第三話
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◆
「……うう」
目を覚ますと、見えるのはいつも見慣れているあのオンボロ宿の汚い天井……ではなかった。
「…………」
ゆっくりと体を起こしてみる。どうやら、今の今まで、俺は寝茣蓙で横になっていたらしい。
(どこだ……ここは?)
辺りを見回してみたが、さっぱり身に覚えのない場所だった。壁には換気用の大きなプロペラがはめこまれていて、くるくると回転している羽と羽の間から陽光が差し込んでいる。
今の時間帯は日中のようだ。周りに置いてあるものを見る限り、人が暮らしている生活感があった。ここは、誰かが寝泊まりしている宿か、家かなのだろう。だがそれよりも。
……なぜこんな見も知らない場所に俺はいる?
思い出そうとすると、部屋に近づいてくる気配があった。
(誰か、来る……)
俺は寝床から素早く移動して適当な物陰に身を隠す。少しすると入ってきたのは――工兵の格好をした男だった。飛行帽をかぶり、ゴーグルをつけている。更には刀を背負っていて、なぜか、柄頭にてるてる坊主がぶら下がっていた。
俺がさっきまで寝ていた場所にくると、おや、と呑気に首を傾げている。
「どちらへ……行かれたのでしょう?」
きょろきょろと首を回している隙に、俺は素早く相手の背後をとると、後ろから押し倒す。抵抗できないように、すかさず相手の腕をとり、相手の体を片膝で押さえつけると、首筋に手刀をあてた。
「お前、何者だ?」
「あ、貴方は……目覚めたんですね。よかった」
「…………」
「……ところで、えっと、あの、これは、どういう状況なのですか?」
「それはこっちの台詞だ。妙な真似をしたら斬るからな。答えろ。俺を一体どうする気だ?」
「いやいやいや、ちょ、ちょっと、ちょっと待ってください!」
「…………」
落ち着いて下さいと、男が声を上げる。これ以上、騒がれても面倒だと、首に添えた手刀を動かそうとしたが――、
「私はただ、道端で倒れていた貴方を運んできただけなんです」
と、気になるようなことを言った。俺が道端で倒れていた?
「……それ、本当か?」
「本当です。それに私は、貴方に危害を加える気はこれっぽっちもありませんよ」
そう言われても……簡単には信用できない。
警戒心を解くためなのか、俺がどんなに殺意を向けても、相手は、にこにこと笑みを浮かべていた。いや、違う……この工兵男、初めて視界に入った時から笑っている。
「…………」
「そんなに睨まないでください。貴方がどうして私の泊まっている宿で寝ていたのか――これまでの経緯をちゃんと説明しますから。なのでまずは、その殺気をおさめていただけませんか?」
「…………」
更に鋭く見据えるが……それでもなお、男は、にこにこと笑顔を崩さない。
観たところ、暗器となり得る武器は服の中には仕込まれていないようだが……。
「……下手な真似したら、斬るぞ」
「ご安心ください。何もしませんよ。お米の神様に向かって、誓います」
「…………わかった」
お米の神様とか意味の分からないことを言ってきたが……これ以上の問答は無意味だと思えたのは確かだ。
フウと息を吐くと、一旦男の上から退いて自由にした。コイツを斬るかどうかは、俺がここに連れてこられた話を聞いてから判断することにしよう。
◆◆◆◆
工兵姿の男は林田ヘイハチと名乗った。虹雅峡にて、日雇いの労働をして日々を過ごしている、しがないサムライだという。今日の仕事が終わって帰る道の途中で、俺を発見したらしい。
「いやあ、本当に驚きましたよ。まさか、宿まで帰っている途中の道端で行き倒れている人がいるなんて」
「……行き倒れ? ……俺が?」
「はい、そうです。覚えていませんか?」
「…………」
俺が一体、何をしていたのか、やっと思い出した。俺もヘイハチのように、日雇いの(可能であれば人斬りもしくは体を動かす)仕事はないだろうか、と虹雅峡を駆け回っていたのだった。
これまで小食で済ませていたが、流石に貧乏飯(豆とか乾物とか)と水だけでは空腹に耐えるのにも限界がやってきていた。
腹が減っては戦はできぬ。剣の鍛錬もまた然り。
だが十日以上もまともな飯を食ってなかったことが祟ったのか。(というか、考えられるのはそれしかない……。)自己管理がなっていなかった故に道端で倒れてしまったのだ。
我ながら、何と情けない……。
「診たところ――女性でしたので、私を含めて男ばかりが泊まっている宿に運ぶのは少々迷いましたが……あのまま放ってはおけません。――なので、宿で休んでもらっていた、というわけです」
「……悪かった」
「いいんですよ。シキ殿が目覚めて何よりです」
「本当に悪かった。休ませてくれたどころか、こんな、握り飯までくれて――」
手元のおむすびを見る。これはきっとヘイハチが日雇いの仕事をし、得たお金で買った食べ物だ。そんな汗水たらして、苦労して得たものを見ず知らずの、宿の近くで倒れていただけの、俺に分け与えてくれたのだ。
――何とも……かたじけない。
虹雅峡に何日間か過ごして気づいたことだが、ここに住んでいる人々は大抵、他人に対して冷たい。
以前、第三階層を散策中の際に、通りを歩いていた婆さんがひったくりに遭い、俺はその盗人を倒したことがあった。
その時は偶然にも、俺は犯行現場の近くにいて、逃走中の道の真ん中を歩いていた。盗人が「邪魔だ」と襲い掛かってきたから、問答無用で斬った。
第四階層でマスターから頼まれた買い物をしていた時に、暴漢達に脅されている親子がいた。
この時も偶々で、俺が通った道で起きた出来事だった。ならず者達は「文句あるのか」と絡んできたので、情け無用で斬った。
この第三階層と第四階層での出来事の際、多人数ではなかったが、周りには俺以外の人々がいたのだ。だが彼らは皆、見ない、聞かない、知らない、という態度をとって、誰一人として、困って助けを求めている人に手を差し伸べようとする者はいなかった。
サムライのように――刀を、武器を持っていないことが動けない原因としてあるかもしれないが、それでも、数の上では圧倒的に民の方が多いのだから、皆で大声を上げるとか、警邏を呼ぶとか、何かしらできることがあるかもしれないというのに。
被害に遭っているのが「己ではないから」「自分には関係のないことだから」と、それでよかったと思っているのだろうか。
そんな他人に対して冷たい人々が多くいる虹雅峡にも、少なくとも、お人好しはいるようである。
