第五話
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◆
なんだか眠れなかったので夜の散歩をしていた。電灯も少なく、人気もない。幽霊でも出てきそうな道をゆっくりと歩く。虹雅渓で滞在地としている第六階層にあるオンボロ宿で、そこのマスターは「幽霊、怖いアル」とか言っていたが、幽霊より怖いのは人だと思う。
切羽詰まったとかどうしようもない理由があって悪いことをする奴もいるが、中には誰かを思いやる心というものを持たずに平気で人に嘘ついたり、人を騙したり、人を殺したりする奴もいる。幽霊は現れても見てしまった人を脅かすだけで何もしないから、生きている人に比べたら平和な存在だと思う。
人殺し。人斬り。
この世には殺すモノと殺されるモノがいる。俺は殺すモノに該当するだろう。生まれながらにして刀であり、無刀の剣士であり、人を斬る存在 。だから今だって夜の散歩をしているついでに斬り合える奴がいないか、夜目をきかせて、首を巡らせて、鼻を利かせて、耳を澄ませて、探している。
虹雅渓に来る前にいたアキンドの街ではサムライがいたら果し合いを申し込んでは斬り合っていたが、ここにきてからあまりやっていなかったから久しぶりにやろうかなと物色していたりする。
物騒かもしれないが仕方のないことだ。俺は刀だから。人を斬らないと生きていけない、生を実感できない存在 だから。
「……はあ」
散々歩き回ってみたが、斬り甲斐のありそうなサムライは全然いない。見当たらない。奴らは皆寝てしまっているのかもしれない。または最下層にある癒しの里にでも行っているのかもしれない。
くそう。
何が楽しくて酒なんか飲んでいるのか。酒なんてただの不味い液体じゃないか。そんなものを飲む暇があるなら俺と斬り合いしろ。酒を買う金があるなら俺にくれ。俺が有意義に使ってやるから。
……なんて一人で勝手に妄想して怒っている。傍から見たらきっとすごく馬鹿に見えるに違いない。夜の散歩にもそろそろ飽きてきた。
戻って寝るか。
くるりと回ってオンボロ宿へ戻る道を歩いていく——その途中だった。
きんっ。きいんっ。
耳に入ってきたのは聞き覚えのある音だった。それに吸い寄せられるように俺は音の鳴る方へ足を急がせた。
間違いない。間違えるはずもない。この音の響きは。刀と刀がぶつかる時に鳴り響くもの。戦場で常にと言っていい程に聞こえていた音だった。
連続して反響する音を追いかけて、路地の向こう側に出る。音のした発生源に辿り着いた俺を出迎えたのは悲鳴と血の匂いだった。
ばたりと地面に仰向けに倒れたのは男で、右手に折れて先端が無くなった刀を持っていた。男は右肩から左下へとバッサリと逆袈裟斬りの一刀で絶命している。切り口から相当な腕前の奴がやったと観た。
「こんばんは」
斬られた死体を側で屈んで眺めていると、そう声をかけられた。滑らかな女の声。闇夜に紫色の瞳が浮かんでいて、こっちを見ている。俺はすぐに分かった。この男(恐らく街でぶらついているサムライくずれの一人)を斬ったのはこの女だ。何故ならこの女は——、
「夜の一人歩きは駄目よ。悪い子ね、お嬢さん……って、貴方——」
暗闇から灯りの下に姿を現した女は俺を紫色の目を見開いて観ていたが、唇にふっと笑みを浮かべた。
「うふふ。久しいわね。シキちゃん」
「……ああ」
「あら。あんまり嬉しくなさそうね。お姉さん、悲しいわ」
「そうか」
「ふふ。相も変わらず薄い反応なのね。ところで、一つ聞いていいかしら」
俺が無言で頷くと、女は口元に笑みをたたえる。
「ねえ、シキちゃん」
「何だ」
「いつまで人間のフリをしているのかしら」
そういって女は手についた血を舌でぺろりと舐めた。とっても美味しそうに。
◆◆
早朝の鍛錬を終えて宿に戻ったらマスターがいなかった。いつもならカウンターで座っていて、金を数えていたり、煙管を吹かせていたり、ボーッとしていたり……なんてしているはずなのに姿がなかった。
どこにいったのかと首を巡らせたがすぐにやめた。奴がどこに行こうともそれは奴の勝手だし、俺には関係ないことだ。
それよりもアレをやろう。
部屋から箱を持ってきて、カウンターにそれを置いて席に座った。箱から作りかけの花を取り出して作業を開始する。
アレとは造花作りのことで、前にちょっとした事件があって、世話になった(マスターとは馴染みらしい)医者からの頼みで造花作りをやっている。
このちょっとした事件で大怪我をし、入院する羽目になったキクチヨとマサムネの治療費と入院費(二人合わせて五十の後に零が四つの金額)を肩代わりした俺は返済のためにその医者へ何か仕事はないかと聞いて、ならばこれをやれと渡されたのが造花作りの仕事だった。
どうやら通っている者達から診療内には花がない、だから中の雰囲気が暗くて怖いし通う人も少ないのでは、というお節介な助言をよく利用する者達から言われたみたいで、かといって本物の花を買って飾ったとしても手入れは面倒だし、店に行くのも、花を選ぶのも手間がかかる。
どうしたら……と医者は考え、人工の花を利用することを思い付く。しかし材料を取り寄せたのはいいが今度は作るのがとても手間だ……と悩んでいたところに俺がやってきて、返済金を得るための仕事を何かくれといってきたものだから渡りに船。造花作りの材料が入った箱を渡された。
箱の中の花を全部作り終わったら、診療所にいる医者のもとまで持っていき、どのくらい返済の足しになるかを聞く予定である。
まさか刀の俺が内職(造花造り)することになるとは。世の中、何が起きるか分からないものだ。
作業の合間に肩を回したり、体を伸ばしたりして小休憩を挟みつつ、造花造りを進めていく。ふうと息を吐いて、箱の中を見ると半分が終わっていた。残りのもう半分は昼飯(水と豆)を食べてからやることにしよう。
完成した花と作りかけの花を分けて箱に入れ、部屋に置いてカウンター席まで戻るとマスターが血相を変えて帰ってきた。そして俺を見るなり、
「助けてくれアル!」
と叫んだ。
「おい、マ——」
「早くしろアル! ワタシについて来るヨロシ!」
俺の言葉を遮ると、右手をブンブンと振って、再び外へと走り出した。わかったとか、ついて行くとか何も言っていないのだが……人がついてきてくれるだろうという前提で行ってしまったのか。
