最後の試合
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「試合前夜ということで何でも頼んで!
ここは先生のおごりよ!」
遠征を積んでいくうちにレストランの高級度が増していく中、天方が太っ腹なセリフを言う。
その言葉に一同は凝視していたメニューから目を離すと、目を輝かし始める。
「それじゃあ…」
渚がメニューをパッと手に持つと…
「ポテトサラダに、シーフードサラダ
フィッシュアンドチップスに、ローストビーフ…
オニオンスープに、ヨークシャ・プティング
ボンゴレ、アラビアータ、ペスカトーレとウナギのゼリー寄せ
スパイシーポテトフライにチーズオムレツにポルチーニ茸のクリームリゾット、ロブスターの黄金焼きにロブスターのグリル、ロブスターの…」
永遠に止まない渚の注文。
聞きながら眉をピクピクト動かしていた天方は遂にストップをかける。
「葉月君?そのへんにしときましょうか?
あと、ロブスターは無しの方向で…」
ニコニコと笑いながら天方は渚からメニューを奪い取る。
「えぇーーーーー!!」
「渚君、容赦なさすぎです」
不平を漏らす渚に怜は呆れた表情を浮かべる。
「……鯖みそは??」
ふと漏らした遙の言葉に一斉に怜と真琴はメニュー表に目を凝らす。
「それは流石にないんじゃ…」
「あ!鯖のムニエルならありますよ!」
怜が鯖の項目を見つける。しかし、遙は味付けにもこだわる。
「…塩焼きは??」
「だからないってば!!」
「早く注文しよ!!すみませーん!!」
痺れを切らした蒼がウエイターを呼ぼうとする。
「蒼!!まだ呼ばないで!!そして、ハルは鯖から離れて!!」
軽快に真琴の突っ込みが飛ぶ。
少し前まではぎくしゃくしていたのに、今は今まで通りの関係に戻っている彼らを見て、江から事情を聴き終わると天方は嬉しそうに微笑んだ。
「ふうー、食べた食べた!!」
「美味しかった!!」
満足気にお腹をさするのは渚と蒼
「ちょっと食べすぎたんじゃないか?渚に蒼?」
真琴の言葉に二人の反応は真逆。
「…確かに、食べすぎたかも」
ズドーンと落ち込む蒼に対し、渚はへっちゃらそうに笑う。
「大丈夫!ボク、食べ盛りだから」
「そうだな」
渚の言葉に遙が小さく笑う。
「…全く、全国大会で泳ぐんです。
気を引き締めていかないと」
「あぁ!!海が光ってる!!」
怜の説教じみた言葉をスルーし、渚は道を横にそれる。
目の前に広がる海に渚は興味を持ったのだ。
つられる形で怜・遙・真琴・蒼と横に並ぶ。心地よい潮風に髪をなびかせながら、皆黙ったままこの時間に酔いしれる。
「いよいよ明日だな」
遙の言葉に、真琴は頷く。
「思えば水泳部を作るところから始まって...
ホントに良くここまで来られたよね」
苦笑気味に真琴は懐かしむように話し出す。
それは去年の高2の春...
最初は、雑草が生い茂り、亀裂が入ったプールを懸命に遙・真琴・渚・江は補修。
その時の遙は泳ぎたい一心。
それは、ホームセンターに行ったときに遙が水の入った水槽を見て服を脱ぎだすほど。
「...ありえない」
クスクスとあの頃を思い出しながら笑う渚の話に、その時居なかった怜はありえないと頭を抱えた。
「その頃はまだ怜は入部してなかったんだっけ?」
「元々陸上部だったもんね」
「えぇ...最初は意味わかりませんでしたよ」
部活を成立させるために、部員を募っていた水泳部。だが、一向に入る兆しがない。
その中で、渚が目につけたのは同じクラスの怜。
何とか入ってもらおうと、怜を必要以上に追いかけ回したのだ。
そして、怜は結局遙の泳ぎに魅せられて入部。
でもなかなか他の皆に付いていけず葛藤した。
合宿では、夜の嵐に巻き込まれ真琴に助けられた。
「皆がいたから僕は水泳のリレーの楽しさを知って、ここまで来ることが出来た」
怜は思い出すように夜空を見上げる。つられる形で皆夜空を目を向ける。
雲一つない空に瞬く星があのとき無人島で見た満天の夜空に重なって見えた。
「渚が水泳部作ろうって言ってくれたお陰だな」
目を閉じて遙が答える。
「その話はもういいよ、ハルちゃん」
照れくさそうに遙に言う渚を真琴は真っ直ぐ見て口を開く。
「渚はホントに頑張ってると思う」
「家出してわたしの家に押しかけて来たときは驚いたけどね」
苦笑いしながら蒼はあの時の必死な渚を思い起こす。
テストの結果が思うように奮わず、水泳部をやめさせられそうになった渚は、遙や蒼の家に転がり込む。
でも、今までで我慢してきた渚は皆のお陰で想いを両親にぶつける事が出来た。
「でも、その後勉強と部活を両立させるために頑張っている」
怜の言葉に渚は恥ずかしそうに顔を赤らめそっぽを向く。
「僕より、レイちゃんのほうが凄いよ」
渚は矛先を怜に向ける。
「金槌から始まって、バッタを泳げるようになって...ゴーグルがズレたときも懸命に泳いでたよね?」
「...あれは美しくない」
顔をしかめる怜を見て、そんなことないと皆笑う。
「そんな怜が今では全種目泳げるようになったんだからやっぱり凄いよ」
「いや...でも、それは凛さんのお陰...
