お酒の威力
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そしてライブ当日…
琴音の予想通り、野外会場はこの前の閑散した場所とは思えないほど熱気と歓声に包まれていた。紡から送られたチケットを握りしめて琴音は時間ギリギリに会場入り。慌てて席に着席した途端、ライブの開始が告げられた。
「天気…持ちますように」
唯一気がかりなのは天候だ。今にも降り出しそうなくらい雲意気が怪しかったのだ。彼らの歌声がこの雲を吹き飛ばしてほしいと願い琴音はステージに出てきた彼らに精一杯、ペンライトを振り始めるのだった。
ステージに上がった彼らは琴音が最初に見たときと同じように7色に光輝いていた。順調にライブは進んでいく、が、ポツリポツリと空から雨粒が落ちてきた。そしてこの雨は段々と雨足が強まりそれと髄して風も強まってきた。ライブも終盤。陸の一声で最後の曲、『Dancing ∞ BEAT!!』が始まった。だが、突如その曲は中断させられてしまった。この悪天候でどこかに雷が落ちたようで音も明かりも消えてしまい真っ暗闇になってしまったのだ。
一気に観客席中に不安と動揺が走った。その中で唯一琴音は冷静にこの状況の行方を見守っていた。
「さて、どうするのかな??」
琴音はジッとステージにいるはずの彼らを見据えた。
*****
音響と明かりが消え静寂になった場でもちろんメンバー7人も動揺が走った。観客席にいるお客さんの不安が伝わってくる中、この場をどうするか皆表情を曇らせ顔を見合わせた。
「音が来ない…」
「こっちもダメだ、なにも聞こえない」
耳にあるインカムを確認する陸と大和。だが、インカムからは何も聞こえては来なかった。
「どうする?このまま続けるか?」
「待ってください、下手に動いたら危険です」
三月の投げかけに対して、この状況では危ないと一織が切羽詰まった声で動き出そうとする彼らを制止させようとする。だが、ココでいつにも増して真剣な面持ちを浮かべていた環が口を開いた。
「止めちゃダメだ」
「…環くん??」
「今日来た奴らも忙しい中来たんだろ?
時間を作って俺達を見に来た」
「イエス
夢のような楽しい時間を求めてここにいます」
「瞬間瞬間に価値を与えられないなら立っている意味がない…だっけか?」
彼ら、環とナギ・大和、3人の脳裏に思い浮かんだのは高熱という体調不良にも関わらずステージに立ち最後まで歌いきった九条天が放った言葉の数々だった。
「俺達もプロだろ、やろうぜ!」
大和が自身も含めてメンバーを鼓舞する声を発する。
そういえば今度のライブ行くから!!
えっ!?マジ!?
うん!楽しみにしてるから!絶対成功させてよね!
ステージに立っているこの場所からは彼女が何処にいるかは判別はできない。それでも、この会場もどこかにいるはずの琴音が見ている眼の前で、しっかりと見せたかった。プロとしてのIDOLISH7の姿を。
大和の一声に皆大きく頷く、その中、環はゆっくりと一人中央へ。すると、その様子を察した紡がステージ裏へ走り出した。この状況で出来る事をするために。それは歌ではなく、踊りを届けることだった。唯一使える予備電源が急いでステージ脇に到着した紡の指示により環に当たる。そのスポットライトに照らされ環は眩しいと頭上を見上げ目を細める。そこから環は視線を観客席に向けると決意を固めなのか大きく頷いた。そして、環はステージ中央で華麗に踊り始めるのだった。
「お前ら手拍子!!」
ついていけず呆けている陸達を見て、先導するように大和が小さく指示を出す。すかさず、先陣きるようにナギが観客席に向かって声を上げた。
「ヘイ!!Everybody!ハンズアップ!!
