第四話
夢小説設定
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◆
「あれ? 君はもしかして……?」
ある日。
今日の飯代を報酬にくれるというので、虹雅渓で滞在先としている宿のマスターから頼まれた仕事をしていると、見知らぬ男から声をかけられた。
腰に刀を差しているところからサムライと判断する。余程のモノ好きでない限り、サムライ以外にあんな重いモノを腰に差したりはしないだろうから。
「…………」
ソイツは近寄ってきて、俺をジロジロと見てきた。あまり気分のいいものじゃない。
黙って無視して足早に去ろうとしたら、男は大きな声を上げて手を打った。
「シキじゃないか! 私だよ、私!」
「はい?」
「私のこと、覚えているだろう」
「…………」
覚えているのかと言われても何も知らない。
誰かと勘違いしているんじゃないのかと首を傾げていると、
「まさか君、私のこと、忘れてしまったのか……?」
この薄情者、と睨みつけてきたかと思えば、今度は悲しそうな表情になった。
「…………」
新手の勧誘かもしくは何かの罠だろうか。
俺は思い出すフリをして、周囲の気配を探ってはみるが、とくに怪しいヤツはいないし、殺気も感じない。ひとまず危険はないとみた。
だが、この男は俺のことを知っているみたいだ。
戦後にできた知り合いではなさそうだ。そうでないとすれば戦場で知り合った者となるが……今日知り合った者がその日か、明日か、日数が経たないうちに死んでいるなんてことが戦場では日常だったから、俺や鋼音家を知っている者なんて、そうそういるわけがない。
そういえば。
俺が主としたサムライは武士らしからぬ発言と行動により部隊の奴らから嫌われていたが、その中で一人だけよく話しかけてくる奴がいた。
もしかして、ソイツか?
「私のこと、思い出せないかい?」
「…………」
相手の顔を見ていると、頭に浮かんだモノと目の前の不安げな顔が脳内でおぼろげながらもなんとか合致して、思い出すことができた。
「お前、確か……朝倉、だったか」
朝倉はうんうんと頷くもすぐに呆れ顔になって溜息を吐く。
「朝倉ゼン、だよ。全く、他人に興味がないのは相変わらずだね」
もう少し他人に興味を持ったらどうだい、と言われた。ほっとけと即答で返す。
「思い出したから別にいいだろ」
「まあ、君らしいといえば、君らしいけどね」
かつての知り合いと会えたことがそんなに嬉しいことなのか、朗らかに笑っている。
朝倉は、かつての大戦にて同じ部隊で戦ったサムライの一人だった。厳密に言えば、俺こと無刀流九代目当主、鋼音シキが刀として仕えたサムライ(名はリョウマ)と同じ部隊に所属していた、いわゆる戦友という奴である。
戦場において、父と兄、リョウマ以外の人間は仲間か敵かでしか認識、区別していなかった俺だったが、その三人以外で顔と名前を覚え、区別できていたのは朝倉だけだった。
三人と戦場で斬り合うこと以外には興味も関心もなかったが、奴に関しては覚えざるを得なかった。
何故ならサムライの間からは嫌われていたリョウマと唯一、友として接してくれたのが朝倉だけだったから。
……とはいっても今の今まで奴のことは忘れていたので、目に入る回数が多かったというだけで、過去の俺もたいして関心がなかったのだろう。
戦場で死なずに生き延びていたのか。
そうか、としか言いようがない。
奴と深く関わったのは俺の主だったリョウマであって、刀の俺ではない。久方ぶりに会えたからといって、俺にはコイツ相手に話すことなど特別にない。
それに今の俺には今日の飯代を得るための、マスターから頼まれた仕事がある。奴に構ってる場合じゃない。
「俺は用があるから。じゃあな」
早々に切り上げようとすると後ろから肩を掴まれた。
「シキ、待ってくれよ」
「触るな」
