短編集
いつも憧れていた。
星の子達の遊ぶ姿に。
一緒に手を繋いで歩く姿に。
空を飛ぶ姿に。
抱きしめ合う姿に。
協力して闇に立ち向かう姿に。
ボールで遊ぶ姿に。
例えくだらないって思われるかもしれない何もかも
僕にとっては憧れでしか無かった。
僕もおともだちになりたいな。
手を繋いで歩くって、ひとりじゃない感じで、いいな。
空を飛んだら、すごく綺麗な景色が見れるんだろうな。
抱きしめ合ってる時って、どんな気持ち?
どんな怖いものも、おともだちと一緒なら怖くない?
ボールを使った遊びってどんなのがあるの?
でも幾ら質問しても星の子達にはこの声は届くはずもなく
毎回焚き火の中に突っ込まれてあっちっち。
それ以前に僕の身体が本能的にいつの間にか
星の子に襲いかかってるんだから
たまったもんじゃない。
でも、僕に優しくしてくれている星の子が2人居た。
男の子と、女の子。
僕をひっくり返してからだけど、
よく話しかけたり撫でてくれたりしていて。
夕方になるまで遊びじゃくっていた。
当の本人には分からないかもしれないんだけど、
それがすごく幸せだった。
まるで星の子の仲間になれたみたいで……
ある日、その女の子がまたいつものように僕を転ばせて
ある場所へ持ち帰った。
…?…どこに連れてくの?
音にびっくりしちゃって目がぐるぐるしてたから分からなかったんだけど
多分…書庫…?…
落ち着いてきてから周りを見回すと、
あの男の子が横たわっていた。
寝てる?
でも頭から黄色の液体が零れてたり、
腕がなかったり…
ただ不思議に思いながら見ていると、
女の子はその男の子に何らか話した後に僕に話しかける。
目を見開く。
何を言ってるかは分からなかった。
ただ分かったのは……
刃物。その子の手元で蟹を唯一刺し殺せる道具が光ったこと。
僕は逃げようとした。
でも裏返ってる僕がいくら逃げようとしても
ただ足をばたつかせてるのと大差ない。
暴れてるうちにその女の子は爆音で鳴き、その音が僕のアタマを貫き、気を失った――――
目覚めた。白黒だった世界が色付いて見えた。
こんなに…さっき居た部屋は綺麗だったの…?
僕は身体を起こして辺りをみわた……
……身体を起こして?
僕はその違和感に気付いて自分の身体を見る。
色んな色が混じった腕、茶色の肌。
そして首元に見える白髪の髪。
何度も手を握ったり開いたり。
僕の体を窮屈に留めてた殻も、あんなに不自由だった腕ももうこの時の僕には無かった。
というか、それ以前に僕の身体をこうして見下ろすことすら
本来なら適わないだろう。
僕は立ち上がってよたよたと頼りない足取りで周りを散策してみる。
あたりには誰もいない。星の子の道具が色々と地面に散らばっているだけ。
それを拾い上げてはじっと見つめる。
そもそもなんで僕の身体がこのように変わったんだ…?
さっきまで僕はただの蟹で、気を失って…
気を失ってる間に何かあったんだろう…な…
でも何をされたんだろう…全くもって分からない…
「―――!!!」
急にいつも聞き慣れてた声が僕の耳を貫いた。
あの女の子の声だ。
声をした方へゆっくりと歩いていくと、その先にはドアがあった。
そっと開けて見てみると、あの女の子がぺたりと座り込んで
何やらブツブツ呟いている。
おそるおそる僕は彼女の背後に近づいた。
すると、彼女は勢いよくこっちを向いて、
目を見開いてじっくり僕の体を見た。
上から下まで。
暫くの沈黙ののち、彼女は立ち上がって突然刃物を向けてきた。
僕はまだ星の子になったばかりで、
感情の事も表情のことも知らなくて
ただあの顔を見た瞬間に、頭にただそれだけが浮かんだ。
『逃げなければならない』
ここにいたままじゃ殺されてしまう。
何故か本能的にそんな衝動に駆られた。
だが次の瞬間彼女は目にも止まらぬような速さで僕に襲いかかり、
あっという間に僕は彼女に追い込まれてしまった。
そして彼女は何度も刃物で僕の体を突き刺した。
『―――!!』
「―――!!」
何度も同じ言葉を叫びながら。
意識が朦朧とする。
頭がぐわぐわして目の前が見えなくなる。
そしたら、ある物が、救いが、僕の目に見えた。
光だ。美味しそゥな、ひかリだ°
おィしそゥ、ぉイしソウ、oイsshぃソow――――
え?