1、2……1、2、3!」
環のダンスを盛り上げるために他のメンバーは手拍子を始めお客さんにもそれを求めたのだ。最初はお客さんは戸惑いを見せる。が、少しずつ着実に手拍子の音は大きくなっていっていた。そして暫く経つといつの間にかお客さんの不安げな表情は消え去り、環のダンスにのめり込み楽しげに手拍子をしていた。
暫くして音響が入る、そして中断してしまったパートから再開すると紡から伝えられるメンバー。それを了承すると次のソロパートを歌う予定である壮五がゆっくりと中央へ歩き出した。
カウントダウンに合わせ、踊っていた環がダンスを締めくくりパッと片手を上げる。途端、曲の音響が流れ出す。流れ出した音に合わせ、環は立ち位置に戻るため踵を返す。
「環くん、お疲れ」
「そーちゃん、頼んだ」
すれ違いざま環と壮五はハイタッチを交わして立ち位置を変える。中央に壮五が立つとステージ上が紫色に染まり上がる。流れるように壮五のソロパートがスタートしたのだ。
この演出に、観客は歓声を上げた。このハプニングを見事に彼らは演出と錯覚させるパフォーマンスをして乗り切ったのだ。無事にライブを成功に収めた彼らは大歓声を浴びてライブを締めくくる。その様子は、生中継に入っていたカメラで撮られ、TVでも放送された。その放送された部分は丁度環と壮五がハイタッチを交わして入れ替わる部分。その影響もあり二人の認知度は一気に急上昇するのだった。
*****
「そーいえば、ミューフェスのインディーズの枠がまだ決まってないんだと」
「へぇ~それで?
誰かいないか?って聞かれたの?」
ライブの日から幾日が過ぎたある日、琴音はとあるお蕎麦屋さんに足を運んでいた。そこでカウンター席でお蕎麦を啜って満喫していた琴音に従業員として扮した楽がまだ従業時間にも関わらず彼女の隣に腰掛けるとふとそう呟いたのだ。その言葉に琴音は手元を止めたのだ。
「あぁ
それでアイツラを推そうと思ってんだがどう思う?」
「………!?!?」
楽の口元から発せられた言葉に琴音は耳を疑った。あの八乙女楽が一体誰を推すのだろうと思ったらまさかの事態。彼がいうアイツらとは確実にIDOLISH7だ。確かに琴音は楽に自慢げに勧めたりはしたが、まさか楽のお眼鏡にかなうとは思っていなかったのだ。目をパチパチと瞬きかせて己を見る琴音に楽は小さく息を付き笑った。
「なんでそんなに驚いてんだよ」
「だって、楽が推すなんてさ言うから」
「まぁ琴音がだいぶぞっこんだからな」
「私がぞっこんでも、楽がそれ相応のレベルにたっしてないと認めないと推すなんて言わないでしょ」
「違いないな」
流石、長年の付き合いである。誰の意見に惑わされることなく自分の信念を貫く楽は例え信頼の置ける琴音が注目していても、推したいと思わなかったら推薦するわけがないのだ。そんなのは琴音には筒抜け。はぐらかそうとした楽は自嘲気味にバレたかと口角を上げた。
「そっか〜」
「......嬉しそうだな」
「嬉しいよそりゃあ
10時間生放送の高視聴率を誇る全国ネットにあの子達が出るって考えたら胸が高鳴るよ」
ミュージックフェスタ…略してミューフェス。この番組は、インディーズから大御所まで集めて10時間生放送する特大番組。毎年この時期に行われるもので、高視聴率を誇る全国ネット放送番組なのだ。
頬を緩ませる琴音の脳裏にあの時のライブの映像が蘇る。皆がイキイキと輝き、楽しげに歌い踊っていた。
「どうしてそこまで気にかけてるんだ?」
「えぇ〜、そう見える??」
「見えるよ
最近のお前、なんかすごくイキイキしてるぜ」
楽はここまで興味を示す琴音に疑問を抱いた。普段はヘラヘラと笑っている琴音だが、興味ないものはホントに無関心。加えて、意外と辛辣な言葉を吐く一面も持ち合わせているのだ。
大好きであるではずの音楽にすらどこか琴音は本気になっているように楽には見えずどこか一線を引いている感じがした。自分の本心を語らない、悟らせない琴音はまるで本当に感情を持たないお人形のようだった。なのに楽の知らないうちに琴音の感情は豊かになっていたのだ。
「………楽」
「今のお前の方が断然良いぜ」
俺らが出来なかったことを難なくやりのけてしまったIDOLISH7に、楽はやりきれない気持ちだった。一体、TRIGGERになくてIDORISH7にあるものはなんなのだろうか?純粋な興味から楽は注目し始めた。それがいつの間にか癇に障ったのか己の父親兼八乙女事務所の社長である人物に目をつけられるまでになっていたのには流石の楽も驚いたが。
