第二話
夢小説設定
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◆
虹雅峡差配のアキンド、アヤマロがいる御殿は虹雅峡の一番上、第一階層に聳え立っていた。街を見下ろせる場所にあるからか。アキンドである己の絶対的な地位と財力を示すかのようだ。
人が住むには広すぎる、贅沢に贅沢を極めた広大な御殿であり、街の人々から羨望と揶揄を込めて『マロ御殿』という通称で呼ばれているのだ、とマサムネから聞いてはいたが――。
(何とも無駄に大きい御殿だな)
多方向からの侵入を防ぐためなのか、御殿へと続く道は一つしかなく、その道を繋いでいるのは一本の大きな橋だった。
ヒイラギとアオイの後に続いて橋を渡り終えると、目前に大きな門が見えた。見張りを務めているのだろう、門の前には空の戦で使われていた鋼筒(戦場では通称でヤカンと呼ばれていた)が浮遊しながら移動していた。その数は――数機以上。一体に何を用心することがあるのか。厳重な警戒体制だった。
前を行くアオイは鋼筒に気付くと「初めて見た」と声と体を震わせて、怯えていた。どこが怖いのかと思ったが、鋼筒が兵器として身近に存在していた戦を知らない年だから無理もないかもしれない。しかし怖がる必要はない。
俺達は暗殺を請け負った刺客でもなければ侵入者でもない。アヤマロに会うためにやってきたアキンドとその連れ二人というただの訪問者である。故に鋼筒から荷物の検査を受けても問題なく、門を潜ることができたのだった。
御殿の中に入ると刺又を持った男たちが俺たちに気付き、駆け寄ってきた。そしてヒイラギの前に並んだ。皆、白塗り顔におかっぱ頭、纏っている着物まで、全く同じ格好をしていた。
金太郎あめみたいな奴らだ。彼らが何者なのか、隣にいるアオイに聞いてみるとしよう。
「なあ」
「何だよ」
「コイツ等、何?」
「……お前、虹雅峡で暮らしているくせに知らないのかよ」
「ああ、初めて見た」
アオイは人を馬鹿にするような顔になったが「仕方ないな」と教えてくれた。
「アイツらはな、街で仕事にあぶれていたサムライくずれを集めて結成されたアヤマロ様の私兵団――通称『かむろ衆』っていうんだ」
アヤマロの手足となって、虹雅峡の治安維持や周辺の警備など様々な雑務をする者達だという。「サムライ」と聞き、もしかして――と期待をしたが並んでいるかむろ衆を一通り観て――すぐに幻滅した。
コイツ等からは戦場の匂いが、人斬りの匂いが、全くもって感じられなかったからだ。期待させるな、馬鹿。
(無表情で見ていたから)そんな俺の失望に気付くことはなく、かむろ衆はヒイラギ達がアヤマロに会いにきたアキンド一行だと事前に聞かされていたようで「アヤマロ様がお待ちです」と案内をした。
――――
「な、なんか怖いな……」
アオイは小声でそう呟き、きょろきょろと視線を彷徨わせていた。そんなアオイの脇を俺は小突いた。
「何すんだよ」
「怪しまれるぞ」
「……うるさいな。分かってるよ」
アオイは俺を睨み付け、ふんと鼻をならして前へ向き直った。今いる部屋の雰囲気もかむろ衆も、どこが怖いのか全然分からない。むしろそれよりも――。
(表情には出さなかったが)俺は前方にいる奴の存在に驚いていた。
「よくぞ参られた。ヒイラギ殿の商い物は大変面白いと聞いておる。どのようなものが見られるのか。楽しみでならぬ」
「ありがたきお言葉でございます。アヤマロ様、本日はこのような立派な御殿にお招きいただき――大変ご光栄の至りでございます」
アキンドが御簾越しのアヤマロと呑気な会話を広げているが、俺の心中はそれどころではなかった。
――――
かむろ衆の案内でやってきたアヤマロが待つ部屋の中に一歩、二歩と足を踏みいれると、不意に視線を感じた。
(――誰だ?)
