お酒の威力
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「何の話してるの??」
「あれ??ミツは??」
「ミツ、酔いつぶれて気持ち良く寝てる」
少し時間が経ち、琴音が会話に割り込んできた。それにもう片方はと声を上げる大和に琴音は不貞腐れながら答えた。恐る恐る三月がいたほうに視線を移すと琴音の言う通り、真っ赤な顔で気持ちよく寝息を立てていた。
「ありゃま…」
「つまんなくなっちゃったからこっちにお邪魔するね
って、ホントに壮五くんの顔色変わんないね」
「ホントですか!?」
ほんのりと赤く染まっている琴音と大和と対照的に壮五の顔には全然変化が見られなかった。
「うん!ほんとほんと!!」
「度数高いやつしか飲んでないのにな」
「歌詞に出てくるカクテルを片っ端から頼んでいるだけなんですけど」
「なるほどね、じゃあこれなんかどう??」
「飲みます!」
「即答かよ」
「イイね!ノリいいの好きだよ」
「琴音!飲ませすぎるなよ」
「はいはい!」
壮五にあれやこれやと提示していく琴音も、それを微笑ましげに眺めていた大和も、全くこの後大変な展開になるとはこの時は思わなかった。
「フフフ......」
「壮五くん!?」
「ソウ!?」
もう何杯目か忘れたころ具合に、急に壮五が不敵に笑い出す。その笑い声に、琴音と大和はホントに壮五なのかと瞬きを繰り返した。
「…美味しい」
「壮五くん、可愛い」
「いや、可愛いって言ってる場合かこれ!?」
急に性格が豹変した壮五の顔は一気に顔が真っ赤に。完全に酔いが回ったのかと察した二人の反応は真逆だった。
「琴音さ〜ん!!」
「なぁーに?壮五くん」
「もっと飲みましょうよ〜!!」
「いいよ〜!!」
「いや、待て待てもう飲むなソウ」
「い〜や〜だ〜ぁ〜」
「凄い!壮五くんが駄々こねてる」
「ソウって酔うとこんなになるんだな」
甘い声を出し、もっと飲みたいと駄々をこねる壮五が意外過ぎて二人の開いた口は暫し塞がることはなかった。
*****
「はぁ、お開きにするか」
「アハハ…壮五くん可愛い」
「なんでソウは琴音に膝枕してもらってんだよ」
「大和さんもする??」
あの後散々騒ぎまくりこの場をかき回した壮五は、今琴音の膝でスヤスヤと眠っていた。そして、三月もこのまま机にうっ潰したまま。そんな光景に大和は不機嫌そうな声を漏らす。だが、そんな気をしらない琴音はそっと壮五を別の場所に降ろすと首を傾げて手招きを始める。アルコールが回り火照っている琴音は艶やかに見えた、そして大和自身も飲んでいたため理性が少し外れかけていたこともあり、大和の悪戯心が燻ぶられた。いつも誰にもこんなことをしているのではないか?と奥底に渦巻くどす黒い感情が表面に現れてしまったのだ。
「お前いつもそんなことして誘ってるのか??」
「えっ!?」
琴音は素っ頓狂な声を漏らした。悪ノリに乗ってくれる大和のことだから、ニヤニヤと笑みを浮かばせながらこっちに近いてくると琴音は踏んでいたのだ。
だが、大和はいつもと音色が違うどこか怒った色を滲ませた低い声を出していたのだ。なにかしてしまっただろうか?彼のいつもと違う声に琴音は体をブルっと震わせた。
「........よっと」
「...や、大和さん??」
だが、さっきのオーラは琴音の膝元に寝っ転がった大和から消え失せていて、琴音はこの変化についていけなかった。そんな彼女の心境の変化など知らない大和は瞳を閉じて、やっぱり女の子に膝枕してもらうのサイコーと口角を上げて楽しんでいるご様子。もうここまで来たらどっちが本性なのか琴音はわからなかった。
「琴音」
困惑する彼女をさらに戸惑わせるような甘い大和の声が琴音の名を紡ぐ。その声に驚いた琴音は小さく肩を震わした。いつの間にか、大和の瞳はしっかり開いており、真っ直ぐ琴音を見ていたのだ。慈しみの色の裏に熱が籠もっている大和のモスグリーン色の瞳に射すくめられた琴音の心臓はバクバクと鼓動を鳴らし始め自然と顔に熱が集まった。
そんな彼女に大和は柔らかく微笑むとゆっくりと手を伸ばす。その手は琴音の火照った頬に優しく触れた。アルコールを飲んでるはずの大和の大きな手から伝わるのはひんやりとした感触だった。
「......大和さん!?」
「可愛い反応してくれるな、琴音は」
クスリと笑って目を細めた大和は、その手を琴音の髪に伸ばした。サックスブルー色の琴音の髪に指を通す。予想通り、サラサラと引っかかることなく通る感触に大和は笑みを浮かべた。一方、されるがままの琴音は恥ずかしすぎて俯いたまま早く終われと願うしかなかった。と、同時にもしかしてもう大和には自分の密かな気持ちなんてバレバレなのではないかと感じ始めた。
もし、そうだったら彼のこの行為は何を意味してるのだろうか?