ヘイハチはそのお人好しの一人に数えられそうだ。工兵サムライは、米がいかに素晴らしい食べ物なのか、について蘊蓄を語っている。本当に楽しそうだ。
「おにぎり、足りていますか? もう一つありますよ。いかがですか?」
「いや、これ一つで十分だ。……感謝する」
「いえいえ。シキ殿がお元気になって、何よりです」
「助けてくれた上に、タダ飯まで貰ってしまった礼として、何かお返しをしないとな……」
「そんな――お礼なんていりませんよ。貴方のお気持ちだけで、結構ですよ」
「そうはいかない。一宿一飯の恩義だ。それに、お気持ち、じゃあ腹は膨れないだろうが」
「それは、そうですが……どうか、無理はせずに」
「問題ない。気にするな」
――お礼、か……。
手持ちはないので、お返しとなると「仕事を紹介する」くらいが関の山か。逆にこちらが食える程度に、金が手に入る仕事を紹介して欲しいくらいなのだが――、
「……あった」
「シキ殿?」
依頼できそうな仕事があった。疑問符を浮かべている工兵サムライに俺は提案してみる。
「ヘイハチ、薪割りは得意か?」
◆◆◆◆
「シキ、お前にしては腕のいい奴を連れてきたネ。関心ヨ」
「そんなにいうなら、お礼として紹介料をくれないか」
「そんなもんねえアルヨ。馬鹿」
「ケチ」
「世の中、そんなに甘くはないネ。それにしてもあのニコニコザムライ、とってもいいアルネ。お前より薪割りは上手いし、有能ネ」
「お前より、の一言は余計だ、馬鹿マスター」
翌日。俺は朝早くから虹雅峡の階層を登り、宿までヘイハチを迎えに行って、マスターのところまで連れていった。その理由は――マスターから頼まれていた薪割りの仕事をヘイハチに手伝ってもらうためだ。
一体何に使うのかは知らないが、大量の薪が欲しいらしく、一人でやるには丸一日以上かかってしまう数だった。(頼んでいる割には、マスターは一ミリも手伝う気はないらしい) 薪割りで太刀筋の乱れを把握し、整えるのも剣の修行としてアリかと思ったけども、ずっとやり続けるのは飽きが来るし、骨も折れる。
ならば一人よりだったら二人でやる方が早く終わるだろう、ということで――行き倒れていた自分を助けてくれたことの恩返しも兼ねて、ヘイハチを誘うことにした。
オンボロ宿に到着後、さっそく宿の近くでヘイハチと二人、薪割りを始める。
「ほいっと」
ヘイハチは用意されていた平たい丸太の上に薪を立てると、背負った刀を抜いて、真っ直ぐに振り下ろした。パカン、と小気味の良い音があたりに響く。
確かにマスターの言うとおり、ヘイハチは薪割りがすごく上手い。割られて落ちた薪の一つを取って側面を見てみると、一太刀に乱れはなく、とても綺麗だった。
――これは負けていられない。
俺も手刀を振り下ろして、薪をパカリと割った。うん……まずまずの出来だ。
「ヘイハチ、お前すごいな。あんなにあった薪がどんどん、綺麗に割れていっているぞ」
「いやいや、シキ殿の方がすごいですよ。道具も使わずに手刀で薪を割るなんて――簡単にできることではありません」
「そうか?」
刀を使うことができない鋼音家では普通のことだった。だから「すごい」と言われることに違和感を覚える。
う〜ん、と首を傾げている俺に、ヘイハチは「そうですよ」と頷く。
「それに私なんて……サムライの魂を、刀を薪割りの道具なんかに使っているのですから」
「いいんじゃないか。別に」
「……いいんですか?」
「ああ。俺も人を斬るための手刀を薪割りに使っているし、それに何となくだが、薪を割っている方がヘイハチらしい気がする」
「私、らしいですか……」
「うん。お前らしいと思う」
確かに人を斬ることが刀の存在理由だ。だがヘイハチの場合は、斬るモノが『人』ではなくても、薪であってもいい気がする。人を斬るよりよっぽど楽しそうに見える。
「それにマスターのいう通り、ヘイハチは本当に薪割りが上手いしな」
「そんな、たいしたことないですよ」
「謙遜することないぞ。お前をここに連れてきて、俺は本当に良かったと思ってる。薪割りも早く終わりそうだ」
「……ありがとうございます。私も、仕事を紹介していただいて、本当に助かりました」
「どういたしまして、だっと」
パカン。
しばらくの間、小気味の良い音が宿の前で響いていた。
◆◆◆◆
やるのが一人だけだったら丸一日以上はかかっただろう、薪割りはヘイハチと一緒にやったおかげで、その日の夕方には全て完了。
俺とヘイハチは、マスターが用意した小さな休憩所で、座布団に座って、手拭いで汗を拭っていた。
時折、仕事の様子を見に来ては、進捗状況を確認していたマスターは積み上げられた薪の山を見上げて「いいネ」と感慨深げに頷いている。
山を作り上げている薪は可能な限り、長さを切り揃えられているため、見た目は左右対称とバランスよく、三角形で築き上げられていた。
ヘイハチの性格による正確さが如実に表れている。いかに剣筋を乱すことなく手刀で割るか――そればかりを考えて、斬った後の薪の処理については考えてはいなかった――無造作にやっていた俺には到底、真似できない。
「おサムライ様、今日は本当に助かったアルヨ。ありがとうアルネ」
「恐縮です。こちらこそ、仕事を与えてくださって、ありがとうございました」
朝早くから夕方までの労働によって疲れているだろうに……ヘイハチはわざわざ立ち上がって、姿勢を正してから、頭を下げている。マスター相手にそこまで丁寧にする必要はないと思うが……何とも腰が低いサムライだ。
「おサムライ様で良かったら、また必要になった時、薪割り頼んでもいいアルカ?」
「よいのですか? それは是非、願ってもないことですが……」
大丈夫ヨ、とマスターは自分の胸を叩いた。
「給金は弾むアルネ。ワタシ、出し惜しみなんてしないヨ」
これはお礼ネ、とマスターから渡された封筒を、ヘイハチは低頭して、両手で受け取って――、
「えええええ」
と、驚きの声を上げていた。俺も立ち上がって、どうした、と声をかける。
「まさか……実は金額が少なかったのか? まあ、そうだろうな。マスターはケチだからな」
「オイ」
「いいえ、違います。逆です。これ……多すぎやしませんか?」
「そうなのか? その中身、俺も見てもいいか?」
「ええ。どうぞ」
「馬鹿シキ、言っておくアルが自分も欲しいからって、こっそり抜くなヨ」
「誰が抜くか」
スリや泥棒じゃあるまいし失礼な奴だ。というか、人の名前に馬鹿をつけるな。
マスターを睨みつつ、ヘイハチから封筒を受け取ると、中に入っている金額を見て――、
「…………」
俺は言葉を失った。仕事に貴賤はないというが……薪割りの報酬にしてはいくらなんでも多すぎないか?
