長編
巣に戻ると、まだ宴が続いていた。どの遠吠えが一番カッコいいかとか、どの雄叫びが一番怖いかとかで吠えていて、うるさい。沙姫には、どれも同じように聞こえる。ウルフが魚捌きの上手なロウルサーブを紹介してくれるというのだが、正直あのうるさく吠えている群集の中に割り入るのは勘弁して欲しかった。
「ウォオオォオ!!」
「ぎゃっ!」
ウルフがいきなり雄叫びをあげたので、耳を塞ぐ沙姫。そのときにサテライズが地面に落ちて、一匹の雄がおっと尻尾を上げる。
「気が利くな!よしっ、特別に俺の魚捌きを見せてやろう!」
そう言って爪を出し、いきなり裁こうとするので沙姫は慌てて注意した。
「気をつけてよ。この中に石があるんだから。」
「何だと?」
沙姫の発言で、ロウルサーブ全員が集まってきた。だがそんな時に、折角叫んだのに何も評価されなかったウルフが不満そうに座って、尻尾を大きく横に揺らしている。
「俺の雄叫びへの評価は何もなしか?」
「ズルバーよりも下だね。」
長のテントから出てきて群集の真ん中に歩み出たキインからさらりと言い放たれ、ウルフは頭をうなだれる。
「おいおい…そこまで酷いのか。」
「ちょっと待て。それは俺の雄叫びが下級クラスだと言いたいのか?」
さらにもう一匹ウルフの隣にやってきたロウルサーブ。恐らくこれがズルバーだろうと沙姫は思った。キインが魚を目前にして、鼻でやれと示す。
「頼んだよ、イリュ」
「任せろ!」
イリュと呼ばれた雄のロウルサーブは、皆が見ている中、爪を出して気を溜める。沙姫はウルフに耳打ちした。
「もしかしてあいつにしか使えない技で捌くの?」
「そうだ。よく分かったな、沙姫。よく見ておけ。」
「空・捌切!」
両前足を器用に使い、斜めから次々とクロスさせるように魚を捌いてゆくイリュ。とても速くて、見えたものではない。人間がやられたら一巻の終わりだなと沙姫は震えた。捌き終えると、イリュは誇らしげに鼻をならした。
「どうだ!」
「…人間が捌いたみたい。とても美味しそう。」
「だろう?イリュはロウルサーブ一の料理魔なんだよ。」
(予想ついてたよ、その言葉。)
キインからその言葉を聞き、沙姫は苦笑いした。ところどころ、人と言われるところが魔に変わる法則があるのはもう分かっていた。人種は魔種、人のことを言えないは魔物のことを言えない、他人は他魔、挙げ句の果てに料理人は料理魔。ここまでくればそれは想像できた。特に驚かない。そして沙姫には色々突っ込みたいことがあった。
「イリュ…だっけ?雄なのに可愛い名前だね。」
「頭から喰うぞ。」
「ごめんなさい。…あれ?今まで聞いたのと何か違う。」
「今までの?それはどういうことだ?」
イリュが不思議そうに首をかしげる。それには、ウルフとプロースが沙姫をからかうため、沙姫の両側に立ってあえて真顔で答えた。
「「喰われたいか?」」
「何か本気っぽくて怖い。怖いんだけど、ねぇ。挟み撃ちで口開けないでよ。」
「ほう、普段はそう言われているのか。」
話もそこそこに、沙姫は魚の中から見つけた石をキインに渡す。それから、クリソプレーズも渡した。
「何かうるさかったけど、それがあったからこれも見つけられたし…凄いんだね、石って。」
「クリソプレーズと…これはアメトリンだね。」
「アメトリン…。」
「ヘンテコリンとか言ったらぶっ飛ばすよ?」
「まだ思ってないよ。」
キインに睨まれ、思わず固まる沙姫。その時、プロースが思い出したように呟いた。
「そう言えばその石…クリソプレーズには勇気も持てるという言い伝えがあったな。小娘は一旦それを吸収したが、そんな感じはするか?」