面倒そうな空気を感じるが。やれやれ。
俺は宿を出て、追いかけると柱に隠れて向こうを見ているマスターの後ろ姿を発見する。
何を見ているのかとマスター越しに覗くと男が二人何かをしていた。マスター曰く『助けてくれ』ということだが、女でも襲われているのかと思ったら違った。踏んだり蹴ったりされて襲われているのは、人間じゃなくて動物だった。とがった三角形の耳が頭の両端に二つ生えた生き物。
アレは。
「猫?」
「そうヨ。かわいい、かわいい猫ちゃんアルヨ」
マスターは頷き、握った拳を震わせて、ぐぬぬと悔しそうに唸った。マスターから男達に目を向ける。
俺達が後方から見ていることに気付きもしないで、楽しそうに笑い声を上げながら猫を虐めていた。蹴られて猫が「みゃぐ」と苦しそうな声を上げる度にマスターは「ああ」とか「うう」とか悲痛な声を上げる。
「くそ。このままだと大馬鹿共は猫を殺しかねないアル。」
「確かに」
「だから、お前になんとかして欲しくて急いで呼びに言ったヨ」
「わかった。ちなみに——」
「駄目アルヨ」
俺の言おうとしていることを察してマスターが先行したから「チッ」と舌打ちする。人斬りはするなというのか。
「殺すのは駄目アル」
「わかった」
「当然ヨ。誰がアイツ等の死体を処理するネ。そんな面倒は御免アル」
だが、とマスターは親指を立て、くいっくいっと男達を示す。
「死なない程度に痛めつけるならいいアルヨ。おおいに許可するネ」
「…………」
さらりと物騒なことをいってのけるマスターに対して、俺は小さく頷くと立ち上がって、いまだに飽きもせずに猫を虐め続けている男達のもとへ向かった。首をはねてしまえばすぐ終わるんだが、まあいい。要は殺さなければいいんだろう。
それからどうしたかといえば。
「……はあ」
全然大したことのない、骨のない、ならず者達だった。勢いがあったのは「邪魔するな!」「ぶっ殺してやる!」と叫んでいた最初のうちだけで、掌底を一発入れて吹っ飛ばし、追い打ちをかけようとしたら、すぐさま降参と土下座した。
マスターは現場にやってくると謝る二人を他所に地面でぐったりとしている猫を抱えて急いで走り去っていた。その背中を見送ってから俺は振り向いて「ごめんなさい」と何度も繰り返して頭を垂れている男二人を見据えた。
「おい、お前ら」
「はひい!」
「なんでしょうか!?」
「もう二度とやるなよ」
——次は斬る。
鋭く睨みつけ、低い声でそう伝えた。
「ひひい!」
「も、もうしません!」
頭を地面にめり込ませんとする勢いで土下座する男達。最近、理不尽で嫌なことが連続であってそれの憂さ晴らしをしたくて、その捌け口として猫を虐めてしまいましたとか言い訳を言い出した。
やった理由なんて俺にとってはどうでもいいのだが。
情けない声を尻目にしてオンボロ宿へと戻った。すぐに降参したり、謝ったりするあたり怪しい。またやらかそうとするんじゃないか。
まあ、別にいいか。
次やっているところを見かけたら遠慮なく斬っていいのだから。マスターからの許可も得たことだし。
三日後。
男二人に虐められていた猫は元気そうな姿でオンボロ宿へマスターに抱き上げられてやってきた。どうやら捨て猫だったらしく、誰か拾ってやってください、と書かれた(ボロボロでとても汚い)箱に入れられていたらしい。
そして運悪く、憂さ晴らしに丁度いいと男達に箱から出されて虐められていたと。それにしても。カウンター席で頬付けをつきながらマスターと猫のやりとりを眺める。
「なあマスター、ソイツ、飼うのか?」
質問したが、対する答えは返ってこない。代わりに、
「ウニャア~!」
「…………」
気持ち悪い男の声が返ってきた。
毛繕いしている猫を抱き上げて頬ずりしている。
「ああ! かわいいアル。ホント、溜まらないアル~!」
俺は何を見せられているのか。
「フニャア!」
猫もマスターが気持ち悪いとでも思ったのか、前の両足の爪で頬をバリバリとひっかく。
いたい、やめて、と言っているがそこまで嫌がっている声じゃなかった。むしろひっかかれて喜んでいる節がある。
「変態」
「誰が、変態アルカ。誰が」
「お前」
そう指摘したら「わかっていないアルネ」と鼻で笑い、ひっかき傷のついた頬を人差し指で示した。
「これは猫ちゃんからの愛情の証しアルヨ」
「そうなのか」
だったらひっかかずに舌でなめるとかするんじゃないのか。よく知らないが。
「どうだ、羨ましいダロ」
「別に」
マスターの手から解放された猫の方を見る。傷をつけた張本人(いや張本猫か?)はカウンター卓の上で体をグ~ンと伸ばして毛繕いをすると座布団(マスターが猫のために用意した結構な上等そうなもの)で、丸くなっていた。マスターのことなんて、てんで忘れていそうに見える。
「おい」
「何アルカ」
「この猫、ここで飼うのか」
すやすやと眠る猫からマスターへ顔を向けると、どうしようかと腕を組んだ。
「しばらくはうちで飼うアルヨ。良さそうな貰い手が見つかったらお譲りするアル」
「そうか」
ならば、と前もって言っておいた。
俺は猫の面倒は見る気はないし、金もないから餌代は出せないぞと。
そうしたら餌など金のかかることは自分でやるから偶には面倒を見てくれと言ってきた。
入れられていた箱に『拾ってください』と書かれていたということは、以前は人に飼われていた猫だろうから、外の危険には慣れていないはず。またあのバカ共のように非行な人間によって虐められてしまうかもしれない。最悪の場合は殺されてしまう可能性もある。それは防がなければ駄目だとマスターは手を強く握りしめた。
ケチで意地悪な奴だと思っていたが案外、動物には優しいらしい。意外な一面だと思った。いいところあるじゃないかと少しだけ関心していると「それに」とマスターは肩をすくめた。
「どうせお前は鍛錬と寝ることしかしていない貧乏暇人女だから丁度いいアル。かわいい猫の面倒くらい見るヨロシ」
「…………」
前言撤回。
やっぱりケチで意地悪で憎たらしい奴だ、コイツは。
虹雅渓第六階層のオンボロ宿で俺にマスターに猫、という二人と一匹。奇妙な同居生活が始まった。猫の世話(餌やり、下の世話など)はほぼマスターがしていた。猫の性質を知っている者から話を聞いたみたいで、前にはやり始めたら絶え間なく吸っていた煙管も今では(宿の中限定ではあるが)すっかりやめていた。
