試合...

そのフレーズを聞いただけで、頭の中は真っ白になった。

その後...
自分がどんな表情をしたのか？どう皆に声をかけたのか？どう此処まで帰ってきたのか？

気づいたら自室のベッドにタイプしていた。

「あーあ...どうすればいいんだろ？」

蒼の独り言は静寂な自室に響き消えていった。

此処までウジウジと過去を抱え込むことになるなんて思ってなかった。ただ笑い飛ばせばいいはずなのにそれができなかった。

「私はどうしたいんだろ」

頭の中ではグルグルと悪いことを考える負の連鎖。こんな今の自分が蒼は嫌だった。

盛大に溜息を吐いた蒼は枕を抱え込むと顔を埋めた。


「蒼...」


蒼の今の負のループを断ち切るかのような優しく柔らかい声。この場にいるはずがない持ち主の声に蒼は遂に幻聴が聞こえはじめたのかと錯覚した。だが、何時まで経っても己を呼ぶ声は止むことなく、蒼は不思議に思い枕から顔を上げた。

「真琴！？」

己の視界に入った幼馴染の存在に気づいた蒼は慌てて飛び起きた。

「アオちゃん、驚きすぎだよ」

蒼の慌てぶりに彼はクスクスと笑っていた。

「いや、だって...どうやって入ったの？」

「鍵開いてたよ？」

「え...ホントに？」

「ホントだよ。もうアオちゃん、いくらここ日本でも不用心すぎるよ」

「...ゴメン」

「それはどっちに対するゴメン？」

真琴の真っ直ぐな瞳。蒼はたまらず目を伏せた。

「俺、そんなに頼りない？」

怒られた子犬かと思うほどしょんぼりする真琴。

「違うよ。ただ私が臆病なだけ」

そんな彼に申し訳ないと思いながら、蒼は彼から目を逸らすように伏せた。

誰のせいでもない。
これは私の問題なのだから。
皆に迷惑だけはかけたくなかった。

自由に泳げば何かしら時間が解決してくれるのかと思ったが現実は甘くなかった。過去の記憶は重しのように自分に乗りかかってくる。でも、自ら解決しようと行動を起こす一歩が踏み出せない。

一体、私はなんのために帰ってきたんだろう...

思い耽る蒼。俯く彼女の頭の上に大きな手が乗る。そしてそれに蒼が気づいた時には彼の胸に引き寄せられていた。

「...！？」

「慌てなくていいよ。
アオちゃんが何を抱えてるのかわかんないけど...。
大丈夫。俺たちは何があってもアオちゃんの味方だから。
無理しないで、ゆっくり自分のペースでやっていこうよ」

「...ッ...真琴」

真琴の言葉があまりにも優しくて温かくて、蒼の冷めきった心がポカポカと温まった。

いつ涙を流したのか覚えていない。それくらい久しぶりに蒼は頬に涙が伝わるのを感じた。

ポンポンとゆっくりと規則正しく、子どもをあやすように蒼の背中を叩く真琴も彼女がすすり泣きしているのがわかった。

強がらなくていい。
無理に笑わなくていい。
泣きたいときは思い切り泣けばいい。

自分の胸に顔を埋めて静かに泣く蒼を真琴はただギュと抱きしめるのだった。