第六話
夢小説設定
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◆
後日。
虹雅渓から出立した櫛工房の婆さんから俺宛に手紙が届いた。そこにはこう書かれていた。俺に黙って、虹雅渓から出て行ってしまったことを謝る文章から始まり、どうしてでていくことになったのか理由が続く。
俺と出会う以前から櫛職人の爺さんと卸先のアキンド達との折り合いが悪くなっていたこと。婆さんと穏便派のアキンドが間に入って修復を試みるもよくならず、とうとう取り返しのつかない状態になってしまったため、婆さんと爺さんの二人が虹雅渓を出ていかざるをえなくなったこと。
出ていく前にどうしても街中で悪い人から助けてくれた貴方に。誰かへの見栄ではなく、心から櫛を欲しいと言ってくれた貴方に。主人の櫛を生涯、大事にしてくれる貴方にあの櫛を受け取ってほしいと思い、虹雅渓での最後の卸し日の際にキュウゾウへ託したことが書かれていた。
手紙の最後には「お弁当は渡せましたか?」と「キュウゾウ様とずっと仲良くいらしてくださいね」と追記があった。
仲良く、はさておき。弁当は渡せたから安心しろ、例の櫛は毎日、大事に使わせてもらっている、など感謝を伝えるために返事の手紙を書くことにした。
人に手紙を書くなんてことは生まれてこの方初めてだった。手紙を書くのに必要な道具なんて刀である俺がもっているわけがないので、マスターから借りる。
合間に丸まった猫を撫でながら、カウンターで手紙を書いていると、「まさか、キュウゾウ様から櫛をもらうなんて」とマスターが呟いた。
「まるでプロポーズみたいアルナ」
何か意味のわからないことをブツブツ言っているな、と思いつつ、書き進めていると「無視するなヨ」と色眼鏡越しにじろりと睨んできた。どうやら俺に向かって話しかけたつもりでいたみたいだ。慣れない作業に疲れを感じたので、一休みがてら話を聞いてやる。
「何だよ」
「だからプロポーズみたいダナって言ったのヨ。その婆さん、実は狙っていたんじゃないカ? お前がキュウゾウ様から櫛を受け取れるようにネ」
最初から櫛代のお金をもらうつもりなんてなくて。キュウゾウから櫛を手渡せるように仕向けたんじゃないかとマスターはいう。
いやいや、まさか。そんなはずはない。
そんなことをしたって婆さん達に何の得があるというのか。
わかってないネ、とマスターは肩を竦める。
「金を得ることだけが人の得じゃないアルヨ。お前だってそうダロ。斬り合うことが好きだ、得意だっていっても、そこらの人を無差別に斬るわけじゃなくて」
「…………」
「たとえサムライでも剣が弱かったら嫌じゃないアルカ?」
「…………」
「剣が強い方がいいダロ?」
「……まあ、そうだな」
少なくとも婆さん達にとっては金よりも価値があったというのか。
キュウゾウを経由してまで俺に櫛を渡すことが。
……ところでだが。
「マスター」
「ん?」
「その『ぷろぽおず』って何だ?」
そういうとマスターはニヤニヤとした顔で「聞きたいアルカ?」と言った。
嫌な予感。やめておくわ。どうしても気になったら自分で調べるからと伝えたが、聞く耳持たず。勝手に説明し始めた。耳って口と違って閉じられないから厄介だわ、ホントに。
『ぷろぽおず』とは求婚を示すもの。とある国では男から女へ櫛を贈ること(渡すこと)は「貴方と苦しみを、死ぬことを共にしたい」という意味を示し、そこから転じて「貴方と苦楽と共にする」「貴方の傍にいる」「結婚しよう」と誓いを示す行為になったのだとか。
「だからとうとうお前、キュウゾウ様とのことを受け入れたのかと思ったのヨ」
「いや、違う。違うからな」
大体、アイツがそんな意味を知って渡したとは考えられない。
たまたまだ。偶然だ。
これはきっと何かの間違いだと否定してもマスターには「いやいや」と揶揄われるばかり。
「天才的ワタシの見立てによれば、キュウゾウ様って、必要なこと以外は口にもしないし、行動もしなさそうヨ。それが、わざわざ、お前なんかの弁当のために待ち合わせ場所を指定してくるアルカ?」
「……ものすごく暇だったからじゃないのか」
「お前って本物の馬鹿アルカナ? ただでさえ暇で、ずっと無一文で、無職なお前なんかと一緒にするなヨ」
苦し紛れの回答が全否定された。今日は赤飯を炊いてやろうかと勝手に一人盛り上がっているマスターを無視して、俺は手紙を書き進めることにした。
こうでもない、ああでもない、と書き直しながら進めて。やっとの終わりに「二人で達者に暮らせ」と書いた。
「よし、できた」
明日の早いうちに早亀屋にもっていこう。
椿柄の素敵な櫛で髪をとかして。