「親父がアイツらに目をつけ始めた
驚異な芽が出る前にサッサと積むんだと」
楽の一声にニコニコとしていた琴音は一気に顔を歪ませた。八乙女社長らしい考えだ。使えないもの、要らないものは冷徹に切り捨てる。邪魔な存在は徹底的に再起不能になるまで痛めつける。そんな彼がIDOLISH7に目をつけた。一体、社長は何をする気なのであろうか?琴音は彼らの身を案じて不安で不安で胸が締め付けられた。
「あの人らしいね」
「天は三流の考えだと一蹴してたがな」
「天はプロ意識が高いから」
社長の言葉を嘲笑う天の姿が容易に想像出来て琴音は苦笑いをした。だが、どこか遠くを見つめるように琴音は神妙な面持ちになると目を細めてポツリと呟いた。
「でも、きっと平気だよ
夢に向かって自由に羽ばたこうとする彼らの力強い翼は誰にもへし折ることは出来ないから」
そんな彼女に楽はハッと息を呑んだ。どこか儚く脆く切なげな表情を浮かべる琴音がキレイに見えたのだ。思わず楽は声を漏らしそうになる。お前は違うのか?と。そこまで惹きつけられるのは、お前も切望してるからではないのかと。自由に自分の意志で羽ばたきたいのは琴音自身でないのかと。
「ってか、仕事放っておいちゃ駄目でしょ」
「今は落ち着いてるからいいんだよ」
人の気もしらないでコイツはと楽は小さく肩を竦めた。そして自分の気持ちを隠すようにヘラヘラと愛想笑いを浮かべる琴音に楽はデコピンを喰らわすのだった。
そして、楽はその後琴音に宣言した通りIDOLISH7をインディーズ枠に推薦した。ミューフェスへの話は、彼らに後日伝わった。その推薦はIDOLISH7にとっては願ったり叶ったりであった。実は、潰そうと目論んだ八乙女社長は人気急上昇の二人に目をつけらたのだ。その話を聞いた小鳥遊社長は守るために引き抜きにあった環と壮五を先にデュオユニットとしてデビューさせようとしていたのだ。その理由は、全員をデビューさせるのにはまだまだメンバー全員の知名度は至っていなかったからだ。そこに舞い込んだ、知名度を一気に上げるための一発逆転の大舞台への出演依頼。彼らは全員でデビューするために、新たに気を引き締め、新曲の練習に励むのだった。
琴音の予想通り、野外会場はこの前の閑散した場所とは思えないほど熱気と歓声に包まれていた。紡から送られたチケットを握りしめて琴音は時間ギリギリに会場入り。慌てて席に着席した途端、ライブの開始が告げられた。
「天気…持ちますように」
唯一気がかりなのは天候だ。今にも降り出しそうなくらい雲意気が怪しかったのだ。彼らの歌声がこの雲を吹き飛ばしてほしいと願い琴音はステージに出てきた彼らに精一杯、ペンライトを振り始めるのだった。
ステージに上がった彼らは琴音が最初に見たときと同じように7色に光輝いていた。順調にライブは進んでいく、が、ポツリポツリと空から雨粒が落ちてきた。そしてこの雨は段々と雨足が強まりそれと髄して風も強まってきた。ライブも終盤。陸の一声で最後の曲、『Dancing ∞ BEAT!!』が始まった。だが、突如その曲は中断させられてしまった。この悪天候でどこかに雷が落ちたようで音も明かりも消えてしまい真っ暗闇になってしまったのだ。
一気に観客席中に不安と動揺が走った。その中で唯一琴音は冷静にこの状況の行方を見守っていた。
「さて、どうするのかな??」
琴音はジッとステージにいるはずの彼らを見据えた。
*****
音響と明かりが消え静寂になった場でもちろんメンバー7人も動揺が走った。観客席にいるお客さんの不安が伝わってくる中、この場をどうするか皆表情を曇らせ顔を見合わせた。
「音が来ない…」
「こっちもダメだ、なにも聞こえない」
耳にあるインカムを確認する陸と大和。だが、インカムからは何も聞こえては来なかった。
「どうする?このまま続けるか?」
「待ってください、下手に動いたら危険です」
三月の投げかけに対して、この状況では危ないと一織が切羽詰まった声で動き出そうとする彼らを制止させようとする。だが、ココでいつにも増して真剣な面持ちを浮かべていた環が口を開いた。
「止めちゃダメだ」
「…環くん??」
「今日来た奴らも忙しい中来たんだろ?