手で振り払って、睨みつけると朝倉は「まあまあ、落ち着いて」と手を振る。
「君はすごいと思わないのかい? 昔、戦場を共にした仲間と生きて会えたんだぞ。はい、そうですか、なんて、ひどいよ。いくら何でもあっさりしすぎじゃないか」
「俺はお前に用はない」
「そんな……」
「俺は今、仕事があって忙しいんだ」
仕事とはいっても、人を斬ることじゃないのが悲しい。用件があるのなら早く言ってくれと伝えると、朝倉は懐から二つに折り畳まれた紙切れを差し出してきた。
「そこに書かれている飯屋に来てくれないか」
「どういうつもりだ」
「シキ、もう一度いっておくが、これはすごい奇跡なんだ。俺達はお互いの生存を確認できないまま、あの戦場で生き別れてしまった。だというのに久方ぶりに、こうして再会できたんだからね」
「とっとと用件を言え。俺も暇じゃないんだ」
言わないなら帰ると背を向けると、奴は性懲りもなくまた人の肩を掴んでこようとするので避ける。いちいち人に触ろうとするな。うっとうしい。
「こうしてせっかく会えたんだ。二人で飯でも食べながら話をしないかい?」
「断る」
「どうして」
「金がない」
外食なんて金のかかるもの、文無し同然の俺にできるわけがない。そういうと、朝倉は「なんだそんなことか」と笑った。
「そこは安心してくれたまえ。実は最近いい収入を得られたから、金はあるんだよね。私が全部奢ってあげるよ」
遠慮しないでいっぱい頼んでくれ、と朝倉は胸を叩いた。
「私と君は、あの大戦で苦楽を共にした仲間じゃないか」
「…………」
矢鱈しつこい。
過去にそこまで話をした記憶はないし、俺の中では「面倒だ」という思いが一番先に出てくるが……飯を奢ってくれるという。
こんな機会、滅多にないのでは?
少しくらいは話を聞いてやってもいいかもしれない……と考え直して「わかった」と頷くと、朝倉は手を合わせて、よかったと笑う。
「絶対に来てくれ。すっぽかしはなしだからね。あ、なんなら指切りでもするかい?」
「嫌だ。断る。気持ち悪い」
「はは、冗談に決まっているだろ。全く君は人に対してものをはっきり言い過ぎだよもう少し他人の気持ちを考えたらどうだい?」
俺は無視した。
「あれ? 君はもしかして……?」
ある日。
今日の飯代を報酬にくれるというので、虹雅渓で滞在先としている宿のマスターから頼まれた仕事をしていると、見知らぬ男から声をかけられた。
腰に刀を差しているところからサムライと判断する。余程のモノ好きでない限り、サムライ以外にあんな重いモノを腰に差したりはしないだろうから。
「…………」
ソイツは近寄ってきて、俺をジロジロと見てきた。あまり気分のいいものじゃない。
黙って無視して足早に去ろうとしたら、男は大きな声を上げて手を打った。
「シキじゃないか! 私だよ、私!」
「はい?」
「私のこと、覚えているだろう」
「…………」
覚えているのかと言われても何も知らない。
誰かと勘違いしているんじゃないのかと首を傾げていると、
「まさか君、私のこと、忘れてしまったのか……?」
この薄情者、と睨みつけてきたかと思えば、今度は悲しそうな表情になった。
「…………」
新手の勧誘かもしくは何かの罠だろうか。
俺は思い出すフリをして、周囲の気配を探ってはみるが、とくに怪しいヤツはいないし、殺気も感じない。ひとまず危険はないとみた。
だが、この男は俺のことを知っているみたいだ。
戦後にできた知り合いではなさそうだ。そうでないとすれば戦場で知り合った者となるが……今日知り合った者がその日か、明日か、日数が経たないうちに死んでいるなんてことが戦場では日常だったから、俺や鋼音家を知っている者なんて、そうそういるわけがない。
そういえば。
俺が主としたサムライは武士らしからぬ発言と行動により部隊の奴らから嫌われていたが、その中で一人だけよく話しかけてくる奴がいた。
もしかして、ソイツか?
