動き出す歯車
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「琴音ってさ、大学で何勉強してるんだ?」
図書館での出会いから暫く経った時、ふと忙しなく勉学に励む琴音に疑問を大和はぶつけていた。
「あぁ…別に大和さんが思っているほど大層なことはしてないよ
強いて言うなら…」
「言うなら??」
考え込むように上を見上げた琴音は中途半端なところで言葉を区切る。そして数秒思考したあと、琴音は小さく首を横に振った。
「ううん、なんでもない
そういう大和さんは??どうするの??」
追求を免れるように琴音はオウム返しで同じ質問を投げかけた。その言葉に大和は困ったように眉を顰めた。
「……実はさ、俺…」
「うん」
端切れが悪い大和に、急かすこと琴音はジッと彼の言葉に耳を傾ける意志を見せた。そんな彼女に促される形で大和は先日の出来事を簡潔に話した。
「ある社長さんにスカウトされたんだよね…
アイドル興味ないかって…」
「へぇ〜!凄いじゃん!!どうするの??」
大和の口から出た言葉に、琴音は目を丸くした。琴音の隣で神妙な面つきを浮かべる大和から感じるオーラに薄々とだが琴音は感じ取っていた。加えて顔立ちも整っているし身長も高い彼は外見も問題なし。何より、時折彼の演技力を垣間見て琴音は舌を巻いていたのだから、そのスカウト話に琴音は前のめりになって相談に乗ろうとした。
「……迷ってる」
「そっか〜
でもさ、スカウトされるってことはその人は大和さんの魅力を感じ取ったってことでしょ」
「イヤイヤ
俺にそんな魅力ないから」
琴音の言葉に大和は困ったように手を横に振った。そんな彼にまたまた〜と琴音は人指し指を立てて横に振る。
「謙遜することないよ〜
大丈夫!!十分すぎるほど、大和さんは魅力に溢れてるよ
私が保証してあげる!!」
「琴音に保証されてもなぁ〜」
「不満??」
「いいや
そう言ってくれて嬉しいよ」
大和の揶揄に拗ねるように頬を膨らました琴音に大和は少し頬を緩ませて答えた。
「迷ってるならやってみたらいいよ
だって実際やってみないと楽しいのか楽しくないのかわかんないじゃん
大和さんは自由に何をしたいか選ぶことが出来るんだから」
「……琴音??」
琴音の言葉に違和感を覚えた大和は彼女の様子を伺った。大和からみて琴音の表情は淋しげで、思わずガラにもなく不安そうに琴音の名を大和は紡いだ。
その声にハッとした琴音はアハハと愛想笑いを浮かべた。
「まぁ!最後決めるのは大和さんだし
じっくり考えたら良いんじゃない??」
「そうだな」
琴音の言葉に大和は小さく頷いた。
そしてその数日後、大和はそのスカウトを受けることに決めた。こんな自分の才能を買って嬉しそうに話してくれた琴音には引け目を感じたものの、大和はある目的を果たすためにアイドルになると決心した。だからこそ、大和は正直に琴音にこの事実を話せずにいた。こんな自分の想いを知ったら琴音が絶望して自分から離れてしまう気がして怖かったのだ。唯一の大和にとっての救いは、琴音自身がこの話題に触れることがなかったことかもしれない。
そのまま、デビューに向けて駆け始めた大和は忙しい毎日を過ごすことになり、対して琴音自身も大学3年生後半の時期ということもあり、二人は会う時間も取れず連絡を取る頻度も減り、ずるずると時間だけが過ぎていってしまっていた。
だが、ひょんな事をきっかけに琴音はこの事実を知ることになった。
「あれ??」
疲れ切った体を引きずるように歩いていた琴音は、偶々木漏れ出ている会場を見つける。一体、どんな人がライブするのだろうと興味本位で琴音の足はそこへ向けられた。
「えっと…IDOLISH7??
聞いたことないなぁ…」
琴音はうーんと首を傾げた。こっそり中を伺うように覗き込むと人もまばらで、まだまだ周知されていないグループなのだろうと汲み取った。さて、ここまでせっかく来たのにどうしようかと考え込む琴音の前にある一人の女性が現れる。
「良かったら聞いてくれませんか??」
このアイドリッシュ7のマネージャーである小鳥遊紡は、数少ない興味を示してくれた琴音に声をかけた。そして、彼らの魅力が伝わってほしい、知ってほしいと思う紡は想いのたけをぶつけた。
「まだ結成したばかりなんですけど
皆、個性豊かで魅力溢れる人達ばかりなんです!!
時間がなければ少しだけでいいです!!
彼らの歌に耳を傾けてほしいんです」
必死に想いを綴る紡に、琴音は見定めるように目を細めた。緊張した面つきの紡から目を逸らすことなくじっと見ていた琴音。だが、もう既に彼女は結論を出していた。数秒後、緊張を崩すように表情を緩めた琴音はバッグから財布を取り出した。
「1枚ください」
「えぇ!!いいんですか!?」
「せっかくここまで来たので
それに貴女がここまで言う彼らに興味を抱きましたから」
社交辞令の笑みを浮かべ、琴音は嬉しそうにチケットを販売する紡からチケットを受け取る。
「よかったらコレもどうぞ」
そしてチケットと同時に琴音はメンバー紹介の紙を受け取った。ありがとっと笑いかけた琴音はそのまま会場の一角に座ると早速メンバー紹介の紙に目を通すと、ある人物紹介の場所で動かす目を止めてしまった。
「なーんだ、大和さん結局スカウト引き受けたのか
教えてくれたっていいのに…」
不満げな声を漏らして口を尖らす琴音だが、大和の名前を指でなぞる彼女の瞳は愛しみのある色を宿していた。
その後、じっくりメンバー紹介を熟読した琴音はこの場に自分がいる事を知られないためにもいつも持ち歩いているキャップと伊達メガネを装着した。
そんな彼女の視界に広がるのは、キラキラと輝きを放つ7人のメンバー達。アグレッシブに自曲を歌いながら踊る彼らを琴音は羨ましそうに目を細めて見ていた。
大和さんをスカウトする目があるだけあって、その社長により選ばれた他の6人もそれぞれが特有の個性を持っているのが、すぐに伝わってきた。
親の影響で様々な音楽を嗜んできた琴音は、珍しく彼らの歌に没頭していた。だからこそ、夢のようなひと時はあっという間だった。