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長編

「石をどこに隠した。」

月明かりが三つの影を照らす。一つは鳥、もう二つは大きな狼だ。恐らく、ロークアーシャとロウルサーブだろう。ウルフは周りを見て、他のロークアーシャがいないかを確かめる。寝ずの番をしているのは幸い一羽だけだった。プロースはそのロークアーシャの首をくわえて、石の在処を尋ねる。ロークアーシャは馬鹿にしたような声音で答え、睨みつけた。

「フン、アタイは知らないよ!ロウルサーブのプライドもあるからと、わざわざ親方が盗みに行ったんだから感謝しな!」

「やはりな…プロース、行くぞ。その情報見張り鳥は持ち帰る。」

「と、いうと?」

ウルフは尻尾を横に振る。その合図にプロースが喜ぶ反面、ロークアーシャの顔が青くなる。

「ま、まさかあんたら…。」

「…今日は安物だが、いい食糧が見つかった!」

二匹がにやりとし、プロースの噛む力が強くなった時には、悲鳴すら聞こえずにその鳥の息の根は止まっていた。

「…戻ろう。もうすぐ夜が明ける。その鳥は焼いて喰うぞ。」

「だがウルフ、ここで火・大火散(カ・ダイカサン)をすると厄介なことになる。ここは火・大炎小火(カ・ダイエンショウカ)でやるしかなさそうだ。」

ウルフは舌なめずりをしたが、プロースが待ったをかける。ロークアーシャに見つかる恐れがあってのことだろう。ウルフは舌打ちをした。

「火・大炎小火か…俺は使えんな。プロース、できるか?」

ウルフが尻尾をピンと下にのばしてそう言う。これは、頼みの合図だ。プロースは溜息をつくと同時に気を溜め始める。ロウルサーブの技は気…オーラみたいなものを体の中心に凝縮してから、一気に放つのだ。その凝縮のことを『溜める』という。ロウルサーブが使う不思議な技は、魔法みたいに思われるがロウルサーブは魔力を持っていない。構造は似ているが、あくまでも技なのだ。

「火・大炎小火!」

プロースはなるべく力をおさえながら、気を放つ…放った気は小さな炎になり、地面に置かれたロークアーシャを焼き始めた。その煙とともに舞い上がる香ばしい香りに、二匹は思わず涎がでてしまう。やがてロークアーシャの鳥肉がいい具合に焼けた時、二匹は解放されたように一気にがっついた。

(…何かやらかした。)

「……どうしたってんだい、沙姫。疲れた顔をしてるけどさぁ…?」

キインを布団代わりにして寝てた沙姫は何かを感じ取ってキインから身を離し、起きあがった。ウルフが何かをやらかした時、沙姫の胸がざわつくのだ。以前ここに来る前、日本では沙姫とウルフは一心同体だった。だから分かるのだ…ウルフが何かをやらかした、と。そんな沙姫が起きあがったのに気づき、キインが眠たそうに声をかける。沙姫は何でもないよと素振りを見せたがあっさり見破られた。

「いーや、何かあったね。引っかかることでもあったのかい?ほら、アタイに言ってみな!」

「…ウルフが何かやらかしたみたいなんだ。」

沙姫は、隠すことはもう無理だと判断して正直に話した。キインは沙姫の話を聞いた後、よしと立ち上がる。

「だったら探しに行くよ!何かやらかしたってんならそれを見つけりゃいいさ!」

「えぇ!?」

あまりにも無謀な考えに沙姫は思わず驚嘆の声をあげた。キインはそう決めたらもう止まらず、沙姫の後ろ襟を強引にくわえて長老のテントから飛び出し、走り出した。かなりのスピードだ。足が時々地面についてひきずられている。こんな事ならウルフの背中がいい、と密かに沙姫は思うのだった。
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