長編
いつもは淡い月の青が今日は冴え冴えとしている。沙姫は月を見つめ、ウルフによりかかりながらフィンを撫でていた。ズルバーが側でうろうろしている。
「この子が心配なんだね?」
「…何故分かる。」
「そんなにうろうろしていたら、少しはね。」
手をどけるとフィンがこちらを見上げる。まだ開ききっていない目に頼らず、匂いで沙姫の手を探している。それの首根っこを噛み、ズルバーはこちらを一瞥してから去っていった。ウルフは尻尾を軽く振る。一応、まだ起きているようだ。
「ちょっといいかい?……ウルフ、起きているんだろうね?」
「キイン?」
既に寝ていると思っていたキインがやってきて、咥えていた肉とポーチをその場に落とす。肉はこんがり焼けていて美味しそうなのだが、これをキイン自ら持ってきて分けてくれるとでも言うのだろうか。
(自分で食べずに…?)
「…何だ?」
ウルフも妙だと感じたのか、顔をキインに向ける。キインの目つきは、怪しく光っていた。嫌な予感はするが、そこはロウルサーブの長。詳細まで悟らせないためか、どこも仕草を見せない。キインはおもむろに口を開いた。
「その肉を丸ごと喰いな。残しちゃいけないよ。」
「これを…くれるの?」
沙姫は不思議そうにキインを見る。キインは、尻尾を軽く揺らして睨んできた。
「忘れちゃいないだろうね?あんたはアタイらのものなんだよ。」
「…なるほど、考えたな。」
ウルフが起き上がり、伸びをする。その後に欠伸をして、肉を見た。
「微かに石の匂いがする。さっき言っていた十字石だな?」
「おや、鼻がいいね。ロウルサーブ一は伊達じゃないってことかい。」
「…つまり、これを食べて石を吸収しろってことかな?」
沙姫は今までの会話から推測する。キインは耳をぴくぴくと動かした。どうやらそのようだ。ウルフが沙姫を見て、耳を後ろに倒す。
「食べきれるのか?そんな小さな体で…。」
「…頑張るよ。」
いい匂いはしているから、きっと腹を壊すことはないだろう。カラスの肉を食べたことはないが、鶏肉と同じものだろうと自分を納得させる。そして魔物は道具がいらない。素手で食べるしかないだろう。汚れが気になるが、むしろ石を確認した時点で食べるのをやめればいい。
「…………。」
あのカラスの肉らしい。食卓に出るような形とは程遠いが、食べるしかないだろう。不思議と、可哀想と言う気持ちはなかった。あの時のカラスの言葉が思い出される。
〝サキ…いい名だ。〟
(……食べるために育てる牛とか豚とか、鶏とか…そんなのを育てる人の気持ちって、こんななのかな?人間って凄いや。)
意を決し、熱さを確認し、手で千切ろうとする。なかなか上手くいかないが、欠片を口に含み、千切っては含みを繰り返す内、だんだん面倒になってかぶりつく。その様子は、端から見てじれったかったらしい。味は、鶏と似たようなものだった。
「……うっ!?」
「沙姫!?」
中心部を口に含んだ時だった。突然に気持ち悪くなる。どこかに吐いてしまいたい。口を押さえ、沙姫は耐えた。ここで吐けば、今度はそれをまた飲まそうとするだろう。胃の中がかき回されるような気持ち悪さに、沙姫は口を押さえて寝転がった。最後に吐いたのはいつ頃だったか―――。
「沙姫、どうした!?」
ウルフの質問にすら口が動かない。頭の中で鐘も鳴る。激しい頭痛と、吐き気。沙姫は体を丸めて耐えた。ウルフが背中を押して揺らす。沙姫は首を振って嫌だと伝えた。さらに酔いそうだからだ。
