第二話
夢小説設定
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◆
虹雅峡滞在中の宿代については、マスターによって無料にしてもらっている俺だが、それ以外の費用は当然、自分持ちである。
かかる費用の中でも、特に「飯代」に関してだけは自分で稼がないといけない死活問題だ。
刀である自分は何をして金を稼ぐべきなのか。できることなら、たくさん体を動かしたり、斬った張ったができたりする仕事があればいいが……。
(さて、どうしようか)
寝床の上であぐらをかき、腕を組んで考えていたら、部屋の戸が叩かれた。
誰だなんて、考える必要は全くない。この部屋に用があるのは俺と後もう一人しかいないから。
「おい暇人、いるアルカ?」
「誰が暇人だ。何の用だ」
「喜べアル。いつも、いつも暇そうなお前に、仕事を持ってきてやったネ」
「感謝しろヨ」とマスターが胸をそらす。何故か今日は朝早くから「留守番を頼むアル」と言って店を不在にしていたのだ。
宿の主人のくせに(更にはマスター以外に従業員もいないくせに)自分の店を長時間も空けることは果たしてよいことなのか。
だが店を空けたことで、心配している様子も、悪びれている様子も、マスターの顔からは微塵も伺えなかった。
「マスター」
「何だヨ」
「商いについてド素人の俺がいうのも何だが、自分の店をほったらかしにしていていいのか。経営状況ってやつが悪くなるんじゃないのか?」
俺にとっては別に宿がなくなろうがどうでもいい。ただ、泊まれる場所がなくなるのかどうか、事前に知ることができればと思っての発言だ。
そして実際に無くなるのならば、別の宿を探すまでのこと。だがその心配は杞憂に終わった。マスターが「無問題 」と首を横に振ったからだ。
「お前に心配されずとも、ワタシの店に問題なんて一つもないアルヨ」
「そうかよ。……ところで仕事って何だ?」
「お前の腕を見込んで頼みがあるネ。人助けしてくれないアルカ」
「人助け?」
「ワタシ、アキンドの友人がいるアルネ。ソイツ今、とっても困っているアル」
「どうしたんだ、そいつ」
「アヤマロ様との商談を控え、その用心棒として、雇ったサムライが前金だけ持って逃げ出してしまったアルヨ。大事な商談前にトンズラなんて――最低なサムライだヨ」
マスターは吐き捨てるように言った。商談相手であるアヤマロとは俺が滞在している虹雅峡を一代で築き上げた偉大なアキンド様らしい。
商談するのはアキンドの中でも第二階層にいる組主としかほぼ会うことはないそうだ。
そんな中、マスターの友人であるアキンド(名はヒイラギという)は築き上げてきた日々の業績が認められて、アヤマロ自ら「貴方と商談がしたい」と御殿に招待を受ける。
マスターはその話をヒイラギから聞くと一つ助言をした。
――用心棒一人くらいは連れてった方がいいアル。
アヤマロとの商談中、何の危険が起こるか分からない。ましてやアヤマロの御殿だ。
差配を相手に失礼があってはならない。(何の根拠があっていったのか分からない)そんな助言をもとに、ヒイラギは用心棒として一人のサムライを雇う。あとは商談の日まで準備をして待つだけだった。
……だがアヤマロとの商談の日を控えたX日前のこと。あろうことか、雇っていたサムライが前払いをした給金もろとも姿を消してしまったらしい。その事件をマスターが知ったのは昨日だそうだ。
そして本日、マスターは朝からヒイラギの店を訪れ、詳しい状況を把握し、相手から頼み事を受けてきた。
“相手はサムライでなくても構いません。どうか腕の立つ用心棒を一人、紹介してくれませんか?"
