第二話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
◆
キュウゾウと再会したからと言って、その場で斬り合いに発展することはなかった。それも当然のことで、俺がここ第一階層にある虹雅峡のマロ御殿にきた目的は、あくまでも宿のマスターから頼まれた「用心棒の仕事」をするためだからだ。
ヒイラギとアヤマロとの商談がいつ終わるかは分からないが、それまで俺は刀として、用心棒として仕事を全うするだけである。
そして俺にとって幸いなことに、今俺と向かい合って座っているのはキュウゾウではない。アヤマロのもう一人の用心棒、メガネをかけた色白のサムライである。キュウゾウはここにおらず、別室でアヤマロの用心棒をしているだろう。そして今頃、ヒイラギはアヤマロと商談中で、付き人のアオイはそれの手伝いをしている最中だろう。
俺はヒイラギ達が部屋に引きこもってからというもの、ずっと無言で何をするでもなく、ただ座っていた。厳重な警備も敷かれている故か、アキンドを狙う刺客が現れるわけでもなく、斬った張ったもできるわけでもない。
飯を食うために請け負った仕事とは言え、正直なところ、俺は段々と退屈になってきていた。同じ姿勢で座り続けるのは辛いものだ。身体を動かしたくてたまらなくなる。
アヤマロの御殿は部屋が無駄に多く、そして無駄に広いのだから、少しくらいなら鍛錬で動いてもいい気がするが。
(用心棒の仕事、早く終わらないかな……)
ここには、できることなら会いたくなかったキュウゾウもいるから「一刻でも早くこの御殿から出ていきたい……」なんてことを思っていると、向かい合って正座をしていた色白メガネが「おい」と話しかけてきた。
いきなりであり、しかもぞんざいに話しかけてきたものだから、俺も「何だ」とわざと低い声で返した。
「お前に聞きたいことがある」
「お互いに用心棒の仕事中だろ。無駄口、叩いていいのか」
「構わんだろう。どうせここに刺客など来ないのだから」
「まあ、そうだろうな」
まさか俺からではなく、相手から沈黙を破って話しかけてくるとは。このメガネもとうとう退屈が過ぎて、痺れを切らしてしまったのだろうか。
「して聞きたいことだが……お前、キュウゾウとは知り合いなのか?」
その質問に俺は間髪入れず「いいや」と首を振った。
「初対面だ」
「嘘をつけ」
バッサリと否定された。少しは迷ってくれよ。
「あんなに睨み合っておいて、初対面なわけあるか」
「まあ……そうだな」
別に話しても支障はないか。そう思い、余計な詮索を防止する意味も込めて自分から話すことにした。
「アイツーーキュウゾウと会ったのは、これで二度目だ」
「二度目か。一度目は?」
「初めて会ったその日、俺は奴と刃を交えていた」
「ほお……よく生きて帰れたな、お前」
「別に驚くことはないだろ。俺はただ応戦しただけだ」
色白メガネは顎に手を当て、感心するような声を上げた。やっぱりそうか。キュウゾウは仲間からも剣の腕が強い者と思われているのだろう。確かにアイツとの斬り合いは久しぶりに俺を高揚させるものだった。本当に楽しかった。だというのに、最後の『アレ』で全部台無しにされた。結局何がしたかったんだろうか、アイツは。
「そうか――お前なのか」
「何がだよ」
「……いつぞや、キュウゾウが折れた刀を鞘におさめて、帰ってきた日があってな。驚いたぞ。まさかアイツが刀を折られるだけでなく、刀を折った相手を斬らずに帰ってくることがあるなんてな」
「ふーん。そうなんだ」
「アイツはいつも無口な奴でな。何があったかなど俺から聞かなければ、話そうとはしないんだ。それでなんとか話を聞き出してみれば、斬り合った相手は己自身を無刀の剣士だとーー刀だと言ったそうじゃないか」