煙を吸えないことにはじめは辛そうにしていたマスターだったが猫に嫌われたくない一心で、猫の嫌いなものを宿内から除外し始める。出入口からカウンターがあるところまでは出入りを自由にさせていたが奥の厨房やマスターの部屋(入る戸には鍵で厳重に閉じてある)には絶対に入れないようにしていた。どうやら猫には食べさせてはいけないもの(人間にとっては食料でも猫にとっては毒となる)がたくさんあるみたいで厨房にいけば口にしてしまいかねないというマスターの危惧により、厨房へ近付いた時は素早く別の場所へと移動させていた。
マスターが手を離せない時は俺が動いた。猫を抱き上げて素早く専用の高級座布団に座らせた。俺への抗議なのか「みゃあ、みゃあ」と鳴いている。
「うるさい。黙って座っていろ」
文句を言ったら「もっと優しく注意するヨロシ」とマスターに睨まれた。なんて地獄耳か。
そして今日はといえば。
「みゃあ」
「…………」
猫と俺の二人きりだった。いや、この場合は一匹と一人になるのか。
早朝の鍛錬から戻ってきた俺にマスターは、「用事があって出かけてくるネ。お昼までには戻るからこの子を頼むアル」と猫を差して足早に出て行った。猫は高級座布団の上に手足を身体の下に隠した状態で座っていた。目を瞑り、口を開けてあくびをしている。幸せそうで何よりだ。
カウンター席に座って造花作りの残り半分を片付けようと作業していると、猫が寄って来た。卓上にある作り終えた造花へと手を伸ばしたり、ひっこめたりしてちょんちょんと触っている。が、すぐに飽きたみたいで造花作りをする俺の顔と作りかけの造花の間にもぐりこんできた。
見上げてくる猫の目と正面から見合った。
「みゃあ」
「邪魔だ」
「みゃあ」
「おい」
離れろと言っても無視。俺の手と腕に爪を立ててくる。
構ってくれということだろうか。
「ったく。分かったよ」
「みゃあ」
「少し待っていろ」
そう言って、猫の頭を撫でてから、フウと息を吐いて伸びをした。
少し休憩するか。
頼まれものである造花を壊されるわけにはいかないし。
それらを片付けて箱を部屋に置いていると、出入り口の方から「みゃあ、みゃあ」とアイツの鳴き声がした。催促のつもりなのか、繰り返し鳴いている。
そう急かすなよ、まったく。
部屋を出て、カウンターへ向かうと——、
「え」
見覚えのある金髪と赤色の背中が目に付いた。あの猫が妙に鳴いていると思ったらまさかの人物が——キュウゾウがいた。思わず出てしまった俺の声に気付き、奴はこっちを向いた。
まさかの血だらけだった。だが、匂いからして奴の血じゃない。
「いたのか」
「…………」
我ながらアホみたいに警戒心丸出しの戦闘態勢に構えて、キュウゾウを睨みつける。
「何をしに来た」
「会いに来た」
そう言ってキュウゾウは血の付いた状態のままで一歩、二歩、と近づいて来た。
いやいや。
奴が寄ってきた二歩分、後ろに下がる。誰の血をつけてきたのか、なんてのはどうでもいいことだが、せめて拭いてから来い。宿の中を汚したら誰が掃除すると思っているんだ。近づいてくるキュウゾウを手で制して、待っていろと伝えると急いで部屋に戻り、清潔な手拭いを備え付けの棚から引っ張り出して、持って行く。
「これで拭け」
「かたじけない」
差し出した手拭いを受け取って、拭いている奴を見て、呆れて溜息を吐く。どれだけ人を斬って来たのか。血ダルマとまではいかないが、結構な量を浴びている。雇い主の命令で沢山の人を斬りに行ったのかもしれない。
ちょっと羨ましい。
斬り合いがあるなら俺も参加したかった。ある程度まで血を拭いてもらった後、奴をカウンター席へ座らせると、適当にお茶を出した。厨房にあったものでマスターの専用なのか、客用なのかは不明だが『お茶』と書かれていたからまあいいだろう。
猫には水の入った小さな器を運んでやってから、キュウゾウの隣の席に座って、自分の分のお茶を注いで一口。
「……うえ」
うげえ。すごく苦い。粉を入れすぎた。
確か同じくらいの量で出してしまったと思い、隣を見遣ると、キュウゾウは無表情で飲んでいた。茶碗を口から離して一言。
「不味い」
「…………」
「不味い」
「うるさい」
ちゃんと聞こえているから。繰り返すな。
文句があるならもう飲むな、とひったくろうと伸ばした俺の手をキュウゾウは掴んで制すと、片手で持っていた茶碗を口元へ運び、ぐいっと傾けた。まさかの一気飲み。
不味いんじゃなかったのかと飲む様子を眺めていたら、ちゃんと最後まで飲み切ったようで、卓上に置かれた茶碗の中身は空だった。
二杯目いるか、と聞いたら無言で睨まれた。さすがにもう一度飲む気はないようだ。しかし、入れた当人の俺ですら苦すぎて飲めないというのに、よくやるなあと感心していたら、掴まれていた手を引き寄せられ、キュウゾウの顔が近くなった。赤い目が見つめてくる。
「な、なんだよ」
「飢えていないか」
「……はい?」
飢えている? 腹が減っていないかってことか?
「いや別に」
首を振って、ちゃんと朝飯(水と豆)は食べたからと伝えた。だというのに、キュウゾウはとんでもない行動に出た。自分の手を卓上に出すと、それを己の口元へ持っていき――、
「…………!」
人差し指を噛み切って、出血させたのである。
「キュウゾウ、お前、一体何を……?」
あまりの突飛な出来事に戸惑っていると、奴は人差し指から血を垂らしながら手を俺の口元へ寄せてきた。
「飲め」
「……はい?」
「飲め」
更に寄って、唇に指先が触れる。お前の血を飲めっていうのか。
何を考えているのか。でも、
「……ッ」
キュウゾウの血の匂いに「ごくり……」と喉を鳴らす。とてもいい匂いがする……なんて思いながら顔を寄せて、奴の人差し指を口に含んでいた。味覚の感覚を研ぎ澄ませようとして目を閉じる。
ごくん、ごくん。ごくん、ごくん。
……ああ、美味しい。すごく美味しい。
もっと飲みたい。もっと欲しい。乞えばくれるだろうか。
閉じていた目を開ける。
「…………」
俺が血を吸う様をキュウゾウの赤い目が見つめていた。
「…………ッ!!」
キュウゾウの手を掴んで人差し指を口外へと出してやる。
何をやっているんだ、俺は!?
人の血を吸って美味しいとか、まるで変態じゃないか!?
