第三話『斬り合いました』
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◆
クロは手刀や蹴りによる斬撃を繰り出し、刃を躱す。キュウゾウは一の太刀、二の太刀と刀を振るい、時には刃で受け止め、次々と出される両手足からの攻撃を避けた。
そのような攻防がしばらくの間、続いていた。
相手の隙を突いては攻撃を妨げられ、刃を振るっては躱される。斬撃を間一髪で避けることも多々あり、それにより頬や腕などの皮膚が裂け、血を流れるが些細なことだと双方は気にも止めない。むしろその痛みに気が高ぶり、キュウゾウは口角を小さく歪めた。
勝つか、負けるか。生きるか、死ぬか。
己がサムライでいられる場所に近づくのを感じる。
互いに相手の命を奪おうとしているのに、舞台の上で、二人が舞っているかのように見える光景だった。互いに刃を交差し、弾いては距離を、間合いをとって、斬り結ぶ。
そんなクロとキュウゾウの二人の間へ斬り合いを止めるようにボーガンが突き刺さった。
「!」
両者ともに目を見開き、互いに後退し距離をとった。矢が飛んできた方向を見れば、荒く呼吸をしながらボーガンを構えるサイボーグ男の姿があった。
クロの斬撃で倒れたウキョウの手下の一人だった。血に塗れた身体で虫の息に等しい状態だが、何としてもクロに一矢報いようと転がっている死体の中に身を隠し、今まで機会を伺っていたのである。
「死ねえええ!」
力を振り絞り腹の底から叫んだサイボーグ男は右手のボーガンを投げ捨てるともう片方のボーガンを構え、引き金に手をかけた。
狙って飛ばされてきた矢を掴み、投げ返そうとしたクロの青い目に紅いコートが移った瞬間、男の絶叫が響いた。振ろうとした腕を止め、その背中を見つめた。
キュウゾウはボーガンを持つ男の腕を切り落としていた。
「邪魔だ」
「きゅ、キュウゾウ! 貴様、裏切るのか!」
「うるさい」
男は袈裟斬りを浴び、血を吹き出しながら倒れた。
刀に付いた血を払い、無言で男を見下ろすキュウゾウの背に「何故ですか」とクロは声をかけた。
「名を呼んでおりましたが、お仲間では?」
「知らぬ」
「………………」
知らないではないだろう、とクロは訝しんだ。
男の名を呼んでいた声は確実に耳にした。
それに加え、地に倒れた彼はウキョウの命でクロを追っていた集団の一人なのだ。
彼自身を知らずとも少なくともこの追われる事態を起こした元凶である男のことは知っているはずだ。
背を向けてなお、隙を見せないキュウゾウに対してサムライにふさわしい闘気を感じるクロは素晴らしい人だと目を細めながらも、「聞きたいことがあります」と言った。
「ウキョウという名のアキンドがいる場所を知りませんか?」
「……聞いてどうする」
「斬ります。何故か存じませんが、僕のことが欲しいようです。このまま追われ続けるならば、ことを起こした元凶を斬り、終わらせたいのです」
転がる骸たちもその男の手下でありました、と示した。
キュウゾウは振り向いてクロを見つめる。
無言の時間が数秒続いた。教えてくれるのだろうか、と返事を待ったが放たれた言葉はクロには思いもよらないものだった。
「やらぬ」
「え」
「お主は渡さぬ」
「あの、それはどういう……」
「俺が斬る」
故に、渡さぬとキュウゾウは一歩踏み込んでクロの間合いに入り込み、横一閃に刀を振るう。
素早く屈んで避けられたところへ続け様に彼は二刀目を振り下ろす。
――それが、貴方の応えですか。
クロは交差した腕で受け止めると刃を強く固定し力を入れ、両腕を同時に横薙ぎに振るった。刀身はひび割れ、見事に折れた。
「――ッ!」
クロは粉々となった刀身の破片を乗せるように掌底を繰り出したが、それにいち早く察知したキュウゾウが咄嗟に相手の腹を蹴り上げた。それにより吹っ飛んだクロは後回転を繰り返して衝撃を和らげ、着地した。
まともに入ったというのに、痛みに顔を歪めること無く、変わらず無表情のまま佇んでいた。