「………………」
「お前は一体、何者だ?」
「キュウゾウが言った通りだ。俺は刀だよ」
「刀を帯刀していないくせに、剣士だというのか?」
「ああ。存在そのものがいながらにして一本の刀であり、剣士だ」
試してみるか?と俺は言うと色白メガネは「冗談はよせ」と片手を振った。俺は嘘も冗談も言ったつもりは微塵もないが。
色白メガネも断った割には、横においていた刀にもう片方の手をかけて殺気を向けてきた。(キュウゾウは死んでいないが)仲間の敵討ちのためなのか。それともキュウゾウのような強いサムライとぶつかってもなお、生き残れた者だから、相手にとって不足無しと見たのか。
俺が一歩でも動こうものなら即座に抜刀して斬り込んでくる気が満々の表情である。斬り合いなら俺の望むところではあるが、今はお互いの雇い主が商いの最中だろう。いいのだろうか、ここで暴れてしまっても。
ここはアヤマロの御殿であり、相手はそいつの用心棒をしているサムライ。斬り合えば壁も床も綺麗なところは血に塗れるというのは分かっているだろうに。
(俺にとっては至極どうでもよいが)最悪の場合、この御殿は跡形もなく壊れるだろう。この色白メガネもキュウゾウみたいに、血に飢え、戦場を求めているのだろうか。戦いを求めんとするその気概は嫌いではないが……。
(――さて、どうするか……)
闘気を漲らせる色白メガネと睨み合っていると、商談が終わったのか、ヒイラギ達が部屋から出てきた。その瞬間を見計らっていたかのように、色白メガネは先程まで放っていた殺気を一瞬で消して立ち上がった。俺も相手に倣って立ち上がり、ヒイラギ達のもとへと歩いていった。
向かっている途中、横から突き刺すような視線を感じたが、俺はわざと無視してやった。今ここでお前の顔なんかを見てしまったら、色白メガネみたいに俺も殺意が湧き出てきそうだ。
キュウゾウと再会したからと言って、その場で斬り合いに発展することはなかった。それも当然のことで、俺がここ第一階層にある虹雅峡のマロ御殿にきた目的は、あくまでも宿のマスターから頼まれた「用心棒の仕事」をするためだからだ。
ヒイラギとアヤマロとの商談がいつ終わるかは分からないが、それまで俺は刀として、用心棒として仕事を全うするだけである。
そして俺にとって幸いなことに、今俺と向かい合って座っているのはキュウゾウではない。アヤマロのもう一人の用心棒、メガネをかけた色白のサムライである。キュウゾウはここにおらず、別室でアヤマロの用心棒をしているだろう。そして今頃、ヒイラギはアヤマロと商談中で、付き人のアオイはそれの手伝いをしている最中だろう。
俺はヒイラギ達が部屋に引きこもってからというもの、ずっと無言で何をするでもなく、ただ座っていた。厳重な警備も敷かれている故か、アキンドを狙う刺客が現れるわけでもなく、斬った張ったもできるわけでもない。
飯を食うために請け負った仕事とは言え、正直なところ、俺は段々と退屈になってきていた。同じ姿勢で座り続けるのは辛いものだ。身体を動かしたくてたまらなくなる。
アヤマロの御殿は部屋が無駄に多く、そして無駄に広いのだから、少しくらいなら鍛錬で動いてもいい気がするが。
(用心棒の仕事、早く終わらないかな……)
ここには、できることなら会いたくなかったキュウゾウもいるから「一刻でも早くこの御殿から出ていきたい……」なんてことを思っていると、向かい合って正座をしていた色白メガネが「おい」と話しかけてきた。
いきなりであり、しかもぞんざいに話しかけてきたものだから、俺も「何だ」とわざと低い声で返した。
「お前に聞きたいことがある」