「……はぁっ!はぁっ…はぁっ…!」
不意に、吐き気がしなくなる。だが、頭痛はなくならない。ウルフに無事を伝えると、キインからこう言われた。
「石の所に辿りついたんじゃないかい?」
「…そうかも。頭痛い。」
「クリソプレーズを出しな。ほら、あいつにこれを渡せって言われたんだよ。」
「…そっか。」
そういえば、石の近くであればあるほど、あの緑の石はキンキンとうるさかった。沙姫は意識を集中して、便利だけど鬱陶しいその石を出す。その瞬間に頭痛もなくなって、沙姫はキインに笑った。
「ありがとう、凄く楽になった!」
「ふん、しかし厄介なもんだねぇ。これが痛い程うるさいんだろ?」
「うん。それはできるならずっと外がいいかな。」
クリソプレーズをポーチに入れ、沙姫は自分の側に置く。ウルフを見れば、安心したように伏せていた。肉をずっと見つめている。本当は食べたくて仕方ないのだと察した。
「石を吸収して、もし肉が余ったらウルフにあげるよ。」
「………。」
期待しているのだろう。ウルフの口から涎が垂れた。同様にキインもそうなっているのを見て、沙姫は思わず笑う。
「喰われたくなかったらさっさと喰いな!」
「怖いよキイン!」
クリソプレーズと共に勇気も消えて、本当にキインが怖い。沙姫は急いで食べた。一度慣れてしまえば吐き気はどうでもよくなる。やがて、中心部を食べ終えると、ウルフから声がかかった。
「沙姫、どうした?」
「えっ?」
ウルフを見れば、大きな足の裏の肉球が、見えない壁で潰れていた。よくよく見ると、自分の周りに白い光がある。
「十字石はバリアだ。きっと、吸収したんだろうね。」
キインが舌なめずりして、不意に大口を開けて残りの肉を頬張った。それを見たウルフの尻尾が太くなり、負けじと食いつく。獲物にがっついている時は仲間でも容赦はしないようで、最終的には肉の引っ張り合いになっていた。沙姫はその間、念のため十字石をなんとか出して、形を見る。白く綺麗な石だった。
(これが十字石…命を守るためにあると便利そう。ポーチじゃない方がいいかな?)
月に掲げて照らし、正式に吸収する。同様にテクタイトもやっておいて、ポーチはクリソプレーズだけにした。
(落とすと大変だから、私の中とポーチの中と、使い分けないとね。)
しかしあのような頭痛はそう何度も経験したくはない。ポーチの中の場合が多いだろう。そういえばと、沙姫は白い狼を思い出す。
「キイン!ちょっといいかな?」
「なんだい?」
結局、二匹で半分にすることとなったらしい。ウルフは肉に夢中になっている。沙姫は、キインにフェミリーのことを話した。石を見られたことも含め、わかりやすく話す。その上で尋ねた。
「魔物って人の言葉が分かるの?」
「分かるさ。アタイらくらいに賢くなるとね!だけど、人間の言う事は無視するね。」
「じゃあ…人は魔物の言葉が分かるの?」
「さあ?それは知らないねぇ。」
「……そっか。」
「なんだい?急に。」
「さっきも言ったじゃん!クオン…フェミリーはまるで、人間と話すように……。」
「それは聞いたよ。じゃあ、話せるんじゃないかい?小娘、あんただってあのカラスと話してたじゃないか!」
「そうだけど…なんか、変なんだ。」
「変?」
「ああ、そういや言っていたな。」