時間を作って俺達を見に来た」
「イエス
夢のような楽しい時間を求めてここにいます」
「瞬間瞬間に価値を与えられないなら立っている意味がない…だっけか?」
彼ら、環とナギ・大和、3人の脳裏に思い浮かんだのは高熱という体調不良にも関わらずステージに立ち最後まで歌いきった九条天が放った言葉の数々だった。
「俺達もプロだろ、やろうぜ!」
大和が自身も含めてメンバーを鼓舞する声を発する。
そういえば今度のライブ行くから!!
えっ!?マジ!?
うん!楽しみにしてるから!絶対成功させてよね!
ステージに立っているこの場所からは彼女が何処にいるかは判別はできない。それでも、この会場もどこかにいるはずの琴音が見ている眼の前で、しっかりと見せたかった。プロとしてのIDOLISH7の姿を。
大和の一声に皆大きく頷く、その中、環はゆっくりと一人中央へ。すると、その様子を察した紡がステージ裏へ走り出した。この状況で出来る事をするために。それは歌ではなく、踊りを届けることだった。唯一使える予備電源が急いでステージ脇に到着した紡の指示により環に当たる。そのスポットライトに照らされ環は眩しいと頭上を見上げ目を細める。そこから環は視線を観客席に向けると決意を固めなのか大きく頷いた。そして、環はステージ中央で華麗に踊り始めるのだった。
「お前ら手拍子!!」
ついていけず呆けている陸達を見て、先導するように大和が小さく指示を出す。すかさず、先陣きるようにナギが観客席に向かって声を上げた。
「ヘイ!!Everybody!ハンズアップ!!
1、2……1、2、3!」
環のダンスを盛り上げるために他のメンバーは手拍子を始めお客さんにもそれを求めたのだ。最初はお客さんは戸惑いを見せる。が、少しずつ着実に手拍子の音は大きくなっていっていた。そして暫く経つといつの間にかお客さんの不安げな表情は消え去り、環のダンスにのめり込み楽しげに手拍子をしていた。
暫くして音響が入る、そして中断してしまったパートから再開すると紡から伝えられるメンバー。それを了承すると次のソロパートを歌う予定である壮五がゆっくりと中央へ歩き出した。
カウントダウンに合わせ、踊っていた環がダンスを締めくくりパッと片手を上げる。途端、曲の音響が流れ出す。流れ出した音に合わせ、環は立ち位置に戻るため踵を返す。
「環くん、お疲れ」
「そーちゃん、頼んだ」
すれ違いざま環と壮五はハイタッチを交わして立ち位置を変える。中央に壮五が立つとステージ上が紫色に染まり上がる。流れるように壮五のソロパートがスタートしたのだ。
この演出に、観客は歓声を上げた。このハプニングを見事に彼らは演出と錯覚させるパフォーマンスをして乗り切ったのだ。無事にライブを成功に収めた彼らは大歓声を浴びてライブを締めくくる。その様子は、生中継に入っていたカメラで撮られ、TVでも放送された。その放送された部分は丁度環と壮五がハイタッチを交わして入れ替わる部分。その影響もあり二人の認知度は一気に急上昇するのだった。
*****
「そーいえば、ミューフェスのインディーズの枠がまだ決まってないんだと」
「へぇ~それで?