気付くと彼女の立ち位置が反転してた。
彼女の胸元からはたくさんの血が流れ零れている。
呆然とする。何が起こったのか分からない。
とにかく、少し今の状況を理解しようと、
僕は慌てて周りを見回す。
彼女が前述したようになっている事以外は、大きく周りは変わっていない。
強いて言えば、
彼女が手に持ってたはずの刃物が遠くへ飛んでいるくらいだ。
ふと、さっきは気付かなかったある存在に気づいた。
もう1人の星の子が窓のようなものから僕をじっと見つめている。
しかも、いつも僕と遊んでくれたもう1人の星の子だ。
あの男の子だ。
僕はただ、訳も分からず、ただこの状況から脱すべく
その星の子に話しかけようとした。
暗黒竜と対峙した星の子が発す、あの音…
できる、はずだ。
「たすけて!!!」
多分思った通りに発せた。
でも窓にいるその子は、僕の真似をするだけで何もしない。
「た、す、け、て!!たす、け、て!!」
発音が上手く出来なかったかもしれない。
聞こえなかったのかもしれない。
また助けを求めようと、窓に近付こうとする。
この方が、もしかしたら僕の伝えたい事が分かるかもしれないと思ったから。
僕は窓の真正面に立ってその星の子の方を見た。
そして、僕は悲鳴にもならない声を発した。
血だらけだった。
その星の子の口の周りと、服に沢山血が着いていた。
「血、ち…!!」
腰を抜かして後ろへ退く。
僕は目を覆った。あまりにもビックリしたからだろうか。
だが、僕は目を覆う事でもう一つの事実に気付いてしまった。
ひた………
手に、何かついた。
「ぇ……?」
僕は顔から手を離し、自分の手を見る。
ギョッとした。僕の手に血が着いたのだ。
僕は窓を見る。
窓の傍にいた星の子もまた、ギョッとした顔で僕を見た。
その星の子の手にも、血が着いている。
顔を拭った。
拭えば拭うほど手には血がついたし、
拭えば拭うほど窓の中の星の子の顔についた血が消えた。
……あれ?もしかして、この窓の中の星の子が…
……口が血にまみれた、星の子が…
このいつも僕と遊んでくれた男の子が……
―――僕……?―――
その窓に手をついてじっくり『僕』を見た。
よく見たらよく遊んでくれたあの男の子とは少し違う。
目の色もおかしいし、腕の色も所々変わってた。
というよりかは、他の人の腕が新たに縫い付けられたような、そんな…
僕はハッとして後ろの女の子を見た。
大量に血を流している、女の子。
もしかして…
殺した?
あの男の子とそっくりな、僕が…
いや、殺してない、殺した覚えなんてない。
気付いてたら死んでいたんだ、僕じゃない『誰か』が、
でも、どうしよう、それじゃ口に付いた血に説明がつかない。
この血は誰のものか、と問われたら…僕は…
色々考えることはあった。
でも僕は、恐くて、
どうしても、最後のその答えに辿り着けなかった。
違う、必死に知らないふりをしたんだ。
『僕は、星の子を____』
僕は弓に弾かれたみたいに方向を変えて書庫を走り抜ける。
その事実から、逃げるように。
目を、そらすように。
途中途中血だらけだったせいか、
精霊に捕まりそうにもなったが、
そんなのには脇目も振らず、一心不乱に駆け抜けた。
気付けば、僕は、捨て地の神殿にいた。
……僕の故郷に、ついた。
僕は胸部を抑えてその場に倒れ込む。
よく良く考えれば、僕自身もあの子に刺されに刺されていたんだった。
…何故今更思い出したのか。
気付いたところで、星の子を殺した事実は変わらないからだろうか。
何故か体力が回復している事に気付いてしまうからだろうか。
そしたら、僕はまた……
僕は尚光を求め、神殿の蝋燭に縋り付く。
あぁ、僕は僕の願いが叶ってしまった。
そして、今日、星の子にあるまじき行動を、僕は取ってしまったんだ。
一体、どうすればいいんだろう。
星の子を殺した際は、どうすればいいんだろう。
一体、僕は………
聞いたことがあった。
見たことがあった。
星の子は、悪いことをしたら、謝る。
…そうだ。あの男の子を探そう。
あの男の子は起きた時にもう居なかった。
今頃何処かで歩いているんだろう。
その子を見つけて、僕は謝ろう。
そして星の子として、あの子と接して、
改めて仲良くなるんだ……
これは哀しい物語。
林檎を齧った贖罪を望んで
亡き者を探し続ける
小さな蟹の子供の話―――
星の子達の遊ぶ姿に。
一緒に手を繋いで歩く姿に。
空を飛ぶ姿に。
抱きしめ合う姿に。
協力して闇に立ち向かう姿に。
ボールで遊ぶ姿に。
例えくだらないって思われるかもしれない何もかも
僕にとっては憧れでしか無かった。
僕もおともだちになりたいな。
手を繋いで歩くって、ひとりじゃない感じで、いいな。
空を飛んだら、すごく綺麗な景色が見れるんだろうな。
抱きしめ合ってる時って、どんな気持ち?
