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長編

砂浜に打ち上げられる波の音。緑色の海に赤い砂浜。緑色の空には桃色の雲が漂っている。そして、夜を告げるかのような淡い青色の月。この世界、ディメッシュリーンの海は静かだった。しかし……その沈黙は突然破られた。

「空・切断!」

紙を破くような音がして、空間が裂ける。その中から、一匹の悍ましい狼が現れた。紺碧に囲まれた紫の瞳をしている。その狼は間違いなくロウルサーブという魔物だ。背中にごく普通の人間を乗せている…女の子だ。女の子は辺りを見渡して……一言こう言った。

「目に悪そうな自然だね。」

「……人間と魔物の目のつくりは違う。お前の目には悪くても俺の目にはいいのだ。ここに来る度、心が癒される。」

沙姫はウルフの発言を聞いて、酷く驚いたようだった。

「心が癒される?……ウルフが!?」

沙姫は目を瞑り、想像してみた。ウルフが癒された時の表情を…そこにはふにゃっとなった顔の恐ろしさのかけらもないウルフがいた。

「…ぷ、くくくっ。」

「何がおかしい!?」

「ごめん、可愛い。」

「はぁ?何を言っているのだ!おい、説明しろ!」

「いやーだよーん」

「うがああぁぁぁ!」

ウルフは沙姫を背中から振り降ろそうと体をブルブルと震わせる。沙姫は笑いながらウルフの首にしがみついていた。何故、彼等はここに来たのか?それは数時間前の事だった。

「何、それは本当なのか…長老!?」

「ああ、全ての石がだ。」

「う…?」

21時56分、ウルフが驚愕して、耳をピンと立てた。ウルフの側で寝ていた沙姫が目を覚ましてウルフの背中に乗る。目の前にはかなり年老いた狼の魔物がいた。

「ん?美味しそうな小娘だな…ウルフ、一つ俺にくれんか?」

「え。」

年老いた狼の魔物の目が光った。沙姫は冷汗をたらし、ウルフにしがみつく。ウルフは沙姫を気にせず、溜息一つして話した。

「長老、この小娘は俺の獲物だ。手出しは許さん。」

「俺はもう年で、獲物を狩れん。それに今までお前が獲物を譲らなかった事はないぞ?どういうことだ。」

「ぐ……っ」

ウルフは口ごもり、黙ってしまう。長老は勝つと確信したのかウルフに詰め寄った。背中にいる沙姫がウルフの顔を覗き込む。

「ウルフでも黙ることあるんだね。」

「煩い。それよりいいのか?お前、喰われようとしているのだぞ。」

「平気平気。大丈夫だよ。」

ウルフは疑わしげに沙姫を見る。喰われそうな本人は余裕の表情でいた。長老は待ちくたびれたとでもいうように沙姫に飛び掛かる。

「ウルフ、その小娘をよこせ!」

「…さらば、沙姫よ。」

ウルフは小さく呟いた。しかし、沙姫の目が光るのを見ると、ウルフの目が驚きに見開かれる。

「必殺・狼鎮め。」

「「!!」」

何かが長老の口に投げ込まれた。長老はその場に着地し、もぐもぐと口を動かせて食べる。長老の口から匂ういい香りの正体を、ウルフは言った。

「…し、七面鳥。」

「…美味い、美味いぞ!これは何だ!?」

長老は、初めて口にした七面鳥の美味しさに驚愕して飛び跳ねた。沙姫が得意顔で答える。

「それは七面鳥っていうんだ。めったに手に入らない代物だよ。」

「七面鳥、か……小娘、名は何と言う?」

「沙姫だよ。ウルフのともd」
「部下だ。」

「……………。」

沙姫はウルフを見た。
ウルフはニヤリと笑う。
沙姫は溜息をついた。
長老が愉快そうに笑う。

「沙姫か。いいだろう、気に入った!俺はお前を食わんよ。」

「そうしてもらえると助かるよ。」

「で、長老…石の件は?」

ウルフが再び話を切り出すと、長老は思い出したように言った。

「そうだったな。それでな、ウルフよ。石を探してきて欲しい。ロウルサーブの基地へと取り戻すのだ。」

「了解した。」

ウルフは尻尾を一回転させて頭を下げる。沙姫は話が分からず、ウルフに尋ねた。

「石?」

「ああ、俺達ロウルサーブが守る石の数々が、何者かに盗まれてしまったのだ。」

「左様、そして俺達の石を盗む輩は絶対に俺達ロウルサーブをナメているに違いない……見ていろ。目にものを見せてやる!!うがああぁぁぁ!」

「止めろ長老!」

長老が暴れそうなのを見て、ウルフが必死に長老の尻尾を咥えて止める。沙姫はウルフの背中に乗ったまま主人公らしく言い放った。

「とにかく、石を探しに行こうよ。」

「そうだな…長老、いい加減に暴れるのを止めろ。迷惑だ!
空・時間制御。」

「……!」

ウルフは気を素早く溜め、技を使った。長老の動きが止まる。

「これで長老は暫くは動けん。基地に送り届けて石を探しに行くぞ。」

「……流石ウルフ。年寄りにも容赦ないね。」

「空・切断!」

……ということで、沙姫とウルフはここに来たのである。

「さて、どこにあるんだろうね?」

「さあな、足や鼻で探すしかないだろう。」

「それって…何百年もかかるんじゃ?」

「……言うな。これしか方法はない。」

ウルフは、砂浜に鼻をつけ、においを探り始めた。
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