飢えないために日々考案している俺の貧乏飯が、一年分以上は食べられそうな額がその中にあった。何も言えないでいる俺にヘイハチはすごいですよね、と興奮気味に言う。
「米俵十俵なんて、余裕で買えてしまいますよ」
「な〜に。このくらい、たいしたことないアルネ」
マスターは余裕気のある顔でくるくるとした口髭を指でいじる。
「おサムライ様の腕前ごと買ったつもりで出したからネ。その金額で足りないのならもっと上げてもいいヨ。おサムライ様でよければ、ワタシの宿の専属で薪割り職人になって欲しいくらいアル」
「そ、そこまで、ですか……」
「そこまでアルネ」
「…………」
第六階層のオンボロ宿のマスターのくせに、なぜこのような大金を出すことができるのだろうか。もともと持っていたものなのか、商いの儲けで生み出したものなのか。
方法は分からないが――少なくともこの幽霊屋敷のような宿の経営だけでは、これほどまでの大金を手にすることができないのは確実だ。
何故俺にはくれないのか、と文句を言いたいところだが……とはいえ、ヘイハチに一つ仕事ができたことは喜ばしい。
「よかったな、ヘイハチ」
そう声をかけると「いやあ〜」と首を振り、後ろ頭をかく。
「ありがたい、ことではありますが……この金額は、私には身に余るものです。すみませんが、半分、お返ししてもいいですか?」
「遠慮するなヨ。全部受け取るネ」
「いえ、しかし、多すぎます」
「素直に受け取るアルヨ」
「いえいえ、半分はお返します」
「…………」
(なんだか、終わりそうにないな……)
報酬の半分を返すか返さないかで、ヘイハチとマスターが押し問答をしている中、だったら――と俺は手を上げる。
「いい案がある」
「是非ともお聞かせてください、シキ殿」
「その半分、俺にくれ」
「そんなもん、駄目に決まっているダロ!」
「いてっ」
マスターが近くに落ちていた棒を掴んで、振り下ろして、俺の頭に直撃させる。攻撃をすることへの躊躇も、手加減も一切ない。力いっぱいに、思いっ切りに、繰り出される打撃。
気を抜いていたら昏倒しているだろうが、襲って来ることは気配で分かっていたから、受けると覚悟していれば、大した痛みはない。反対に振られた棒が跳ね返ってきた衝撃に耐えきれず、ポッキリと折れていた。
「平然と受けるなんて、コイツ……ほんっと、気に食わないアル」
「何をする」
「そのお金は、おサムライ様のものネ。お前は今回、タダ働きアルヨ」
「ヘイハチを紹介したのは誰だ。少しくらいよこせ」
「絶対、嫌アル!」
互いに一歩も譲ることなく、睨み合っていると、ヘイハチが慌てた様子で「ちょっと!」と間に入ってきた。
「お二人とも、喧嘩はやめてください。マスターさん、やはり私にはこの報酬は多すぎます。半分はお返しますので、それをシキ殿に給金としてあげてください」
「いくらおサムライ様が良いっていっても、駄目ネ。コイツにあげるくらいなら、ワタシの酒代にするヨ」
「なら、その酒で酔っ払って上の階層から落ちろ。そしてそのままくたばれ」
「シキ殿! それより、大丈夫ですか? 頭にお怪我は?」
「別に平気だ。気にしなくていい」
「そ、そうですか……?」
(いい歳をした大人なのに)子どものような悪口の応酬も(マスターからの一方的な)殴り合いも、俺とマスターにとっては日常茶飯事なことなのだが。
……そういえば、他人に見られるのは初めてか。
戸惑っている工兵サムライに「いつものやりとり」と説明をしたが、「ははは……」と渇いた笑い声を上げる、という微妙な反応をされてしまった。
何だ、コイツら……と引かれてしまったのかもしれない。ヘイハチのことを気に入った手前、少しだけ残念な気持ちになっている俺をマスターは気をかけることも、気を遣かうこともない。
別の仕事を紹介してやるからそれで稼いでこいアル、とか言っている。
(自慢のくるくる髭、引きちぎってやろうか)
舌打ちする俺を無視して、くるくる髭の馬鹿はヘイハチの方を向くと仕方ないネ、と言って、止む無くヘイハチから報酬の半分を返されていた。
「今後、薪割りをする必要があったら、ワタシはおサムライ様にお願いするアルヨ」
「いやはや……本当に恐縮です。是非お願いいたします」
「依頼する時は、コイツをお迎え役として向かわせるネ。よろしくヨ」
「えっ?」
「おい、ちょっと待て。何を勝手なことを――」
「何ダヨ。お前いつも暇ダロ」
「暇じゃない。鍛錬をしているだろ」
「だ~か~ら~、それを『暇』と世間はいうアルヨ」
「世間とか知るか。人には言っていいことと悪いことがあるの、を知らないのかお前は」
「何だヨ。おサムライ様迎えに行くこと、そんなに嫌アルカ?」
あんなに楽しそうにしていたくせにヨ〜とマスターは口をニヤつかせる。
「愛想の悪い、いつものお前はどこへいったアルカ?」
「マスター相手にするときだけだ」
「進み具合を見に来た時も、随分とイチャイチャしていたじゃねえアルカ。うん?」
「…………」
人を面白半分にからかい、ニヤニヤとしているマスター。
今すぐこの場で目の前の奴を斬り刻みたいという衝動に駆られたが……我慢できた俺は偉い。
確かにヘイハチは穏やかで話しやすいし、刀も大事に扱っている。
マスターと違って、文句も嫌味も――人を不快にする言葉を言わないから、心を落ち着かせて、作業を進めることができていた。一緒にいても心地が悪くなかったのは間違いではない。
……イチャイチャ?していた、とか意味の分からないことはともかくとして。
「ヘイハチを迎えに行くことに関しては――俺も別にいい」
「え? ほ、本当にいいのですか?」
米侍は何故かあたふたとし始めた。どうしたんだ?と聞いてみると、少し赤らんだ頬を指で搔いた。
「いいですか。シキ殿、貴方は女性ですよ」
「まあそうだな」
「その、私の利用している宿はむさい男ばかりですから……あらぬ誤解をされてしまって、貴方に迷惑がかからないかと思いまして」
「あらぬ誤解? 何だ、それは?」
「そ、それは……いえ、何でも……ありません」
すみません……と頭を下げている工兵サムライの肩を、マスターが横からポンと叩くと「やめといた方がいいネ」と首を振った。
「悪いことは言わないネ。コイツは面倒くさい奴アルヨ。もし良かったら、おサムライ様に合う良い女、ワタシ紹介するアル。お安くしとくヨ」
「それはご遠慮いたします。それとお言葉ですが――シキ殿はいい人ですよ、マスター殿」
「そうアルカ?」
「そうですよ。知り合って間もない私のために、仕事を紹介してくれました。本当に助かりました。いただいたお金でしばらくは食いつないでいけそうですよ」
「人がいいアルナ~、おサムライ様は」
「いえいえ、そんな……」
「ワタシ少し心配になるヨ。そんなに優しいと――誰かに裏切られたり、騙されたりとかしないアルカ?」
「…………」
(……ん?)
何だろう。ヘイハチの纏っている空気が少し変わったような……俺の気のせいか?