「え、勇気?…う~ん。」
「……吸収だって?」
沙姫が思いを巡らせていると、キインが真剣な表情で聞き返す。ああ、と呑気な表情でプロースは沙姫から聞いたことをそのまま話し出した。その隙にとズルバーがサテライズに食らいついた。
「む、美味いな。」
「おいズルバー!最下位の癖にサテライズを…。」
(一魔占め。)
「一魔占めするな!」
沙姫の予想は、不思議なくらいに当たった。プロースから事を聞くと、キインは前足の膝を折って落胆する。
「石ってのはね…一度吸収されたらその者を主として慕うんだよ。アタイが持ってても、ホラ。」
突然クリソプレーズが光り、沙姫の頭上に来てあの時と同じように光の線を描いて消えた。吸収し終わると、沙姫はふと気になった事を口にする。
「でもさ、主って…石を吸収したまま主が死んだらどうなるのさ。」
「石諸共消滅さ。」
「何だと!?」
その言葉を聞き、事の重大さに気付くロウルサーブ達。ウルフも例外ではなく、固まってさえいた。そんなウルフの背中に乗る沙姫だけは、事をさっぱり理解していない。
「そして吸収したのはよりにもよってクリソプレーズ…石を探せる唯一の石。つまりアタイ等は。」
そう言ってキインが未だにきょとんとしている沙姫を見上げた。
「この小娘を殺せない。ロウルサーブの未来をこの小娘に託したことになるんだよ!」
「何てことだい!」
「そんなバカな…。」
沙姫にしてはやっと命綱が繋がった気分だった。一方、ロウルサーブの誰かに自分の見てない場所で沙姫が喰われる心配のなくなったウルフは、ほっとすると同時に焦りを感じた。となると沙姫は、これから石捜索に必要となる。時期が来たら元の世界へ返すつもりでいたが……
「私の寿命が伸びた~!やった~!」
……これでは戻せない。
(厄介な事になってしまったな。)
連れてくるべきではなかった、とウルフは激しく後悔した。
「ウォオオォオ!!」
「ぎゃっ!」
ウルフがいきなり雄叫びをあげたので、耳を塞ぐ沙姫。そのときにサテライズが地面に落ちて、一匹の雄がおっと尻尾を上げる。
「気が利くな!よしっ、特別に俺の魚捌きを見せてやろう!」
そう言って爪を出し、いきなり裁こうとするので沙姫は慌てて注意した。
「気をつけてよ。この中に石があるんだから。」
「何だと?」
沙姫の発言で、ロウルサーブ全員が集まってきた。だがそんな時に、折角叫んだのに何も評価されなかったウルフが不満そうに座って、尻尾を大きく横に揺らしている。
「俺の雄叫びへの評価は何もなしか?」
「ズルバーよりも下だね。」
長のテントから出てきて群集の真ん中に歩み出たキインからさらりと言い放たれ、ウルフは頭をうなだれる。
「おいおい…そこまで酷いのか。」
「ちょっと待て。それは俺の雄叫びが下級クラスだと言いたいのか?」
さらにもう一匹ウルフの隣にやってきたロウルサーブ。恐らくこれがズルバーだろうと沙姫は思った。キインが魚を目前にして、鼻でやれと示す。
「頼んだよ、イリュ」
「任せろ!」
イリュと呼ばれた雄のロウルサーブは、皆が見ている中、爪を出して気を溜める。沙姫はウルフに耳打ちした。
「もしかしてあいつにしか使えない技で捌くの?」
「そうだ。よく分かったな、沙姫。よく見ておけ。」
「空・捌切!」
両前足を器用に使い、斜めから次々とクロスさせるように魚を捌いてゆくイリュ。とても速くて、見えたものではない。人間がやられたら一巻の終わりだなと沙姫は震えた。捌き終えると、イリュは誇らしげに鼻をならした。