「……折ったのか」
「はい。よろしければ、二本目もいかせていただきます」
「………………」
「先ほどの者とお仲間ならば、貴方知っていますよね。ウキョウはどこにいるか。教えてください」
一歩、また一歩とクロが徐々にと近づいてくる。
その様子をキュウゾウは赤褐色の目に映す。華奢な女の身でありながら。男相手に気圧されず。向けられる己の殺気に怯まず、振るう刃に怯えず。刀を持たずに剣士と斬り合い、あまつさえ今度は、刀を破壊し、命をかり取ろうと迫ってくる。
初めは満たされなかった斬り合いに対する渇望からことが始まり、己自身を刀という正気を疑う女にもの珍しさを覚え、斬り結び、殺し合った。
今でも斬り殺したいという思いはあったが同時に別の感情が己の中に込み上がるを感じた。
「………………」
キュウゾウはその感情が何なのか考える思考を即座に打ち消した。
――今は、目の前の、刀と名乗る女を斬りたい。
折られた愛刀を鞘に収め、もう一本の刀を片手にクロを迎え撃とうとした瞬間だった。
路地の表から突然矢が飛んできた。
クロは自身へと目掛け、飛んでくる矢の方向を見ることなく手刀で弾いたが、その行動故に小さな袋が括り付けられていたことに気付けなかった。弾いたと同時に破裂するよう仕掛けが矢に施してあったのだ。
散布した粉末状のものがクロへとかかる。気づいた時にはすでに遅く彼女の鼻腔や口を通じて身体の中へと入っていった。
「これは――」
「安心しろ。ただの眠り粉だ、無刀流」
咳き込み、毒ならば吐こうと己の腹を躊躇いもなく殴り、えずくクロの耳に男の声が響いた。
路地の方向を見やれば、中に生身の人を乗せ、操縦する円柱型の機械である鋼筒2機と虹雅渓差配アヤマロの私兵であるかむろ衆数人を引き連れた男が不敵な笑みを浮かべて立っていた。
虹雅渓差配アヤマロの用心棒の一人、ヒョーゴだ。彼は地に落ちている刀身の一部を一瞥、鼻にかけた眼鏡を押し上げ、同僚を見た。
「お前にしては派手にやられたな、キュウゾウ」
「…………見ていたのか」
「途中から、だがな」
クロは手刀や蹴りによる斬撃を繰り出し、刃を躱す。キュウゾウは一の太刀、二の太刀と刀を振るい、時には刃で受け止め、次々と出される両手足からの攻撃を避けた。
そのような攻防がしばらくの間、続いていた。
相手の隙を突いては攻撃を妨げられ、刃を振るっては躱される。斬撃を間一髪で避けることも多々あり、それにより頬や腕などの皮膚が裂け、血を流れるが些細なことだと双方は気にも止めない。むしろその痛みに気が高ぶり、キュウゾウは口角を小さく歪めた。
勝つか、負けるか。生きるか、死ぬか。
己がサムライでいられる場所に近づくのを感じる。
互いに相手の命を奪おうとしているのに、舞台の上で、二人が舞っているかのように見える光景だった。互いに刃を交差し、弾いては距離を、間合いをとって、斬り結ぶ。
そんなクロとキュウゾウの二人の間へ斬り合いを止めるようにボーガンが突き刺さった。
「!」
両者ともに目を見開き、互いに後退し距離をとった。矢が飛んできた方向を見れば、荒く呼吸をしながらボーガンを構えるサイボーグ男の姿があった。
クロの斬撃で倒れたウキョウの手下の一人だった。血に塗れた身体で虫の息に等しい状態だが、何としてもクロに一矢報いようと転がっている死体の中に身を隠し、今まで機会を伺っていたのである。
「死ねえええ!」
力を振り絞り腹の底から叫んだサイボーグ男は右手のボーガンを投げ捨てるともう片方のボーガンを構え、引き金に手をかけた。
狙って飛ばされてきた矢を掴み、投げ返そうとしたクロの青い目に紅いコートが移った瞬間、男の絶叫が響いた。振ろうとした腕を止め、その背中を見つめた。
キュウゾウはボーガンを持つ男の腕を切り落としていた。
「邪魔だ」
「きゅ、キュウゾウ! 貴様、裏切るのか!」
「うるさい」
男は袈裟斬りを浴び、血を吹き出しながら倒れた。
刀に付いた血を払い、無言で男を見下ろすキュウゾウの背に「何故ですか」とクロは声をかけた。