「虹雅峡はアキンドが作った街だから戦はないアル。だけど……人を騙して金品を巻き上げたり、人に暴力を振るったり――よくない奴、いっぱい潜んでいるアルヨ。気を付けるヨロシ、おサムライ様」
「ええ……そうですね……」
「そうアルヨ。例えば――黒いコートで蒼い眼の奴とか」
「ほっとけ」
「ワタシ誰もお前なんて言っていないアルヨ。心当たりでもあるアルカ~?」
「斬るぞ」
「おお。怖い、怖いヨ~」
と言いながら、宿の中へ逃げるかと思ったら、俺のところに近寄ってきて――、
「ちょっと、こっち来いアル」
と小声で言い、強引に俺の腕を掴んで引っ張ろうとしてきたから、ひょいと躱してやる。
「おい、避けるなヨ」
「なんで」
「少し、話があるんだヨ。いいからついてこいアル」
「……分かったよ。ったく」
ヘイハチに、すぐ戻ってくるからと伝えてから、そそくさと移動するマスターの後をついていく。休憩所から離れ、宿の近くに到着する。
すぐに話をするのかと思いきや。マスターは、
「…………」
と普段の奴からは考えられない暗い顔になり、だんまりしている。無理やり人を連れてきたくせになかなか話そうとしなかった。
(仕方がない。俺から話を促してやろう)
「おい、どうした、マスター」
「ワタシ……悪いこと言ってしまったかもしれないアル」
「何だよ、悪いことって」
「お前、あのおサムライ様の顔――見たアルカ」
「ヘイハチがどうかしたのか」
マスターは「ああ」と頷く。
「あれは、人に裏切られたことがある顔ネ」
「…………」
そう聞いて、俺は確信する。ヘイハチとマスターが話をしていた時に、一瞬だけヘイハチの纏う空気が変わったのは……俺の気のせいではなかった。
「しかも相当……重いアルネ、アレは。あんなにニコニコと、笑顔でいるのは辛い記憶を隠そうとしているため、なのかもしれないアル」
「……そうか」
「――ってことでシキ、お前が何とかしろアル」
「はい?」
「せっかく、腕の良い薪割り職人が――人材が見つかったのに、もう二度と来てくれなくなるのは、ワタシ困るヨ」
そう言うや否や、さっきの暗い顔から一転、いつもの顔になるとマスターは、さっきヘイハチに返金された半分の報酬金を俺に手渡してきた。
「おい、いきなりどうした。というかこの金はなんだ」
「今回だけ特別ネ。ちゃんとやれヨ」
ワタシは他に仕事があるからヨ、とマスターは逃げるようにして宿の中へと急ぎ、戻っていった。
「…………」
無理矢理に持たされた手元の金を見て、俺は、はあ、と溜息を吐く。一体、俺にどうしろっていうんだよ。
◆◆◆◆
休憩所に戻ると、声には出さなかったが思わず、驚いてしまった。ヘイハチが、ここを離れる前と同じ体勢のまま、突っ立っていたからだ。
「…………」
(それだと、とれる疲れもとれないだろうに)
「――ヘイハチ」
ちゃんと休めよ、と声をかけようとした丁度その時、ヘイハチは緩慢な動作で振り向いて、シキ殿と俺の名を呼んだ。
「……シキ殿は、裏切りに遭ったこと、ありますか?」
沸々と湧き出てくる感情を押し殺しているのか、酷く辛そうな声音。あのにこにことしていた恵比寿のような顔が、悲痛な表情になっている。
「――裏切りって、どう思いますか?」
「…………」
忘れたい苦い記憶や、忘れられない暗い過去を一つも持たない人なんて一人もいない。
長きにわたって続いた空の戦では、数多くのサムライ達が死んだが、生き残った者達には――死の代わりに一生消えることのない痕を残した。体には傷を、心には疵を、残した。
服装からして、ヘイハチがあの戦で工兵として従軍していたことは間違いない。戦場で裏切りによる事件が起こってしまい、それがヘイハチの心に瑕痕をつけて、戦後の今になっても彼の心を苦しめ続けているのだろう。
醸し出す気配から「大丈夫か」なんて声はかけられないし、かけてはいけない。重く、苦しい闇を抱えているヘイハチに俺がしてやれることは。
「ヘイハチ」
「……はい」
「飯を食べにいかないか」
「え?」
「奢ってやるよ。行こうぜ」
「シキ殿?」
戸惑っているヘイハチの腕を取ると、上の階層へ上がるための昇降機へと向かって歩いていった。半ば強引に行動を移したこともあって、抵抗されるかと思ったが、幸いにも連行を拒否されることはなかった。
◆◆◆◆
第三階層にある飲食店に俺はヘイハチを連れて中に入った。代金は、先ほどマスターから託された金をありがたく使わせてもらった。
どうやら米が本当に、相当に好きなようで、店がすすめてくれた手作りおにぎりをとても美味しそうに頬張っている。
ヘイハチの食べている様子に感化されてか、近くの席についていた親子が同じ物を頼んでいる声が聞こえてきた。
飯で人の機嫌を回復させようとするなんて――姑息な手段かもしれないが、あのまま、暗く重苦しい空気の中にいるよりはマシだろう。俺は卓に置かれている握り飯の入った二つの包みを、正面に座るヘイハチへと差し出す。
「ヘイハチ、これも食べていいぞ」
「えっ、いいですか? それだとシキ殿の分が」
「俺は一つで十分だ。遠慮せずに食べろ」
「ありがとうございます。いただきますね」
「ああ」
後は帰って就寝するだけであり、たくさん栄養を摂取する必要はないというのもあるがここにきた目的はヘイハチのため、だから。
「ごちそうさまでした」
「美味かったか」
「ええ。本当にお米は最高ですね。いくらでも食べられますよ」
「そうか」
一通り食べ終わった後で、満腹感で幸せになっているヘイハチに、俺は「さっきの、裏切ることについてだが――」と話を切り出す。ピクリと反応し、俺の方を見遣るヘイハチ。
辛そう……ではあるが、先ほどまでの暗さはなかったことに安堵する。
「……正直、分からない。俺には人から裏切られた、人を裏切った、という経験がないから」
戦場において、俺はただ一本の刀として、無刀の剣士として――敵側にいた生身のサムライも、機械化したサムライも、数えることを忘れる程、ただ斬り続けて、ただ殺し続けただけだ。
父上からも、刀は斬ることだけを考えろ。 他は些事なことだ、と教えられた。
ヘイハチが裏切られたのか、それとも裏切ったのか。分からないが、どちらにせよ――『裏切り』という行為そのものに、苦しんでいる。裏切りによる苦しみはヘイハチだけのもの。
その苦しみをどうするか、どうしたいかはヘイハチ次第だ。だから――己を責めるな、といった慰めることも、切り替えていけ、といった励ますことも、する気は更々ない。それをする意味もないだろう。
「そう、ですか……」
力なく言って顔を俯かせるヘイハチに、「だが――」と俺は続ける。
「辛くて、苦しくて、本当にどうしようもなくなった時は俺を呼べ。すぐに駆けつけてやる。お前の話、聴いてやる」
「…………」
話したところで決して楽になれるものではないが、それでも――黙ったまま一人で抱え込むよりはきっといいはずだ。
「そうやって誰かに話すことで、溜まったものを少しでも晴らせばいい。それが俺にできる――最大限だ」
「…………」
ヘイハチは顔を伏せたまま、何も言わなかった。俺も無言で相手の返答を待つ。沈黙の時間が流れて――、
しばらくすると「シキ殿」と俺の名を呼んだ。
「気を遣わせてしまって……すみません」
「気にするな」
「……ですが、本当にありがとうございます」
ゆっくりと――上げたヘイハチの顔は初めて出会った時と同じ、にこにことした恵比寿顔へと戻っていた。
「……うう」
目を覚ますと、見えるのはいつも見慣れているあのオンボロ宿の汚い天井……ではなかった。
「…………」
ゆっくりと体を起こしてみる。どうやら、今の今まで、俺は寝茣蓙で横になっていたらしい。
(どこだ……ここは?)
