第五話『再び、斬り合いました』
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
◆
繰り広げられる斬り合いはまさに圧巻だった。縁側に正座をして観戦していたかむろ衆はそう思った。
立って傍観しているボーガン男も壁に寄りかかって眺めているヒョーゴも目の前で繰り広げられる立ち合い、 二人の舞うような剣捌きに魅入られていた。
クロとキュウゾウ。二人が同時に踏み出して始まった、再戦。
キュウゾウが強いのは知っていたが相手のクロは無刀だ。
刀を持たずに二刀流の剣士に立ち向かうなど傍からみれば無謀すぎる行為としか思えない。
それでも彼女には恐怖心がないのかと疑うほどに。
相手の間合いや懐に入っては手刀で斬りかかり、斬られそうになれば腕で防いだり、袈裟切りのような、回転からの連続蹴りで攻め返したりしていた。
自身の肉体で刀のように攻撃してくるクロを一度みているキュウゾウは驚きもせず、冷静に対応していた。
一度、クロが振り下ろされる刀を素手で掴んで破壊しようとする、目を見張る場面があったが、刀を折るその手はもう食わぬとキュウゾウが素早く刀を引き抜き、刃を振るった。
最悪、手を離すのが遅ければ彼女の指は切り落とされるところだったが、クロも掴んで早々に壊すのは、難しいと判断したようで握っていた手は無傷に済んでいた。
迫りくる刀を彼女は屈んで躱すと下から予備動作もない貫手を繰り出すが、それも受け止められて。
弾いて。避けて。突いて。躱して。払って。
腕や足の動きで互いを牽制し合って。
双方ともに相手を斬り殺そうとしているはずなのに。
クロもキュウゾウも無表情だが時折口角を歪めて笑っているように見えた。かむろ衆の一人は目を擦ったがいつもと変わりなく感情が読めない顔をしていたので、気のせいなのだったのだろうかと思った。
サムライの世が終わりを告げ、アキンドの時代となってからサムライが生きる場所である戦も、緊迫感のある立ち会いもなくなった。大戦が終わって十年以上経ったが、久方ぶりに、対等で斬り合える者に出会えてキュウゾウは喜びを感じていた。
対するクロも同じ気持ちだった。
刀としていつでも相手を斬れるように日々己を磨き、人を斬ることもあったが、アキンドの街を巡るたびに出会ったサムライは金に目が眩み空を忘れた、あるいは忘れようと、時代に合わせようと、もがく者達がほとんどだった。
ここ、虹雅渓に来てから、お前が欲しいと馬鹿げた理由で狙われるなどもあったがその一因もあってか、こ うして空を忘れず一途に剣の道を突き進むサムライに出会えたのだから。
――この時間が終わってしまうのが惜しい。
――叶うのならばもっと続けていたい。
お互い胸の内でそう思った。しかし始まりがあれば当然終わりもある。この斬り合いもまた然り。
――とった!
両者ともに相手の命を狩れる瞬間が来た、とクロは動き、キュウゾウは刀を振るった。
続いた攻防の末にとうとうキュウゾウの左手の刀がクロの首筋に当てられていた。
――キュウゾウが勝った!?
と誰もが思ったが――。
「いや……よく見てみろ」
冷静に注視していたヒョーゴが呟き、顎で指し示す。言われて、見ればかむろ衆はあっと、声を上げた。
クロの左の手刀はキュウゾウの右手の刀を受け止めていたが、右の貫手が胸に突き刺さる寸前だった。
キュウゾウが首を斬ろうと動けば、クロはそのまま心臓を貫こうとするだろう。逆もまた然り。お互い、引くに引けない状況となった。
「…………………」
「…………………」
いつ動くか、どちらが倒れるのか。
みている者達の唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。
無言のまま時だけが過ぎていくかと思われたが、先に動いたのはクロの唇だった。
――やはり、貴方はサムライですね。
その言葉を皮切りに張り詰めていた殺気は霧散し、薄く笑みを交わすと互いに離れていった。やっと終わりをみせた再戦にその場にいた者たちはほっと息を吐いた。
いつも通りの無表情に戻った二人のもとへと向かったヒョーゴは腕を組んでキュウゾウを見咎めた。
「全く……これはあくまでも『試合』だ、と前もって伝えていたではないか」
キュウゾウはそうだったか?という顔を向けた。
クロも同じような反応を示していた。
やはりこいつら、人の話を聞いていなかった。しかし予想通りの展開だったので大して怒りも湧いてこない。
