もう一つの証を求めて
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「わかったふうな事言わないで!!
ミアなんかに私の気持ちなんてわからいわ!!」
ミアの脳裏に蘇るアーシェの言葉。
シュトラールが静かにオンドール侯爵の屋敷から飛び去ったあとすぐ、ミアは逃げるようにゲストルームのベッドに潜り込んだ。
だが、頭からさっきのことをなかったことにしようとしてもアーシェのその言葉はミアの心の奥深くまで突き刺さっていた。
これからどう彼女に面と向かえばいいのだろうか…
ミアにとって初めての経験。どうすればいいかわからなかったのだ。
おかげで目が冴え渡り寝付けずにいた。
駄目だ…
寝る事を諦めたミアはベッドを抜け出す。カーディガンを羽織ると、自然と足はコックピッドに向いていた。
*
操縦席では軽快に愛機を一人で飛ばしている者がいた。さすがの彼もずっと座ったままの姿勢を崩すと固まった体を少しでもほぐそうと小さく伸びをした。そんな彼の耳に小さい音だが少しずつこちら側に近づく足音が入ってくる。
こんな時間に誰だ…
不思議に思ったバルフレアは自動操縦に変えると後方を振り返った。
「…バルフレア」
「なんだ…ミアか」
足音の正体はミアだったのだ。誰もいないと思っていたのだろうか?ミアは驚いた表情を浮かべていた。
「どうした??眠れないのか?」
優しく語りかけるバルフレア。だが、当の本人は緊張の糸がほぐれたかのように一気に泣きじゃくりだすのだった。
「お…おい!」
急に泣き出すミアを見て、バルフレアは慌てた様子で彼女に駆け寄った。
「...ッ...バ...バルフレア」
「どうした?ゆっくりでいいから話してみろ」
ミアを落ち着かせようとバルフレアは彼女を抱き寄せ優しく背中を撫でる。
なんとなくだが、彼は察していた。どうせ、さっきの王女様とのいざこざが原因なのだろうと。それでも、あえて切り出すことはせず、彼女の気持ちの整理が付くまで待つことにした。
ミアはというと彼の温もりを感じながら少しずつ気持ちが落ち着いてきた。
急に泣き出す自分に嫌な顔一つせずに、自分の話すタイミングをじっと待ってくれる彼にただ感謝しかなかった。
「あ…あのね…」
「あぁ…」
「さっき…アーシェに『私の気持ちなんてわかんないよ!』って言われちゃって…」
自分で彼女の言葉を紡ぐだけで自身の胸が締め付けられ苦しい。思わずミアは羽織っているカーディガンをぎゅっと握りしめた。
そんな彼女にバルフレアはポツリと一言独り言のようにつぶやいた。
「…他人の気持ちなんて誰にもわかりはしないさ」
静かなコックピットでその声は小さく響きそして消えていった。
その彼の呟きは確実にミアの胸に浸透していく。
「…そうだね
私…勝手に思い込んじゃってた…
ずっと傍にいたから、アーシェの気持ちを一番にわかってあげられると思ったんだ…」
ミアの脳裏で険しい表情で冷たい目で睨むアーシェが浮かんで消えた。
「でも違った...
何もわかってなかった...
これから私はどんな風に彼女に接すればいいかわかんない」
まるで深海にいるようにミアの眼の前は真っ暗。そして呼吸の仕方を忘れてしまったかのように息苦しい。
今までどうやって彼女に接して来たかわからなくなってしまったのだ。
そんな彼女をまるで子をあやすように背を撫でてジッとミアの話を聞いていたバルフレアがゆっくりと口を開く。
「ミアにとって王女様はどんな存在だ?」
「え??」
突発的な彼の投げかけにたまらずミアは驚きの声を上げる。
「ただの主と家来の関係じゃないだろ?」
「...かけがえのない、大切な友達。切っても切りはずされたくないかけがえのない繋がり。」
そう紡ぐミアの頭の中で幼少期の数々の思い出が蘇る。お互いにお転婆であったため、気がとてもあい、時には互いにいたずらしたり、こっそり王宮を飛び出したり、一緒に叱られしょぼくれたり....なんだかんだ沢山のことをした。その思い出はミアにとってかけがえのない宝物だった。
「なら平気さ....」
「どういうこと?」
「ちゃんと二人で話し合え。お互いに言いたい事を言い合えば時期に元に戻るさ」
いつになく生真面目な口調でそう紡ぐとミアの肩を掴み、バルフレアは真っすぐに彼女を見つめた。
「わかったか...」
「うん!わかった!」
「よし...いい子だ」
そう言うとバルフレアはワシャワシャとミアの頭を撫でた。
「もう!子供扱いしないでよ!」
そんな彼の手を恥ずかしそうに顔を赤く染めてゆっくりと振り払った。そしてミアは見上げるのだが、彼女は固まってしまう。
何故なら、バルフレアの瞳の色がとても淋しげだったから。
「俺には出来なかったがな...
大丈夫だ...お前ならやれるさ」
「...!?!?」
彼にも昔あったのだろうか?
大切な繋がりが切れてしまった事が。それは今もとても後悔するくらいに。
ミアの心の奥底で興味が湧く。一体何があったのか?でもミアは開きかけた口を万一文字に閉ざした。
わかっている、これは聞いてはいけないものなんだと。だからこそその興味心に固く蓋を閉じた。
そしてそっと彼の背中に手を回す。
「ありがとね...」
ミアは小さくそう呟く。そんな彼女をバルフレアはただギュと抱きしめた。
そして真っ暗な空に浮かぶ月の光は、抱き合う二人を優しく包み込むように照らすのだった。