「どうだ!」
「…人間が捌いたみたい。とても美味しそう。」
「だろう?イリュはロウルサーブ一の料理魔なんだよ。」
(予想ついてたよ、その言葉。)
キインからその言葉を聞き、沙姫は苦笑いした。ところどころ、人と言われるところが魔に変わる法則があるのはもう分かっていた。人種は魔種、人のことを言えないは魔物のことを言えない、他人は他魔、挙げ句の果てに料理人は料理魔。ここまでくればそれは想像できた。特に驚かない。そして沙姫には色々突っ込みたいことがあった。
「イリュ…だっけ?雄なのに可愛い名前だね。」
「頭から喰うぞ。」
「ごめんなさい。…あれ?今まで聞いたのと何か違う。」
「今までの?それはどういうことだ?」
イリュが不思議そうに首をかしげる。それには、ウルフとプロースが沙姫をからかうため、沙姫の両側に立ってあえて真顔で答えた。
「「喰われたいか?」」
「何か本気っぽくて怖い。怖いんだけど、ねぇ。挟み撃ちで口開けないでよ。」
「ほう、普段はそう言われているのか。」
話もそこそこに、沙姫は魚の中から見つけた石をキインに渡す。それから、クリソプレーズも渡した。
「何かうるさかったけど、それがあったからこれも見つけられたし…凄いんだね、石って。」
「クリソプレーズと…これはアメトリンだね。」
「アメトリン…。」
「ヘンテコリンとか言ったらぶっ飛ばすよ?」
「まだ思ってないよ。」
キインに睨まれ、思わず固まる沙姫。その時、プロースが思い出したように呟いた。
「そう言えばその石…クリソプレーズには勇気も持てるという言い伝えがあったな。小娘は一旦それを吸収したが、そんな感じはするか?」
「え、勇気?…う~ん。」
「……吸収だって?」
沙姫が思いを巡らせていると、キインが真剣な表情で聞き返す。ああ、と呑気な表情でプロースは沙姫から聞いたことをそのまま話し出した。その隙にとズルバーがサテライズに食らいついた。
「む、美味いな。」
「おいズルバー!最下位の癖にサテライズを…。」
(一魔占め。)
「一魔占めするな!」
沙姫の予想は、不思議なくらいに当たった。プロースから事を聞くと、キインは前足の膝を折って落胆する。
「石ってのはね…一度吸収されたらその者を主として慕うんだよ。アタイが持ってても、ホラ。」
突然クリソプレーズが光り、沙姫の頭上に来てあの時と同じように光の線を描いて消えた。吸収し終わると、沙姫はふと気になった事を口にする。
「でもさ、主って…石を吸収したまま主が死んだらどうなるのさ。」
「石諸共消滅さ。」
「何だと!?」
その言葉を聞き、事の重大さに気付くロウルサーブ達。ウルフも例外ではなく、固まってさえいた。そんなウルフの背中に乗る沙姫だけは、事をさっぱり理解していない。
「そして吸収したのはよりにもよってクリソプレーズ…石を探せる唯一の石。つまりアタイ等は。」
そう言ってキインが未だにきょとんとしている沙姫を見上げた。
「この小娘を殺せない。ロウルサーブの未来をこの小娘に託したことになるんだよ!」
「何てことだい!」
「そんなバカな…。」
沙姫にしてはやっと命綱が繋がった気分だった。一方、ロウルサーブの誰かに自分の見てない場所で沙姫が喰われる心配のなくなったウルフは、ほっとすると同時に焦りを感じた。となると沙姫は、これから石捜索に必要となる。時期が来たら元の世界へ返すつもりでいたが……
「私の寿命が伸びた~!やった~!」
……これでは戻せない。
(厄介な事になってしまったな。)
連れてくるべきではなかった、とウルフは激しく後悔した。