辺りを見回してみたが、さっぱり身に覚えのない場所だった。壁には換気用の大きなプロペラがはめこまれていて、くるくると回転している羽と羽の間から陽光が差し込んでいる。
今の時間帯は日中のようだ。周りに置いてあるものを見る限り、人が暮らしている生活感があった。ここは、誰かが寝泊まりしている宿か、家かなのだろう。だがそれよりも。
……なぜこんな見も知らない場所に俺はいる?
思い出そうとすると、部屋に近づいてくる気配があった。
(誰か、来る……)
俺は寝床から素早く移動して適当な物陰に身を隠す。少しすると入ってきたのは――工兵の格好をした男だった。飛行帽をかぶり、ゴーグルをつけている。更には刀を背負っていて、なぜか、柄頭にてるてる坊主がぶら下がっていた。
俺がさっきまで寝ていた場所にくると、おや、と呑気に首を傾げている。
「どちらへ……行かれたのでしょう?」
きょろきょろと首を回している隙に、俺は素早く相手の背後をとると、後ろから押し倒す。抵抗できないように、すかさず相手の腕をとり、相手の体を片膝で押さえつけると、首筋に手刀をあてた。
「お前、何者だ?」
「あ、貴方は……目覚めたんですね。よかった」
「…………」
「……ところで、えっと、あの、これは、どういう状況なのですか?」
「それはこっちの台詞だ。妙な真似をしたら斬るからな。答えろ。俺を一体どうする気だ?」
「いやいやいや、ちょ、ちょっと、ちょっと待ってください!」
「…………」
落ち着いて下さいと、男が声を上げる。これ以上、騒がれても面倒だと、首に添えた手刀を動かそうとしたが――、
「私はただ、道端で倒れていた貴方を運んできただけなんです」
と、気になるようなことを言った。俺が道端で倒れていた?
「……それ、本当か?」
「本当です。それに私は、貴方に危害を加える気はこれっぽっちもありませんよ」
そう言われても……簡単には信用できない。
警戒心を解くためなのか、俺がどんなに殺意を向けても、相手は、にこにこと笑みを浮かべていた。いや、違う……この工兵男、初めて視界に入った時から笑っている。
「…………」
「そんなに睨まないでください。貴方がどうして私の泊まっている宿で寝ていたのか――これまでの経緯をちゃんと説明しますから。なのでまずは、その殺気をおさめていただけませんか?」
「…………」
更に鋭く見据えるが……それでもなお、男は、にこにこと笑顔を崩さない。
観たところ、暗器となり得る武器は服の中には仕込まれていないようだが……。
「……下手な真似したら、斬るぞ」
「ご安心ください。何もしませんよ。お米の神様に向かって、誓います」
「…………わかった」
お米の神様とか意味の分からないことを言ってきたが……これ以上の問答は無意味だと思えたのは確かだ。
フウと息を吐くと、一旦男の上から退いて自由にした。コイツを斬るかどうかは、俺がここに連れてこられた話を聞いてから判断することにしよう。
◆◆◆◆
工兵姿の男は林田ヘイハチと名乗った。虹雅峡にて、日雇いの労働をして日々を過ごしている、しがないサムライだという。今日の仕事が終わって帰る道の途中で、俺を発見したらしい。
「いやあ、本当に驚きましたよ。まさか、宿まで帰っている途中の道端で行き倒れている人がいるなんて」
「……行き倒れ? ……俺が?」
「はい、そうです。覚えていませんか?」
「…………」
俺が一体、何をしていたのか、やっと思い出した。俺もヘイハチのように、日雇いの(可能であれば人斬りもしくは体を動かす)仕事はないだろうか、と虹雅峡を駆け回っていたのだった。
これまで小食で済ませていたが、流石に貧乏飯(豆とか乾物とか)と水だけでは空腹に耐えるのにも限界がやってきていた。
腹が減っては戦はできぬ。剣の鍛錬もまた然り。
だが十日以上もまともな飯を食ってなかったことが祟ったのか。(というか、考えられるのはそれしかない……。)自己管理がなっていなかった故に道端で倒れてしまったのだ。
我ながら、何と情けない……。
「診たところ――女性でしたので、私を含めて男ばかりが泊まっている宿に運ぶのは少々迷いましたが……あのまま放ってはおけません。――なので、宿で休んでもらっていた、というわけです」
「……悪かった」
「いいんですよ。シキ殿が目覚めて何よりです」
「本当に悪かった。休ませてくれたどころか、こんな、握り飯までくれて――」
手元のおむすびを見る。これはきっとヘイハチが日雇いの仕事をし、得たお金で買った食べ物だ。そんな汗水たらして、苦労して得たものを見ず知らずの、宿の近くで倒れていただけの、俺に分け与えてくれたのだ。
――何とも……かたじけない。
虹雅峡に何日間か過ごして気づいたことだが、ここに住んでいる人々は大抵、他人に対して冷たい。
以前、第三階層を散策中の際に、通りを歩いていた婆さんがひったくりに遭い、俺はその盗人を倒したことがあった。
その時は偶然にも、俺は犯行現場の近くにいて、逃走中の道の真ん中を歩いていた。盗人が「邪魔だ」と襲い掛かってきたから、問答無用で斬った。
第四階層でマスターから頼まれた買い物をしていた時に、暴漢達に脅されている親子がいた。
この時も偶々で、俺が通った道で起きた出来事だった。ならず者達は「文句あるのか」と絡んできたので、情け無用で斬った。
この第三階層と第四階層での出来事の際、多人数ではなかったが、周りには俺以外の人々がいたのだ。だが彼らは皆、見ない、聞かない、知らない、という態度をとって、誰一人として、困って助けを求めている人に手を差し伸べようとする者はいなかった。
サムライのように――刀を、武器を持っていないことが動けない原因としてあるかもしれないが、それでも、数の上では圧倒的に民の方が多いのだから、皆で大声を上げるとか、警邏を呼ぶとか、何かしらできることがあるかもしれないというのに。
被害に遭っているのが「己ではないから」「自分には関係のないことだから」と、それでよかったと思っているのだろうか。
そんな他人に対して冷たい人々が多くいる虹雅峡にも、少なくとも、お人好しはいるようである。
ヘイハチはそのお人好しの一人に数えられそうだ。工兵サムライは、米がいかに素晴らしい食べ物なのか、について蘊蓄を語っている。本当に楽しそうだ。
「おにぎり、足りていますか? もう一つありますよ。いかがですか?」
「いや、これ一つで十分だ。……感謝する」
