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「こんばんわ
IDOLISH7の皆さん」
琴音の要望によるアンコールの曲も終え、静寂になった場に琴音の凛とした声が響いた。
「あ…琴音さん…」
「琴音…どうしてここに??」
「たまたまだよ〜
あの部屋に居て息苦しいなって思ったときに時々ココに来るんだぁよ」
突然の琴音の出現に動揺を隠しつつ大和が尋ねると琴音はニコリと笑いながら答えた。だが、ポツリと何気なく嘆かれたフレーズに大和は違和感を感じ眉を顰めた。
だが、琴音は若干の彼の表情の変化に気づかずに話しを進めた。
「それで、耳に魅力的な歌声が入ってきたから思わず乱入しちゃいました!
迷惑だったかな??」
「NO〜!そんなことないですよ〜!!」
「琴音っち…ギター上手なんだな」
意気揚々に手を上げて事実を述べた琴音は、皆を見渡して一応乱入して平気であったかを尋ねた。その言葉に彼女のギターの腕を称賛しながらそんなことないとナギと環がすかさず反応を示した。
「そっか…それは良かった
そういえば今日ってミューフェスだよね?
どうだった??」
二人を皮切りに頷く彼らを見てホッと胸を撫で下ろした琴音は、思い出したように話題を切り出した。だが、それは今の一織にとっては触れてほしくない話題で周囲が見てもわかるほどズドーンと落ち込んだ様子を見せた。
「琴音…傷口に塩を塗るな」
「あぁ…ゴメン
そんなに落ち込むほどの失敗しちゃったんだね」
眼鏡を押し上げて表情を曇らせる大和の言葉に、琴音はようやく事情を察した。そして、彼らの声の裏に隠れていた悲しみの色の正体を理解した。
「私のせいで…せっかくのチャンスが…」
「あぁ!!一織!!気にすんなって!!」
「…一体、なにしちゃったわけ??」
少しのミスならここまで落ち込むことはないだろうと思った琴音も流石に異常事態であると察した。遠目からみて、一番大人っぽく見える一織がここまで感情を露わにして落ち込んでいて、そんな彼を慰めようと陸や三月によりもみくちゃにされる光景を傍らに見ながら琴音は思わず呟いてしまった。
「実は……」
神妙な面つきを浮かべた紡がその疑問に答えようと口を開いた。長時間に渡る生放送の番組で現場はドタバタしている中、アーティストの到着が遅れて出演時間が前倒しに。その直前に陸が発作を止める吸入薬が誰かにより踏まれてしまい壊れてしまっていることに気づき動揺で発作を起こしかけていたこと。様々な要因が重なり、陸の様子に気に取られてしまった一織が自分の歌うフレーズで入れず、それに誰もが遠慮してカバーに入れなかった結果、声が流れず曲のみが流れてしまう時間が発生してしまった。そして、それを立て直すことが出来ずそのまま出演が終わってしまった。
「……なるほど」
紡の言葉を琴音は一言も聞き漏らすまいと真剣に聞いた。そして、それを聞きながらIDORISH7をミューフェスに推薦した楽は彼らを見てどう思ったのだろうかと考えていた。
がっかりしただろうか…
でも、琴音はまだまだ彼らは前に進めると信じて疑わなかった。それほど、7人は個性が魅力的で歌には人を動かせるほどの力がこもっていると感じたからだ。天は、陸に欠陥があるから長く続かないと断言した。今回の一件もほらやっぱりと思ったかもしれない。だけど、まだまだ発展途上の彼らには失敗はつきものだ。様々なハプニングに見舞われながらも初めての生放送で歌いきったことに称賛を与えるべきだろう。
「大丈夫…大丈夫だよ
今日のことを糧にして明日からまた頑張ればいい
今日チャンスを掴めなかったとしても、絶対近いうちにチャンスは来るよ
だって、皆…羨ましいくらい輝いてるもん」
「……ッ!?!?」
「よし!じゃあさっきのお礼で今度は私が1曲…
皆を励ませるような曲を…」
ふんわりと微笑んだ琴音の前へ踏み出して欲しいと込められた言葉に一同は目を丸くして驚いた。確証がないのにはっきり琴音は言い切った。そしてどうしてだかわからないが、琴音の純粋で真っ直ぐな言葉は胸に突き刺さり体内にじんわりと浸透していった。
一方、困惑する彼らをよそに琴音はギターを構えて弾き始めた。このしんみりとした空気を吹き飛ばす弾けるようなアップテンポの曲。それは、未来へ向かって頑張れるような勇気をもらえる曲だった。
最初はジッと聞いていた一行。だが、身体が無意識で動き出し、いつのまにか環を筆頭に踊り始めてしまっていた。
そんな彼らの楽しげな様子に、琴音も久しぶりに熱がこもるのを感じた。誰にも囚われることなく自由に翼を羽ばたかせようとする彼らに影響されたらしく、音楽を純粋に楽しむってこういうことだったっけと久々に感じる高揚感に琴音は戸惑った。
「…どうして気にかけてくれるんですか??」
1曲を終え、再び静かになった場に純粋な一織の疑問が投げかけられた。だが、その問いに決まってるじゃんと屈託のない笑みを浮かべて琴音は返した。
「期待してるからだよ
あの時IDORISH7の歌を聞いたときから、魅了されてるんだ
だからこそ、応援したいんだ…ファンとしてね」
魅惑的な含んだ笑みを浮かべて片目を琴音は瞑ってみせた。だが、それは一瞬。琴音は弾けるような笑みを浮かべると踵を返しながら言葉を漏らす。
「さて、帰って録画してあるミューフェスでも見て確認しようかな…」
「ちょっ…ちょっと!!」
もちろん、それに即座に一織が反応を示す。失態を知られたくない一織が慌てるのは当然。だが、これを見通して発言した琴音は気に病むことでないと楽観的だった。
「いいじゃんいいじゃん!
きっと何年か経ったら、あの時あんなことあったよね〜って笑い話に出来るよ」
ケラケラと琴音は笑い飛ばすのだった。その言葉は気落ちしていた彼らを少しでも前向きにするのだった。