第四話『助けられました』
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◆
療養のためキュウゾウの部屋で過ごすようになってから二週間経過した。再戦のため拾ったのだと宣告された次の日に、場所をとるのは申し訳ないからと別室への移動の許可をお願いしたクロだったが何故かキュウゾウに即座に断られた。
「ここにいろ」
そういって有無を言わせぬ圧力で自分の部屋を指したのだ。何とかできないかと後ろにいるヒョーゴに視線を送るも一度言い出したらこいつは聞かん。諦めろと肩をすくめられた。
同じ部屋になってしまうと彼は休めず、邪魔になるだけではないかと思ったが、そうではないらしい。彼女には解せなかった。
しかし結局は逆らえなかったので、完全回復まではキュウゾウの部屋で治療を続けることになった。
時が経ち、最後の検査を経てようやく剣技を振るえるようになるまで身体ともに回復したクロは黒コートを身にまとうと恩を返すべく、いち早くキュウゾウのもとへと向かった。
◆◆◆◆
ヒョーゴと共に廊下を歩く金髪で紅いコートの彼を見つけるとクロは軽々と飛び越えて、二人の前に着地した。そして振り返り、片膝をつく。
「うおっ、無刀流か。お前なあ……驚かすなよ」
「……来たか」
「貴方への恩義を果たしに参りました。いつでもいけます。ご都合はよろしいですか?」
キュウゾウは頷いたがヒョーゴは待て、と額に手を当てた。
「仕事のないコイツはいいだろうが、俺らはこれから御前の護衛に行くのだぞ。やるなら別日にしろ」
「…………………」
「分かっていると思うが、サボるなよ」
「お勤めでしたか。それは申し訳ありません。では後日、日時を教えてください。お願いします」
では、と一礼した。立ち上がり一旦部屋へ戻ろうとしたクロの前に二つの影が立ち塞がった。
彼らを見た彼女は知らない顔だったため、キョトンとしていたが、アヤマロに仕える二人はその影達が誰なのか、知っていた。キュウゾウは無表情だったが、ヒョーゴは眉を潜めて彼らを見た。
「何だ、お前ら。若のお守りはいいのか?」
ヒョーゴが見据える先には女物の着物を着崩し、桃色の髪色をした派手な男とセンサーがついた傘のような兜を頭に付け、マントを纏う男が並んでいた。
派手な方はボーガン男、一つ目の方はモノアイ男と呼ばれていた。ボーガン男が『俺等は休憩中だよ』と肩をすくめた。
「若はいつもの如くハーレムの御殿にいて、他の奴らが見張りにいっているから護衛に問題はねえよ。それよりも、例の女ってこいつのことか?」
「だろうな。黒髪青目、黒いコートだ。特徴は、全て当てはまる」
「僕に何かご用ですか?」
四人が仲の良い間柄ではないことは火を見るより明らかだった。
アキンドに仕えるといっても、虹雅渓差配アヤマロに仕えているのは彼が拾ったサムライであり、片や彼の息子のウキョウに仕えているのは彼の私兵である。『アキンドに仕える』という身は同じでも、それぞれ従う相手が違っているのだ。
それにより、たとえ虹雅渓差配であり、ウキョウの養父であるアヤマロから直々に命令があったとしてもボーガン男もモノアイ男も雇い主がお前ではないといった理由で彼に従うことはないのだった。
そんなことはアヤマロの御殿に来たばかりで療養のため、一日の大半をキュウゾウの部屋で過ごしていたクロが知るわけもなく。
「アンタだろ? 刀を使わない女剣士っていうのは」
ボーガン男はニヤニヤと笑みを浮かべながらクロへ近寄ってきた。そして腕を伸ばしたが躱された。
「…………………」
青い目がボーガン男を映す。
何の感情も読み取れない瞳だった。
避けられてもボーガン男の笑みは崩れなかった。
「何も、しねえよ。それともこんな色男に迫られて、恥ずかしいのか?」
「何もしない奴が手を伸ばすわけあるか」