それに、俺の唾液でキュウゾウの人差し指が……。
「わ、悪い!」
我ながらなんと汚らしくて、気持ち悪いのか。
どんなにいけ好かないと思っている奴でもやっていいことと悪いことがある。悪い、悪い、と何度も謝りながらキュウゾウの指を手拭いで拭いているが、それでも奴の顔は大きく変わらず無表情のままだった。
水を飲んでいた猫がいつの間にか前足を揃えた状態で俺達の目の前にちょこんとおり、「みゃう」と鳴いている。
何をしているの? と言っているように聞こえた。
「なんでもない」
「みゃ、みゃあ」
そうなの、ならいいや、とばかりに猫は卓上から飛び降りて、向こう(俺の部屋がある辺り)へと行ってしまった。胸に手を当てて、一つ息を吐く。とても恥ずかしかったが、傍から見ているのが猫だけでよかった。
マスターがいたらしばらくの間からかいの種にされるところだったぞ。キュウゾウが無口なのには多少の付き合いがあるため知っているが、今の状況で何も言わないのは気まずい。罵倒でも悪口でも何でもいいから何か言ってくれないかとキュウゾウを見つめる。
「キュウゾウ、その……」
「シキ」
「は、はい!」
どんな罵詈雑言がくるか。
何を言われるのかと身構えていると、
「美味かったか」
「…………」
何故だか味の感想を求められてしまった。
美味かった、なんて誰が言えるか、馬鹿野郎。
だが、飲んでしまったのは事実。
何か言わないと。
「わ……」
「…………」
「悪くない味、だった……」
不味いと言えば嘘になるし、かといって「美味かった!」とも言えないし、言いたくないから。妥当な伝え方は何かなにかと考えて、これしか思いつかなかった。
何故に俺がこんな目に遭わないといけないのか。俯いていると、頭を撫でられた。誰かと言えば一人しかいない。キュウゾウだ。
「そうか」
「…………」
恐る恐る顔を上げると、目の前には、いつもの無表情ではなく小さく笑っているキュウゾウがいた。心なしか、言外に「よかった」と言っているように見えた。俺の脳が都合よくそう捉えさせただけなのかもしれないが、それでもよかった。
罵倒されなかったのはいいんだが、なんだかいたたまれない。じっとしているのが辛い。こういう時は動くのが一番。何をするかは決めてある。剣士と剣士のやることなんて一つしかない。
「キュウゾウ」
「何だ」
「まだ時間あるか?」
赤い目がどうした、と聞いてくるので、俺は「付き合え」と外を指さす。せっかく来客(しかも剣客)がいるのだから。
「手合わせしようぜ」
そう言ったらキュウゾウは「ふっ」と笑った。今度の笑みは微笑ましくない、斬り合うときに浮かべていそうな歪んだ笑みだった。
◆◆
久方ぶりの斬り合いに高揚してしまい、キュウゾウがアヤマロ御殿へ戻っていった後も宿の前で鍛錬をしばらく続けていたが、そろそろ止めにしておこう。マスターが帰って来る。見つかったら、宿の前で何をしているのかとグチグチ小言を言ってくるから。
さてさて、鍛錬を終了して中に戻る。あの猫はどこへいったのか。自分の部屋にはいなかったので、宿内を探していると一つの部屋の前に行き着いた。
宿の一番奥にある部屋だった。倉庫かと思ったが、別にあった。倉庫と書かれた張り紙が扉に貼られていた。じゃあこの一番奥にある部屋は何の部屋なのか。厳重な鉄製の鍵が三つもかけられている。
俺が借りている部屋は戸なのに、この一番奥にある部屋の出入り口は扉であり、立派なつくりをしている。よっぽど他人に見られたくないものでもあるのだろうか。
手刀で鍵を切れば開けられそうだな、開けてみようかな、なんて思っていると「みゃあ」と後方から鳴き声が聞こえた。振り向いて、見上げる。
「ああ、お前そんなところにいたのか」
棚の空いた空間に鎮座していた。尻尾をプラプラさせて、前足をちょこんと出して、欠伸をしている。
「みゃう」
「…………」
猫って狭いところが好きなのかなと眺めていると、宿の出入り口の方からマスターの「ただいまアル~!」という声が聞こえてきた。
何となくだが、この一番奥の部屋の前にいるところを見られては不味いと思い、猫を抱いて、早足で戻る。
マスターは、俺に抱き上げられている猫を見つけると「ああ、かわいいアル~!」と体をくねくねと動かす。そしてズズイと近寄ってきて、色付き眼鏡越しの目を輝かせながらかわいい、かわいいと連呼して猫を見つめているが、当の猫は俺の胸元から飛び降りると背中を逆立てて、威嚇した。
「シャー!」
「な、なんでアルカ~!?」
まだ何もしていないのに〜、と言って顔を両手で覆ってシクシクと泣き出すマスター。
なるほど。猫は声と動きがうるさくて、急に迫ってくる奴は嫌いなんだな。たとえ餌を買って与える者であったとしても。
落ち着けと猫に言ったら威嚇を止めて俺のいる方を向いて「みゃあ」と返事をした。仕方ないなと了承してくれたのか、てくてくと歩き出し、高級座布団の上に座る。
よし、と頷いていると隣のマスターが文句を言いたげに俺を睨みつけてきた。
「なんで一生懸命に世話をしているワタシよりお前の方を好きになるネ」
「お前が気持ち悪いからだろ」
本人としてはかわいがりたいのだろうが、どう受け取るのかは猫次第だから。こればかりはどうしようもない。俺だって別に好かれているわけではない。多分扱いやすいと思われている。本当にそうかは知らないが。
「ぐぬぬ……」
マスターは納得がいかないと歯噛みしつつ、一番奥の部屋がある方へと移動していった。あの部屋に入るのかもしれない。少し気になったのでついていき、一応気づかれないように物陰から後方から様子を見ていると、マスターは懐から三つの鍵を取り出して、かちゃり、かちゃり、かちゃり、と順番に開けて中へと入っていった。俺は扉の前に移動し、耳を当ててみる。
ううん、駄目だ。この扉、防音機能がついているのか、中からの音が全く聞こえてこない。むう。
仕方ないので、本日発見した倉庫の中を見てみることにした。一番奥にある部屋と違って、簡単に開いた。倉庫というからにはおそらく物置部屋なんだろうなとは思っていたが、置かれてあったのが意外な物だった。
刀、弓、槍などかつての戦で使われていた武具がたくさん並べられていた。圧倒的に多かったのは、サムライにとって一番お馴染みの刀だった。刀、刀、刀。
これでもかというほどに刀が立てかけてあった。本数は千にいかずとも百は軽く超えるのではないか。マスターはオンボロ宿の経営はそっちのけにして、刀を売る商売でもしているのだろうか。
刀は人を斬るための道具だというのに、世の中には物好きな奴がいて、刀を崇高な芸術品として集めている者達がいるというし。実は刀が結構売れているから宿に客が一人も来なくても暮らしていけるのだろうか。鞘から抜き出して、じっくりと観る。しっかりかつ丁寧に刀身が研磨されている。今でも十二分に人を斬ることができそうだ。剣客ならば斬れ味を試したくなるかもしれない。
