長編
「最近、ここら一帯で一匹のロウルサーブがうろついてるらしい。見つける人間は辺り構わず襲うとのことだ。依頼ランク、ハント難度共にA。覚悟して行くぞ。」
「ああ、ロウルサーブは知能が高いからな…人間の本能に攻撃をする。」
「でも俺らぐらいになれば大丈夫だよな?」
「バカ言え。油断してると喰われるぞ?」
夜の街の近くで武器を持った三人の男が焚き火をたいている。静かな夜。三人は待ち伏せをしていた。街のライトや焚き火の明かるさで、それぞれの顔は分かる。
「ウォーン!」
そう近くない所から、遠吠えが聞こえた。
「…聞こえたな?」
「ああ、聞こえた。」
「よし、行くぞ。」
武器を手に、立ち上がる男達。次に、駆けてくる音が聞こえた。瞬間、大きな影が男達の前に立ちふさがる。それは紛れもなくロウルサーブの姿。
「…沙姫の匂いはない。邪魔だ!人間共め!」
ウルフは男達を見るなり、大口を開けて吠えた。その声はおぞましく、男達は逃げだしたい気持ちを抑えた。
「くっ…流石だな。だがなっ!」
その声に怯むも、男達は両手剣を振ってウルフに切りかかる。ウルフはリズムよく一人一人の攻撃を避けていった。
「でぃっ!」
「!!…ちっ。」
一人の男の剣が、ウルフの足に切り傷をつけた。だが、当たった素振りは断じて見せず、ウルフは避けていく。
「…くそっ、素早いな」
(……今だ。)
攻撃がやむと、すかさずウルフは低姿勢で飛びかかって、一人の首を噛み砕く。男の首が跳ねられて、仲間達の足下に転がった。
「「ひっ!」」
仲間が怯んでいる内に、ウルフはその男が持っていた両手剣を口にくわえ、戦闘の構えになる。男達も構えるが、リーチはウルフの方が長い。首を横に素早く振って、力の差で男達の両手剣を弾き飛ばした。間髪容れず、すぐに反対方向へ、また首を振る。それで、男達の胴体を斬った。
「…まずい。」
殺した人間共を食べ終わった後、ウルフは誰もいない血の海で呟いた。沙姫のくれる七面鳥を恋しく思い、ウルフは切ない思いを乗せて遠吠えをする。
「オォーン…。」
その遠吠えは悲しく尾を引いた。果たして、それは沙姫に届いたであろうか。ウルフは街の明かりを見て、その場に伏せて丸まった。沙姫がいなくなってから数日。石のことをばらすのではないかという心配より、背中の寂しさが大きくなっていった。ウルフはまた、沙姫がいつも乗る位置をチョロっと一舐めする。
「…沙姫…どこだ?」
明るい兆しもない。沙姫の匂いも鼻に入ってこない。ウルフは途方に暮れていた。
「んーっ!久しぶりのお風呂はやっぱいいね!」
そんな沙姫はと言うと、助けてもらった男と少年が住む家で、気持ちよくお風呂に入っていた。魔物は風呂に入る習慣がない。だから何日も風呂に入っておらず、沙姫は不快を感じていたのだ。
「ウルフ達の石を探しながらでも、やっぱり風呂は入りたいよね~。」
湯船につかりながら、ふと、ウルフの事が頭に浮かんだ。今頃どうしているだろう?一匹だけで石を探しているのだろうか。それとも、石の事を放っておいて自分を探している?
