謝罪しに
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「しっつれいしまーす!!」
軽快な音を立てて、琴音は姉鷺の怒声が響き渡る部屋の扉を開けた。
「…琴音??どうしたの??」
突然の琴音の登場に驚く姉鷺に、琴音は完全に生気を失っている大和と紡を横目で見ながら説得を試みる。
「姉鷺さん
そろそろ許して上げたらどうでしょうか?謝りに来てくれもらったわけですし…」
「あら?あの場にいながら止められなかった貴女を私は完全に許したわけじゃないわよ??」
「あっ…あれはですね…」
姉鷺の言葉に狼狽する琴音にドス低い声を姉鷺はあげると、鬼のような形相で詰め寄った。
「なに??」
「ほっ…ほら!!
お客さんが楽しんでるのに止めるのは良くないですよね?
逆に中途半端で止めたらお客さんの暴動が起きてたかもしれませんよ?そしてその矛先はコチラに向いていたかもしれない…
それでも止めたほうがよろしかったですか??」
おどおどと話始めた琴音だが、元々姉鷺を言いくるめるためにきていたため徐々に正論を織り交ぜそれを強気で述べていく。それをようやく頭が冷えたのか姉鷺は聞き入れた。
「はぁ…負けたわ
確かに琴音の言い分は一理あるわ」
「でしょ!!それに彼らがいなかったら天は会場に着けませんでしたし」
「…あら?そうなの??」
「そーですよ!彼らが天を運んでくれたからこそライブが無事に成功できたんですよ
つまり、恩人さんなんですよ!!
だから…もういいでしょ??」
もう一つの切り札を出した琴音は、完全に優位にたった。
「その話がホントなら…そうね」
「じゃあこの話は終わり!!
私この人達を見送ってきまーす!!」
渋々と納得したような顔をした姉鷺を見ると琴音は手を叩いてこの埒があかない話に終止符を打ったのだった。
「ハァ〜助かった
琴音、ありがとな」
ドアを閉めるとようやく解放された大和と紡はその場に崩れ落ちた。そんな彼らにこちらこそ申し訳ないと琴音は苦笑いを浮かべた。
「イヤイヤ
だいぶ修羅場だったね
一度火がついたら止まんないんだよね、あの人」
「あぁ...琴音が言ったとおりだったよ」
「マネージャーさんもスイマセンでした」
「イエイエ!!」
「まぁまぁ
本能には抗えないっていうしね
だってあんなに自由に楽しげ踊ってるんですから
ね!!大和さん」
「なんで、お兄さんに振るかな〜
俺にはちっとも心当たりないなぁ」
「ある癖に」
異様に親密であるのではないかと置いてけぼりになりかけた紡が気づく。そしてその沸き起こった疑問を紡は二人にぶつけた。
「あの...お二人はどのようなご関係で??」
「「んん??」」
「なんだろうね??」
「なんだろうな?」
だが、その関係を一番知らないのはまさかの当事者の二人だった。この関係には名はない。名をつけたいようでつけたら終わってしまうようなものに感じた二人はズルズルとこの関係を続けていたのだ。
「へぇ??」
「まぁまぁ、そんなの置いといて...
マネージャーさん、お名前は??」
「小鳥遊紡です!!」
「ねぇ?良かったら連絡先交換しない??
私..同世代の友達居ないんだよねぇ〜
だから...友達になってよ!!」
「そういうことでしたら喜んで!!」
話題を逸らした琴音は紡に友達になろうと持ちかけた。それに紡は素直に目を輝かせて喜んだ。
一方、一人蚊帳の外に追いやられた大和は不満げな声を漏らす。
「オーイ
俺は友達じゃねぇーの?」
「大和さんは...なんだろうね?
わかんないや!!」
「琴音さん!
良かったらチケット送るんでライブまた見に来てください!!」
「もちろん!!」
「ってか、琴音...
いつIDOLISH7を知ったんだ??」
紡がライブに誘ったことでそういえばと大和がこの前秘密とはぐらかされた事を掘り返す。それに答えたのはまさかの紡だった。
「最初の失敗に終わってしまった野外ライブ会場にたまたま琴音さんが来てて、私が強引に観ていってくださいって誘ったんです!」
「えぇ!?マネージャーが!!」
「そうです!!」
「お陰で、大和さんの隠し事知れたし...
すっかりファンになっちゃったよ!」
アハハと乾笑する琴音に、大和はバツが悪そうに頭を掻いた。
「あれは...悪かった」
「絶対に…許さないんだから!!」
「……ッ!?!?」
「って言ったらどうする??」
迫真迫る琴音の一声に、大和は動揺する。だが、そのめったに見れない彼の表情の変化に満足したのか直ぐに琴音は表情を崩し、テヘッとおどけてみせた。
「コラ!人をおちょくっちゃいけません
はぁ…本当に嫌われたかと思った」
「いや、大和さん人のこと言えないよ」
軽く琴音を小突くと大きく息を吐いて大和は頭を抱えた。その弱々しい声を漏らす大和に、琴音は呆れていた。
「そうか??」
「うわぁ〜、典型的に意図的にやってるよこの人
さいてぇーだよね!紡ちゃん!」
「えっ、えぇ!?えっと…」
「コラ!マネージャーを困らせるな」
「困らせるような態度をとってるのは大和さんじゃん
紡ちゃんが即座に反論を示さないのが何よりの証拠だよ」
ギャアギャアと琴音は紡を巻き込み騒ぎ始める。何時も人をおちょくって反応を楽しんでるのは大和だと日頃の鬱憤を晴らすかのように。それに、言葉巧みに大和は言い返す。完全に板挟みになってしまった紡は双方の顔をキョロキョロと見ることしか出来なかった。
あっ!!
八乙女事務所の玄関口で、琴音はようやく口を噤む。急に静かになった琴音に大和と紡は首を傾げる。その視線を気にせず、琴音はずっと持っていた袋を大和に突き出した。
「あっぶない!!忘れるとこだった」
「なにこれ?」
「本気で言ってるの!?
王様プリン、21個」
「あぁ〜それか」
「あの?なんで王様プリンなんですか!?」
話についていけないと紡はしょんぼりとしてしまう。そんな彼女に琴音は正面を向いた。
「環くんに助けられたんですよ
彼が快諾してくれなかったら会場に着けたか…」
「で、その御礼の品として環が王様プリンをねだったわけだ」
「そうだったんですか…」
「そうそう、だから今回はおあいこってことだよ」
そんな紡を流石に不憫に思った二人がある程度掻い摘んで事情を説明。それに驚きを見せる紡に琴音は、今回のことは気に病むことでないと付け足し締めくくっった。
「それじゃ、私戻るね」
「おぉー!ありがとな!」
「ありがとうございました!琴音さん」
ヒラヒラと手を振り、琴音は八乙女事務所の奥へ姿を消した。そして、ようやく外に出られた二人はそういえばと頭の片隅に残っている言葉を思い出していた。
陸には致命的な欠陥がある
あの子はショービジネスの世界で生きられないよ
陸に伝えて…甘えた覚悟でこちら側に足を踏み入れないでって
真剣にやっている僕たちに迷惑だから…
これは、一気に冷え切った場を作り出した九条天の氷のように尖って冷たい言葉。だが、陸の欠陥などに覚えがない大和と紡は互いに顔を見合わせて首を傾げる。
欠陥とは一体なんなのか…
天の言葉の意味を二人は数日後に思い知ることになるのだった。