第一話『やってきました』
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◆
泊まれる場所を探している道中に人集りができていた。丁度通る道の途中にあるため、否が応でも行かねばならない。
クロは様子を見に人混みの中から覗けば男三人で一人の女性を取り囲んでいた。女は明らかに嫌がっており、向こうへ行きたいのだと訴えても男達は取り合わず、下卑た笑い声を上げていた。
「と、通してください。私、急いでいるのです。母が倒れてしまって、大変なのです!」
「おうおう、そりゃあ大変だなあ」
「でもよお、ここを通るには俺たちに通行料を払わないとだめだぜ。知っていたか?」
「そんなもの、あなた方の勝手な決まりでしょう!」
女性の必死な主張にも男達は『あらまあ、必死になっちゃって、かわいいねえ』と真面目に取り合わず。
周囲の人々は遠巻きに彼らを見ていた。
自分は関係ないと顔を背け、足早に去るもの。
誰か助けてやらないのか、と周りを伺うもの。
巻き込まれまいと遠回りの道を行くもの。
その場には様々な人がいるが、絡まれている女性を助けようとするものは皆無であった。
皆、怖いのだ。
関われはきっと、男達の腰に差した刀が自分に向けられてしまうから。それで命を失ってしまうから。
同情の視線を注ぐだけで何もしようとしてくれない人々に女性は心の内で情けないと貶しながら通行止めをする男達をどいてほしいと見返していると、彼らの表情が強張った。
何だろうと思い、振り返ればローブを羽織った黒髪の女性が周りのどよめきを気にすることなくこちらへ向かって歩いてきた。フードから覗く青い瞳は何の感情も浮かんでいない。その目に女性は射竦められ、自然と男たちの前を避け、歩いてきた彼女へ自分のいた場所を譲っていた。
ローブを羽織った女性――クロは男三人には一瞥もくれず、何事もなく通ろうとしていたので硬直していた男の一人が我に帰ると、ちょっと待ちなと立ちはだかった。
「何でしょうか」
「おいおい。聞こえてなかったのかよ。ここを通るには俺たちに通行料を払わないと行けねえって」
「そのようなものない、とこの女性は言っておりましたが」
指し示された彼女はビクリと震えたが、首を振って気を取り直すとうんうんと力強く何度も頷いた。
「そ、そうです! ここは街の人たちが自由に行き来する道です! あなた方の勝手な都合で通行料なんか取らないでください。私も絶対に払いませんから!」
だからここを通してください! と強く踏み込んだ。
クロを味方だと思い、心強くなったのか女性は先ほどの声量よりも、大きくなった。
クロの登場とそれに勇気づけられた女性により、状況は好転したのかと思った周囲の人々は、口々にそうだ、そうだ、と声を上げ始めた。
「その道はお前らのものじゃない。皆の者だ!」
「早くそこから立ち去れ!」
「帰れ――!」
「貴様ら……!」
男たちはみるみる顔を怒りに染めあげると腰の刀に手をかけた。それをみて、人々は悲鳴を上げ、皆一斉に後ろへと下がっていった。クロの隣にいた女性も顔を真っ青にして後ずさっている。
「黙っていりゃ、いい気になりやがって」
「兄貴、こいつら斬っていいですよね」
「ああ」
やっちまえ、と刀を抜いた瞬間――。
クロが袈裟斬りのような回し蹴りで、刀身を折った。
「え」
一瞬なにが起こったのか、分からず呆然とする男たち。その隙をついてクロは、ひとりへ跳躍から前転をして踵落としをくらわせた。もうひとりには着地した体勢から掌底を胸へ打ち込みふっ飛ばす。あっと言う間に、二人も倒され、折れた刀身を持っている男がひとり取り残された。
「まだ、やりますか」
クロが手刀を構えると男は首をブンブン横に振って、倒れた仲間を置き去りにその場を後にした。
去っていく男の後ろ姿を見送り、歩き出そうとした途端、背後から喝采を浴びせられた。
「す、すごい……!」
「強いなあ! 姉ちゃん! 格闘技やっているの?」
「やったな! あいつら、ざまあみろってんだ!」
拍手が響く中、クロは一礼だけをして早々と去ろうとしたが、待ってくださいと呼び止められた。振り向けば先ほど男三人に絡まれていた女性がそこにいた。
「通りすがりの旅の方、ありがとうございました。おかげで助かりました。本当にありがとうございます」
「礼を言われる程ではありません。僕はただ、この道を通りたかったからやっただけです」
人助けのためではないので感謝は不要と伝えたが、女性はいいえ、と首を振る。
是非とも、後日でも街の皆を代表してお礼をしたいと言われ、不要だと断るもそれだと彼女は納得できないようで、なにかできないかと寄ってくる。
母が倒れたとか話をしていなかったか?急いでいたのでは?と内心首を傾げるもまあ、自分は関係ないと早々に気にするのを止めた。
「お願いします。どうかお礼をさせてください!」
「どうしてもお礼貰わないと駄目ですか」
はい、お願いします!と彼女に力強く頷かれた。
どうしたものかと首をひねったが、案外早く聞きたいことが一つ浮かんだ。