「いえいえ。シキ殿がお元気になって、何よりです」
「助けてくれた上に、タダ飯まで貰ってしまった礼として、何かお返しをしないとな……」
「そんな――お礼なんていりませんよ。貴方のお気持ちだけで、結構ですよ」
「そうはいかない。一宿一飯の恩義だ。それに、お気持ち、じゃあ腹は膨れないだろうが」
「それは、そうですが……どうか、無理はせずに」
「問題ない。気にするな」
――お礼、か……。
手持ちはないので、お返しとなると「仕事を紹介する」くらいが関の山か。逆にこちらが食える程度に、金が手に入る仕事を紹介して欲しいくらいなのだが――、
「……あった」
「シキ殿?」
依頼できそうな仕事があった。疑問符を浮かべている工兵サムライに俺は提案してみる。
「ヘイハチ、薪割りは得意か?」
◆◆◆◆
「シキ、お前にしては腕のいい奴を連れてきたネ。関心ヨ」
「そんなにいうなら、お礼として紹介料をくれないか」
「そんなもんねえアルヨ。馬鹿」
「ケチ」
「世の中、そんなに甘くはないネ。それにしてもあのニコニコザムライ、とってもいいアルネ。お前より薪割りは上手いし、有能ネ」
「お前より、の一言は余計だ、馬鹿マスター」
翌日。俺は朝早くから虹雅峡の階層を登り、宿までヘイハチを迎えに行って、マスターのところまで連れていった。その理由は――マスターから頼まれていた薪割りの仕事をヘイハチに手伝ってもらうためだ。
一体何に使うのかは知らないが、大量の薪が欲しいらしく、一人でやるには丸一日以上かかってしまう数だった。(頼んでいる割には、マスターは一ミリも手伝う気はないらしい) 薪割りで太刀筋の乱れを把握し、整えるのも剣の修行としてアリかと思ったけども、ずっとやり続けるのは飽きが来るし、骨も折れる。
ならば一人よりだったら二人でやる方が早く終わるだろう、ということで――行き倒れていた自分を助けてくれたことの恩返しも兼ねて、ヘイハチを誘うことにした。
オンボロ宿に到着後、さっそく宿の近くでヘイハチと二人、薪割りを始める。
「ほいっと」
ヘイハチは用意されていた平たい丸太の上に薪を立てると、背負った刀を抜いて、真っ直ぐに振り下ろした。パカン、と小気味の良い音があたりに響く。
確かにマスターの言うとおり、ヘイハチは薪割りがすごく上手い。割られて落ちた薪の一つを取って側面を見てみると、一太刀に乱れはなく、とても綺麗だった。
――これは負けていられない。
俺も手刀を振り下ろして、薪をパカリと割った。うん……まずまずの出来だ。
「ヘイハチ、お前すごいな。あんなにあった薪がどんどん、綺麗に割れていっているぞ」
「いやいや、シキ殿の方がすごいですよ。道具も使わずに手刀で薪を割るなんて――簡単にできることではありません」
「そうか?」
刀を使うことができない鋼音家では普通のことだった。だから「すごい」と言われることに違和感を覚える。
う〜ん、と首を傾げている俺に、ヘイハチは「そうですよ」と頷く。
「それに私なんて……サムライの魂を、刀を薪割りの道具なんかに使っているのですから」
「いいんじゃないか。別に」
「……いいんですか?」
「ああ。俺も人を斬るための手刀を薪割りに使っているし、それに何となくだが、薪を割っている方がヘイハチらしい気がする」
「私、らしいですか……」
「うん。お前らしいと思う」
確かに人を斬ることが刀の存在理由だ。だがヘイハチの場合は、斬るモノが『人』ではなくても、薪であってもいい気がする。人を斬るよりよっぽど楽しそうに見える。
「それにマスターのいう通り、ヘイハチは本当に薪割りが上手いしな」
「そんな、たいしたことないですよ」
「謙遜することないぞ。お前をここに連れてきて、俺は本当に良かったと思ってる。薪割りも早く終わりそうだ」
「……ありがとうございます。私も、仕事を紹介していただいて、本当に助かりました」
「どういたしまして、だっと」
パカン。
しばらくの間、小気味の良い音が宿の前で響いていた。
◆◆◆◆
やるのが一人だけだったら丸一日以上はかかっただろう、薪割りはヘイハチと一緒にやったおかげで、その日の夕方には全て完了。
俺とヘイハチは、マスターが用意した小さな休憩所で、座布団に座って、手拭いで汗を拭っていた。
時折、仕事の様子を見に来ては、進捗状況を確認していたマスターは積み上げられた薪の山を見上げて「いいネ」と感慨深げに頷いている。
山を作り上げている薪は可能な限り、長さを切り揃えられているため、見た目は左右対称とバランスよく、三角形で築き上げられていた。
ヘイハチの性格による正確さが如実に表れている。いかに剣筋を乱すことなく手刀で割るか――そればかりを考えて、斬った後の薪の処理については考えてはいなかった――無造作にやっていた俺には到底、真似できない。
「おサムライ様、今日は本当に助かったアルヨ。ありがとうアルネ」
「恐縮です。こちらこそ、仕事を与えてくださって、ありがとうございました」
朝早くから夕方までの労働によって疲れているだろうに……ヘイハチはわざわざ立ち上がって、姿勢を正してから、頭を下げている。マスター相手にそこまで丁寧にする必要はないと思うが……何とも腰が低いサムライだ。
「おサムライ様で良かったら、また必要になった時、薪割り頼んでもいいアルカ?」
「よいのですか? それは是非、願ってもないことですが……」
大丈夫ヨ、とマスターは自分の胸を叩いた。
「給金は弾むアルネ。ワタシ、出し惜しみなんてしないヨ」
これはお礼ネ、とマスターから渡された封筒を、ヘイハチは低頭して、両手で受け取って――、
「えええええ」
と、驚きの声を上げていた。俺も立ち上がって、どうした、と声をかける。
「まさか……実は金額が少なかったのか? まあ、そうだろうな。マスターはケチだからな」
「オイ」
「いいえ、違います。逆です。これ……多すぎやしませんか?」
「そうなのか? その中身、俺も見てもいいか?」
「ええ。どうぞ」
「馬鹿シキ、言っておくアルが自分も欲しいからって、こっそり抜くなヨ」
「誰が抜くか」
スリや泥棒じゃあるまいし失礼な奴だ。というか、人の名前に馬鹿をつけるな。
マスターを睨みつつ、ヘイハチから封筒を受け取ると、中に入っている金額を見て――、
「…………」
俺は言葉を失った。仕事に貴賤はないというが……薪割りの報酬にしてはいくらなんでも多すぎないか?
