抱え込んでいるもの
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「よっ!!邪魔するぜ」
大和と別れて家にもどった琴音は、先程買ってもらったDVDを見ようと電源を入れる。だが、そのタイミングでインターホンがなり出てみると目の前に楽がいて琴音は目をパチパチさせた。そんな琴音などお構いなしに楽はというと靴を脱いで奥へ消えていく。その後姿が消えた途端、琴音の時間が動き出しハッとした彼女は急いで玄関を閉めると彼の後を追うのだった。
「あれ?俺たちのDVD買ったのか!?」
リビングにたどり着いた楽の視界に直様目の前のテレビに映し出されたものが入る。それに驚きの表情を見せる楽を横目に琴音はまずったと内心焦りながらも、しらばっくれても仕方ないと事実を述べた。
「今日買ってもらったんだよ
これから見ようと思ってセットしたんだけど一緒に見る?」
「!?買ってもらった!?誰にだ!!」
「仲がいい知り合いだよ〜」
「だから誰だって聞いてんだよ!」
「楽に言ったって面識ないじゃん」
「いいから教えろよ!!」
琴音の口から出てきた言葉に楽は片眉をピクリと動かす。そして琴音に勢いそのままに詰め寄った。そんな彼のいつにも増した必死さに琴音は怪訝な目を向ける。
「やけに必死だね…
そんなに知りたいの??」
「あぁ…知りたい」
あっさりと素直に思ったことを述べた楽に琴音は目を見開いた。一体どうしてこんなに知りたいのだろうと不思議に思いながら、その知り合いの名を琴音は紡いだ。
「この前話題になったIDOLISH7のリーダーの二階堂大和さんだよ
たまたまさっきばったり会ってね」
「お前、どこで知り合ったんだよ」
「ひ・み・つ!!」
「はぁ!?琴音、お前秘密な出来事増えていってないか!?」
「…そうかなぁ?まぁまぁいいじゃん」
「よくねぇ!」
名を教えたにも関わらずやたらめったらしつこく詰め寄ってくる楽に多少面倒くさいと琴音は思いながら言い返す。そして、話題を逸らすように琴音はネットを立ち上げた。
「あ!!丁度いいや
ネットにこの前のIDORISH7のライブがアップされてんだよね〜
見ようよ!」
「はぁ!?俺らのは!!」
その琴音の提案に楽が違う理由で素っ頓狂な声を漏らした。今、TVに映し出されている自分たちTRIGGERのライブでなく、それを差し置いて他の奴のライブを見るのかと。そんな半目を剥く楽を気にすること無く琴音は笑い飛ばす。
「あとあと!!
まぁまぁ、前座だと思って…」
あーだこーだとイチャモンを付けていた楽に少しでもIDORISH7の魅力を知ってほしかったのだ。彼らの歌を聞けば嫌でも楽は気付かされるに違いないと思った。そして、琴音は最初の野外ライブの様子が映し出されている動画を再生した。
それが再生された途端、不平を漏らしていた楽が急におとなしくなる。彼は再生される動画に喰い付いていたのだ。そんな楽の口からは感嘆の吐息が漏れる。暫く経つと静かに見ていた楽はそれぞれの魅力を褒め称え始める。そんな彼に琴音が驚きの声を上げた。
「楽が褒めるなんて珍しい…
明日は土砂降りの雨!?」
「俺も褒める時は褒めるさ」
「へぇ〜」
「何だその目は!!」
ホントにそうなのかと不審な眼差しで訴えてくる琴音の様子に楽は思わず声を荒げた。だが、そんなんで怯む琴音ではなく、思い出したかのように違う話題を切り出す。
「あれ?そういえばなんで家に来たの??」
琴音の純粋な疑問に楽は、辻褄合わせのいい良い文句が見当たらず目を泳がせた。
「……用事ないのに来ちゃマズかったか??」
目を合わせない楽の銀色の髪の隙間から見えるのはほんのりと赤く染まった耳と頬だった。それに琴音はニヤリと口角を上げるといびり始める。
「顔が赤いのはどうしてかなぁ??」
覗き込むように正面に回り込んできた琴音に、今の自分の照れた顔を見せたくない楽は慌てて身体を翻す。
「バッ…馬鹿!!見るな!コッチくるな!!」
「なんで〜〜」
「なんだっていいだろ!!」
「気になる〜〜」
「お前は俺になんの恨みがあるんだ!!」
「数え切れないほど??」
「………」
琴音の切り返しに言葉を失い楽は絶句。どうやら間に受けたらしく血の気が引いていく彼を見て琴音は流石にやりすぎたかと哀れみの目を向ける。仕方なく、琴音はこれ以上愉しむのはやめるかと引き下がるのだった。
「嘘だよ、せっかくの男前の顔が台無しですよ」
「うっせ、余計なお世話だ」
「ごはん食べてく??」
「…食べてく」
「りょーかい」
琴音の指摘に楽はそっぽ向く。そんな彼の機嫌を直そうと琴音はご飯を食べていくかを提示する。それに素直に乗っかる楽が子供のように幼く見えて琴音は小さく笑みを浮かべるのだった。
*****
「で??なにがあった?」
「なにかって??」
「しらばっくれても無駄だ
サッサと抱え込んでいるもの吐き出せ」
ご飯を食べ終わった後、直球で尋ねてきた楽に琴音は最初は白を切った。だが、そこそこ長い付き合いになりつつ楽には琴音のその取り繕った笑顔はバレバレであった。素直に吐かないとこの場を立ち去る気がないと強い眼光で訴えてくる楽の圧力に琴音は眉を顰めて弱弱しい声を漏らした。
「おっかしいな〜
なんでバレるかな」
「いくら見繕っても俺の目はごまかせられないぜ
何年の付き合いだと思ってんだ
最近お前が一人で思いつめた表情してるのなんてすぐにわかった」
「じゃぁほっといてよ」
楽の言葉に琴音は頬を膨らませてそっぽ向いて拗ねた声を漏らした。こんなにずかずかと入られては困る。いくら自分の事情を知っている楽であってもだ。どうせ彼のことだから琴音が悩んでいる事が筒抜けなのだと思うが、だからこそ触れてほしくなかった。だが、どこまでもまっすぐな楽は琴音のテリトリーに入り込んでくる。
「ほっとけるか!