気のせいで片づけても良かったが、確認しておくに越したことはない。差してくる気配の後を追っていった。そして――見えた。
(アイツは――)
眼差しを向けてきた――ソイツの正体に気付いた瞬間、俺は足を止めて、相手を見据えていた。
「…………」
「…………」
お互い無言で睨み合っていた。
(――幻ではない)
目を擦る必要も、頬を抓る必要もない。あんな目立つ容姿だ。他の人と見間違えるわけがない。
「キュ――」
「おいシキ、何してるんだ」
早くしろとアオイに袖を強めに引っ張られた。気遣う素振りは全くない、なんとも強引なやり方だったが、感謝である。危うく相手の名前を呼びそうになってしまった。アオイのおかげで、その場は何も起こることはなかった。
ヒイラギは指定された場所に腰を下ろし、俺とアオイはヒイラギの後方に二人並んで正座をした。部屋の中は全体的に薄暗く、唯一明るい場所といえるのはアヤマロが座っている場所だけだった。そこは俺達三人のいる位置より一段高く、更には御簾越しの対面であった。たとえ会う相手が同じアキンドであっても用心を怠らないという、そんな警戒心の強い人なのだろうか。
確かに人の上に立つというのは、多かれ少なかれ、汚いことを陰でやっているだろう。それによって恨まれて、命を狙われるなんてのはありきたりで、あり得る話だと思った。
部屋の左右にはかむろ衆が二名ずつ配置されていた。万が一にもここで不審な行動をしたら、左右からかむろ衆が挟み撃ちにして抑える算段なのだろう。だがこんな部屋の様子のことはどうでもいい。そんなことより――
(何故、お前がここにいるんだ)
前日ヒイラギから事前に聞かされてはいた。アヤマロには用心棒で雇われたサムライが二人いるのだと。誰が知ることができようか――その二人のうち、一人が俺の知っている男だったなど。
用心棒の二人はアヤマロのいる御簾の内ではなく外ではあるが、ソイツを左右から挟むような形で正座をしていた。俺から見て左側にいたサムライは色白で、メガネをかけていた。そいつを見るのは初めてだったが、右側にいたもう一人のサムライは俺にとっては、初見ではなかった。
そいつは、初対面の俺といきなり斬り合いをしたにも関わらず、決着もつけずに『俺のものになれ』という大層ふざけたことを抜かした男。
金髪で紅色のコートを着た二刀流のサムライ――キュウゾウが、アヤマロの用心棒として同じ部屋にいたのだった。
虹雅峡差配のアキンド、アヤマロがいる御殿は虹雅峡の一番上、第一階層に聳え立っていた。街を見下ろせる場所にあるからか。アキンドである己の絶対的な地位と財力を示すかのようだ。
人が住むには広すぎる、贅沢に贅沢を極めた広大な御殿であり、街の人々から羨望と揶揄を込めて『マロ御殿』という通称で呼ばれているのだ、とマサムネから聞いてはいたが――。
(何とも無駄に大きい御殿だな)
多方向からの侵入を防ぐためなのか、御殿へと続く道は一つしかなく、その道を繋いでいるのは一本の大きな橋だった。
ヒイラギとアオイの後に続いて橋を渡り終えると、目前に大きな門が見えた。見張りを務めているのだろう、門の前には空の戦で使われていた鋼筒(戦場では通称でヤカンと呼ばれていた)が浮遊しながら移動していた。その数は――数機以上。一体に何を用心することがあるのか。厳重な警戒体制だった。
前を行くアオイは鋼筒に気付くと「初めて見た」と声と体を震わせて、怯えていた。どこが怖いのかと思ったが、鋼筒が兵器として身近に存在していた戦を知らない年だから無理もないかもしれない。しかし怖がる必要はない。
俺達は暗殺を請け負った刺客でもなければ侵入者でもない。アヤマロに会うためにやってきたアキンドとその連れ二人というただの訪問者である。故に鋼筒から荷物の検査を受けても問題なく、門を潜ることができたのだった。
御殿の中に入ると刺又を持った男たちが俺たちに気付き、駆け寄ってきた。そしてヒイラギの前に並んだ。皆、白塗り顔におかっぱ頭、纏っている着物まで、全く同じ格好をしていた。
金太郎あめみたいな奴らだ。彼らが何者なのか、隣にいるアオイに聞いてみるとしよう。
「なあ」
「何だよ」
「コイツ等、何?」
「……お前、虹雅峡で暮らしているくせに知らないのかよ」
「ああ、初めて見た」