……という相談を受けたマスターは「それなら都合の良い奴がいるアル」ということで俺のことをヒイラギへ紹介したらしい。
人を勝手に紹介するな、と睨むと「いいじゃないアルカ」とマスターは肩をすくめる。
「行ってやってくれヨ。どうせ、毎日いつも暇ダロ、お前」
「暇じゃない。鍛錬してるだろ」
「お前は馬鹿アルカ」
それを暇というんじゃねえアルカ、とマスターは指差す。
毎日の鍛錬は俺にとって、呼吸のようなものだ。いつ何時戦があってもいいように、一本の刀であるために必要な行為だというのに。
それにマスターの言い方は、人にものを頼む姿勢とは程遠い。なんでそんな偉そうなんだ。
「それにお前にとって良いことアルヨ。用心棒したらお礼にお金を貰えるアル」
「…………」
「貧乏飯ともおさらばできるアルヨ」
マスターのいう「貧乏飯」とはできる限り費用がかからないよう切りに切り詰めた、日々の飯のことである。
食事の内容は基本的に水と何かで、ここ最近は乾物が俺の主食になっていた。
量は少ないが噛めば噛むほど、空腹は満たされるから問題はない。……多分。
「用心棒って……人を斬ったり、戦ったりとかできるのか?」
「さあ? でもまあ、時と場合によってはできるかもしれないネ」
「そうか」
「ああ、でも殺すのは駄目アルヨ。もし戦いになっても、斬り殺さずに倒せアル。そして依頼人は守るアル」
「刀の俺に斬るなっていうのか」
「当然ヨ。戦へ行くわけではないからナ。あくまでも依頼人を危険から守る、それが用心棒という仕事だからアルヨ」
「…………」
俺はマスターからの人助けの依頼を受けることにした。引き受けたのは決して「暇だから」ではない。
依頼の成功時にもらえる給金の額が、しばらくの間は稼ぎに出かけなくても食いつなげていける程のものだったからだ。
(背に腹は代えられないってヤツか……)
……人助けなんて、柄でもないし、面倒極まりないことだが、そろそろ水と乾物だけでは空腹に耐えることに限界がきそうだったのもあった。
この時ばかりは自分が大食いじゃなくて本当に良かったと思う。
「じゃあワタシ、仕事を受けることヒイラギに伝えてくるアル。商談に行くのは✕日、絶対に忘れるなヨ。寝坊もするなヨ」
「誰がするか。とっとと行け」
「偉大なる宿のご主人」とか自分で謳っているくせに。いつぞや酒に飲んだくれて、宿の前で吐いていたくせに。醜態をさらす奴にいわれたくない。
マスターが部屋を後にすると、俺は腕を枕代わりにして布団へ横になった。
「用心棒か……」
独り言を呟きながら、そういえば、と思う。
「今までやったことなかったな」
虹雅峡滞在中の宿代については、マスターによって無料にしてもらっている俺だが、それ以外の費用は当然、自分持ちである。
かかる費用の中でも、特に「飯代」に関してだけは自分で稼がないといけない死活問題だ。
刀である自分は何をして金を稼ぐべきなのか。できることなら、たくさん体を動かしたり、斬った張ったができたりする仕事があればいいが……。
(さて、どうしようか)
寝床の上であぐらをかき、腕を組んで考えていたら、部屋の戸が叩かれた。
誰だなんて、考える必要は全くない。この部屋に用があるのは俺と後もう一人しかいないから。
「おい暇人、いるアルカ?」
「誰が暇人だ。何の用だ」
「喜べアル。いつも、いつも暇そうなお前に、仕事を持ってきてやったネ」
「感謝しろヨ」とマスターが胸をそらす。何故か今日は朝早くから「留守番を頼むアル」と言って店を不在にしていたのだ。
宿の主人のくせに(更にはマスター以外に従業員もいないくせに)自分の店を長時間も空けることは果たしてよいことなのか。
だが店を空けたことで、心配している様子も、悪びれている様子も、マスターの顔からは微塵も伺えなかった。
「マスター」
「何だヨ」
「商いについてド素人の俺がいうのも何だが、自分の店をほったらかしにしていていいのか。経営状況ってやつが悪くなるんじゃないのか?」
俺にとっては別に宿がなくなろうがどうでもいい。ただ、泊まれる場所がなくなるのかどうか、事前に知ることができればと思っての発言だ。
そして実際に無くなるのならば、別の宿を探すまでのこと。だがその心配は杞憂に終わった。マスターが「
「お前に心配されずとも、ワタシの店に問題なんて一つもないアルヨ」
「そうかよ。……ところで仕事って何だ?」