食べ終わって満足そうに尻尾を振りながら、ウルフが沙姫から聞いたことを話し出す。しかし上手く伝えられないのか、キインは首を傾げるばかり。ウルフは耳を伏せ、半ば怒鳴るように吠えた。
「奴らの喋り方が違うのだっ!」
「それは性別でそうじゃないかっ!?」
「だから違うのだっ!」
「何が違うんだいっ!?」
「喋り方だ!!」
「ウルフ落ち着いて~?」
四回程同じ会話が繰り返されていると理解した沙姫がウルフの頭を撫でる。沙姫は、付け加えた。
「本性を隠している時と、本性を表した時で、喋り方が違ったんだ。人間に語りかけるような感じと、魔物同士で話すような感じとがあったんだ。」
「…ふ~ん?で?」
キインは座り、身体を舐めて逆立った毛を寝かせる。沙姫は話を続けた。
「だから少し気になってね。キインも知らないんじゃ、クオンに聞きに行こうかな?」
「…小娘ぇ。」
キインの目つきが鋭くなり、牙を見せて唸ってくる。沙姫は息を呑み、ウルフの後ろに隠れた。しかし、キインの反応は予想を超えるものだった。
「面白いこと言うじゃないか!」
「えっ…!?」
「あいつらは何か気にくわないんだよ。随分と前なんだが、火吹きの野郎にアタイが転がされてね。芽吹けりゃ何でもいいってもんかい!?」
夜空におぞましい遠吠えをするキイン。沙姫は意味が分からず、聞き直した。
「えっと、どういうこと?」
「このアタイを少し汚れたフェミリーと勘違いしやがってね、魔種違いだって蹴ってやったさ!」
「…えっと……?」
「あの時は大きさが同じだったらしいな。」
「だとしてもありえないね!匂いで分かるだろうに!」
「えっと……。」
珍しく話が分からない。沙姫はキーワードを並べて必死に考えた。転がされた?勘違い?様々な言葉が沙姫の頭の中でぐるぐると回る。質問を変えてみた。
「…何されるとこだったの?」
「種植えだ。」
「種……ああ!」
全てに納得がいった。フェミリーの一匹が、キインと交尾をしようとしたのだ。確かに同じ狼だ。下手したら産めてしまうだろう。
(ロウルサーブとフェミリーの子供か…それはそれで、面白いかも?)
とにかく、なんとか総動員させてもらえそうだ。キインの私怨がこうも上手く働くとは…上手くいきすぎて、後が怖くなる。
「それで…確か、火?名前、聞いたよね?なんだっけ?」
「俺は知らん。」
「アタイもだね。」
「……なんだっけ、確かに聞いたんだけど、忘れちゃった。」
「まあいいさ。どうせ奴ら全て喰うんだ!」
「食べるの!?」
「確かに、味は知りたいな。」
「えっ…えぇっ!?」
沙姫の困惑を気にせず、キインは伸びた。そして、ご機嫌に去っていく。思い立ったらすぐやるようで、キインはこう言い残していった。
「明日に備えときな!」
「この子が心配なんだね?」
「…何故分かる。」
「そんなにうろうろしていたら、少しはね。」
手をどけるとフィンがこちらを見上げる。まだ開ききっていない目に頼らず、匂いで沙姫の手を探している。それの首根っこを噛み、ズルバーはこちらを一瞥してから去っていった。ウルフは尻尾を軽く振る。一応、まだ起きているようだ。
「ちょっといいかい?……ウルフ、起きているんだろうね?」
「キイン?」
既に寝ていると思っていたキインがやってきて、咥えていた肉とポーチをその場に落とす。肉はこんがり焼けていて美味しそうなのだが、これをキイン自ら持ってきて分けてくれるとでも言うのだろうか。
(自分で食べずに…?)
