◆

　今まで歩いて見てきたことで、クロはここ虹雅渓が上層と下層で随分と生活の質に差があることを知った。放浪の旅で見てきた街は確かに貧富の差があったが、お金持ちも貧乏人も違いはあったが皆同じ地表で暮らしていた。
　どうしても差をみせつけたければお金持ち側は大きい建物を立てたり、家を華美に着飾ったりと趣向をこらしていた。
　それに対して虹雅渓は上中下と層に分ける形であり、見ようによっては身分の差を無意識に認識させるような作りである。
　虹雅渓は戦後、アキンドが一代で築き上げてきた場所であり、そのアキンドの名前をアヤマロという。虹雅渓差配であり、各層のアキンドを束ねる実質上のトップである。彼がおわす所は虹雅渓で一番に空に近い場所、つまり最上層にある。
　この場所では最も大きく、広い派手な建物があり、贅沢に贅沢を設えた場所だ。そんな広い場所に住んでいるのはアヤマロとお付きの数名だけであり、虹雅渓で暮らす人々は羨望と皮肉を込めて『マロ御殿』と呼んでいる。
　どうやらアヤマロ本人はあまり人前で姿を現さないらしく、名前は知っていてもどういう姿をして、どんな声色なのかなど彼を知っている人はいなかった。
　しかしクロは虹雅渓へは旅の途中、数日間滞在するだけの場所であり、ここで暮らすわけではないのでアヤマロについては、興味はなかった。
　とにかく今は雨風を凌げる宿の手配が第一優先。
クロは庶民が主に暮らす中層から降りて、暗い下層区域へと向かった。先ほどお礼として女性から聞いた一番に安い宿の場所を聞いたからだ。その宿泊施設は虹雅渓の下層にあると。