長編
空・瞬間転移で基地に着いたはいいが、誰もいない。プロースどころか、キインまでいないという状況だった。ウルフは地面に伏せて沙姫を降ろすと、残り香を探して鼻を動かす。沙姫は、念入りに足跡を探した。長のテントから基地内を歩き回る。だが、至るところに無数の足跡があるのでどれがキインのものか分からない。しかも、色んな方を向いているので、どこへ向かったかさっぱりだ。ウルフが顔を上げる。残り香が残っていなかったのか、その場に座って毛繕いを始めた。
「どう?」
「ないな。見張り番すらいない。俺達以外、もぬけの殻だ。」
結果は分かっていた。だが、どうもおかしい。ウルフは諦めきれず、キインのテントの匂いを探る。
「特に異変はないな。」
「…ウルフ、ここの匂い嗅いでみて。」
基地の真ん中くらいに砂をかき集めた跡がある。ウルフはそれを見て納得し、嗅ぐまでもなく言い放った。
「産まれたか。」
「産まれた!?」
まさかのことで、沙姫は驚いてウルフを見る。ウルフは鼻息で砂を飛ばしてみせた。血の跡が乾いて残っている。それで匂いを隠すために砂をかけたのだろう。
「子が産まれたら、俺達ロウルサーブは儀式を行う。海に行って、血を洗い流し、すぐに泳がせる。ただそれだけだが。」
「それができなければ襲われて死ぬ…のかな?」
「ああ。だが泳げない奴はいない。だから儀式だ。そうして、ロウルサーブに迎えられる。」
「儀式の時は見張りは?」
「それでも誰かはいる。」
重要なのは何故見張りがいないのか。沙姫は、少し考えてウルフに問い詰めていった。
「……もし、産まれたばかりの子を狙っていた奴がいたとしたら?」
「それでも匂いは残るはずだ。だが、見張りすらいなくなるのは…因縁絡みの時だけ。」
「因縁?」
「ああ、基地が近いロークアーシャのことだ。」
「…………。」
目を瞑り、構図を浮かべる。見張り、一族、子、ロークアーシャ……ロークアーシャは人間より大きいカラスだ。飛びながら子を連れ去ることも可能だろう。
「ウルフ。」
「ん?」
「上空から急降下して子供をさらっていったら、匂いはどうなるの?」
「……残らないな。」
「じゃあ、それだね。きっと産まれた直後に連れ去ったんだ。」
沙姫の推測に、妙に納得させられてしまう。ここまで考えられるのも、さっきの石のおかげだろうか。ウルフは沙姫をくわえて背中に放った。
「わっ。」
驚くも、沙姫はすぐに跨る体勢になってウルフに捕まる。最初は慣れなかったが、段々できるようになってきていることを沙姫は嬉しく感じていた。
「空・瞬間転移?」
「いや、まずは空・思想伝心だ。お前の推測が正しいとは限らん。」
「なるほど…珍しいね。キミが慎重だなんて。」
「喰われたいか?」
「ごめんなさい。」
そう言って微笑む沙姫。ウルフのこの言葉が、最初より優しくなった事は、沙姫しか知らない。ウルフは気を長く溜めた。戦闘ではないので焦る必要はない。
「空・思想伝心。」
キインに伝える。誰もいない基地のイメージを送る。すると、すぐに返事が返ってきた。ロークアーシャがロウルサーブの子供を足に掴んで飛び去るイメージだ。ウルフはすぐに駆空を始める。
「……沙姫、お前の言う通りだった。」
「そっか。じゃあ相手は物凄く速かったんだね。」
「どうしてだ?」
「空・迅速駆空をしても追いつかないんでしょ?それって物凄く速いってことだよね。ウルフが気がつかなかったんだし、きっと、皆も技の重ねがけができることにに気づいてない。」
「……そうか。」
この所、沙姫が知恵袋として賢くなっていっていると思うのは自分だけだろうか。ウルフは一瞬思ってから一族の元へと急いだ。僅かに残された一族の匂いだけを頼りに辿って。
「どう?」
「ないな。見張り番すらいない。俺達以外、もぬけの殻だ。」
結果は分かっていた。だが、どうもおかしい。ウルフは諦めきれず、キインのテントの匂いを探る。
「特に異変はないな。」
「…ウルフ、ここの匂い嗅いでみて。」
基地の真ん中くらいに砂をかき集めた跡がある。ウルフはそれを見て納得し、嗅ぐまでもなく言い放った。
「産まれたか。」
「産まれた!?」
まさかのことで、沙姫は驚いてウルフを見る。ウルフは鼻息で砂を飛ばしてみせた。血の跡が乾いて残っている。それで匂いを隠すために砂をかけたのだろう。
「子が産まれたら、俺達ロウルサーブは儀式を行う。海に行って、血を洗い流し、すぐに泳がせる。ただそれだけだが。」
「それができなければ襲われて死ぬ…のかな?」
「ああ。だが泳げない奴はいない。だから儀式だ。そうして、ロウルサーブに迎えられる。」
「儀式の時は見張りは?」
「それでも誰かはいる。」
重要なのは何故見張りがいないのか。沙姫は、少し考えてウルフに問い詰めていった。
「……もし、産まれたばかりの子を狙っていた奴がいたとしたら?」
「それでも匂いは残るはずだ。だが、見張りすらいなくなるのは…因縁絡みの時だけ。」
「因縁?」
「ああ、基地が近いロークアーシャのことだ。」
「…………。」
目を瞑り、構図を浮かべる。見張り、一族、子、ロークアーシャ……ロークアーシャは人間より大きいカラスだ。飛びながら子を連れ去ることも可能だろう。
「ウルフ。」
「ん?」
「上空から急降下して子供をさらっていったら、匂いはどうなるの?」
「……残らないな。」
「じゃあ、それだね。きっと産まれた直後に連れ去ったんだ。」
沙姫の推測に、妙に納得させられてしまう。ここまで考えられるのも、さっきの石のおかげだろうか。ウルフは沙姫をくわえて背中に放った。
「わっ。」
驚くも、沙姫はすぐに跨る体勢になってウルフに捕まる。最初は慣れなかったが、段々できるようになってきていることを沙姫は嬉しく感じていた。
「空・瞬間転移?」
「いや、まずは空・思想伝心だ。お前の推測が正しいとは限らん。」
「なるほど…珍しいね。キミが慎重だなんて。」
「喰われたいか?」
「ごめんなさい。」
そう言って微笑む沙姫。ウルフのこの言葉が、最初より優しくなった事は、沙姫しか知らない。ウルフは気を長く溜めた。戦闘ではないので焦る必要はない。
「空・思想伝心。」
キインに伝える。誰もいない基地のイメージを送る。すると、すぐに返事が返ってきた。ロークアーシャがロウルサーブの子供を足に掴んで飛び去るイメージだ。ウルフはすぐに駆空を始める。
「……沙姫、お前の言う通りだった。」
「そっか。じゃあ相手は物凄く速かったんだね。」
「どうしてだ?」
「空・迅速駆空をしても追いつかないんでしょ?それって物凄く速いってことだよね。ウルフが気がつかなかったんだし、きっと、皆も技の重ねがけができることにに気づいてない。」
「……そうか。」
この所、沙姫が知恵袋として賢くなっていっていると思うのは自分だけだろうか。ウルフは一瞬思ってから一族の元へと急いだ。僅かに残された一族の匂いだけを頼りに辿って。