、キインは岩場に飛び乗って、五秒間程目を瞑ったまま動かないでいた。やがてざわめきがおさまると…キインは目を開けて、一族に叫ぶ。

「一族の長として命令する。ロークアーシャの基地に乗り込め!」
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