どーせ、両親絡みだろうしな」
「楽に筒抜け過ぎて怖い」
「うっせ、いまさらだろ
いいからサッサと吐け!!」
「楽が横暴」
「はぁ!?
せっかく悩み聞いてやるって言ってんのにそれはねぇーだろ!
俺の気が変わんないうちに早くしろ」
琴音の小言に対して楽はどこまでも声を被せてくる。心に潜むもやもやしたものをサッサと吐き出してすっきりしやがれと。そんな誰かの為にどこまでも真剣になり時には自分のことのように起こってくれる彼だからこそ琴音は思わず心の声を漏らしてしまう。
「......このままで良いのかなって思って」
ポツリポツリと琴音は思っていることを吐き出していく。暫く連絡がなかった両親からの電話が少しずつであるが増えてきたのだ。大学生を過ごせているのは確かに両親のお蔭だ。そして、今八乙女事務所で色々な現場を見て勉強させていただけているもの。
「確かに親のお陰で将来を約束されてるかもしれない
今も八乙女事務所で色んな事を勉強してもらってて沢山の恩恵を受けてる
でもさ...」
琴音は言葉を区切る。そんな彼女の脳裏には様々な場面が思い起こされる。
「凄く肩身がせまくて息苦しい...
どこに行っても天羽の娘っていう肩書はついて回る。
私を私として見てくれない」
TV局に足を運ぶたびに、自分を知っている人達は媚を売りたいのか話しかけてくる。他の事務所も天羽の娘が欲しいのか声を掛けてくる。芸能関係で自分のことを知っている人はまるで自分を見てくれない。自分と言うものを通して両親のことを見ている風にしか見えなかった。確かに、琴音という人物を見てくれて応援してくれる優しい人も少人数だがいる。それでも期待された眼差しで見られるのは息が詰まった。自分が自分でいられなく気がしてならなかった。
「まぁ親が有名な分、期待値が大きいんじゃねぇーの?」
「わかってるし理解してる
でも、親の用意してくれたレールに乗って言うとおりに動く人形にはなりたくない」
「そう言えばいいじゃねーか」
琴音のうじうじとした考えに黙って聞いていた楽がバッサリと一言で切り捨てる。しょっちゅう、父親である八乙女社長と口論を繰り広げている楽にとってはそこまで気に病むことではないのだろう。どこまでも自分の思った事を貫き通そうとする性分だから。でも、そんなことは琴音には出来なかった。あの頃からずっと琴音は親の言うことしか聞けない人形に化してしまっていたのだから。
「楽みたいに真正面から意見言える人のほうが中々いないよ」
「......そうか?」
「そーだよ」
不貞腐れた琴音の言葉にゴホンっと楽は咳払いして照れ臭さを誤魔化した。
「まぁとにかく
言いたいことは言った方がいいと思うぜ
後悔したくなければな」
「......楽」
「俺はこのまま琴音が正式に事務所に入ってくれたらすごく嬉しい
天も龍も同じだ
でも、この場所で琴音が自分らしさを失うのを俺は見たくはない」
楽のまっすぐな瞳に琴音は目線を逸らせなかった。そして彼の重い言葉が深く琴音の胸に突き刺さって離れない。どうすれば彼のように自分のしたいことを声を大にして言えるのだろうか?
不安げに揺らぐサックスブルー色の瞳は今にも泣きそうでどこかに迷い込んでしまった猫に見えた。それを見た楽は大丈夫だと安心させようと琴音の華奢な身体をそっと引き寄せて抱きしめるのだった。