どんな怖いものも、おともだちと一緒なら怖くない?
ボールを使った遊びってどんなのがあるの?
でも幾ら質問しても星の子達にはこの声は届くはずもなく
毎回焚き火の中に突っ込まれてあっちっち。
それ以前に僕の身体が本能的にいつの間にか
星の子に襲いかかってるんだから
たまったもんじゃない。
でも、僕に優しくしてくれている星の子が2人居た。
男の子と、女の子。
僕をひっくり返してからだけど、
よく話しかけたり撫でてくれたりしていて。
夕方になるまで遊びじゃくっていた。
当の本人には分からないかもしれないんだけど、
それがすごく幸せだった。
まるで星の子の仲間になれたみたいで……
ある日、その女の子がまたいつものように僕を転ばせて
ある場所へ持ち帰った。
…?…どこに連れてくの?
音にびっくりしちゃって目がぐるぐるしてたから分からなかったんだけど
多分…書庫…?…
落ち着いてきてから周りを見回すと、
あの男の子が横たわっていた。
寝てる?
でも頭から黄色の液体が零れてたり、
腕がなかったり…
ただ不思議に思いながら見ていると、
女の子はその男の子に何らか話した後に僕に話しかける。
目を見開く。
何を言ってるかは分からなかった。
ただ分かったのは……
刃物。その子の手元で蟹を唯一刺し殺せる道具が光ったこと。
僕は逃げようとした。
でも裏返ってる僕がいくら逃げようとしても
ただ足をばたつかせてるのと大差ない。
暴れてるうちにその女の子は爆音で鳴き、その音が僕のアタマを貫き、気を失った――――
目覚めた。白黒だった世界が色付いて見えた。
こんなに…さっき居た部屋は綺麗だったの…?
僕は身体を起こして辺りをみわた……
……身体を起こして?
僕はその違和感に気付いて自分の身体を見る。
色んな色が混じった腕、茶色の肌。
そして首元に見える白髪の髪。
何度も手を握ったり開いたり。
僕の体を窮屈に留めてた殻も、あんなに不自由だった腕ももうこの時の僕には無かった。
というか、それ以前に僕の身体をこうして見下ろすことすら
本来なら適わないだろう。
僕は立ち上がってよたよたと頼りない足取りで周りを散策してみる。
あたりには誰もいない。星の子の道具が色々と地面に散らばっているだけ。
それを拾い上げてはじっと見つめる。
そもそもなんで僕の身体がこのように変わったんだ…?
さっきまで僕はただの蟹で、気を失って…
気を失ってる間に何かあったんだろう…な…
でも何をされたんだろう…全くもって分からない…
「―――!!!」
急にいつも聞き慣れてた声が僕の耳を貫いた。
あの女の子の声だ。
声をした方へゆっくりと歩いていくと、その先にはドアがあった。
そっと開けて見てみると、あの女の子がぺたりと座り込んで
何やらブツブツ呟いている。
おそるおそる僕は彼女の背後に近づいた。
すると、彼女は勢いよくこっちを向いて、
目を見開いてじっくり僕の体を見た。
上から下まで。
暫くの沈黙ののち、彼女は立ち上がって突然刃物を向けてきた。
僕はまだ星の子になったばかりで、
感情の事も表情のことも知らなくて
ただあの顔を見た瞬間に、頭にただそれだけが浮かんだ。
『逃げなければならない』
ここにいたままじゃ殺されてしまう。
何故か本能的にそんな衝動に駆られた。
だが次の瞬間彼女は目にも止まらぬような速さで僕に襲いかかり、
あっという間に僕は彼女に追い込まれてしまった。
そして彼女は何度も刃物で僕の体を突き刺した。
『―――!!』
「―――!!」
何度も同じ言葉を叫びながら。
意識が朦朧とする。
頭がぐわぐわして目の前が見えなくなる。
そしたら、ある物が、救いが、僕の目に見えた。
光だ。美味しそゥな、ひかリだ°
おィしそゥ、ぉイしソウ、oイsshぃソow――――
え?