半目で指摘するヒョーゴに違いねえとモノアイ男は笑ったが、ヒョーゴの隣にいるキュウゾウから注がれる冷たい眼差しと殺気を感じて笑みを止めた。
睨まれる理由が分からず冷や汗が流れた。
キュウゾウの放つ気に、ボーガンも気づいて恐怖に顔を歪めるもお前に用事はねえんだよ、と睨み返すと改めてクロへ視線を向けた。
「かむろ衆から聞いたぜ。アンタめっぽう強いってよ。生身で鋼筒も斬ったとか」
「はい。僕は刀です。機械も斬ります」
「自分は刀って……本当に言うんだな、アンタ」
「はい。刀ですから」
淡々と言うクロにボーガンはいいねえいいねえ、と繰り返すと、顎に手を当てた。
「アンタみたいなどっか気が狂った女、俺は好きだぜ。胸が小さいのが気になるが、腰は細くていい具合にくびれているし、それを引っくるめても合格ってところかねえ」
「……下衆が」
ゾッとする程の殺気を含んだ低い声でキュウゾウが呟いた。ボーガン男は煩わしそうに声の主を睨みつけた。
「うるせえ。自分の部屋に女連れ込んで何日も過ごしておいて何もしない朴念仁に言われたくねえ」
「…………………」
押し黙る彼にボーガン男は鼻で嗤うと打って変わってクロへは笑みを向けた。
「これからは俺の部屋で過ごせよ。無刀流ちゃん」
「お断りします」
僕は貴方に用事はありません、とバッサリ拒否した。
「アンタになくても俺にはある」
「何故ですか」
「アンタが好きだ。一目惚れだ。俺のものになれよ、クロ。いい思いさせてやるぜ」
一目惚れ。まさかそんな言葉がこの男の口からこぼれるとは思わず、目の前で起こった予想外過ぎる出来事にボーガン男へついてきたモノアイ男やヒョーゴは驚きに開いた口が塞がらなかった。
キュウゾウは眉をピクリと動かすだけで表情は変わらず。しかし目線はボーガン男に言い寄られるクロを見ていた。話の中心部にいる彼女は口元を真一文字に結び、眠そうに目を細めていた。
正直に言えばクロは相手に全く好感がもてなかった。
むしろ彼の言葉の数々が『僕のものになってよ』と散々追いかけ回してきたウキョウの所業を思い出させ、不愉快な思いが込み上げてくるのを感じた。
「再度お断りします。貴方のものにはなりません」
「なら勝負しようぜ。そして俺が勝ったら俺の女になれ。それならどうだ」
「やめたほうがいい。お前では勝てんぞ」
腕を組んで冷静に伝えるヒョーゴの忠告もボーガン男の耳に入らない。
「早速戦う場所へ移動するか」
「――いいえ、ここで結構です」
それは一瞬だった。
ボーガン男の右手首を掴み、引き寄せると近くにきた彼の首元に手刀を当てていた。
「…………ッ」
あまりの速さにモノアイ男も機械の腕を伸ばすなど妨害もできす踏みとどまっていた。
目の前で繰り広げられた光景に呆気ないとヒョーゴは額に手を当て、ため息を吐いた。
「だから言っただろう。お前では敵わんと」
動けばボーガン男は首をはねられるか、突かれるのは明白だった。ゴクリと唾を飲み込んだ。しかし一向に斬撃は振られなかった。
クロは手刀を首から離しはしなかったが引き裂くこともしなかった。ただ黙って相手を無表情で見据えていた。
そんな彼女の視線にボーガン男は目元を赤らめた。
「そんなに熱く見つめられると照れるぜ」
「死にたいのですか」
斬ろうと思えばいつでも殺れる状態にあるというのに。ふざけているのか、と目付きを鋭くした。
「いいぜ。アンタは刀だしな。斬ってくれよ。惚れた女に殺されるのもいいかもしれねえ」
「……そうですか」
クロは目を瞑ると首元から手を退け、掴んでいた片方の手も離した。そして――。
肩幅まで足を開き、姿勢を前屈気味にして柏手を打つように手を合わせたかと思うと勢いよく両手を突き出し、ボーガン男に掌底を繰り出した。
「ぐあッ!?」
正面からまともに攻撃をくらった彼は、向こうの壁まで吹っ飛び背中を強く打ち付けた。
