動き出す歯車
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「なんでここまでしてアイツ出ようとしているわけ??」
「それは天のプロ意識の高さかな?」
会場へ走りながら琴音は彼らの沸き上がった疑問に答えていく。
「どーして、琴音は彼と面識があるのですか?」
「あぁ…私、事情があって八乙女事務所でお世話になってんだよね」
「んじゃ、ここまで琴音が忙しいのって!?」
「ほぼ大学の勉強よりもそっち関連が多いかな
御免ね、大和さん隠してて…
あまり言いたくなくて…」
申し訳なさそうに俯く琴音に、大和は気にしてないと小さく首を横に振った。
「なぁ…王様プリン20個でも良い?
これ結構キツイ…」
先頭を走っていた環が背にいる天に報酬の追加を申し入れる。その声に天はゆっくりと目を開けた。
「良いよ…
話しかけないでって言ったのに…」
小さくため息を漏らす天に、対して大和とナギが心配して声をかける。
「ホントに大丈夫なのか?
穴開けられないのはわかるけど…」
「プロである以上、どのステージも同じクォリティーの者を提供するよ
ファンを心配させるような無様な姿は見せない」
「Oh~、心配させる、かっこ悪いですか??」
「例えば、レストランに入ってオムライスを頼むでしょ」
天は理解してもらえるようにと例え話を始めた。それに対して、環はミートスパゲッティ、ナギはハンバーグが良いと言い始めた。だが、それを天は埒が明かないと強引に却下し、話を進めた。
「同じ値段を払っているのに、昨日は美味しくて今日はまずかったら?」
「ガッカリでーす」
ナギの落胆する声に天が続ける。
「でしょ
ライブもそれと同じこと…
心配させていいと思ってるなら、ファンの愛情に胡坐をかいているんだ
覚悟のない恥知らずの素人がすることだよ…」
天の考えに、なにか心当たりがあることをしたのだろうか?環とナギはジッと神妙な面持ちで天の言葉に聞き入るのだった。
「ここでいい」
会場の裏口で天は降ろしてもらう。そして天を降ろした環は意気揚々と声を上げた。
「王様プリン…21個です!!」
「…21個だっけ??」
「1個増えてるじゃないか…」
「わぉ…プラス1…」
環の嬉しそうな声と反して、他の3人はげんなりとした表情を浮かべた。
一方の天は時間がないにも関わらず、彼らに何かを伝えようと正面に立って口を開く。
「僕たちは忙しい
だけどお客さんはもっと忙しいかもしれない
僕たちの仕事は大変
だけどお客さんはもっと大変な日々を送っているかもしれない
僕たちにはやりたいことがある。
だけど、お客さんはもっとやりたいことがあるかもしれない
そんな中時間を作っての僕たちを見に来てくれる。夢のような楽しい時間を求めて…
だから、瞬間瞬間に最高の価値を与えられないのならステージに立っている意味はない…
と僕は思う」
「俺…ちゃんと朝飯食う!!」
「ワタシもステージ集中しまーす」
その言葉が胸に突き刺さったのか、環とナギが声を上げる。そんな彼らに天は小さく笑みを溢す。
「何のことかしらないけど…
でもさ…
ホントにステージに立てば元気になるんだよ
あれだけのパワーを観客席から受けて立ち止まってなんかいられない
同業者の君たちならきっとわかると思うけど…
今夜見に行くんでしょ?
単なる刺激を楽しんで」
夕焼け色の空を見上げて、天はライブの時の高揚感を思い起こしながら彼らに語り掛ける。そして、奥へ行こうとするがその足を止めて振り返った。
「…琴音」
「なに?天??」
「僕たちのライブしっかり目に焼き付けてよね」
天の言葉に琴音は何度か瞬きをすると、満面の笑みを浮かべて大きく頷く。
「…あったりまえでしょ!」
琴音の言葉に今度は天が瞬きをする。そして小さく口角を上げた。
「...じゃ行ってくるよ、琴音」
天は最後にそう言い残すとしっかりとした足取りで歩き出す。その姿を4人は姿が見えなくなるまで見送ったのだった。
*****
「ハァ…ハァ…!!まっ、間に合った〜!!」
ようやく会場の正面口に着いた4人はハァハァと肩で息をする。開口一番良かったと屈んで両手を膝に置いた環が声を上げる。だが、すかさず大和がツッコミを入れる。
「ってねーよ!!もう開演十分前だ」
「しょ、しょうがねーじゃん!色々あったんだから」
「ほっ…ホントに色々あったね」
言い返す環に同意するように琴音が相槌を打つ。それに気を良くしたのかえっへんと環は立ち上がると両手を腰に当てた。
「俺、頑張ったし!!」
「今日のMVPは環くんだね」
「確かにタマーキ頑張りました
でもきっとこの真実は誰も信じてくれませーん」
「でも!言うだけ言ってみる」
爽やかな笑みを浮かべ苦笑するナギに環はグッと顔を引き締める。そんな環の肩を大和は力強く叩いた。
「まぁ俺とナギと琴音は褒めてやるから」
「…遂にTRIGGERのライブ」
一息つくと琴音は目の前にある会場を見上げた。会場を見ただけなのに琴音は心臓の高鳴りを覚えていた。
「長い1日だったけどこれが最後だ」
「サイコーに盛り上がっていこうぜ!」
「YES!夢のような楽しい時間を!」
4人は顔を見合わせて大きく頷きあった。
「んじゃ、私もう行くね」
入り口の近くにはIDORISH7の他のメンバーが3人を待っている姿が見えた琴音は、ここでお別れだと手を挙げた。
「琴音っち、じゃーな!」
「…琴音、またお会いしましょう」
「おう!じゃーな!連絡するわ!」
それに答えるように環・ナギ・大和が手を挙げた。そして、3人は待っているメンバーのもとへ、琴音はアリーナに入るため駆け出すのだった。