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きまぐれと愛嬌

道端に咲く花が健気に思えたのは、忘れもしない小学2年生の時だった。


朝顔の鉢を担ぎ込むように持って帰ったのは終業式で、俺とは違い計画的に荷物を持ち帰っていた生徒が非情にも汗だくな俺の隣を風のように走り去る様は今でも覚えている。


太陽が俺めがけて照っているのではないか。幼心ながらにそう思い、空を見上げた。眩しくてとても見れたものじゃない。鉢はプラスチックで出来ているから、ふちが指に食い込んでぎりぎりと痛む。ランドセルにはぎっしりと教科書の類が積まれているため、朝顔の鉢といい塩梅で姿勢よく運ぶことが出来るけど。


家まではまあまあ遠い。正門ですら遥か遠くに感じるから、今の俺はゴールのないフルマラソンを走らされてる気分だ。














「ねえウォヌくん、それ、ウォヌくんの?」



ひらりと涼しげな服を身に纏う少女は、ランドセルごと体を翻してそう言った。名前は苗字しか分からないが、この1学期間同じ教室にいたのは確かだ。




「うん」



「へえ、すごい。お家がお花屋さんなの?」



「ううん。どうして?」



「だって、ウォヌくんの朝顔、すごくキレイ」



言われてふと、頭上のそれを見る。あまり気にしてはいなかったが、こうやってまじまじ見ると確かに立派に咲いてくれている。休みの日に水やりに来たりだとか、そんな単純なことしかしていないけど。


少女は自分の朝顔が期待はずれだったと口を尖らせた。聞けば毎日水やりを朝と昼と帰る前にしていたらしい。俺は彼女の名前をこのとき確かに呼んだのだけれど、どうしてだろうか。思い出せない。



「……さん、それ、水のあげ過ぎじゃないかな。朝顔は朝と夕方の2回だけでいいから、きっと、……さんのは根腐れしちゃったんだと思う」



まあ水もやらずに枯らしていったクラスメイトよりはこの人は優しい方だ。少し、ほんの少し知識が足りないだけだった。



「そっかぁ…ウォヌくん、すごい!」



羨望の目で見られるのは、後にも先にも慣れることはないだろう。



「お花屋さんになりなよ!」



少女の溌剌とした声と、アブラゼミの鳴き声が空に響いていた。
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