俺は刀だから刀剣など持たずとも己の刃で斬れるからいらないが。
無刀流を発動して壊したら洒落にならないので注意しつつ、あれも、これもと鞘から抜いては刀身を眺めていく。刀として冥利につきるとはこのことか。
妙な幸福感に浸っていた俺を現実に呼び戻したのは、「みゃあ」あの猫だった。ハッとして、出入り口の方をみると、前足を揃えた猫がちょこんと座っていた。中に入ろうとしてきたので、俺は素早く刀を片付けて、先に行かせないようにした。
「駄目だ」
「みゃう」
なんで? と聞いているのか。形のいい丸目が俺を見上げてくる。
これが数多くの猫好きを陥落させてきたという猫の上目遣いか。マスターなら嬉しい悲鳴を上げて、悶絶して床を転げまわりそうだ。
まあ、残念ながら俺には効果はない。
猫は嫌いでもないがこれといって好きでもないから。普通だから。
「暇なら遊んでやるから」
「みゃあ」
返事した猫をそっと抱き上げて、倉庫を後にした俺は、猫が飽きるまでマスターの買ってきた道具を使って運動させた。振られている猫じゃらしのおもちゃと戯れる猫を眺めつつ、俺は「あっ」と声を上げた。
「キュウゾウに聞こうと思って忘れてた」
紫色の目をした辻斬り女に会わなかったかと。
まさか奴がオンボロ宿を訪ねてくるとは思わなかったし、滅多にない機会だから聞いておこうと思ったのに。
仕方ないと息を吐く。今度再会することがあったら言ってみよう。
もしかしたらその時はあの人かキュウゾウのどちらかが斬られて死んでいるかもしれないが。
なんだか眠れなかったので夜の散歩をしていた。電灯も少なく、人気もない。幽霊でも出てきそうな道をゆっくりと歩く。虹雅渓で滞在地としている第六階層にあるオンボロ宿で、そこのマスターは「幽霊、怖いアル」とか言っていたが、幽霊より怖いのは人だと思う。
切羽詰まったとかどうしようもない理由があって悪いことをする奴もいるが、中には誰かを思いやる心というものを持たずに平気で人に嘘ついたり、人を騙したり、人を殺したりする奴もいる。幽霊は現れても見てしまった人を脅かすだけで何もしないから、生きている人に比べたら平和な存在だと思う。
人殺し。人斬り。
この世には殺すモノと殺されるモノがいる。俺は殺すモノに該当するだろう。生まれながらにして刀であり、無刀の剣士であり、人を斬る
虹雅渓に来る前にいたアキンドの街ではサムライがいたら果し合いを申し込んでは斬り合っていたが、ここにきてからあまりやっていなかったから久しぶりにやろうかなと物色していたりする。
物騒かもしれないが仕方のないことだ。俺は刀だから。人を斬らないと生きていけない、生を実感できない
「……はあ」
散々歩き回ってみたが、斬り甲斐のありそうなサムライは全然いない。見当たらない。奴らは皆寝てしまっているのかもしれない。または最下層にある癒しの里にでも行っているのかもしれない。
くそう。
何が楽しくて酒なんか飲んでいるのか。酒なんてただの不味い液体じゃないか。そんなものを飲む暇があるなら俺と斬り合いしろ。酒を買う金があるなら俺にくれ。俺が有意義に使ってやるから。
……なんて一人で勝手に妄想して怒っている。傍から見たらきっとすごく馬鹿に見えるに違いない。夜の散歩にもそろそろ飽きてきた。
戻って寝るか。
くるりと回ってオンボロ宿へ戻る道を歩いていく——その途中だった。
きんっ。きいんっ。
耳に入ってきたのは聞き覚えのある音だった。それに吸い寄せられるように俺は音の鳴る方へ足を急がせた。
間違いない。間違えるはずもない。この音の響きは。刀と刀がぶつかる時に鳴り響くもの。戦場で常にと言っていい程に聞こえていた音だった。
連続して反響する音を追いかけて、路地の向こう側に出る。音のした発生源に辿り着いた俺を出迎えたのは悲鳴と血の匂いだった。
ばたりと地面に仰向けに倒れたのは男で、右手に折れて先端が無くなった刀を持っていた。男は右肩から左下へとバッサリと逆袈裟斬りの一刀で絶命している。切り口から相当な腕前の奴がやったと観た。
「こんばんは」
斬られた死体を側で屈んで眺めていると、そう声をかけられた。滑らかな女の声。闇夜に紫色の瞳が浮かんでいて、こっちを見ている。俺はすぐに分かった。この男(恐らく街でぶらついているサムライくずれの一人)を斬ったのはこの女だ。何故ならこの女は——、
「夜の一人歩きは駄目よ。悪い子ね、お嬢さん……って、貴方——」
暗闇から灯りの下に姿を現した女は俺を紫色の目を見開いて観ていたが、唇にふっと笑みを浮かべた。
「うふふ。久しいわね。シキちゃん」
「……ああ」
「あら。あんまり嬉しくなさそうね。お姉さん、悲しいわ」
「そうか」
「ふふ。相も変わらず薄い反応なのね。ところで、一つ聞いていいかしら」
俺が無言で頷くと、女は口元に笑みをたたえる。
「ねえ、シキちゃん」
「何だ」
「いつまで人間のフリをしているのかしら」
そういって女は手についた血を舌でぺろりと舐めた。とっても美味しそうに。
◆◆
早朝の鍛錬を終えて宿に戻ったらマスターがいなかった。いつもならカウンターで座っていて、金を数えていたり、煙管を吹かせていたり、ボーッとしていたり……なんてしているはずなのに姿がなかった。
どこにいったのかと首を巡らせたがすぐにやめた。奴がどこに行こうともそれは奴の勝手だし、俺には関係ないことだ。
それよりもアレをやろう。
部屋から箱を持ってきて、カウンターにそれを置いて席に座った。箱から作りかけの花を取り出して作業を開始する。
アレとは造花作りのことで、前にちょっとした事件があって、世話になった(マスターとは馴染みらしい)医者からの頼みで造花作りをやっている。
このちょっとした事件で大怪我をし、入院する羽目になったキクチヨとマサムネの治療費と入院費(二人合わせて五十の後に零が四つの金額)を肩代わりした俺は返済のためにその医者へ何か仕事はないかと聞いて、ならばこれをやれと渡されたのが造花作りの仕事だった。
どうやら通っている者達から診療内には花がない、だから中の雰囲気が暗くて怖いし通う人も少ないのでは、というお節介な助言をよく利用する者達から言われたみたいで、かといって本物の花を買って飾ったとしても手入れは面倒だし、店に行くのも、花を選ぶのも手間がかかる。
どうしたら……と医者は考え、人工の花を利用することを思い付く。しかし材料を取り寄せたのはいいが今度は作るのがとても手間だ……と悩んでいたところに俺がやってきて、返済金を得るための仕事を何かくれといってきたものだから渡りに船。造花作りの材料が入った箱を渡された。