飢えないために日々考案している俺の貧乏飯が、一年分以上は食べられそうな額がその中にあった。何も言えないでいる俺にヘイハチはすごいですよね、と興奮気味に言う。
「米俵十俵なんて、余裕で買えてしまいますよ」
「な〜に。このくらい、たいしたことないアルネ」
マスターは余裕気のある顔でくるくるとした口髭を指でいじる。
「おサムライ様の腕前ごと買ったつもりで出したからネ。その金額で足りないのならもっと上げてもいいヨ。おサムライ様でよければ、ワタシの宿の専属で薪割り職人になって欲しいくらいアル」
「そ、そこまで、ですか……」
「そこまでアルネ」
「…………」
第六階層のオンボロ宿のマスターのくせに、なぜこのような大金を出すことができるのだろうか。もともと持っていたものなのか、商いの儲けで生み出したものなのか。
方法は分からないが――少なくともこの幽霊屋敷のような宿の経営だけでは、これほどまでの大金を手にすることができないのは確実だ。
何故俺にはくれないのか、と文句を言いたいところだが……とはいえ、ヘイハチに一つ仕事ができたことは喜ばしい。
「よかったな、ヘイハチ」
そう声をかけると「いやあ〜」と首を振り、後ろ頭をかく。
「ありがたい、ことではありますが……この金額は、私には身に余るものです。すみませんが、半分、お返ししてもいいですか?」
「遠慮するなヨ。全部受け取るネ」
「いえ、しかし、多すぎます」
「素直に受け取るアルヨ」
「いえいえ、半分はお返します」
「…………」
(なんだか、終わりそうにないな……)
報酬の半分を返すか返さないかで、ヘイハチとマスターが押し問答をしている中、だったら――と俺は手を上げる。
「いい案がある」
「是非ともお聞かせてください、シキ殿」
「その半分、俺にくれ」
「そんなもん、駄目に決まっているダロ!」
「いてっ」
マスターが近くに落ちていた棒を掴んで、振り下ろして、俺の頭に直撃させる。攻撃をすることへの躊躇も、手加減も一切ない。力いっぱいに、思いっ切りに、繰り出される打撃。
気を抜いていたら昏倒しているだろうが、襲って来ることは気配で分かっていたから、受けると覚悟していれば、大した痛みはない。反対に振られた棒が跳ね返ってきた衝撃に耐えきれず、ポッキリと折れていた。
「平然と受けるなんて、コイツ……ほんっと、気に食わないアル」
「何をする」
「そのお金は、おサムライ様のものネ。お前は今回、タダ働きアルヨ」
「ヘイハチを紹介したのは誰だ。少しくらいよこせ」
「絶対、嫌アル!」
互いに一歩も譲ることなく、睨み合っていると、ヘイハチが慌てた様子で「ちょっと!」と間に入ってきた。
「お二人とも、喧嘩はやめてください。マスターさん、やはり私にはこの報酬は多すぎます。半分はお返しますので、それをシキ殿に給金としてあげてください」
「いくらおサムライ様が良いっていっても、駄目ネ。コイツにあげるくらいなら、ワタシの酒代にするヨ」
「なら、その酒で酔っ払って上の階層から落ちろ。そしてそのままくたばれ」
「シキ殿! それより、大丈夫ですか? 頭にお怪我は?」
「別に平気だ。気にしなくていい」
「そ、そうですか……?」
(いい歳をした大人なのに)子どものような悪口の応酬も(マスターからの一方的な)殴り合いも、俺とマスターにとっては日常茶飯事なことなのだが。
……そういえば、他人に見られるのは初めてか。
戸惑っている工兵サムライに「いつものやりとり」と説明をしたが、「ははは……」と渇いた笑い声を上げる、という微妙な反応をされてしまった。
何だ、コイツら……と引かれてしまったのかもしれない。ヘイハチのことを気に入った手前、少しだけ残念な気持ちになっている俺をマスターは気をかけることも、気を遣かうこともない。
別の仕事を紹介してやるからそれで稼いでこいアル、とか言っている。
(自慢のくるくる髭、引きちぎってやろうか)
舌打ちする俺を無視して、くるくる髭の馬鹿はヘイハチの方を向くと仕方ないネ、と言って、止む無くヘイハチから報酬の半分を返されていた。
「今後、薪割りをする必要があったら、ワタシはおサムライ様にお願いするアルヨ」
「いやはや……本当に恐縮です。是非お願いいたします」
「依頼する時は、コイツをお迎え役として向かわせるネ。よろしくヨ」
「えっ?」
「おい、ちょっと待て。何を勝手なことを――」
「何ダヨ。お前いつも暇ダロ」
「暇じゃない。鍛錬をしているだろ」
「だ~か~ら~、それを『暇』と世間はいうアルヨ」
「世間とか知るか。人には言っていいことと悪いことがあるの、を知らないのかお前は」
「何だヨ。おサムライ様迎えに行くこと、そんなに嫌アルカ?」
あんなに楽しそうにしていたくせにヨ〜とマスターは口をニヤつかせる。
「愛想の悪い、いつものお前はどこへいったアルカ?」
「マスター相手にするときだけだ」
「進み具合を見に来た時も、随分とイチャイチャしていたじゃねえアルカ。うん?」
「…………」
人を面白半分にからかい、ニヤニヤとしているマスター。
今すぐこの場で目の前の奴を斬り刻みたいという衝動に駆られたが……我慢できた俺は偉い。
確かにヘイハチは穏やかで話しやすいし、刀も大事に扱っている。
マスターと違って、文句も嫌味も――人を不快にする言葉を言わないから、心を落ち着かせて、作業を進めることができていた。一緒にいても心地が悪くなかったのは間違いではない。
……イチャイチャ?していた、とか意味の分からないことはともかくとして。
「ヘイハチを迎えに行くことに関しては――俺も別にいい」
「え? ほ、本当にいいのですか?」
米侍は何故かあたふたとし始めた。どうしたんだ?と聞いてみると、少し赤らんだ頬を指で搔いた。
「いいですか。シキ殿、貴方は女性ですよ」
「まあそうだな」
「その、私の利用している宿はむさい男ばかりですから……あらぬ誤解をされてしまって、貴方に迷惑がかからないかと思いまして」
「あらぬ誤解? 何だ、それは?」
「そ、それは……いえ、何でも……ありません」
すみません……と頭を下げている工兵サムライの肩を、マスターが横からポンと叩くと「やめといた方がいいネ」と首を振った。
「悪いことは言わないネ。コイツは面倒くさい奴アルヨ。もし良かったら、おサムライ様に合う良い女、ワタシ紹介するアル。お安くしとくヨ」
「それはご遠慮いたします。それとお言葉ですが――シキ殿はいい人ですよ、マスター殿」
「そうアルカ?」
「そうですよ。知り合って間もない私のために、仕事を紹介してくれました。本当に助かりました。いただいたお金でしばらくは食いつないでいけそうですよ」
「人がいいアルナ~、おサムライ様は」
「いえいえ、そんな……」
「ワタシ少し心配になるヨ。そんなに優しいと――誰かに裏切られたり、騙されたりとかしないアルカ?」
「…………」
(……ん?)
何だろう。ヘイハチの纏っている空気が少し変わったような……俺の気のせいか?