「…何だ?」
ウルフも妙だと感じたのか、顔をキインに向ける。キインの目つきは、怪しく光っていた。嫌な予感はするが、そこはロウルサーブの長。詳細まで悟らせないためか、どこも仕草を見せない。キインはおもむろに口を開いた。
「その肉を丸ごと喰いな。残しちゃいけないよ。」
「これを…くれるの?」
沙姫は不思議そうにキインを見る。キインは、尻尾を軽く揺らして睨んできた。
「忘れちゃいないだろうね?あんたはアタイらのものなんだよ。」
「…なるほど、考えたな。」
ウルフが起き上がり、伸びをする。その後に欠伸をして、肉を見た。
「微かに石の匂いがする。さっき言っていた十字石だな?」
「おや、鼻がいいね。ロウルサーブ一は伊達じゃないってことかい。」
「…つまり、これを食べて石を吸収しろってことかな?」
沙姫は今までの会話から推測する。キインは耳をぴくぴくと動かした。どうやらそのようだ。ウルフが沙姫を見て、耳を後ろに倒す。
「食べきれるのか?そんな小さな体で…。」
「…頑張るよ。」
いい匂いはしているから、きっと腹を壊すことはないだろう。カラスの肉を食べたことはないが、鶏肉と同じものだろうと自分を納得させる。そして魔物は道具がいらない。素手で食べるしかないだろう。汚れが気になるが、むしろ石を確認した時点で食べるのをやめればいい。
「…………。」
あのカラスの肉らしい。食卓に出るような形とは程遠いが、食べるしかないだろう。不思議と、可哀想と言う気持ちはなかった。あの時のカラスの言葉が思い出される。
〝サキ…いい名だ。〟
(……食べるために育てる牛とか豚とか、鶏とか…そんなのを育てる人の気持ちって、こんななのかな?人間って凄いや。)
意を決し、熱さを確認し、手で千切ろうとする。なかなか上手くいかないが、欠片を口に含み、千切っては含みを繰り返す内、だんだん面倒になってかぶりつく。その様子は、端から見てじれったかったらしい。味は、鶏と似たようなものだった。
「……うっ!?」
「沙姫!?」
中心部を口に含んだ時だった。突然に気持ち悪くなる。どこかに吐いてしまいたい。口を押さえ、沙姫は耐えた。ここで吐けば、今度はそれをまた飲まそうとするだろう。胃の中がかき回されるような気持ち悪さに、沙姫は口を押さえて寝転がった。最後に吐いたのはいつ頃だったか―――。
「沙姫、どうした!?」
ウルフの質問にすら口が動かない。頭の中で鐘も鳴る。激しい頭痛と、吐き気。沙姫は体を丸めて耐えた。ウルフが背中を押して揺らす。沙姫は首を振って嫌だと伝えた。さらに酔いそうだからだ。
「……はぁっ!はぁっ…はぁっ…!」
不意に、吐き気がしなくなる。だが、頭痛はなくならない。ウルフに無事を伝えると、キインからこう言われた。
「石の所に辿りついたんじゃないかい?」
「…そうかも。頭痛い。」
「クリソプレーズを出しな。ほら、あいつにこれを渡せって言われたんだよ。」
「…そっか。」
そういえば、石の近くであればあるほど、あの緑の石はキンキンとうるさかった。沙姫は意識を集中して、便利だけど鬱陶しいその石を出す。その瞬間に頭痛もなくなって、沙姫はキインに笑った。
「ありがとう、凄く楽になった!」
「ふん、しかし厄介なもんだねぇ。これが痛い程うるさいんだろ?」
「うん。それはできるならずっと外がいいかな。」
クリソプレーズをポーチに入れ、沙姫は自分の側に置く。ウルフを見れば、安心したように伏せていた。肉をずっと見つめている。本当は食べたくて仕方ないのだと察した。
「石を吸収して、もし肉が余ったらウルフにあげるよ。」
「………。」
期待しているのだろう。ウルフの口から涎が垂れた。同様にキインもそうなっているのを見て、沙姫は思わず笑う。
「喰われたくなかったらさっさと喰いな!」
「怖いよキイン!」
クリソプレーズと共に勇気も消えて、本当にキインが怖い。沙姫は急いで食べた。一度慣れてしまえば吐き気はどうでもよくなる。やがて、中心部を食べ終えると、ウルフから声がかかった。
「沙姫、どうした?」
「えっ?」
ウルフを見れば、大きな足の裏の肉球が、見えない壁で潰れていた。よくよく見ると、自分の周りに白い光がある。
「十字石はバリアだ。きっと、吸収したんだろうね。」
キインが舌なめずりして、不意に大口を開けて残りの肉を頬張った。それを見たウルフの尻尾が太くなり、負けじと食いつく。獲物にがっついている時は仲間でも容赦はしないようで、最終的には肉の引っ張り合いになっていた。沙姫はその間、念のため十字石をなんとか出して、形を見る。白く綺麗な石だった。
(これが十字石…命を守るためにあると便利そう。ポーチじゃない方がいいかな?)