「私のこと、思い出せないかい?」
「…………」
相手の顔を見ていると、頭に浮かんだモノと目の前の不安げな顔が脳内でおぼろげながらもなんとか合致して、思い出すことができた。
「お前、確か……朝倉、だったか」
朝倉はうんうんと頷くもすぐに呆れ顔になって溜息を吐く。
「朝倉ゼン、だよ。全く、他人に興味がないのは相変わらずだね」
もう少し他人に興味を持ったらどうだい、と言われた。ほっとけと即答で返す。
「思い出したから別にいいだろ」
「まあ、君らしいといえば、君らしいけどね」
かつての知り合いと会えたことがそんなに嬉しいことなのか、朗らかに笑っている。
朝倉は、かつての大戦にて同じ部隊で戦ったサムライの一人だった。厳密に言えば、俺こと無刀流九代目当主、鋼音シキが刀として仕えたサムライ(名はリョウマ)と同じ部隊に所属していた、いわゆる戦友という奴である。
戦場において、父と兄、リョウマ以外の人間は仲間か敵かでしか認識、区別していなかった俺だったが、その三人以外で顔と名前を覚え、区別できていたのは朝倉だけだった。
三人と戦場で斬り合うこと以外には興味も関心もなかったが、奴に関しては覚えざるを得なかった。
何故ならサムライの間からは嫌われていたリョウマと唯一、友として接してくれたのが朝倉だけだったから。
……とはいっても今の今まで奴のことは忘れていたので、目に入る回数が多かったというだけで、過去の俺もたいして関心がなかったのだろう。
戦場で死なずに生き延びていたのか。
そうか、としか言いようがない。
奴と深く関わったのは俺の主だったリョウマであって、刀の俺ではない。久方ぶりに会えたからといって、俺にはコイツ相手に話すことなど特別にない。
それに今の俺には今日の飯代を得るための、マスターから頼まれた仕事がある。奴に構ってる場合じゃない。
「俺は用があるから。じゃあな」
早々に切り上げようとすると後ろから肩を掴まれた。
「シキ、待ってくれよ」
「触るな」
手で振り払って、睨みつけると朝倉は「まあまあ、落ち着いて」と手を振る。
「君はすごいと思わないのかい? 昔、戦場を共にした仲間と生きて会えたんだぞ。はい、そうですか、なんて、ひどいよ。いくら何でもあっさりしすぎじゃないか」
「俺はお前に用はない」
「そんな……」
「俺は今、仕事があって忙しいんだ」
仕事とはいっても、人を斬ることじゃないのが悲しい。用件があるのなら早く言ってくれと伝えると、朝倉は懐から二つに折り畳まれた紙切れを差し出してきた。
「そこに書かれている飯屋に来てくれないか」
「どういうつもりだ」
「シキ、もう一度いっておくが、これはすごい奇跡なんだ。俺達はお互いの生存を確認できないまま、あの戦場で生き別れてしまった。だというのに久方ぶりに、こうして再会できたんだからね」
「とっとと用件を言え。俺も暇じゃないんだ」
言わないなら帰ると背を向けると、奴は性懲りもなくまた人の肩を掴んでこようとするので避ける。いちいち人に触ろうとするな。うっとうしい。
「こうしてせっかく会えたんだ。二人で飯でも食べながら話をしないかい?」
「断る」
「どうして」
「金がない」
外食なんて金のかかるもの、文無し同然の俺にできるわけがない。そういうと、朝倉は「なんだそんなことか」と笑った。
「そこは安心してくれたまえ。実は最近いい収入を得られたから、金はあるんだよね。私が全部奢ってあげるよ」
遠慮しないでいっぱい頼んでくれ、と朝倉は胸を叩いた。
「私と君は、あの大戦で苦楽を共にした仲間じゃないか」
「…………」
矢鱈しつこい。
過去にそこまで話をした記憶はないし、俺の中では「面倒だ」という思いが一番先に出てくるが……飯を奢ってくれるという。
こんな機会、滅多にないのでは?
少しくらいは話を聞いてやってもいいかもしれない……と考え直して「わかった」と頷くと、朝倉は手を合わせて、よかったと笑う。
「絶対に来てくれ。すっぽかしはなしだからね。あ、なんなら指切りでもするかい?」
「嫌だ。断る。気持ち悪い」
「はは、冗談に決まっているだろ。全く君は人に対してものをはっきり言い過ぎだよもう少し他人の気持ちを考えたらどうだい?」
俺は無視した。