キュウゾウらしい、と息をつくだけであった。
繰り広げられる斬り合いはまさに圧巻だった。縁側に正座をして観戦していたかむろ衆はそう思った。
立って傍観しているボーガン男も壁に寄りかかって眺めているヒョーゴも目の前で繰り広げられる立ち合い、 二人の舞うような剣捌きに魅入られていた。
クロとキュウゾウ。二人が同時に踏み出して始まった、再戦。
キュウゾウが強いのは知っていたが相手のクロは無刀だ。
刀を持たずに二刀流の剣士に立ち向かうなど傍からみれば無謀すぎる行為としか思えない。
それでも彼女には恐怖心がないのかと疑うほどに。
相手の間合いや懐に入っては手刀で斬りかかり、斬られそうになれば腕で防いだり、袈裟切りのような、回転からの連続蹴りで攻め返したりしていた。
自身の肉体で刀のように攻撃してくるクロを一度みているキュウゾウは驚きもせず、冷静に対応していた。
一度、クロが振り下ろされる刀を素手で掴んで破壊しようとする、目を見張る場面があったが、刀を折るその手はもう食わぬとキュウゾウが素早く刀を引き抜き、刃を振るった。
最悪、手を離すのが遅ければ彼女の指は切り落とされるところだったが、クロも掴んで早々に壊すのは、難しいと判断したようで握っていた手は無傷に済んでいた。
迫りくる刀を彼女は屈んで躱すと下から予備動作もない貫手を繰り出すが、それも受け止められて。
弾いて。避けて。突いて。躱して。払って。
腕や足の動きで互いを牽制し合って。
双方ともに相手を斬り殺そうとしているはずなのに。
クロもキュウゾウも無表情だが時折口角を歪めて笑っているように見えた。かむろ衆の一人は目を擦ったがいつもと変わりなく感情が読めない顔をしていたので、気のせいなのだったのだろうかと思った。
サムライの世が終わりを告げ、アキンドの時代となってからサムライが生きる場所である戦も、緊迫感のある立ち会いもなくなった。大戦が終わって十年以上経ったが、久方ぶりに、対等で斬り合える者に出会えてキュウゾウは喜びを感じていた。
対するクロも同じ気持ちだった。
刀としていつでも相手を斬れるように日々己を磨き、人を斬ることもあったが、アキンドの街を巡るたびに出会ったサムライは金に目が眩み空を忘れた、あるいは忘れようと、時代に合わせようと、もがく者達がほとんどだった。
ここ、虹雅渓に来てから、お前が欲しいと馬鹿げた理由で狙われるなどもあったがその一因もあってか、こ うして空を忘れず一途に剣の道を突き進むサムライに出会えたのだから。
――この時間が終わってしまうのが惜しい。
――叶うのならばもっと続けていたい。
お互い胸の内でそう思った。しかし始まりがあれば当然終わりもある。この斬り合いもまた然り。
――とった!
両者ともに相手の命を狩れる瞬間が来た、とクロは動き、キュウゾウは刀を振るった。
続いた攻防の末にとうとうキュウゾウの左手の刀がクロの首筋に当てられていた。
――キュウゾウが勝った!?
と誰もが思ったが――。
「いや……よく見てみろ」
冷静に注視していたヒョーゴが呟き、顎で指し示す。言われて、見ればかむろ衆はあっと、声を上げた。
クロの左の手刀はキュウゾウの右手の刀を受け止めていたが、右の貫手が胸に突き刺さる寸前だった。
キュウゾウが首を斬ろうと動けば、クロはそのまま心臓を貫こうとするだろう。逆もまた然り。お互い、引くに引けない状況となった。
「…………………」
「…………………」
いつ動くか、どちらが倒れるのか。
みている者達の唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。
無言のまま時だけが過ぎていくかと思われたが、先に動いたのはクロの唇だった。
――やはり、貴方はサムライですね。
その言葉を皮切りに張り詰めていた殺気は霧散し、薄く笑みを交わすと互いに離れていった。やっと終わりをみせた再戦にその場にいた者たちはほっと息を吐いた。
いつも通りの無表情に戻った二人のもとへと向かったヒョーゴは腕を組んでキュウゾウを見咎めた。
「全く……これはあくまでも『試合』だ、と前もって伝えていたではないか」
キュウゾウはそうだったか?という顔を向けた。
クロも同じような反応を示していた。
やはりこいつら、人の話を聞いていなかった。しかし予想通りの展開だったので大して怒りも湧いてこない。
キュウゾウらしい、と息をつくだけであった。