箱の中の花を全部作り終わったら、診療所にいる医者のもとまで持っていき、どのくらい返済の足しになるかを聞く予定である。
まさか刀の俺が内職(造花造り)することになるとは。世の中、何が起きるか分からないものだ。
作業の合間に肩を回したり、体を伸ばしたりして小休憩を挟みつつ、造花造りを進めていく。ふうと息を吐いて、箱の中を見ると半分が終わっていた。残りのもう半分は昼飯(水と豆)を食べてからやることにしよう。
完成した花と作りかけの花を分けて箱に入れ、部屋に置いてカウンター席まで戻るとマスターが血相を変えて帰ってきた。そして俺を見るなり、
「助けてくれアル!」
と叫んだ。
「おい、マ——」
「早くしろアル! ワタシについて来るヨロシ!」
俺の言葉を遮ると、右手をブンブンと振って、再び外へと走り出した。わかったとか、ついて行くとか何も言っていないのだが……人がついてきてくれるだろうという前提で行ってしまったのか。
面倒そうな空気を感じるが。やれやれ。
俺は宿を出て、追いかけると柱に隠れて向こうを見ているマスターの後ろ姿を発見する。
何を見ているのかとマスター越しに覗くと男が二人何かをしていた。マスター曰く『助けてくれ』ということだが、女でも襲われているのかと思ったら違った。踏んだり蹴ったりされて襲われているのは、人間じゃなくて動物だった。とがった三角形の耳が頭の両端に二つ生えた生き物。
アレは。
「猫?」
「そうヨ。かわいい、かわいい猫ちゃんアルヨ」
マスターは頷き、握った拳を震わせて、ぐぬぬと悔しそうに唸った。マスターから男達に目を向ける。
俺達が後方から見ていることに気付きもしないで、楽しそうに笑い声を上げながら猫を虐めていた。蹴られて猫が「みゃぐ」と苦しそうな声を上げる度にマスターは「ああ」とか「うう」とか悲痛な声を上げる。
「くそ。このままだと大馬鹿共は猫を殺しかねないアル。」
「確かに」
「だから、お前になんとかして欲しくて急いで呼びに言ったヨ」
「わかった。ちなみに——」
「駄目アルヨ」
俺の言おうとしていることを察してマスターが先行したから「チッ」と舌打ちする。人斬りはするなというのか。
「殺すのは駄目アル」
「わかった」
「当然ヨ。誰がアイツ等の死体を処理するネ。そんな面倒は御免アル」
だが、とマスターは親指を立て、くいっくいっと男達を示す。
「死なない程度に痛めつけるならいいアルヨ。おおいに許可するネ」
「…………」
さらりと物騒なことをいってのけるマスターに対して、俺は小さく頷くと立ち上がって、いまだに飽きもせずに猫を虐め続けている男達のもとへ向かった。首をはねてしまえばすぐ終わるんだが、まあいい。要は殺さなければいいんだろう。
それからどうしたかといえば。
「……はあ」
全然大したことのない、骨のない、ならず者達だった。勢いがあったのは「邪魔するな!」「ぶっ殺してやる!」と叫んでいた最初のうちだけで、掌底を一発入れて吹っ飛ばし、追い打ちをかけようとしたら、すぐさま降参と土下座した。
マスターは現場にやってくると謝る二人を他所に地面でぐったりとしている猫を抱えて急いで走り去っていた。その背中を見送ってから俺は振り向いて「ごめんなさい」と何度も繰り返して頭を垂れている男二人を見据えた。
「おい、お前ら」
「はひい!」
「なんでしょうか!?」
「もう二度とやるなよ」
——次は斬る。
鋭く睨みつけ、低い声でそう伝えた。
「ひひい!」
「も、もうしません!」
頭を地面にめり込ませんとする勢いで土下座する男達。最近、理不尽で嫌なことが連続であってそれの憂さ晴らしをしたくて、その捌け口として猫を虐めてしまいましたとか言い訳を言い出した。
やった理由なんて俺にとってはどうでもいいのだが。
情けない声を尻目にしてオンボロ宿へと戻った。すぐに降参したり、謝ったりするあたり怪しい。またやらかそうとするんじゃないか。
まあ、別にいいか。
次やっているところを見かけたら遠慮なく斬っていいのだから。マスターからの許可も得たことだし。
三日後。
男二人に虐められていた猫は元気そうな姿でオンボロ宿へマスターに抱き上げられてやってきた。どうやら捨て猫だったらしく、誰か拾ってやってください、と書かれた(ボロボロでとても汚い)箱に入れられていたらしい。
そして運悪く、憂さ晴らしに丁度いいと男達に箱から出されて虐められていたと。それにしても。カウンター席で頬付けをつきながらマスターと猫のやりとりを眺める。
「なあマスター、ソイツ、飼うのか?」
質問したが、対する答えは返ってこない。代わりに、
「ウニャア~!」
「…………」
気持ち悪い男の声が返ってきた。
毛繕いしている猫を抱き上げて頬ずりしている。
「ああ! かわいいアル。ホント、溜まらないアル~!」
俺は何を見せられているのか。
「フニャア!」
猫もマスターが気持ち悪いとでも思ったのか、前の両足の爪で頬をバリバリとひっかく。
いたい、やめて、と言っているがそこまで嫌がっている声じゃなかった。むしろひっかかれて喜んでいる節がある。
「変態」
「誰が、変態アルカ。誰が」
「お前」
そう指摘したら「わかっていないアルネ」と鼻で笑い、ひっかき傷のついた頬を人差し指で示した。
「これは猫ちゃんからの愛情の証しアルヨ」
「そうなのか」
だったらひっかかずに舌でなめるとかするんじゃないのか。よく知らないが。
「どうだ、羨ましいダロ」
「別に」
マスターの手から解放された猫の方を見る。傷をつけた張本人(いや張本猫か?)はカウンター卓の上で体をグ~ンと伸ばして毛繕いをすると座布団(マスターが猫のために用意した結構な上等そうなもの)で、丸くなっていた。マスターのことなんて、てんで忘れていそうに見える。
「おい」
「何アルカ」
「この猫、ここで飼うのか」
すやすやと眠る猫からマスターへ顔を向けると、どうしようかと腕を組んだ。
「しばらくはうちで飼うアルヨ。良さそうな貰い手が見つかったらお譲りするアル」
「そうか」
ならば、と前もって言っておいた。
俺は猫の面倒は見る気はないし、金もないから餌代は出せないぞと。
そうしたら餌など金のかかることは自分でやるから偶には面倒を見てくれと言ってきた。
入れられていた箱に『拾ってください』と書かれていたということは、以前は人に飼われていた猫だろうから、外の危険には慣れていないはず。またあのバカ共のように非行な人間によって虐められてしまうかもしれない。最悪の場合は殺されてしまう可能性もある。それは防がなければ駄目だとマスターは手を強く握りしめた。
ケチで意地悪な奴だと思っていたが案外、動物には優しいらしい。意外な一面だと思った。いいところあるじゃないかと少しだけ関心していると「それに」とマスターは肩をすくめた。