「名を呼んでおりましたが、お仲間では?」
「知らぬ」
「………………」
知らないではないだろう、とクロは訝しんだ。
男の名を呼んでいた声は確実に耳にした。
それに加え、地に倒れた彼はウキョウの命でクロを追っていた集団の一人なのだ。
彼自身を知らずとも少なくともこの追われる事態を起こした元凶である男のことは知っているはずだ。
背を向けてなお、隙を見せないキュウゾウに対してサムライにふさわしい闘気を感じるクロは素晴らしい人だと目を細めながらも、「聞きたいことがあります」と言った。
「ウキョウという名のアキンドがいる場所を知りませんか?」
「……聞いてどうする」
「斬ります。何故か存じませんが、僕のことが欲しいようです。このまま追われ続けるならば、ことを起こした元凶を斬り、終わらせたいのです」
転がる骸たちもその男の手下でありました、と示した。
キュウゾウは振り向いてクロを見つめる。
無言の時間が数秒続いた。教えてくれるのだろうか、と返事を待ったが放たれた言葉はクロには思いもよらないものだった。
「やらぬ」
「え」
「お主は渡さぬ」
「あの、それはどういう……」
「俺が斬る」
故に、渡さぬとキュウゾウは一歩踏み込んでクロの間合いに入り込み、横一閃に刀を振るう。
素早く屈んで避けられたところへ続け様に彼は二刀目を振り下ろす。
――それが、貴方の応えですか。
クロは交差した腕で受け止めると刃を強く固定し力を入れ、両腕を同時に横薙ぎに振るった。刀身はひび割れ、見事に折れた。
「――ッ!」
クロは粉々となった刀身の破片を乗せるように掌底を繰り出したが、それにいち早く察知したキュウゾウが咄嗟に相手の腹を蹴り上げた。それにより吹っ飛んだクロは後回転を繰り返して衝撃を和らげ、着地した。
まともに入ったというのに、痛みに顔を歪めること無く、変わらず無表情のまま佇んでいた。
「……折ったのか」
「はい。よろしければ、二本目もいかせていただきます」
「………………」
「先ほどの者とお仲間ならば、貴方知っていますよね。ウキョウはどこにいるか。教えてください」
一歩、また一歩とクロが徐々にと近づいてくる。
その様子をキュウゾウは赤褐色の目に映す。華奢な女の身でありながら。男相手に気圧されず。向けられる己の殺気に怯まず、振るう刃に怯えず。刀を持たずに剣士と斬り合い、あまつさえ今度は、刀を破壊し、命をかり取ろうと迫ってくる。
初めは満たされなかった斬り合いに対する渇望からことが始まり、己自身を刀という正気を疑う女にもの珍しさを覚え、斬り結び、殺し合った。
今でも斬り殺したいという思いはあったが同時に別の感情が己の中に込み上がるを感じた。
「………………」
キュウゾウはその感情が何なのか考える思考を即座に打ち消した。
――今は、目の前の、刀と名乗る女を斬りたい。
折られた愛刀を鞘に収め、もう一本の刀を片手にクロを迎え撃とうとした瞬間だった。
路地の表から突然矢が飛んできた。
クロは自身へと目掛け、飛んでくる矢の方向を見ることなく手刀で弾いたが、その行動故に小さな袋が括り付けられていたことに気付けなかった。弾いたと同時に破裂するよう仕掛けが矢に施してあったのだ。
散布した粉末状のものがクロへとかかる。気づいた時にはすでに遅く彼女の鼻腔や口を通じて身体の中へと入っていった。
「これは――」
「安心しろ。ただの眠り粉だ、無刀流」
咳き込み、毒ならば吐こうと己の腹を躊躇いもなく殴り、えずくクロの耳に男の声が響いた。
路地の方向を見やれば、中に生身の人を乗せ、操縦する円柱型の機械である鋼筒2機と虹雅渓差配アヤマロの私兵であるかむろ衆数人を引き連れた男が不敵な笑みを浮かべて立っていた。
虹雅渓差配アヤマロの用心棒の一人、ヒョーゴだ。彼は地に落ちている刀身の一部を一瞥、鼻にかけた眼鏡を押し上げ、同僚を見た。
「お前にしては派手にやられたな、キュウゾウ」
「…………見ていたのか」
「途中から、だがな」