月に掲げて照らし、正式に吸収する。同様にテクタイトもやっておいて、ポーチはクリソプレーズだけにした。
(落とすと大変だから、私の中とポーチの中と、使い分けないとね。)
しかしあのような頭痛はそう何度も経験したくはない。ポーチの中の場合が多いだろう。そういえばと、沙姫は白い狼を思い出す。
「キイン!ちょっといいかな?」
「なんだい?」
結局、二匹で半分にすることとなったらしい。ウルフは肉に夢中になっている。沙姫は、キインにフェミリーのことを話した。石を見られたことも含め、わかりやすく話す。その上で尋ねた。
「魔物って人の言葉が分かるの?」
「分かるさ。アタイらくらいに賢くなるとね!だけど、人間の言う事は無視するね。」
「じゃあ…人は魔物の言葉が分かるの?」
「さあ?それは知らないねぇ。」
「……そっか。」
「なんだい?急に。」
「さっきも言ったじゃん!クオン…フェミリーはまるで、人間と話すように……。」
「それは聞いたよ。じゃあ、話せるんじゃないかい?小娘、あんただってあのカラスと話してたじゃないか!」
「そうだけど…なんか、変なんだ。」
「変?」
「ああ、そういや言っていたな。」
食べ終わって満足そうに尻尾を振りながら、ウルフが沙姫から聞いたことを話し出す。しかし上手く伝えられないのか、キインは首を傾げるばかり。ウルフは耳を伏せ、半ば怒鳴るように吠えた。
「奴らの喋り方が違うのだっ!」
「それは性別でそうじゃないかっ!?」
「だから違うのだっ!」
「何が違うんだいっ!?」
「喋り方だ!!」
「ウルフ落ち着いて~?」
四回程同じ会話が繰り返されていると理解した沙姫がウルフの頭を撫でる。沙姫は、付け加えた。
「本性を隠している時と、本性を表した時で、喋り方が違ったんだ。人間に語りかけるような感じと、魔物同士で話すような感じとがあったんだ。」
「…ふ~ん?で?」
キインは座り、身体を舐めて逆立った毛を寝かせる。沙姫は話を続けた。
「だから少し気になってね。キインも知らないんじゃ、クオンに聞きに行こうかな?」
「…小娘ぇ。」
キインの目つきが鋭くなり、牙を見せて唸ってくる。沙姫は息を呑み、ウルフの後ろに隠れた。しかし、キインの反応は予想を超えるものだった。
「面白いこと言うじゃないか!」
「えっ…!?」
「あいつらは何か気にくわないんだよ。随分と前なんだが、火吹きの野郎にアタイが転がされてね。芽吹けりゃ何でもいいってもんかい!?」
夜空におぞましい遠吠えをするキイン。沙姫は意味が分からず、聞き直した。
「えっと、どういうこと?」
「このアタイを少し汚れたフェミリーと勘違いしやがってね、魔種違いだって蹴ってやったさ!」
「…えっと……?」
「あの時は大きさが同じだったらしいな。」
「だとしてもありえないね!匂いで分かるだろうに!」
「えっと……。」
珍しく話が分からない。沙姫はキーワードを並べて必死に考えた。転がされた?勘違い?様々な言葉が沙姫の頭の中でぐるぐると回る。質問を変えてみた。
「…何されるとこだったの?」
「種植えだ。」
「種……ああ!」
全てに納得がいった。フェミリーの一匹が、キインと交尾をしようとしたのだ。確かに同じ狼だ。下手したら産めてしまうだろう。
(ロウルサーブとフェミリーの子供か…それはそれで、面白いかも?)
とにかく、なんとか総動員させてもらえそうだ。キインの私怨がこうも上手く働くとは…上手くいきすぎて、後が怖くなる。
「それで…確か、火?名前、聞いたよね?なんだっけ?」
「俺は知らん。」
「アタイもだね。」
「……なんだっけ、確かに聞いたんだけど、忘れちゃった。」
「まあいいさ。どうせ奴ら全て喰うんだ!」
「食べるの!?」
「確かに、味は知りたいな。」
「えっ…えぇっ!?」
沙姫の困惑を気にせず、キインは伸びた。そして、ご機嫌に去っていく。思い立ったらすぐやるようで、キインはこう言い残していった。
「明日に備えときな!」