アオイは人を馬鹿にするような顔になったが「仕方ないな」と教えてくれた。
「アイツらはな、街で仕事にあぶれていたサムライくずれを集めて結成されたアヤマロ様の私兵団――通称『かむろ衆』っていうんだ」
アヤマロの手足となって、虹雅峡の治安維持や周辺の警備など様々な雑務をする者達だという。「サムライ」と聞き、もしかして――と期待をしたが並んでいるかむろ衆を一通り観て――すぐに幻滅した。
コイツ等からは戦場の匂いが、人斬りの匂いが、全くもって感じられなかったからだ。期待させるな、馬鹿。
(無表情で見ていたから)そんな俺の失望に気付くことはなく、かむろ衆はヒイラギ達がアヤマロに会いにきたアキンド一行だと事前に聞かされていたようで「アヤマロ様がお待ちです」と案内をした。
――――
「な、なんか怖いな……」
アオイは小声でそう呟き、きょろきょろと視線を彷徨わせていた。そんなアオイの脇を俺は小突いた。
「何すんだよ」
「怪しまれるぞ」
「……うるさいな。分かってるよ」
アオイは俺を睨み付け、ふんと鼻をならして前へ向き直った。今いる部屋の雰囲気もかむろ衆も、どこが怖いのか全然分からない。むしろそれよりも――。
(表情には出さなかったが)俺は前方にいる奴の存在に驚いていた。
「よくぞ参られた。ヒイラギ殿の商い物は大変面白いと聞いておる。どのようなものが見られるのか。楽しみでならぬ」
「ありがたきお言葉でございます。アヤマロ様、本日はこのような立派な御殿にお招きいただき――大変ご光栄の至りでございます」
アキンドが御簾越しのアヤマロと呑気な会話を広げているが、俺の心中はそれどころではなかった。
――――
かむろ衆の案内でやってきたアヤマロが待つ部屋の中に一歩、二歩と足を踏みいれると、不意に視線を感じた。
(――誰だ?)
気のせいで片づけても良かったが、確認しておくに越したことはない。差してくる気配の後を追っていった。そして――見えた。
(アイツは――)
眼差しを向けてきた――ソイツの正体に気付いた瞬間、俺は足を止めて、相手を見据えていた。
「…………」
「…………」
お互い無言で睨み合っていた。
(――幻ではない)
目を擦る必要も、頬を抓る必要もない。あんな目立つ容姿だ。他の人と見間違えるわけがない。
「キュ――」
「おいシキ、何してるんだ」
早くしろとアオイに袖を強めに引っ張られた。気遣う素振りは全くない、なんとも強引なやり方だったが、感謝である。危うく相手の名前を呼びそうになってしまった。アオイのおかげで、その場は何も起こることはなかった。
ヒイラギは指定された場所に腰を下ろし、俺とアオイはヒイラギの後方に二人並んで正座をした。部屋の中は全体的に薄暗く、唯一明るい場所といえるのはアヤマロが座っている場所だけだった。そこは俺達三人のいる位置より一段高く、更には御簾越しの対面であった。たとえ会う相手が同じアキンドであっても用心を怠らないという、そんな警戒心の強い人なのだろうか。
確かに人の上に立つというのは、多かれ少なかれ、汚いことを陰でやっているだろう。それによって恨まれて、命を狙われるなんてのはありきたりで、あり得る話だと思った。
部屋の左右にはかむろ衆が二名ずつ配置されていた。万が一にもここで不審な行動をしたら、左右からかむろ衆が挟み撃ちにして抑える算段なのだろう。だがこんな部屋の様子のことはどうでもいい。そんなことより――
(何故、お前がここにいるんだ)
前日ヒイラギから事前に聞かされてはいた。アヤマロには用心棒で雇われたサムライが二人いるのだと。誰が知ることができようか――その二人のうち、一人が俺の知っている男だったなど。
用心棒の二人はアヤマロのいる御簾の内ではなく外ではあるが、ソイツを左右から挟むような形で正座をしていた。俺から見て左側にいたサムライは色白で、メガネをかけていた。そいつを見るのは初めてだったが、右側にいたもう一人のサムライは俺にとっては、初見ではなかった。
そいつは、初対面の俺といきなり斬り合いをしたにも関わらず、決着もつけずに『俺のものになれ』という大層ふざけたことを抜かした男。
金髪で紅色のコートを着た二刀流のサムライ――キュウゾウが、アヤマロの用心棒として同じ部屋にいたのだった。