「どうだろう?空・思想伝心を使ってこないし…あ、もしかして忘れていたりして。」
そう思うと、技を使わずに必死で自分を探すウルフの姿が安易に想像できて、思わず笑ってしまった。風呂から出て、少年が貸してくれた服を着る。やはりというか、自分よりサイズは少し大きかった。
「ありがとうございます。いいお風呂でした。」
「うむ。それはよかった。ところで嬢ちゃん。名前は?親はどうした。」
「私は沙姫です。えっと…親?」
正直、何て言ったらいいのか迷った。まさか別の世界から来たと言っても信じられるはずがない。ちょっと考えて、沙姫の頭に電球が光った。
「親は…いません。強いて言うならあのロウルサーブは私の家族です。」
「何だって!?」
驚かれたが、こう言っておけば再び会った時にまた連れ去られなくて済む。沙姫はこの調子だと更にでっちあげた。
「あのロウルサーブは親が飼っていた…もので、私はずっとあの子と一緒に旅をしていたんです。」
「…本当かい?」
男の目が、一瞬にして疑わしい目つきに変わった。少年の方も、何故か攻撃態勢に入っている。男は、殴りかかる体勢になった。
「…本当は、嬢ちゃんも魔物だったりしてな?」
「え、えぇっ!?私が魔物!あり得ない、私は人間だよ!な、何で!」
豹変した二人の態度に、沙姫は恐怖を覚えた。さらに、男は続ける。
「魔物を飼っていたなんて聞いたことがないからな。嬢ちゃんは…ファラストだな?」
「ファラスト!?だ、だってあれ…人間に化けても目が青いじゃん!」
「雄はな。だが、黒いコンタクトレンズをすれば、目の色でバレない。」
「そ、そんな…。」
そんなに頭がいいわけ、と言い掛けた時だった。少年が前に出てきて沙姫に詰め寄ってくる。沙姫は一歩、後に下がった。
「僕はその方法で母を喰ったファラストの雌に騙されて…僕は病気の母だと思ってたその雌をずっと世話していたんだ。危うく喰われるとこだったんだ!」
「…………。」
何も言えなくて、沙姫は黙り込んでしまった。そして、一つだけ分かった。この世界には召喚獣という言葉はないらしい。
「…ちょっと目を失礼させてもらうよ。」
男が沙姫を押さえつけ、目に指を入れて、ないコンタクトレンズを取ろうとする。それが痛くて、沙姫は抵抗した。
「痛い痛い痛い!やめてよ!」
「大人しくしろ!」
そう言われても、ないものはない。沙姫は、だんだんイライラしてきた。
「放せこのド畜生がぁっ!!」
「!!」
そう叫んだ瞬間に、沙姫の体から眩い光が発せられる。男は沙姫から離れ、沙姫を細目で見た。その光はすぐに収まり、沙姫の手の中にはアメトリンがあった。
「…あ、叫んだらすっきりした。」
「そ、その石は…!?」
石を見て、少年が目を見開く。知ってるのか、と男が振り向いた。
「はい。あれはアメトリンと言って…イライラを和らげる効果がある、ロウルサーブの守り石です。」
「守り石…?」
「はい、ロウルサーブの基地にあって…かなり貴重なものです。」
(……チャーンス!)
沙姫は二人の会話を聞いて、生き残る希望の道を見つけた。色んな不安があるが、ここまできたら話すしかないだろう。
「私のこと…。」
そう呟くと、二人はこちらに向き直る。沙姫ははっきりとこう言った。
「私のこと、信じてくれるなら…本当の事話してやってもいいよ。」
「「本当の事…?」」
食いついた。沙姫は、心の中で生き延びれたことにガッツポーズを決めた。
「ああ、ロウルサーブは知能が高いからな…人間の本能に攻撃をする。」
「でも俺らぐらいになれば大丈夫だよな?」
「バカ言え。油断してると喰われるぞ?」
夜の街の近くで武器を持った三人の男が焚き火をたいている。静かな夜。三人は待ち伏せをしていた。街のライトや焚き火の明かるさで、それぞれの顔は分かる。
「ウォーン!」
そう近くない所から、遠吠えが聞こえた。
「…聞こえたな?」
「ああ、聞こえた。」
「よし、行くぞ。」
武器を手に、立ち上がる男達。次に、駆けてくる音が聞こえた。瞬間、大きな影が男達の前に立ちふさがる。それは紛れもなくロウルサーブの姿。
「…沙姫の匂いはない。邪魔だ!人間共め!」
ウルフは男達を見るなり、大口を開けて吠えた。その声はおぞましく、男達は逃げだしたい気持ちを抑えた。
「くっ…流石だな。だがなっ!」
その声に怯むも、男達は両手剣を振ってウルフに切りかかる。ウルフはリズムよく一人一人の攻撃を避けていった。
「でぃっ!」
「!!…ちっ。」
一人の男の剣が、ウルフの足に切り傷をつけた。だが、当たった素振りは断じて見せず、ウルフは避けていく。
「…くそっ、素早いな」
(……今だ。)
攻撃がやむと、すかさずウルフは低姿勢で飛びかかって、一人の首を噛み砕く。男の首が跳ねられて、仲間達の足下に転がった。
「「ひっ!」」
仲間が怯んでいる内に、ウルフはその男が持っていた両手剣を口にくわえ、戦闘の構えになる。男達も構えるが、リーチはウルフの方が長い。首を横に素早く振って、力の差で男達の両手剣を弾き飛ばした。間髪容れず、すぐに反対方向へ、また首を振る。それで、男達の胴体を斬った。
「…まずい。」
殺した人間共を食べ終わった後、ウルフは誰もいない血の海で呟いた。沙姫のくれる七面鳥を恋しく思い、ウルフは切ない思いを乗せて遠吠えをする。
「オォーン…。」
その遠吠えは悲しく尾を引いた。果たして、それは沙姫に届いたであろうか。ウルフは街の明かりを見て、その場に伏せて丸まった。沙姫がいなくなってから数日。石のことをばらすのではないかという心配より、背中の寂しさが大きくなっていった。ウルフはまた、沙姫がいつも乗る位置をチョロっと一舐めする。
「…沙姫…どこだ?」
明るい兆しもない。沙姫の匂いも鼻に入ってこない。ウルフは途方に暮れていた。
「んーっ!久しぶりのお風呂はやっぱいいね!」
そんな沙姫はと言うと、助けてもらった男と少年が住む家で、気持ちよくお風呂に入っていた。魔物は風呂に入る習慣がない。だから何日も風呂に入っておらず、沙姫は不快を感じていたのだ。
「ウルフ達の石を探しながらでも、やっぱり風呂は入りたいよね~。」
湯船につかりながら、ふと、ウルフの事が頭に浮かんだ。今頃どうしているだろう?一匹だけで石を探しているのだろうか。それとも、石の事を放っておいて自分を探している?