「……な、何しやがるんだ、クロ……!」
痛えじゃねえか、と涙目で見つめるも返ってくるのは冷たい殺気を含んだ青い瞳だ。
「貴方にはそれで十分です。一刻も早く、僕の前から消えてくれませんか。非常に不愉快です」
貴方も、ですよとクロはモノアイ男へ目を向けた。先ほどの技を自分もやられるのは勘弁だと男はボーガン男のもとへ駆け寄ると肩に担いで去っていった。
後に残るは彼ら二人が消えるのを見届けるクロと呆れ顔のまま佇むヒョーゴ、無表情のキュウゾウだけであった。
「無刀流、お前災難だな……」
ヒョーゴが呟いた。
ウキョウからの執着が逃れたと思えば今度は別の男からの告白である。同情を抱かずにはいられなかった。振り返ったクロはキュウゾウとヒョーゴへ申し訳ないと頭を下げた。
「出過ぎた真似をしました。あの人たち……お仲間ですよね」
「気にしなくていいぞ。あいつにはいいお灸となっただろ。しかしあの様子だとまたくるかもしれないぞ。どうする」
「斬ります」
迷いなく即答するクロにヒョーゴはだよな、と苦笑いした。
では何故先ほど斬らなかったのか理由を聞いてみると、クロはキュウゾウへ視線を向けた。
「斬ろうとしたら貴方の顔が浮かびました」
「………………」
「恩人である貴方へ刀の僕ができる最大限のお礼をするために今ここへ来たのです。目覚めて最初に斬るのは、貴方でなくては意味がありません」
「……俺のためか」
「はい。貴方のためです」
心なしかキュウゾウが嬉しそうなのは気の所為だろうか。幻影かもしれない。ヒョーゴはメガネを外して目頭を抑えた。
何だが、恥ずかしくなるようなことを彼女は公言しているように思えるが言った当人は真顔であった。
「僕のことでお時間を取らせてしまい、申し訳ありません」
お勤めいってらっしゃいませ、とクロは頭を下げると部屋へと戻っていった。当然、彼女の戻る先はキュウゾウの部屋である。
「……良かったな、キュウゾウ」
ヒョーゴはそう呟くと彼はこくりと頷いた。
療養のためキュウゾウの部屋で過ごすようになってから二週間経過した。再戦のため拾ったのだと宣告された次の日に、場所をとるのは申し訳ないからと別室への移動の許可をお願いしたクロだったが何故かキュウゾウに即座に断られた。
「ここにいろ」
そういって有無を言わせぬ圧力で自分の部屋を指したのだ。何とかできないかと後ろにいるヒョーゴに視線を送るも一度言い出したらこいつは聞かん。諦めろと肩をすくめられた。
同じ部屋になってしまうと彼は休めず、邪魔になるだけではないかと思ったが、そうではないらしい。彼女には解せなかった。
しかし結局は逆らえなかったので、完全回復まではキュウゾウの部屋で治療を続けることになった。
時が経ち、最後の検査を経てようやく剣技を振るえるようになるまで身体ともに回復したクロは黒コートを身にまとうと恩を返すべく、いち早くキュウゾウのもとへと向かった。
◆◆◆◆
ヒョーゴと共に廊下を歩く金髪で紅いコートの彼を見つけるとクロは軽々と飛び越えて、二人の前に着地した。そして振り返り、片膝をつく。
「うおっ、無刀流か。お前なあ……驚かすなよ」
「……来たか」
「貴方への恩義を果たしに参りました。いつでもいけます。ご都合はよろしいですか?」
キュウゾウは頷いたがヒョーゴは待て、と額に手を当てた。
「仕事のないコイツはいいだろうが、俺らはこれから御前の護衛に行くのだぞ。やるなら別日にしろ」
「…………………」
「分かっていると思うが、サボるなよ」
「お勤めでしたか。それは申し訳ありません。では後日、日時を教えてください。お願いします」
では、と一礼した。立ち上がり一旦部屋へ戻ろうとしたクロの前に二つの影が立ち塞がった。
彼らを見た彼女は知らない顔だったため、キョトンとしていたが、アヤマロに仕える二人はその影達が誰なのか、知っていた。キュウゾウは無表情だったが、ヒョーゴは眉を潜めて彼らを見た。