「ここで一番安い宿はどこにありますか?」
泊まれる場所を探している道中に人集りができていた。丁度通る道の途中にあるため、否が応でも行かねばならない。
クロは様子を見に人混みの中から覗けば男三人で一人の女性を取り囲んでいた。女は明らかに嫌がっており、向こうへ行きたいのだと訴えても男達は取り合わず、下卑た笑い声を上げていた。
「と、通してください。私、急いでいるのです。母が倒れてしまって、大変なのです!」
「おうおう、そりゃあ大変だなあ」
「でもよお、ここを通るには俺たちに通行料を払わないとだめだぜ。知っていたか?」
「そんなもの、あなた方の勝手な決まりでしょう!」
女性の必死な主張にも男達は『あらまあ、必死になっちゃって、かわいいねえ』と真面目に取り合わず。
周囲の人々は遠巻きに彼らを見ていた。
自分は関係ないと顔を背け、足早に去るもの。
誰か助けてやらないのか、と周りを伺うもの。
巻き込まれまいと遠回りの道を行くもの。
その場には様々な人がいるが、絡まれている女性を助けようとするものは皆無であった。
皆、怖いのだ。
関われはきっと、男達の腰に差した刀が自分に向けられてしまうから。それで命を失ってしまうから。
同情の視線を注ぐだけで何もしようとしてくれない人々に女性は心の内で情けないと貶しながら通行止めをする男達をどいてほしいと見返していると、彼らの表情が強張った。
何だろうと思い、振り返ればローブを羽織った黒髪の女性が周りのどよめきを気にすることなくこちらへ向かって歩いてきた。フードから覗く青い瞳は何の感情も浮かんでいない。その目に女性は射竦められ、自然と男たちの前を避け、歩いてきた彼女へ自分のいた場所を譲っていた。
ローブを羽織った女性――クロは男三人には一瞥もくれず、何事もなく通ろうとしていたので硬直していた男の一人が我に帰ると、ちょっと待ちなと立ちはだかった。
「何でしょうか」
「おいおい。聞こえてなかったのかよ。ここを通るには俺たちに通行料を払わないと行けねえって」
「そのようなものない、とこの女性は言っておりましたが」
指し示された彼女はビクリと震えたが、首を振って気を取り直すとうんうんと力強く何度も頷いた。
「そ、そうです! ここは街の人たちが自由に行き来する道です! あなた方の勝手な都合で通行料なんか取らないでください。私も絶対に払いませんから!」
だからここを通してください! と強く踏み込んだ。
クロを味方だと思い、心強くなったのか女性は先ほどの声量よりも、大きくなった。
クロの登場とそれに勇気づけられた女性により、状況は好転したのかと思った周囲の人々は、口々にそうだ、そうだ、と声を上げ始めた。
「その道はお前らのものじゃない。皆の者だ!」
「早くそこから立ち去れ!」
「帰れ――!」
「貴様ら……!」
男たちはみるみる顔を怒りに染めあげると腰の刀に手をかけた。それをみて、人々は悲鳴を上げ、皆一斉に後ろへと下がっていった。クロの隣にいた女性も顔を真っ青にして後ずさっている。
「黙っていりゃ、いい気になりやがって」
「兄貴、こいつら斬っていいですよね」
「ああ」
やっちまえ、と刀を抜いた瞬間――。
クロが袈裟斬りのような回し蹴りで、刀身を折った。
「え」
一瞬なにが起こったのか、分からず呆然とする男たち。その隙をついてクロは、ひとりへ跳躍から前転をして踵落としをくらわせた。もうひとりには着地した体勢から掌底を胸へ打ち込みふっ飛ばす。あっと言う間に、二人も倒され、折れた刀身を持っている男がひとり取り残された。
「まだ、やりますか」
クロが手刀を構えると男は首をブンブン横に振って、倒れた仲間を置き去りにその場を後にした。
去っていく男の後ろ姿を見送り、歩き出そうとした途端、背後から喝采を浴びせられた。
「す、すごい……!」
「強いなあ! 姉ちゃん! 格闘技やっているの?」
「やったな! あいつら、ざまあみろってんだ!」
拍手が響く中、クロは一礼だけをして早々と去ろうとしたが、待ってくださいと呼び止められた。振り向けば先ほど男三人に絡まれていた女性がそこにいた。
「通りすがりの旅の方、ありがとうございました。おかげで助かりました。本当にありがとうございます」
「礼を言われる程ではありません。僕はただ、この道を通りたかったからやっただけです」
人助けのためではないので感謝は不要と伝えたが、女性はいいえ、と首を振る。
是非とも、後日でも街の皆を代表してお礼をしたいと言われ、不要だと断るもそれだと彼女は納得できないようで、なにかできないかと寄ってくる。
母が倒れたとか話をしていなかったか?急いでいたのでは?と内心首を傾げるもまあ、自分は関係ないと早々に気にするのを止めた。
「お願いします。どうかお礼をさせてください!」
「どうしてもお礼貰わないと駄目ですか」
はい、お願いします!と彼女に力強く頷かれた。
どうしたものかと首をひねったが、案外早く聞きたいことが一つ浮かんだ。
「ここで一番安い宿はどこにありますか?」