「お前の腕を見込んで頼みがあるネ。人助けしてくれないアルカ」
「人助け?」
「ワタシ、アキンドの友人がいるアルネ。ソイツ今、とっても困っているアル」
「どうしたんだ、そいつ」
「アヤマロ様との商談を控え、その用心棒として、雇ったサムライが前金だけ持って逃げ出してしまったアルヨ。大事な商談前にトンズラなんて――最低なサムライだヨ」
マスターは吐き捨てるように言った。商談相手であるアヤマロとは俺が滞在している虹雅峡を一代で築き上げた偉大なアキンド様らしい。
商談するのはアキンドの中でも第二階層にいる組主としかほぼ会うことはないそうだ。
そんな中、マスターの友人であるアキンド(名はヒイラギという)は築き上げてきた日々の業績が認められて、アヤマロ自ら「貴方と商談がしたい」と御殿に招待を受ける。
マスターはその話をヒイラギから聞くと一つ助言をした。
――用心棒一人くらいは連れてった方がいいアル。
アヤマロとの商談中、何の危険が起こるか分からない。ましてやアヤマロの御殿だ。
差配を相手に失礼があってはならない。(何の根拠があっていったのか分からない)そんな助言をもとに、ヒイラギは用心棒として一人のサムライを雇う。あとは商談の日まで準備をして待つだけだった。
……だがアヤマロとの商談の日を控えたX日前のこと。あろうことか、雇っていたサムライが前払いをした給金もろとも姿を消してしまったらしい。その事件をマスターが知ったのは昨日だそうだ。
そして本日、マスターは朝からヒイラギの店を訪れ、詳しい状況を把握し、相手から頼み事を受けてきた。
“相手はサムライでなくても構いません。どうか腕の立つ用心棒を一人、紹介してくれませんか?"
……という相談を受けたマスターは「それなら都合の良い奴がいるアル」ということで俺のことをヒイラギへ紹介したらしい。
人を勝手に紹介するな、と睨むと「いいじゃないアルカ」とマスターは肩をすくめる。
「行ってやってくれヨ。どうせ、毎日いつも暇ダロ、お前」
「暇じゃない。鍛錬してるだろ」
「お前は馬鹿アルカ」
それを暇というんじゃねえアルカ、とマスターは指差す。
毎日の鍛錬は俺にとって、呼吸のようなものだ。いつ何時戦があってもいいように、一本の刀であるために必要な行為だというのに。
それにマスターの言い方は、人にものを頼む姿勢とは程遠い。なんでそんな偉そうなんだ。
「それにお前にとって良いことアルヨ。用心棒したらお礼にお金を貰えるアル」
「…………」
「貧乏飯ともおさらばできるアルヨ」
マスターのいう「貧乏飯」とはできる限り費用がかからないよう切りに切り詰めた、日々の飯のことである。
食事の内容は基本的に水と何かで、ここ最近は乾物が俺の主食になっていた。
量は少ないが噛めば噛むほど、空腹は満たされるから問題はない。……多分。
「用心棒って……人を斬ったり、戦ったりとかできるのか?」
「さあ? でもまあ、時と場合によってはできるかもしれないネ」
「そうか」
「ああ、でも殺すのは駄目アルヨ。もし戦いになっても、斬り殺さずに倒せアル。そして依頼人は守るアル」
「刀の俺に斬るなっていうのか」
「当然ヨ。戦へ行くわけではないからナ。あくまでも依頼人を危険から守る、それが用心棒という仕事だからアルヨ」
「…………」
俺はマスターからの人助けの依頼を受けることにした。引き受けたのは決して「暇だから」ではない。
依頼の成功時にもらえる給金の額が、しばらくの間は稼ぎに出かけなくても食いつなげていける程のものだったからだ。
(背に腹は代えられないってヤツか……)
……人助けなんて、柄でもないし、面倒極まりないことだが、そろそろ水と乾物だけでは空腹に耐えることに限界がきそうだったのもあった。
この時ばかりは自分が大食いじゃなくて本当に良かったと思う。
「じゃあワタシ、仕事を受けることヒイラギに伝えてくるアル。商談に行くのは✕日、絶対に忘れるなヨ。寝坊もするなヨ」
「誰がするか。とっとと行け」
「偉大なる宿のご主人」とか自分で謳っているくせに。いつぞや酒に飲んだくれて、宿の前で吐いていたくせに。醜態をさらす奴にいわれたくない。
マスターが部屋を後にすると、俺は腕を枕代わりにして布団へ横になった。
「用心棒か……」
独り言を呟きながら、そういえば、と思う。
「今までやったことなかったな」