「あはは…」

凛が部屋の扉を開けるとそこにいたのはタオルを頭に被せた真琴が顔を引き攣らせて笑っていた。
部屋を見渡してもそこに凜の目的の人物の姿がなくて眉をしかめた。

「なんだハルはいないのか」

「シャワーから出たら居なくなってて…
一人で走りにでも行ったのかな？」

その言葉に凛は呆れつつ小さくため息をつく。

「たく…明日はスカウトが大勢見に来る大切な試合だってのに
前の晩になにやってんだよ」

「ハルに何か話でもあった？？」

「いい加減心に決めたのか確かめとこうと思ってな。
けど相変わらず逃げてばっかみたいだな。たく…何考えてんだか」

凜の言葉に真琴は目を伏せながら答える。

「でもハルはハルなりにきっと考えてると思うよ
たとえ口に出さなくても」

その言葉に凛は目を丸くするが、恥ずかしそうにそっぽを向く。

「言わなきゃわかんねーよ」

凜の言葉に真琴は思わず笑みを浮かべる中、凛はスタスタともう一つのベッドサイドに近づき、膨らんでいる布団を剥いだ。
するとそこにいたのは塞ぎ込んだ蒼。膝を抱えてうなだれる姿に凛は思わず真琴を見る。

「コイツは何してるんだ？」

「……実はね」

真琴はさっきあった出来事を凛に話す。

「ふさぎ込むなんて…蒼らしくないじゃねーか」

ため息混じりに声を出す凛に、ようやく蒼は顔を上げる。

「あ…凛。いたんだ」

「気づくのおせーよ！！」

「いやぁ……ずっと五感をシャットアウトしてたからさ」

「するな」

「相変わらず良いツッコミだね…凛は」

アハハと笑う蒼に、凛は拍子抜けする。

「そういえば…凛はハルに用があったの？？」

「あぁ…ってかなんでわかったんだ？」

「凛が一番に気にするのって、江ちゃんかハルでしょ？」

「……違いねーが…」

蒼に核心をつかれた凛はそっぽ向きながら答える。

「似てるんだ…凛とハルの関係が…」

ポツリと蒼から呟かれた言葉に凛と真琴は目を見開く。
この二人ならいいかなと蒼は口を開く。

「夢を追いかける雪菜と、水がただ好きな私の関係と
凛とハルの関係が…
だから、去年二人が互いにぶつかってすれ違っている姿を見ていて思ったんだ。もしかしたら私達も同じなのかもしれないって…」

「だから、泳ぎたいと思ったの？？」

真琴の言葉に蒼は小さく頷いた。

「スカウトの目なんて関係ない。
私は自分のために明日は泳ぐよ」

決意のある言葉に凛は頬を緩ます。

「ハルと大違いで蒼は図太いな」

「目的がはっきりしてるからだよ。
だから、ハルも目的を見つければきっと…」

不安そうに蒼は口をつぐむ。
その言葉に凛はそうだなと同意すると、矛先を真琴に切り替える。

「で…お前はどうするんだ？？」

凛は近くにあった椅子を引っ張り出して座ると真琴に向き合った。

「ん？？」

「お前の実力ならスカウトの1つや2つ来るだろう」

「お…俺は」

真琴が口を開こうとした瞬間ドアをドンドン叩く音が聞こえて、話は中断されてしまう。


「ハルちゃん！マコちゃん！！聞いてよ！！」

扉の奥にいたのは渚と怜。
てっきり遙と真琴が出てくると思いきや腕を組んだ凛…後方には微笑む真琴と蒼がいて渚と怜は驚きの声を上げる。

「凛ちゃん！？」

「凛さん！？」

「お前ら…大会前に夜ふかししてんじゃねえ！！」

大きくため息をつくと呆れた表情を浮かべ、凛は渚の額に指を近づけ弾いた。
その痛さに額に手を抑えながら渚は後ずさりする。

「わた！いてぇ！！まだ１1時だよ？」

「どうされたんですか？？」

怜の言葉に凛は廊下に出ながら淡々と答える。

「ちょっとハルに用があっただけだ。いねぇみたいだから帰る。じゃあな」

帰ろうとする凛を渚は止める。

「待って！！凛ちゃん」

渚の言葉に後ろを振り返ると真剣な表情を浮かべる4人がいた。

「明日は負けないよ」

「それはコッチのセリフだ」

ニヤリと笑うと凛は自室へ歩き出すのだった。

「そういえば…蒼先輩はどうして？？」

凜の姿が見えなくなると怜が不思議そうに尋ねる。

「ちょっと一人だと色々考えちゃいそうで…
だから部屋にお邪魔してたんだ」

アハハと力なく笑う蒼は、もう寝ると自室へ向かう。

「アオちゃん！！明日頑張ろうね！！」

「うん！！」

渚の言葉に蒼は一瞬だが笑みを浮かべて答えるのだった。