「虹雅峡はアキンドが作った街だから戦はないアル。だけど……人を騙して金品を巻き上げたり、人に暴力を振るったり――よくない奴、いっぱい潜んでいるアルヨ。気を付けるヨロシ、おサムライ様」
「ええ……そうですね……」
「そうアルヨ。例えば――黒いコートで蒼い眼の奴とか」
「ほっとけ」
「ワタシ誰もお前なんて言っていないアルヨ。心当たりでもあるアルカ~?」
「斬るぞ」
「おお。怖い、怖いヨ~」
と言いながら、宿の中へ逃げるかと思ったら、俺のところに近寄ってきて――、
「ちょっと、こっち来いアル」
と小声で言い、強引に俺の腕を掴んで引っ張ろうとしてきたから、ひょいと躱してやる。
「おい、避けるなヨ」
「なんで」
「少し、話があるんだヨ。いいからついてこいアル」
「……分かったよ。ったく」
ヘイハチに、すぐ戻ってくるからと伝えてから、そそくさと移動するマスターの後をついていく。休憩所から離れ、宿の近くに到着する。
すぐに話をするのかと思いきや。マスターは、
「…………」
と普段の奴からは考えられない暗い顔になり、だんまりしている。無理やり人を連れてきたくせになかなか話そうとしなかった。
(仕方がない。俺から話を促してやろう)
「おい、どうした、マスター」
「ワタシ……悪いこと言ってしまったかもしれないアル」
「何だよ、悪いことって」
「お前、あのおサムライ様の顔――見たアルカ」
「ヘイハチがどうかしたのか」
マスターは「ああ」と頷く。
「あれは、人に裏切られたことがある顔ネ」
「…………」
そう聞いて、俺は確信する。ヘイハチとマスターが話をしていた時に、一瞬だけヘイハチの纏う空気が変わったのは……俺の気のせいではなかった。
「しかも相当……重いアルネ、アレは。あんなにニコニコと、笑顔でいるのは辛い記憶を隠そうとしているため、なのかもしれないアル」
「……そうか」
「――ってことでシキ、お前が何とかしろアル」
「はい?」
「せっかく、腕の良い薪割り職人が――人材が見つかったのに、もう二度と来てくれなくなるのは、ワタシ困るヨ」
そう言うや否や、さっきの暗い顔から一転、いつもの顔になるとマスターは、さっきヘイハチに返金された半分の報酬金を俺に手渡してきた。
「おい、いきなりどうした。というかこの金はなんだ」
「今回だけ特別ネ。ちゃんとやれヨ」
ワタシは他に仕事があるからヨ、とマスターは逃げるようにして宿の中へと急ぎ、戻っていった。
「…………」
無理矢理に持たされた手元の金を見て、俺は、はあ、と溜息を吐く。一体、俺にどうしろっていうんだよ。
◆◆◆◆
休憩所に戻ると、声には出さなかったが思わず、驚いてしまった。ヘイハチが、ここを離れる前と同じ体勢のまま、突っ立っていたからだ。
「…………」
(それだと、とれる疲れもとれないだろうに)
「――ヘイハチ」
ちゃんと休めよ、と声をかけようとした丁度その時、ヘイハチは緩慢な動作で振り向いて、シキ殿と俺の名を呼んだ。
「……シキ殿は、裏切りに遭ったこと、ありますか?」
沸々と湧き出てくる感情を押し殺しているのか、酷く辛そうな声音。あのにこにことしていた恵比寿のような顔が、悲痛な表情になっている。
「――裏切りって、どう思いますか?」
「…………」
忘れたい苦い記憶や、忘れられない暗い過去を一つも持たない人なんて一人もいない。
長きにわたって続いた空の戦では、数多くのサムライ達が死んだが、生き残った者達には――死の代わりに一生消えることのない痕を残した。体には傷を、心には疵を、残した。
服装からして、ヘイハチがあの戦で工兵として従軍していたことは間違いない。戦場で裏切りによる事件が起こってしまい、それがヘイハチの心に瑕痕をつけて、戦後の今になっても彼の心を苦しめ続けているのだろう。
醸し出す気配から「大丈夫か」なんて声はかけられないし、かけてはいけない。重く、苦しい闇を抱えているヘイハチに俺がしてやれることは。
「ヘイハチ」
「……はい」
「飯を食べにいかないか」
「え?」
「奢ってやるよ。行こうぜ」
「シキ殿?」
戸惑っているヘイハチの腕を取ると、上の階層へ上がるための昇降機へと向かって歩いていった。半ば強引に行動を移したこともあって、抵抗されるかと思ったが、幸いにも連行を拒否されることはなかった。
◆◆◆◆
第三階層にある飲食店に俺はヘイハチを連れて中に入った。代金は、先ほどマスターから託された金をありがたく使わせてもらった。
どうやら米が本当に、相当に好きなようで、店がすすめてくれた手作りおにぎりをとても美味しそうに頬張っている。
ヘイハチの食べている様子に感化されてか、近くの席についていた親子が同じ物を頼んでいる声が聞こえてきた。
飯で人の機嫌を回復させようとするなんて――姑息な手段かもしれないが、あのまま、暗く重苦しい空気の中にいるよりはマシだろう。俺は卓に置かれている握り飯の入った二つの包みを、正面に座るヘイハチへと差し出す。
「ヘイハチ、これも食べていいぞ」
「えっ、いいですか? それだとシキ殿の分が」
「俺は一つで十分だ。遠慮せずに食べろ」
「ありがとうございます。いただきますね」
「ああ」
後は帰って就寝するだけであり、たくさん栄養を摂取する必要はないというのもあるがここにきた目的はヘイハチのため、だから。
「ごちそうさまでした」
「美味かったか」
「ええ。本当にお米は最高ですね。いくらでも食べられますよ」
「そうか」
一通り食べ終わった後で、満腹感で幸せになっているヘイハチに、俺は「さっきの、裏切ることについてだが――」と話を切り出す。ピクリと反応し、俺の方を見遣るヘイハチ。
辛そう……ではあるが、先ほどまでの暗さはなかったことに安堵する。
「……正直、分からない。俺には人から裏切られた、人を裏切った、という経験がないから」
戦場において、俺はただ一本の刀として、無刀の剣士として――敵側にいた生身のサムライも、機械化したサムライも、数えることを忘れる程、ただ斬り続けて、ただ殺し続けただけだ。
父上からも、刀は斬ることだけを考えろ。 他は些事なことだ、と教えられた。
ヘイハチが裏切られたのか、それとも裏切ったのか。分からないが、どちらにせよ――『裏切り』という行為そのものに、苦しんでいる。裏切りによる苦しみはヘイハチだけのもの。
その苦しみをどうするか、どうしたいかはヘイハチ次第だ。だから――己を責めるな、といった慰めることも、切り替えていけ、といった励ますことも、する気は更々ない。それをする意味もないだろう。
「そう、ですか……」
力なく言って顔を俯かせるヘイハチに、「だが――」と俺は続ける。
「辛くて、苦しくて、本当にどうしようもなくなった時は俺を呼べ。すぐに駆けつけてやる。お前の話、聴いてやる」
「…………」
話したところで決して楽になれるものではないが、それでも――黙ったまま一人で抱え込むよりはきっといいはずだ。
「そうやって誰かに話すことで、溜まったものを少しでも晴らせばいい。それが俺にできる――最大限だ」
「…………」
ヘイハチは顔を伏せたまま、何も言わなかった。俺も無言で相手の返答を待つ。沈黙の時間が流れて――、
しばらくすると「シキ殿」と俺の名を呼んだ。
「気を遣わせてしまって……すみません」
「気にするな」
「……ですが、本当にありがとうございます」
ゆっくりと――上げたヘイハチの顔は初めて出会った時と同じ、にこにことした恵比寿顔へと戻っていた。