気付くと彼女の立ち位置が反転してた。
彼女の胸元からはたくさんの血が流れ零れている。
呆然とする。何が起こったのか分からない。
とにかく、少し今の状況を理解しようと、
僕は慌てて周りを見回す。
彼女が前述したようになっている事以外は、大きく周りは変わっていない。
強いて言えば、
彼女が手に持ってたはずの刃物が遠くへ飛んでいるくらいだ。
ふと、さっきは気付かなかったある存在に気づいた。
もう1人の星の子が窓のようなものから僕をじっと見つめている。
しかも、いつも僕と遊んでくれたもう1人の星の子だ。
あの男の子だ。
僕はただ、訳も分からず、ただこの状況から脱すべく
その星の子に話しかけようとした。
暗黒竜と対峙した星の子が発す、あの音…
できる、はずだ。
「たすけて!!!」
多分思った通りに発せた。
でも窓にいるその子は、僕の真似をするだけで何もしない。
「た、す、け、て!!たす、け、て!!」
発音が上手く出来なかったかもしれない。
聞こえなかったのかもしれない。
また助けを求めようと、窓に近付こうとする。
この方が、もしかしたら僕の伝えたい事が分かるかもしれないと思ったから。
僕は窓の真正面に立ってその星の子の方を見た。
そして、僕は悲鳴にもならない声を発した。
血だらけだった。
その星の子の口の周りと、服に沢山血が着いていた。
「血、ち…!!」
腰を抜かして後ろへ退く。
僕は目を覆った。あまりにもビックリしたからだろうか。
だが、僕は目を覆う事でもう一つの事実に気付いてしまった。
ひた………
手に、何かついた。
「ぇ……?」
僕は顔から手を離し、自分の手を見る。
ギョッとした。僕の手に血が着いたのだ。
僕は窓を見る。
窓の傍にいた星の子もまた、ギョッとした顔で僕を見た。
その星の子の手にも、血が着いている。
顔を拭った。
拭えば拭うほど手には血がついたし、
拭えば拭うほど窓の中の星の子の顔についた血が消えた。
……あれ?もしかして、この窓の中の星の子が…
……口が血にまみれた、星の子が…
このいつも僕と遊んでくれた男の子が……
―――僕……?―――
その窓に手をついてじっくり『僕』を見た。
よく見たらよく遊んでくれたあの男の子とは少し違う。
目の色もおかしいし、腕の色も所々変わってた。
というよりかは、他の人の腕が新たに縫い付けられたような、そんな…
僕はハッとして後ろの女の子を見た。
大量に血を流している、女の子。
もしかして…
殺した?
あの男の子とそっくりな、僕が…
いや、殺してない、殺した覚えなんてない。
気付いてたら死んでいたんだ、僕じゃない『誰か』が、
でも、どうしよう、それじゃ口に付いた血に説明がつかない。
この血は誰のものか、と問われたら…僕は…
色々考えることはあった。
でも僕は、恐くて、
どうしても、最後のその答えに辿り着けなかった。
違う、必死に知らないふりをしたんだ。
『僕は、星の子を____』
僕は弓に弾かれたみたいに方向を変えて書庫を走り抜ける。
その事実から、逃げるように。
目を、そらすように。
途中途中血だらけだったせいか、
精霊に捕まりそうにもなったが、
そんなのには脇目も振らず、一心不乱に駆け抜けた。
気付けば、僕は、捨て地の神殿にいた。
……僕の故郷に、ついた。
僕は胸部を抑えてその場に倒れ込む。
よく良く考えれば、僕自身もあの子に刺されに刺されていたんだった。
…何故今更思い出したのか。
気付いたところで、星の子を殺した事実は変わらないからだろうか。
何故か体力が回復している事に気付いてしまうからだろうか。
そしたら、僕はまた……
僕は尚光を求め、神殿の蝋燭に縋り付く。
あぁ、僕は僕の願いが叶ってしまった。
そして、今日、星の子にあるまじき行動を、僕は取ってしまったんだ。
一体、どうすればいいんだろう。
星の子を殺した際は、どうすればいいんだろう。
一体、僕は………
聞いたことがあった。
見たことがあった。
星の子は、悪いことをしたら、謝る。
…そうだ。あの男の子を探そう。
あの男の子は起きた時にもう居なかった。
今頃何処かで歩いているんだろう。
その子を見つけて、僕は謝ろう。
そして星の子として、あの子と接して、
改めて仲良くなるんだ……
これは哀しい物語。
林檎を齧った贖罪を望んで
亡き者を探し続ける
小さな蟹の子供の話―――
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