「どうだろう?空・思想伝心を使ってこないし…あ、もしかして忘れていたりして。」
そう思うと、技を使わずに必死で自分を探すウルフの姿が安易に想像できて、思わず笑ってしまった。風呂から出て、少年が貸してくれた服を着る。やはりというか、自分よりサイズは少し大きかった。
「ありがとうございます。いいお風呂でした。」
「うむ。それはよかった。ところで嬢ちゃん。名前は?親はどうした。」
「私は沙姫です。えっと…親?」
正直、何て言ったらいいのか迷った。まさか別の世界から来たと言っても信じられるはずがない。ちょっと考えて、沙姫の頭に電球が光った。
「親は…いません。強いて言うならあのロウルサーブは私の家族です。」
「何だって!?」
驚かれたが、こう言っておけば再び会った時にまた連れ去られなくて済む。沙姫はこの調子だと更にでっちあげた。
「あのロウルサーブは親が飼っていた…もので、私はずっとあの子と一緒に旅をしていたんです。」
「…本当かい?」
男の目が、一瞬にして疑わしい目つきに変わった。少年の方も、何故か攻撃態勢に入っている。男は、殴りかかる体勢になった。
「…本当は、嬢ちゃんも魔物だったりしてな?」
「え、えぇっ!?私が魔物!あり得ない、私は人間だよ!な、何で!」
豹変した二人の態度に、沙姫は恐怖を覚えた。さらに、男は続ける。
「魔物を飼っていたなんて聞いたことがないからな。嬢ちゃんは…ファラストだな?」
「ファラスト!?だ、だってあれ…人間に化けても目が青いじゃん!」
「雄はな。だが、黒いコンタクトレンズをすれば、目の色でバレない。」
「そ、そんな…。」
そんなに頭がいいわけ、と言い掛けた時だった。少年が前に出てきて沙姫に詰め寄ってくる。沙姫は一歩、後に下がった。
「僕はその方法で母を喰ったファラストの雌に騙されて…僕は病気の母だと思ってたその雌をずっと世話していたんだ。危うく喰われるとこだったんだ!」
「…………。」
何も言えなくて、沙姫は黙り込んでしまった。そして、一つだけ分かった。この世界には召喚獣という言葉はないらしい。
「…ちょっと目を失礼させてもらうよ。」
男が沙姫を押さえつけ、目に指を入れて、ないコンタクトレンズを取ろうとする。それが痛くて、沙姫は抵抗した。
「痛い痛い痛い!やめてよ!」
「大人しくしろ!」
そう言われても、ないものはない。沙姫は、だんだんイライラしてきた。
「放せこのド畜生がぁっ!!」
「!!」
そう叫んだ瞬間に、沙姫の体から眩い光が発せられる。男は沙姫から離れ、沙姫を細目で見た。その光はすぐに収まり、沙姫の手の中にはアメトリンがあった。
「…あ、叫んだらすっきりした。」
「そ、その石は…!?」
石を見て、少年が目を見開く。知ってるのか、と男が振り向いた。
「はい。あれはアメトリンと言って…イライラを和らげる効果がある、ロウルサーブの守り石です。」
「守り石…?」
「はい、ロウルサーブの基地にあって…かなり貴重なものです。」
(……チャーンス!)
沙姫は二人の会話を聞いて、生き残る希望の道を見つけた。色んな不安があるが、ここまできたら話すしかないだろう。
「私のこと…。」
そう呟くと、二人はこちらに向き直る。沙姫ははっきりとこう言った。
「私のこと、信じてくれるなら…本当の事話してやってもいいよ。」
「「本当の事…?」」
食いついた。沙姫は、心の中で生き延びれたことにガッツポーズを決めた。