第三話『斬り合いました』
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◆
日差しが強くなってきたので日陰となる場所を求めて二人で歩いた。しばらく行くと人が集まっている場所を発見した。
仕事にあぶれたサムライたちや街起こしを目指し、立て直そうとするアキンド達が入り乱れている。アキンドの方は仕事を紹介しているのか、高々に肉体労働を求める声が響いていた。
それらを通り過ぎて行くと休んでいる人が座る場所が見えてきた。そこの近くであった簡素に建てられた看板には『休憩所』と書かれていた。簡素だが屋根もあり、日差しを避けるにはよい場所である。適当に空いている場所へ腰を下ろして、仕事を求めるために出向くサムライや男達の列を遠くにしばらくの間、無言で眺めていた。
「時にクロよ」
「はい」
「お主、これからどうするつもりだ」
男からの突然の問いかけに、クロは驚いた様子もなく決めましたと頷いた。
「僕は刀です。いついかなる時でも相手を斬ることができるよう己を研ぎ続けていきます」
「ほう。戦もない世になろうとしているようだが、それでもか」
「はい。たとえ戦の世が終わろうとも、これからがどんな時代になろうとも斬るためにあるのが刀というものです。後は……兄が終戦後にしようと言っていた『放浪の旅』をしてみようと思います。はじめ関心はありませんでしたが、考えてみて少し興味が湧きました」
幼い頃から刀として育てられた故に斬ること、戦うことしか知らない。戦を知らぬ人々がこれからどのように生き、死んでいくのか。知るには放浪の旅をすることで得られる、よい機会である。
無刀流の人間は刀であることを拘るあまり、仕えたいと選んだサムライを除けば一族以外の人と関わろうとせず、世間を知らない者がほとんどであり、クロもその一人だった。
例外は兄であるシロだけ。彼は外に対する好奇心が強く、一族の人間ではない者と積極的に関わろうとしていた。それを快く思わない父に咎められ、度々口論となっていたことがあったのを思い出した。とは言っても父が一方的に責めるだけで兄はどこ吹く風といった表情で座していた記憶しかない。
兄が外に求めたものが何だったのかを知ることができるかもしれない。いつの日かそれを知ることができたとして、それでも『己は刀であり、刀であり続けたい』と思うことができるなら、そのまま迷いなく一心に突き進むのみだ。
これが僕の応えです、と胸に手を当て、真っ直ぐに見つめてくる青い瞳は澄んでいた。迷い無き彼女の姿を見て男はそうか、と薄く口角を上げた。
「貴方はどうするのですか」
「刀を研ぐ」
間髪入れずに出された男の応えにクロも感じ入るように頷いた。
「サムライであり続けていくのですね」
頷いて男は置いていた刀を手に立ち上がり、腰に差した。彼に習い、クロも立ち上がると二人は休憩所をあとにした。
またしばらく歩いて行くと二つに別れた道に差し掛かった。互いに声をかけあったわけではないのに、クロは左の道を、男は右の道を選んでいた。
クロは一旦立ち止まり振り向けば、男も同じように体を彼女の方へ向け、止まっていた。クロと男の目が交差する。双方ともに迷いはないと確認した。
「申し遅れました。僕は無刀流九代目当主鋼クロと申します」
「こちらも名乗り遅れてすまぬ。ワシの名は島田カンベエ。……クロよ、縁があればいずこかで会うこともあるだろう」
「はい。貴方と再び会えたその時も、僕は刀であり続けていることを誓います」
刀で在り続けていればあの人とはまた会うことができる気がした。そして会えたその時に戦があるのならば、戦場に立つのならば惜しみなく無刀流の剣技を振るおう。
それが刀であり、己の出来ることだ。
去っていくカンベエの背中を見送った後、クロも背を向けて一歩踏み出した。
日差しが強くなってきたので日陰となる場所を求めて二人で歩いた。しばらく行くと人が集まっている場所を発見した。
仕事にあぶれたサムライたちや街起こしを目指し、立て直そうとするアキンド達が入り乱れている。アキンドの方は仕事を紹介しているのか、高々に肉体労働を求める声が響いていた。
それらを通り過ぎて行くと休んでいる人が座る場所が見えてきた。そこの近くであった簡素に建てられた看板には『休憩所』と書かれていた。簡素だが屋根もあり、日差しを避けるにはよい場所である。適当に空いている場所へ腰を下ろして、仕事を求めるために出向くサムライや男達の列を遠くにしばらくの間、無言で眺めていた。
「時にクロよ」
「はい」
「お主、これからどうするつもりだ」
男からの突然の問いかけに、クロは驚いた様子もなく決めましたと頷いた。
「僕は刀です。いついかなる時でも相手を斬ることができるよう己を研ぎ続けていきます」
「ほう。戦もない世になろうとしているようだが、それでもか」
「はい。たとえ戦の世が終わろうとも、これからがどんな時代になろうとも斬るためにあるのが刀というものです。後は……兄が終戦後にしようと言っていた『放浪の旅』をしてみようと思います。はじめ関心はありませんでしたが、考えてみて少し興味が湧きました」
幼い頃から刀として育てられた故に斬ること、戦うことしか知らない。戦を知らぬ人々がこれからどのように生き、死んでいくのか。知るには放浪の旅をすることで得られる、よい機会である。
無刀流の人間は刀であることを拘るあまり、仕えたいと選んだサムライを除けば一族以外の人と関わろうとせず、世間を知らない者がほとんどであり、クロもその一人だった。
例外は兄であるシロだけ。彼は外に対する好奇心が強く、一族の人間ではない者と積極的に関わろうとしていた。それを快く思わない父に咎められ、度々口論となっていたことがあったのを思い出した。とは言っても父が一方的に責めるだけで兄はどこ吹く風といった表情で座していた記憶しかない。
兄が外に求めたものが何だったのかを知ることができるかもしれない。いつの日かそれを知ることができたとして、それでも『己は刀であり、刀であり続けたい』と思うことができるなら、そのまま迷いなく一心に突き進むのみだ。
これが僕の応えです、と胸に手を当て、真っ直ぐに見つめてくる青い瞳は澄んでいた。迷い無き彼女の姿を見て男はそうか、と薄く口角を上げた。
「貴方はどうするのですか」
「刀を研ぐ」
間髪入れずに出された男の応えにクロも感じ入るように頷いた。
「サムライであり続けていくのですね」
頷いて男は置いていた刀を手に立ち上がり、腰に差した。彼に習い、クロも立ち上がると二人は休憩所をあとにした。
またしばらく歩いて行くと二つに別れた道に差し掛かった。互いに声をかけあったわけではないのに、クロは左の道を、男は右の道を選んでいた。
クロは一旦立ち止まり振り向けば、男も同じように体を彼女の方へ向け、止まっていた。クロと男の目が交差する。双方ともに迷いはないと確認した。
「申し遅れました。僕は無刀流九代目当主鋼クロと申します」
「こちらも名乗り遅れてすまぬ。ワシの名は島田カンベエ。……クロよ、縁があればいずこかで会うこともあるだろう」
「はい。貴方と再び会えたその時も、僕は刀であり続けていることを誓います」
刀で在り続けていればあの人とはまた会うことができる気がした。そして会えたその時に戦があるのならば、戦場に立つのならば惜しみなく無刀流の剣技を振るおう。
それが刀であり、己の出来ることだ。
去っていくカンベエの背中を見送った後、クロも背を向けて一歩踏み出した。