「お互いに用心棒の仕事中だろ。無駄口、叩いていいのか」
「構わんだろう。どうせここに刺客など来ないのだから」
「まあ、そうだろうな」
まさか俺からではなく、相手から沈黙を破って話しかけてくるとは。このメガネもとうとう退屈が過ぎて、痺れを切らしてしまったのだろうか。
「して聞きたいことだが……お前、キュウゾウとは知り合いなのか?」
その質問に俺は間髪入れず「いいや」と首を振った。
「初対面だ」
「嘘をつけ」
バッサリと否定された。少しは迷ってくれよ。
「あんなに睨み合っておいて、初対面なわけあるか」
「まあ……そうだな」
別に話しても支障はないか。そう思い、余計な詮索を防止する意味も込めて自分から話すことにした。
「アイツーーキュウゾウと会ったのは、これで二度目だ」
「二度目か。一度目は?」
「初めて会ったその日、俺は奴と刃を交えていた」
「ほお……よく生きて帰れたな、お前」
「別に驚くことはないだろ。俺はただ応戦しただけだ」
色白メガネは顎に手を当て、感心するような声を上げた。やっぱりそうか。キュウゾウは仲間からも剣の腕が強い者と思われているのだろう。確かにアイツとの斬り合いは久しぶりに俺を高揚させるものだった。本当に楽しかった。だというのに、最後の『アレ』で全部台無しにされた。結局何がしたかったんだろうか、アイツは。
「そうか――お前なのか」
「何がだよ」
「……いつぞや、キュウゾウが折れた刀を鞘におさめて、帰ってきた日があってな。驚いたぞ。まさかアイツが刀を折られるだけでなく、刀を折った相手を斬らずに帰ってくることがあるなんてな」
「ふーん。そうなんだ」
「アイツはいつも無口な奴でな。何があったかなど俺から聞かなければ、話そうとはしないんだ。それでなんとか話を聞き出してみれば、斬り合った相手は己自身を無刀の剣士だとーー刀だと言ったそうじゃないか」
「………………」
「お前は一体、何者だ?」
「キュウゾウが言った通りだ。俺は刀だよ」
「刀を帯刀していないくせに、剣士だというのか?」
「ああ。存在そのものがいながらにして一本の刀であり、剣士だ」
試してみるか?と俺は言うと色白メガネは「冗談はよせ」と片手を振った。俺は嘘も冗談も言ったつもりは微塵もないが。
色白メガネも断った割には、横においていた刀にもう片方の手をかけて殺気を向けてきた。(キュウゾウは死んでいないが)仲間の敵討ちのためなのか。それともキュウゾウのような強いサムライとぶつかってもなお、生き残れた者だから、相手にとって不足無しと見たのか。
俺が一歩でも動こうものなら即座に抜刀して斬り込んでくる気が満々の表情である。斬り合いなら俺の望むところではあるが、今はお互いの雇い主が商いの最中だろう。いいのだろうか、ここで暴れてしまっても。
ここはアヤマロの御殿であり、相手はそいつの用心棒をしているサムライ。斬り合えば壁も床も綺麗なところは血に塗れるというのは分かっているだろうに。
(俺にとっては至極どうでもよいが)最悪の場合、この御殿は跡形もなく壊れるだろう。この色白メガネもキュウゾウみたいに、血に飢え、戦場を求めているのだろうか。戦いを求めんとするその気概は嫌いではないが……。
(――さて、どうするか……)
闘気を漲らせる色白メガネと睨み合っていると、商談が終わったのか、ヒイラギ達が部屋から出てきた。その瞬間を見計らっていたかのように、色白メガネは先程まで放っていた殺気を一瞬で消して立ち上がった。俺も相手に倣って立ち上がり、ヒイラギ達のもとへと歩いていった。
向かっている途中、横から突き刺すような視線を感じたが、俺はわざと無視してやった。今ここでお前の顔なんかを見てしまったら、色白メガネみたいに俺も殺意が湧き出てきそうだ。