「どうせお前は鍛錬と寝ることしかしていない貧乏暇人女だから丁度いいアル。かわいい猫の面倒くらい見るヨロシ」
「…………」
前言撤回。
やっぱりケチで意地悪で憎たらしい奴だ、コイツは。
虹雅渓第六階層のオンボロ宿で俺にマスターに猫、という二人と一匹。奇妙な同居生活が始まった。猫の世話(餌やり、下の世話など)はほぼマスターがしていた。猫の性質を知っている者から話を聞いたみたいで、前にはやり始めたら絶え間なく吸っていた煙管も今では(宿の中限定ではあるが)すっかりやめていた。
煙を吸えないことにはじめは辛そうにしていたマスターだったが猫に嫌われたくない一心で、猫の嫌いなものを宿内から除外し始める。出入口からカウンターがあるところまでは出入りを自由にさせていたが奥の厨房やマスターの部屋(入る戸には鍵で厳重に閉じてある)には絶対に入れないようにしていた。どうやら猫には食べさせてはいけないもの(人間にとっては食料でも猫にとっては毒となる)がたくさんあるみたいで厨房にいけば口にしてしまいかねないというマスターの危惧により、厨房へ近付いた時は素早く別の場所へと移動させていた。
マスターが手を離せない時は俺が動いた。猫を抱き上げて素早く専用の高級座布団に座らせた。俺への抗議なのか「みゃあ、みゃあ」と鳴いている。
「うるさい。黙って座っていろ」
文句を言ったら「もっと優しく注意するヨロシ」とマスターに睨まれた。なんて地獄耳か。
そして今日はといえば。
「みゃあ」
「…………」
猫と俺の二人きりだった。いや、この場合は一匹と一人になるのか。
早朝の鍛錬から戻ってきた俺にマスターは、「用事があって出かけてくるネ。お昼までには戻るからこの子を頼むアル」と猫を差して足早に出て行った。猫は高級座布団の上に手足を身体の下に隠した状態で座っていた。目を瞑り、口を開けてあくびをしている。幸せそうで何よりだ。
カウンター席に座って造花作りの残り半分を片付けようと作業していると、猫が寄って来た。卓上にある作り終えた造花へと手を伸ばしたり、ひっこめたりしてちょんちょんと触っている。が、すぐに飽きたみたいで造花作りをする俺の顔と作りかけの造花の間にもぐりこんできた。
見上げてくる猫の目と正面から見合った。
「みゃあ」
「邪魔だ」
「みゃあ」
「おい」
離れろと言っても無視。俺の手と腕に爪を立ててくる。
構ってくれということだろうか。
「ったく。分かったよ」
「みゃあ」
「少し待っていろ」
そう言って、猫の頭を撫でてから、フウと息を吐いて伸びをした。
少し休憩するか。
頼まれものである造花を壊されるわけにはいかないし。
それらを片付けて箱を部屋に置いていると、出入り口の方から「みゃあ、みゃあ」とアイツの鳴き声がした。催促のつもりなのか、繰り返し鳴いている。
そう急かすなよ、まったく。
部屋を出て、カウンターへ向かうと——、
「え」
見覚えのある金髪と赤色の背中が目に付いた。あの猫が妙に鳴いていると思ったらまさかの人物が——キュウゾウがいた。思わず出てしまった俺の声に気付き、奴はこっちを向いた。
まさかの血だらけだった。だが、匂いからして奴の血じゃない。
「いたのか」
「…………」
我ながらアホみたいに警戒心丸出しの戦闘態勢に構えて、キュウゾウを睨みつける。
「何をしに来た」
「会いに来た」
そう言ってキュウゾウは血の付いた状態のままで一歩、二歩、と近づいて来た。
いやいや。
奴が寄ってきた二歩分、後ろに下がる。誰の血をつけてきたのか、なんてのはどうでもいいことだが、せめて拭いてから来い。宿の中を汚したら誰が掃除すると思っているんだ。近づいてくるキュウゾウを手で制して、待っていろと伝えると急いで部屋に戻り、清潔な手拭いを備え付けの棚から引っ張り出して、持って行く。
「これで拭け」
「かたじけない」
差し出した手拭いを受け取って、拭いている奴を見て、呆れて溜息を吐く。どれだけ人を斬って来たのか。血ダルマとまではいかないが、結構な量を浴びている。雇い主の命令で沢山の人を斬りに行ったのかもしれない。
ちょっと羨ましい。
斬り合いがあるなら俺も参加したかった。ある程度まで血を拭いてもらった後、奴をカウンター席へ座らせると、適当にお茶を出した。厨房にあったものでマスターの専用なのか、客用なのかは不明だが『お茶』と書かれていたからまあいいだろう。
猫には水の入った小さな器を運んでやってから、キュウゾウの隣の席に座って、自分の分のお茶を注いで一口。
「……うえ」
うげえ。すごく苦い。粉を入れすぎた。
確か同じくらいの量で出してしまったと思い、隣を見遣ると、キュウゾウは無表情で飲んでいた。茶碗を口から離して一言。
「不味い」
「…………」
「不味い」
「うるさい」
ちゃんと聞こえているから。繰り返すな。
文句があるならもう飲むな、とひったくろうと伸ばした俺の手をキュウゾウは掴んで制すと、片手で持っていた茶碗を口元へ運び、ぐいっと傾けた。まさかの一気飲み。
不味いんじゃなかったのかと飲む様子を眺めていたら、ちゃんと最後まで飲み切ったようで、卓上に置かれた茶碗の中身は空だった。
二杯目いるか、と聞いたら無言で睨まれた。さすがにもう一度飲む気はないようだ。しかし、入れた当人の俺ですら苦すぎて飲めないというのに、よくやるなあと感心していたら、掴まれていた手を引き寄せられ、キュウゾウの顔が近くなった。赤い目が見つめてくる。
「な、なんだよ」
「飢えていないか」
「……はい?」
飢えている? 腹が減っていないかってことか?
「いや別に」
首を振って、ちゃんと朝飯(水と豆)は食べたからと伝えた。だというのに、キュウゾウはとんでもない行動に出た。自分の手を卓上に出すと、それを己の口元へ持っていき――、
「…………!」
人差し指を噛み切って、出血させたのである。
「キュウゾウ、お前、一体何を……?」
あまりの突飛な出来事に戸惑っていると、奴は人差し指から血を垂らしながら手を俺の口元へ寄せてきた。
「飲め」
「……はい?」
「飲め」
更に寄って、唇に指先が触れる。お前の血を飲めっていうのか。
何を考えているのか。でも、
「……ッ」
キュウゾウの血の匂いに「ごくり……」と喉を鳴らす。とてもいい匂いがする……なんて思いながら顔を寄せて、奴の人差し指を口に含んでいた。味覚の感覚を研ぎ澄ませようとして目を閉じる。
ごくん、ごくん。ごくん、ごくん。
……ああ、美味しい。すごく美味しい。
もっと飲みたい。もっと欲しい。乞えばくれるだろうか。
閉じていた目を開ける。
「…………」
俺が血を吸う様をキュウゾウの赤い目が見つめていた。
「…………ッ!!」
キュウゾウの手を掴んで人差し指を口外へと出してやる。
何をやっているんだ、俺は!?
人の血を吸って美味しいとか、まるで変態じゃないか!?