誰かいないか?って聞かれたの?」
ライブの日から幾日が過ぎたある日、琴音はとあるお蕎麦屋さんに足を運んでいた。そこでカウンター席でお蕎麦を啜って満喫していた琴音に従業員として扮した楽がまだ従業時間にも関わらず彼女の隣に腰掛けるとふとそう呟いたのだ。その言葉に琴音は手元を止めたのだ。
「あぁ
それでアイツラを推そうと思ってんだがどう思う?」
「………!?!?」
楽の口元から発せられた言葉に琴音は耳を疑った。あの八乙女楽が一体誰を推すのだろうと思ったらまさかの事態。彼がいうアイツらとは確実にIDOLISH7だ。確かに琴音は楽に自慢げに勧めたりはしたが、まさか楽のお眼鏡にかなうとは思っていなかったのだ。目をパチパチと瞬きかせて己を見る琴音に楽は小さく息を付き笑った。
「なんでそんなに驚いてんだよ」
「だって、楽が推すなんてさ言うから」
「まぁ琴音がだいぶぞっこんだからな」
「私がぞっこんでも、楽がそれ相応のレベルにたっしてないと認めないと推すなんて言わないでしょ」
「違いないな」
流石、長年の付き合いである。誰の意見に惑わされることなく自分の信念を貫く楽は例え信頼の置ける琴音が注目していても、推したいと思わなかったら推薦するわけがないのだ。そんなのは琴音には筒抜け。はぐらかそうとした楽は自嘲気味にバレたかと口角を上げた。
「そっか〜」
「......嬉しそうだな」
「嬉しいよそりゃあ
10時間生放送の高視聴率を誇る全国ネットにあの子達が出るって考えたら胸が高鳴るよ」
ミュージックフェスタ…略してミューフェス。この番組は、インディーズから大御所まで集めて10時間生放送する特大番組。毎年この時期に行われるもので、高視聴率を誇る全国ネット放送番組なのだ。
頬を緩ませる琴音の脳裏にあの時のライブの映像が蘇る。皆がイキイキと輝き、楽しげに歌い踊っていた。
「どうしてそこまで気にかけてるんだ?」
「えぇ〜、そう見える??」
「見えるよ
最近のお前、なんかすごくイキイキしてるぜ」
楽はここまで興味を示す琴音に疑問を抱いた。普段はヘラヘラと笑っている琴音だが、興味ないものはホントに無関心。加えて、意外と辛辣な言葉を吐く一面も持ち合わせているのだ。
大好きであるではずの音楽にすらどこか琴音は本気になっているように楽には見えずどこか一線を引いている感じがした。自分の本心を語らない、悟らせない琴音はまるで本当に感情を持たないお人形のようだった。なのに楽の知らないうちに琴音の感情は豊かになっていたのだ。
「………楽」
「今のお前の方が断然良いぜ」
俺らが出来なかったことを難なくやりのけてしまったIDOLISH7に、楽はやりきれない気持ちだった。一体、TRIGGERになくてIDORISH7にあるものはなんなのだろうか?純粋な興味から楽は注目し始めた。それがいつの間にか癇に障ったのか己の父親兼八乙女事務所の社長である人物に目をつけられるまでになっていたのには流石の楽も驚いたが。
「親父がアイツらに目をつけ始めた
驚異な芽が出る前にサッサと積むんだと」
楽の一声にニコニコとしていた琴音は一気に顔を歪ませた。八乙女社長らしい考えだ。使えないもの、要らないものは冷徹に切り捨てる。邪魔な存在は徹底的に再起不能になるまで痛めつける。そんな彼がIDOLISH7に目をつけた。一体、社長は何をする気なのであろうか?琴音は彼らの身を案じて不安で不安で胸が締め付けられた。
「あの人らしいね」
「天は三流の考えだと一蹴してたがな」
「天はプロ意識が高いから」
社長の言葉を嘲笑う天の姿が容易に想像出来て琴音は苦笑いをした。だが、どこか遠くを見つめるように琴音は神妙な面持ちになると目を細めてポツリと呟いた。
「でも、きっと平気だよ
夢に向かって自由に羽ばたこうとする彼らの力強い翼は誰にもへし折ることは出来ないから」
そんな彼女に楽はハッと息を呑んだ。どこか儚く脆く切なげな表情を浮かべる琴音がキレイに見えたのだ。思わず楽は声を漏らしそうになる。お前は違うのか?と。そこまで惹きつけられるのは、お前も切望してるからではないのかと。自由に自分の意志で羽ばたきたいのは琴音自身でないのかと。
「ってか、仕事放っておいちゃ駄目でしょ」
「今は落ち着いてるからいいんだよ」
人の気もしらないでコイツはと楽は小さく肩を竦めた。そして自分の気持ちを隠すようにヘラヘラと愛想笑いを浮かべる琴音に楽はデコピンを喰らわすのだった。
そして、楽はその後琴音に宣言した通りIDOLISH7をインディーズ枠に推薦した。ミューフェスへの話は、彼らに後日伝わった。その推薦はIDOLISH7にとっては願ったり叶ったりであった。実は、潰そうと目論んだ八乙女社長は人気急上昇の二人に目をつけらたのだ。その話を聞いた小鳥遊社長は守るために引き抜きにあった環と壮五を先にデュオユニットとしてデビューさせようとしていたのだ。その理由は、全員をデビューさせるのにはまだまだメンバー全員の知名度は至っていなかったからだ。そこに舞い込んだ、知名度を一気に上げるための一発逆転の大舞台への出演依頼。彼らは全員でデビューするために、新たに気を引き締め、新曲の練習に励むのだった。