「何だ、お前ら。若のお守りはいいのか?」
ヒョーゴが見据える先には女物の着物を着崩し、桃色の髪色をした派手な男とセンサーがついた傘のような兜を頭に付け、マントを纏う男が並んでいた。
派手な方はボーガン男、一つ目の方はモノアイ男と呼ばれていた。ボーガン男が『俺等は休憩中だよ』と肩をすくめた。
「若はいつもの如くハーレムの御殿にいて、他の奴らが見張りにいっているから護衛に問題はねえよ。それよりも、例の女ってこいつのことか?」
「だろうな。黒髪青目、黒いコートだ。特徴は、全て当てはまる」
「僕に何かご用ですか?」
四人が仲の良い間柄ではないことは火を見るより明らかだった。
アキンドに仕えるといっても、虹雅渓差配アヤマロに仕えているのは彼が拾ったサムライであり、片や彼の息子のウキョウに仕えているのは彼の私兵である。『アキンドに仕える』という身は同じでも、それぞれ従う相手が違っているのだ。
それにより、たとえ虹雅渓差配であり、ウキョウの養父であるアヤマロから直々に命令があったとしてもボーガン男もモノアイ男も雇い主がお前ではないといった理由で彼に従うことはないのだった。
そんなことはアヤマロの御殿に来たばかりで療養のため、一日の大半をキュウゾウの部屋で過ごしていたクロが知るわけもなく。
「アンタだろ? 刀を使わない女剣士っていうのは」
ボーガン男はニヤニヤと笑みを浮かべながらクロへ近寄ってきた。そして腕を伸ばしたが躱された。
「…………………」
青い目がボーガン男を映す。
何の感情も読み取れない瞳だった。
避けられてもボーガン男の笑みは崩れなかった。
「何も、しねえよ。それともこんな色男に迫られて、恥ずかしいのか?」
「何もしない奴が手を伸ばすわけあるか」
半目で指摘するヒョーゴに違いねえとモノアイ男は笑ったが、ヒョーゴの隣にいるキュウゾウから注がれる冷たい眼差しと殺気を感じて笑みを止めた。
睨まれる理由が分からず冷や汗が流れた。
キュウゾウの放つ気に、ボーガンも気づいて恐怖に顔を歪めるもお前に用事はねえんだよ、と睨み返すと改めてクロへ視線を向けた。
「かむろ衆から聞いたぜ。アンタめっぽう強いってよ。生身で鋼筒も斬ったとか」
「はい。僕は刀です。機械も斬ります」
「自分は刀って……本当に言うんだな、アンタ」
「はい。刀ですから」
淡々と言うクロにボーガンはいいねえいいねえ、と繰り返すと、顎に手を当てた。
「アンタみたいなどっか気が狂った女、俺は好きだぜ。胸が小さいのが気になるが、腰は細くていい具合にくびれているし、それを引っくるめても合格ってところかねえ」
「……下衆が」
ゾッとする程の殺気を含んだ低い声でキュウゾウが呟いた。ボーガン男は煩わしそうに声の主を睨みつけた。
「うるせえ。自分の部屋に女連れ込んで何日も過ごしておいて何もしない朴念仁に言われたくねえ」
「…………………」
押し黙る彼にボーガン男は鼻で嗤うと打って変わってクロへは笑みを向けた。
「これからは俺の部屋で過ごせよ。無刀流ちゃん」
「お断りします」
僕は貴方に用事はありません、とバッサリ拒否した。
「アンタになくても俺にはある」
「何故ですか」
「アンタが好きだ。一目惚れだ。俺のものになれよ、クロ。いい思いさせてやるぜ」
一目惚れ。まさかそんな言葉がこの男の口からこぼれるとは思わず、目の前で起こった予想外過ぎる出来事にボーガン男へついてきたモノアイ男やヒョーゴは驚きに開いた口が塞がらなかった。
キュウゾウは眉をピクリと動かすだけで表情は変わらず。しかし目線はボーガン男に言い寄られるクロを見ていた。話の中心部にいる彼女は口元を真一文字に結び、眠そうに目を細めていた。
正直に言えばクロは相手に全く好感がもてなかった。