それに、俺の唾液でキュウゾウの人差し指が……。
「わ、悪い!」
我ながらなんと汚らしくて、気持ち悪いのか。
どんなにいけ好かないと思っている奴でもやっていいことと悪いことがある。悪い、悪い、と何度も謝りながらキュウゾウの指を手拭いで拭いているが、それでも奴の顔は大きく変わらず無表情のままだった。
水を飲んでいた猫がいつの間にか前足を揃えた状態で俺達の目の前にちょこんとおり、「みゃう」と鳴いている。
何をしているの? と言っているように聞こえた。
「なんでもない」
「みゃ、みゃあ」
そうなの、ならいいや、とばかりに猫は卓上から飛び降りて、向こう(俺の部屋がある辺り)へと行ってしまった。胸に手を当てて、一つ息を吐く。とても恥ずかしかったが、傍から見ているのが猫だけでよかった。
マスターがいたらしばらくの間からかいの種にされるところだったぞ。キュウゾウが無口なのには多少の付き合いがあるため知っているが、今の状況で何も言わないのは気まずい。罵倒でも悪口でも何でもいいから何か言ってくれないかとキュウゾウを見つめる。
「キュウゾウ、その……」
「シキ」
「は、はい!」
どんな罵詈雑言がくるか。
何を言われるのかと身構えていると、
「美味かったか」
「…………」
何故だか味の感想を求められてしまった。
美味かった、なんて誰が言えるか、馬鹿野郎。
だが、飲んでしまったのは事実。
何か言わないと。
「わ……」
「…………」
「悪くない味、だった……」
不味いと言えば嘘になるし、かといって「美味かった!」とも言えないし、言いたくないから。妥当な伝え方は何かなにかと考えて、これしか思いつかなかった。
何故に俺がこんな目に遭わないといけないのか。俯いていると、頭を撫でられた。誰かと言えば一人しかいない。キュウゾウだ。
「そうか」
「…………」
恐る恐る顔を上げると、目の前には、いつもの無表情ではなく小さく笑っているキュウゾウがいた。心なしか、言外に「よかった」と言っているように見えた。俺の脳が都合よくそう捉えさせただけなのかもしれないが、それでもよかった。
罵倒されなかったのはいいんだが、なんだかいたたまれない。じっとしているのが辛い。こういう時は動くのが一番。何をするかは決めてある。剣士と剣士のやることなんて一つしかない。
「キュウゾウ」
「何だ」
「まだ時間あるか?」
赤い目がどうした、と聞いてくるので、俺は「付き合え」と外を指さす。せっかく来客(しかも剣客)がいるのだから。
「手合わせしようぜ」
そう言ったらキュウゾウは「ふっ」と笑った。今度の笑みは微笑ましくない、斬り合うときに浮かべていそうな歪んだ笑みだった。
◆◆
久方ぶりの斬り合いに高揚してしまい、キュウゾウがアヤマロ御殿へ戻っていった後も宿の前で鍛錬をしばらく続けていたが、そろそろ止めにしておこう。マスターが帰って来る。見つかったら、宿の前で何をしているのかとグチグチ小言を言ってくるから。
さてさて、鍛錬を終了して中に戻る。あの猫はどこへいったのか。自分の部屋にはいなかったので、宿内を探していると一つの部屋の前に行き着いた。
宿の一番奥にある部屋だった。倉庫かと思ったが、別にあった。倉庫と書かれた張り紙が扉に貼られていた。じゃあこの一番奥にある部屋は何の部屋なのか。厳重な鉄製の鍵が三つもかけられている。
俺が借りている部屋は戸なのに、この一番奥にある部屋の出入り口は扉であり、立派なつくりをしている。よっぽど他人に見られたくないものでもあるのだろうか。
手刀で鍵を切れば開けられそうだな、開けてみようかな、なんて思っていると「みゃあ」と後方から鳴き声が聞こえた。振り向いて、見上げる。
「ああ、お前そんなところにいたのか」
棚の空いた空間に鎮座していた。尻尾をプラプラさせて、前足をちょこんと出して、欠伸をしている。
「みゃう」
「…………」
猫って狭いところが好きなのかなと眺めていると、宿の出入り口の方からマスターの「ただいまアル~!」という声が聞こえてきた。
何となくだが、この一番奥の部屋の前にいるところを見られては不味いと思い、猫を抱いて、早足で戻る。
マスターは、俺に抱き上げられている猫を見つけると「ああ、かわいいアル~!」と体をくねくねと動かす。そしてズズイと近寄ってきて、色付き眼鏡越しの目を輝かせながらかわいい、かわいいと連呼して猫を見つめているが、当の猫は俺の胸元から飛び降りると背中を逆立てて、威嚇した。
「シャー!」
「な、なんでアルカ~!?」
まだ何もしていないのに〜、と言って顔を両手で覆ってシクシクと泣き出すマスター。
なるほど。猫は声と動きがうるさくて、急に迫ってくる奴は嫌いなんだな。たとえ餌を買って与える者であったとしても。
落ち着けと猫に言ったら威嚇を止めて俺のいる方を向いて「みゃあ」と返事をした。仕方ないなと了承してくれたのか、てくてくと歩き出し、高級座布団の上に座る。
よし、と頷いていると隣のマスターが文句を言いたげに俺を睨みつけてきた。
「なんで一生懸命に世話をしているワタシよりお前の方を好きになるネ」
「お前が気持ち悪いからだろ」
本人としてはかわいがりたいのだろうが、どう受け取るのかは猫次第だから。こればかりはどうしようもない。俺だって別に好かれているわけではない。多分扱いやすいと思われている。本当にそうかは知らないが。
「ぐぬぬ……」
マスターは納得がいかないと歯噛みしつつ、一番奥の部屋がある方へと移動していった。あの部屋に入るのかもしれない。少し気になったのでついていき、一応気づかれないように物陰から後方から様子を見ていると、マスターは懐から三つの鍵を取り出して、かちゃり、かちゃり、かちゃり、と順番に開けて中へと入っていった。俺は扉の前に移動し、耳を当ててみる。
ううん、駄目だ。この扉、防音機能がついているのか、中からの音が全く聞こえてこない。むう。
仕方ないので、本日発見した倉庫の中を見てみることにした。一番奥にある部屋と違って、簡単に開いた。倉庫というからにはおそらく物置部屋なんだろうなとは思っていたが、置かれてあったのが意外な物だった。
刀、弓、槍などかつての戦で使われていた武具がたくさん並べられていた。圧倒的に多かったのは、サムライにとって一番お馴染みの刀だった。刀、刀、刀。
これでもかというほどに刀が立てかけてあった。本数は千にいかずとも百は軽く超えるのではないか。マスターはオンボロ宿の経営はそっちのけにして、刀を売る商売でもしているのだろうか。
刀は人を斬るための道具だというのに、世の中には物好きな奴がいて、刀を崇高な芸術品として集めている者達がいるというし。実は刀が結構売れているから宿に客が一人も来なくても暮らしていけるのだろうか。鞘から抜き出して、じっくりと観る。しっかりかつ丁寧に刀身が研磨されている。今でも十二分に人を斬ることができそうだ。剣客ならば斬れ味を試したくなるかもしれない。
俺は刀だから刀剣など持たずとも己の刃で斬れるからいらないが。
無刀流を発動して壊したら洒落にならないので注意しつつ、あれも、これもと鞘から抜いては刀身を眺めていく。刀として冥利につきるとはこのことか。
妙な幸福感に浸っていた俺を現実に呼び戻したのは、「みゃあ」あの猫だった。ハッとして、出入り口の方をみると、前足を揃えた猫がちょこんと座っていた。中に入ろうとしてきたので、俺は素早く刀を片付けて、先に行かせないようにした。
「駄目だ」
「みゃう」
なんで? と聞いているのか。形のいい丸目が俺を見上げてくる。
これが数多くの猫好きを陥落させてきたという猫の上目遣いか。マスターなら嬉しい悲鳴を上げて、悶絶して床を転げまわりそうだ。
まあ、残念ながら俺には効果はない。
猫は嫌いでもないがこれといって好きでもないから。普通だから。
「暇なら遊んでやるから」
「みゃあ」
返事した猫をそっと抱き上げて、倉庫を後にした俺は、猫が飽きるまでマスターの買ってきた道具を使って運動させた。振られている猫じゃらしのおもちゃと戯れる猫を眺めつつ、俺は「あっ」と声を上げた。
「キュウゾウに聞こうと思って忘れてた」
紫色の目をした辻斬り女に会わなかったかと。
まさか奴がオンボロ宿を訪ねてくるとは思わなかったし、滅多にない機会だから聞いておこうと思ったのに。
仕方ないと息を吐く。今度再会することがあったら言ってみよう。
もしかしたらその時はあの人かキュウゾウのどちらかが斬られて死んでいるかもしれないが。