後日。
虹雅渓から出立した櫛工房の婆さんから俺宛に手紙が届いた。そこにはこう書かれていた。俺に黙って、虹雅渓から出て行ってしまったことを謝る文章から始まり、どうしてでていくことになったのか理由が続く。
俺と出会う以前から櫛職人の爺さんと卸先のアキンド達との折り合いが悪くなっていたこと。婆さんと穏便派のアキンドが間に入って修復を試みるもよくならず、とうとう取り返しのつかない状態になってしまったため、婆さんと爺さんの二人が虹雅渓を出ていかざるをえなくなったこと。
出ていく前にどうしても街中で悪い人から助けてくれた貴方に。誰かへの見栄ではなく、心から櫛を欲しいと言ってくれた貴方に。主人の櫛を生涯、大事にしてくれる貴方にあの櫛を受け取ってほしいと思い、虹雅渓での最後の卸し日の際にキュウゾウへ託したことが書かれていた。
手紙の最後には「お弁当は渡せましたか?」と「キュウゾウ様とずっと仲良くいらしてくださいね」と追記があった。
仲良く、はさておき。弁当は渡せたから安心しろ、例の櫛は毎日、大事に使わせてもらっている、など感謝を伝えるために返事の手紙を書くことにした。
人に手紙を書くなんてことは生まれてこの方初めてだった。手紙を書くのに必要な道具なんて刀である俺がもっているわけがないので、マスターから借りる。
合間に丸まった猫を撫でながら、カウンターで手紙を書いていると、「まさか、キュウゾウ様から櫛をもらうなんて」とマスターが呟いた。
「まるでプロポーズみたいアルナ」
何か意味のわからないことをブツブツ言っているな、と思いつつ、書き進めていると「無視するなヨ」と色眼鏡越しにじろりと睨んできた。どうやら俺に向かって話しかけたつもりでいたみたいだ。慣れない作業に疲れを感じたので、一休みがてら話を聞いてやる。
「何だよ」
「だからプロポーズみたいダナって言ったのヨ。その婆さん、実は狙っていたんじゃないカ? お前がキュウゾウ様から櫛を受け取れるようにネ」
最初から櫛代のお金をもらうつもりなんてなくて。キュウゾウから櫛を手渡せるように仕向けたんじゃないかとマスターはいう。
いやいや、まさか。そんなはずはない。
そんなことをしたって婆さん達に何の得があるというのか。
わかってないネ、とマスターは肩を竦める。
「金を得ることだけが人の得じゃないアルヨ。お前だってそうダロ。斬り合うことが好きだ、得意だっていっても、そこらの人を無差別に斬るわけじゃなくて」
「…………」
「たとえサムライでも剣が弱かったら嫌じゃないアルカ?」
「…………」
「剣が強い方がいいダロ?」
「……まあ、そうだな」
少なくとも婆さん達にとっては金よりも価値があったというのか。
キュウゾウを経由してまで俺に櫛を渡すことが。
……ところでだが。
「マスター」
「ん?」
「その『ぷろぽおず』って何だ?」
そういうとマスターはニヤニヤとした顔で「聞きたいアルカ?」と言った。
嫌な予感。やめておくわ。どうしても気になったら自分で調べるからと伝えたが、聞く耳持たず。勝手に説明し始めた。耳って口と違って閉じられないから厄介だわ、ホントに。
『ぷろぽおず』とは求婚を示すもの。とある国では男から女へ櫛を贈ること(渡すこと)は「貴方と苦しみを、死ぬことを共にしたい」という意味を示し、そこから転じて「貴方と苦楽と共にする」「貴方の傍にいる」「結婚しよう」と誓いを示す行為になったのだとか。
「だからとうとうお前、キュウゾウ様とのことを受け入れたのかと思ったのヨ」
「いや、違う。違うからな」
大体、アイツがそんな意味を知って渡したとは考えられない。
たまたまだ。偶然だ。
これはきっと何かの間違いだと否定してもマスターには「いやいや」と揶揄われるばかり。
「天才的ワタシの見立てによれば、キュウゾウ様って、必要なこと以外は口にもしないし、行動もしなさそうヨ。それが、わざわざ、お前なんかの弁当のために待ち合わせ場所を指定してくるアルカ?」
「……ものすごく暇だったからじゃないのか」
「お前って本物の馬鹿アルカナ? ただでさえ暇で、ずっと無一文で、無職なお前なんかと一緒にするなヨ」
苦し紛れの回答が全否定された。今日は赤飯を炊いてやろうかと勝手に一人盛り上がっているマスターを無視して、俺は手紙を書き進めることにした。
こうでもない、ああでもない、と書き直しながら進めて。やっとの終わりに「二人で達者に暮らせ」と書いた。
「よし、できた」
明日の早いうちに早亀屋にもっていこう。
椿柄の素敵な櫛で髪をとかして。
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