琴音はグッと喉から今にも出そうな言葉を飲み込んだ。自惚れだったら赤っ恥だ。どうせ、これはからかいの一貫だと琴音は割り切った。自分の気持ちを声に出せない自分に他人の気持ちを聞く資格はないと。
一方の大和もこれ以上前に踏み出せなかった。己のこの行為を拒絶することなく、可愛らしい反応をしてくれる琴音を見て、自然と鼓動は高鳴った。友達ではない宙ぶらりんな中途半端な関係。どちらかが拒絶すれば自然と切れる関係がここまで続いたのはどうしてだろうか?少なからず好意を寄せられているという自覚はある。だが、自分のこの想いを伝えたら彼女は戸惑ってしまうのではないか?愛されたいし愛して欲しい、だが傷つきたくない。臆病な大和は、この関係を壊したくなくて沸き起こる独占力も愛おしいと思う気持ちも胸の奥に仕舞い込んだ。
「さて、琴音の可愛らしい反応を十分愉しませてもらったからそろそろ帰るか!」
「...!?
もう〜!!やっぱりからかってたんだね!
酷いよぉ〜」
堪能した大和は、この行為を普段通り茶化して締めくくり立ち上がった。その言葉にようやく開放された琴音は頬を膨らませ拗ねる。その言葉に聞き捨てならないと大和は眼鏡を押し上げて反論する。
「煽ってきた琴音が悪い」
「いつ煽った?私!?」
「はぁ...
じっくりと少し前の自分の行動を思い出しなさい」
「え!?だって...」
ため息混じりに言われた言葉に琴音は戸惑いながらも頭の隅々から記憶を手繰り寄せる。そしてようやく気づいたのか口を手に当ててハッと息を漏らした。そんな琴音にやれやれと大和は肩をすくめた。
「駄目だろー
密室で男にそんなことしちゃ...
襲ってどうぞって言ってるようなもんだ」
「......ゴメンナサイ」
「オレ以外の野朗にこんなことすんなよ」
しょぼくれる琴音に大和はグッと顔を近づける。この気持ちを声に出す勇気は無いのに、大和は彼女の耳元にそう囁いていた。直ぐに大和は離れると眠っている三月を起こしにかかる。
「...しないよ、大和さん以外に
するわけ無いじゃん」
未だに残る大和のニヤリと不敵な笑みを浮かべる表情と囁かれた少し低くて魅惑的な声に琴音は頬を染め、彼の背にそっと呟いた。他の男にするわけがない。惚れているのは貴方だけなんだから。
「おい!ミツ!!起きろ!!帰んぞ」
「ん…んっん…
もう帰るのか??」
「そう帰るから起きなさい」
「…わかった」
大和に揺り動かされて強制的に起こされた三月は眠たい目をゴシゴシ擦りながらなんとか立ち上がる。
「ソウくん、ソウくん…起きれる??」
「もうちょい…」
「もうちょいじゃねぇ!!」
スヤスヤと気持ちよさげに寝る壮五にいつの間にか戻ってきた大和が一喝いれる。その声に壮五はゆっくりと起き上がる。そんな彼を見て大和は小さくため息をついた。
「はぁ…なんか悪いな
手伝わせて…」
「いえいえ」
琴音はその言葉に苦笑いして応じた。そんな二人は、大和は壮五を、琴音は三月を、介抱しながらお店を出て寮への道を歩いていた。
「色々と収穫があって楽しかったよ〜
ミツは同い年だし、ソウくんなんか酔うとあんなに可愛くなるなんて」
「ビックリだよな
初対面の時、俺ミツのこと最年少だと思ったしな」
「わかる〜
顔立ちが可愛らしいもん」
「お前さっきから可愛いしか言ってね〜な」
「だって、ミツもソウくんも可愛いんだもん」
可愛いものを可愛いと言って何が悪いと琴音は頬を膨らませる。そんな彼女の方が可愛いと大和は秘かに思った。そんなことを思っているとは知らない琴音はさり気なく、大和の袖を引っ張った。
「……ん??どうした??」
「えっ…えっと…」
大和はそれに気づいて足を止める。視線を向けた先には、妙に縮こまり目線を泳がせる琴音がいた。
「あ…あの…」
「…うん」
「大和さんが嫌じゃなかったら
…もう少し、一緒にいたい…」
「……!?!?」
「だ…駄目かな…」
言いよどみながら率直な思いを琴音は伝える。琴音はただただこの時間をもう少しだけ満喫していたかった。夢のような一時を。対して、琴音の様子に大和はハッと息を呑んだ。まさか琴音からこのようなお誘いを受けるとは思わなかったからだ。もちろん、こんないい話を断るわけがなく大和は直様オッケーだと返事を返した。その返事に琴音はパァっと華が咲いたように表情を緩まして喜びを露わにした。そんな彼女の表情に必然と大和の頬は緩んだ。
「よし、そうと決まればサッサとコイツラを運ぶぞ!」
「ラジャー!!」
大和の掛け声に琴音は警官のように敬礼をする。そして、琴音の提案により一気にテンションを戻した2人の歩くスピードは上がるのだった。