お酒の威力
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乾杯〜
カツと買ってきた缶ビールを重ねると、二人はグビッとビールを飲み始める。
寮に三月と壮五を送り届けた琴音と大和は、寮の近くにある公園のベンチに座り2次会を始めていたのだ。もう夜遅いため、人気はなく公園には二人っきり。唯一公園にある街灯は二人が座るベンチを照らしていた。
少し冷たい夜風が吹き付けることで酔っていた琴音も少し酔いが覚めほろ酔い気分になっていた。
「そ~いえば、こうやって2人きりって久しぶりだね」
「そーだな
なんだかんだ互いに忙しかったからな」
苦笑しながら紡がられた大和の言葉に、琴音の脳裏で様々な出来事が走馬灯のように思い起こされた。
「ホーント
知らないうちにアイドルになってたのはビックリだよ」
「……まだ根に持ってるか」
「とーぜん!!」
あの出来事に対して琴音は鼻で笑い飛ばす。それに顔を顰める大和に琴音は口角を上げた。そんな彼女のしてやったりの表情に大和は小さく肩をすくめた。
「参ったな………
どーすればいい」
「うーん、そうだな……」
困ったような表情を浮かべる大和は琴音を見て眉尻を下げた。そんな彼の言葉に琴音は考え込むように顎に手を当てる。そして暫くその態勢をしていた琴音はなにか閃いたのかニヤリと悪戯な顔を大和に向けた。
「じゃぁ〜さ…」
言葉を区切った琴音は何を企んでるんだと顔を引きつらせる大和に近づく。琴音は大和の耳元に小さく囁くと、そっと離れた。耳に囁かれる彼女の要望を聞き終えた大和は思わず何度も瞬きを繰り返した。
「えっ!?そんなんでいいのか!?逆に!?」
「うん、これがいい」
驚きのあまりもう一度聞き返した大和に、琴音は大きく頷いた。そして、片手に持っていた缶に入っているビールを最後の一滴まで飲み切ると勢いよく立ち上がると、楽しげにクルリと髪をなびかせてその場で回ってみせた。
「私に夢をもっと見せて…大和さん」
大きく両手を広げ、琴音は小さく笑ってみせた。そんな彼女を視界に入れた大和自身も飲んでいた残りのビールを飲み干して立ち上がった。月明かりに照らされた琴音の微笑みは、どこか哀しげで諦めの色が見られた。そして、今にも月明かりに消え入りそうな脆さがあった。
「…見せてやるよ」
どうしてここまで琴音自身がIDOLISH7に対して期待を寄せているのかはわからない。それでも、叶えてやりたいと大和は強く思った。少なくても琴音は心の在処を求めている、その結果IDOLISH7に惹かれてくれた。守ってやりたい、できれば琴音自身が抱えているものをどうにかして払拭できるのが己であって欲しい。また1段と大和が決意を固め身を引き締めた瞬間だった。
「フフ…、大和さんカッコいい」
ゆっくりとした足取りで近寄ってくる大和を見て琴音は嬉しそうに頬を緩ました。そんな琴音に大和は困ったような表情を浮かべる。
「…俺こういうセリフ言う柄じゃないんだけど」
「知ってる
だから嬉しい、大和さんが私に柄じゃない言葉を必死にかけてくれることが」
「こんなに俺をかき回して、掌の上で転がせることが出来るのはお前くらいだよ」
「アハハ!そんな事ないよ」
周りに沢山いるでしょ?
悪戯っぽく笑みを浮かべた琴音の言葉に、大和の脳裏でメンバーの表情が駆け巡った。
「ハハ…確かにそうだな」
自嘲気味に大和は笑うと琴音にそっと手を差し伸べた。
「1曲踊っていただけますか?お嬢さん」
ごく自然に出された手を琴音は顔を赤らめながらも手に取る。普段の大和らしくないギザなセリフに対してからかいを添えて。それに恥ずかしさを必死に隠してやり遂げた大和はうるせっと不貞腐れた声を漏らした。
「1曲何踊ろうか??」
「…何も考えてなかったのかよ」
「咄嗟に思いついたことだったから」
発案したのは琴音自身のはずが当の本人はその先を何も考えておらず、一気にせっかく作り上げたムードはぶち壊しに。拍子抜けしてしまい肩を落とす大和に琴音はケラケラと楽しげに笑った。
「たく…しょうがないやつだな」
ため息交じりに大和は琴音を引き寄せると、彼女の腰に手を回した。
「んじゃ、適当に踊りますか」
「曲無しで??」
「無しで」
「平気??」
「まぁなんとかなるでしょ」
時として楽観的な考えを持つ大和は、ニコニコと笑みを浮かべながらステップを踏み始める。必然的に琴音も大和に誘導されるままに足を動かし始めた。最初は戸惑っていた琴音だが、ごく自然な大和のリードにいつのまにか身を任せていた。
「大和さん、予想以上に上手いね」
「……予想以上って
それ誘っておいて酷くないか!?」
「ごめんごめん!!
踊れそうだなとは思ってたよ!!」
「お気遣いどーも」
「そんなに拗ねないでよ」
「拗ねてません」
「うっそだ〜!!」
「そういう琴音も踊れたんだな
お兄さん、ビックリ」
「踊れなかったらダンスのお誘いなんか頼みません」
「踊れないこと期待してたんだがな」
「その考えこそ酷くありませんか?」
互いに軽口を言い合いながらも、二人は自然な笑みを浮かべていた。互いの表情を確認出来るのは、夜空に輝く月からの明かりのみ。それでも、至近距離の彼らは僅かな月明かりでも相手がどんな表情かはひと目でわかった。二人して顔を近づけあうと、クスリと含んだ笑みを零して笑いあったのだった。
「…夢みたい」
暫く経ちポツリと琴音が声を漏らす。そんな彼女の頬はトロンと緩んでいた。夢心地の琴音の、対して大和はこれを夢で終わらせるわけにもいかず思わずため息まじりの声を発した。
「おいおい…
夢じゃなくて現実だぞ」
呆れた表情を浮かべる大和の言葉に、琴音は慌ててそういう意味でないと口を開いた。
「例えだよ!例え!!
こんな風に大和さんと楽しい一時を過ごせるのが嬉しくて…」
「……!?!?」
「大和さん??」
「良く恥ずかしいセリフ言えるな」
「そう照れてる大和さんはどういう気持ちなのかな??」
足を止めることなく、暗闇でも僅かに頬が赤くなり目線を泳がしている大和に気づいた琴音は自然な動きで彼の顔を覗き込む。その琴音の視線に耐えきれず大和が声を上げる。
「言わなきゃ駄目??」
「駄目!言ってくれなきゃわかんない、大和さんの気持ち」
「………」
「………」
「……わかった言うよ
嬉しいよ、俺も、琴音とこんな風に時間を過ごせるなんて」
遂に心折れた大和が本心を口にする。柔らかく微笑んだ大和が発した言葉に琴音は、直感的に嘘偽りがないと判断する。そして大和が自分と同じ気持ちだと知る事ができた琴音はホッと胸を撫で下ろすのだった。
「…じゃ、一緒だね」
「そうだな」
秘密ごとを共有するようにクスリと微笑みあった二人。そんな二人っきりの舞踏会を知るのは踊る二人を白銀に照らす満月のみ。