むしろ彼の言葉の数々が『僕のものになってよ』と散々追いかけ回してきたウキョウの所業を思い出させ、不愉快な思いが込み上げてくるのを感じた。
「再度お断りします。貴方のものにはなりません」
「なら勝負しようぜ。そして俺が勝ったら俺の女になれ。それならどうだ」
「やめたほうがいい。お前では勝てんぞ」
腕を組んで冷静に伝えるヒョーゴの忠告もボーガン男の耳に入らない。
「早速戦う場所へ移動するか」
「――いいえ、ここで結構です」
それは一瞬だった。
ボーガン男の右手首を掴み、引き寄せると近くにきた彼の首元に手刀を当てていた。
「…………ッ」
あまりの速さにモノアイ男も機械の腕を伸ばすなど妨害もできす踏みとどまっていた。
目の前で繰り広げられた光景に呆気ないとヒョーゴは額に手を当て、ため息を吐いた。
「だから言っただろう。お前では敵わんと」
動けばボーガン男は首をはねられるか、突かれるのは明白だった。ゴクリと唾を飲み込んだ。しかし一向に斬撃は振られなかった。
クロは手刀を首から離しはしなかったが引き裂くこともしなかった。ただ黙って相手を無表情で見据えていた。
そんな彼女の視線にボーガン男は目元を赤らめた。
「そんなに熱く見つめられると照れるぜ」
「死にたいのですか」
斬ろうと思えばいつでも殺れる状態にあるというのに。ふざけているのか、と目付きを鋭くした。
「いいぜ。アンタは刀だしな。斬ってくれよ。惚れた女に殺されるのもいいかもしれねえ」
「……そうですか」
クロは目を瞑ると首元から手を退け、掴んでいた片方の手も離した。そして――。
肩幅まで足を開き、姿勢を前屈気味にして柏手を打つように手を合わせたかと思うと勢いよく両手を突き出し、ボーガン男に掌底を繰り出した。
「ぐあッ!?」
正面からまともに攻撃をくらった彼は、向こうの壁まで吹っ飛び背中を強く打ち付けた。
「……な、何しやがるんだ、クロ……!」
痛えじゃねえか、と涙目で見つめるも返ってくるのは冷たい殺気を含んだ青い瞳だ。
「貴方にはそれで十分です。一刻も早く、僕の前から消えてくれませんか。非常に不愉快です」
貴方も、ですよとクロはモノアイ男へ目を向けた。先ほどの技を自分もやられるのは勘弁だと男はボーガン男のもとへ駆け寄ると肩に担いで去っていった。
後に残るは彼ら二人が消えるのを見届けるクロと呆れ顔のまま佇むヒョーゴ、無表情のキュウゾウだけであった。
「無刀流、お前災難だな……」
ヒョーゴが呟いた。
ウキョウからの執着が逃れたと思えば今度は別の男からの告白である。同情を抱かずにはいられなかった。振り返ったクロはキュウゾウとヒョーゴへ申し訳ないと頭を下げた。
「出過ぎた真似をしました。あの人たち……お仲間ですよね」
「気にしなくていいぞ。あいつにはいいお灸となっただろ。しかしあの様子だとまたくるかもしれないぞ。どうする」
「斬ります」
迷いなく即答するクロにヒョーゴはだよな、と苦笑いした。
では何故先ほど斬らなかったのか理由を聞いてみると、クロはキュウゾウへ視線を向けた。
「斬ろうとしたら貴方の顔が浮かびました」
「………………」
「恩人である貴方へ刀の僕ができる最大限のお礼をするために今ここへ来たのです。目覚めて最初に斬るのは、貴方でなくては意味がありません」
「……俺のためか」
「はい。貴方のためです」
心なしかキュウゾウが嬉しそうなのは気の所為だろうか。幻影かもしれない。ヒョーゴはメガネを外して目頭を抑えた。
何だが、恥ずかしくなるようなことを彼女は公言しているように思えるが言った当人は真顔であった。
「僕のことでお時間を取らせてしまい、申し訳ありません」
お勤めいってらっしゃいませ、とクロは頭を下げると部屋へと戻っていった。当然、彼女の戻る先はキュウゾウの部屋である。
「……良かったな、キュウゾウ」
ヒョーゴはそう呟くと彼はこくりと頷いた。