って…ハァ!?!?」
口が滑ってしまったと慌てる怜。
だが、皆の驚かない様子に不思議がる。
「そうそう凛ちゃんのお蔭」
「なんで知って…」
ニコニコと笑う渚の言葉に驚く怜に蒼が口を開く。
「…ごめんね、レイちゃんが必死に隠そうとしてたから…」
「そ…それならそうと言ってくださいよ」
ニコニコと申し訳なさそうに笑みを浮かべる皆を見て怜は恥ずかしそうに頬を赤らめてそっぽ向く。
だが、凛のことを話し出すと柔らかい表情を浮かべるのだった。
「凛さんにはホントに感謝してます」
怜の言葉に遙が頷く。
「俺も凛には感謝してる」
凛と再会した遙は、戦って、すれ違って、自分を見失った。でもそのお蔭で皆の想いに気づくことが出来た。
遙はリレーを泳いでみようと思った
「でも、それ以上に蒼にも感謝してる」
「えぇ!?私!!」
フッと柔らかく微笑む遙の言葉に蒼は驚く。
「悩む俺に寄り添ってくれた、道を示してくれた」
「そんなことないよ、むしろ感謝したいのは私の方だよ」
アメリカから帰ってきて、泳ぐ理由・楽しさを見失っていた蒼。
だが、岩鳶の皆と水泳を通して楽しんだ日々は確実に蒼の心境を変えていった。
ただ純粋に泳ぐことが好きなんだと気づいた。
それでも、”試合”という言葉だけは聞いただけで全身が拒絶するように震え上がった。
もう試合に出たくなかった……
あんな思いはしたくない……
皆に拒絶されたくない……
そんな蒼に、真琴は優しく寄り添ってくれた。
皆という仲間の存在の大きさに気付かされたから、蒼は一歩踏み出せた。
凛と遙の二人の関係が崩れそうになって修復されたのを見たから、雪菜という大切な存在に気づいた。そして、一緒に泳ぎ気持ちをぶつけ合ったことで和解出来た。
「皆のお陰なんだ。
皆のリレーを見て、思い出せた。
一人じゃないって……仲間と全員で泳いでるんだって」
小さく柔らかく微笑む蒼の言葉に、皆の脳裏に今度はメドレーリレーの思い出が蘇る。
岩鳶の最初のリレーはぶっつけ本番だった。
最初は繋げるのに必死……
それからたくさん練習して試合に出た。
鮫柄に負けた時は悔しさがこみ上げた。でもその時、怜がたき付けたお蔭で引継ぎを猛特訓して、地方大会では雪辱を果たすことが出来た。
「来年はもっと凄いところまでいっちゃうんじゃない?
練習も合宿もたくさんして来年はもっと凄くなってるよ!僕たち!!」
嬉しそうに頬を染めながら笑う渚。
そんな彼の言葉に、3年生は表情を暗くする。
「なに言ってるんですか?渚君…
3年生は明日の試合で引退なんですよ~」
そっとはしゃぐ渚の肩に手を置いた怜は渚に語り掛けるように話す。
その言葉に現実を突きつけられた渚の瞳は揺らぐ。
「そっか…」
「そうですよ!毎日の練習も合宿も大会もリレーも…
もう来年はこの5人ではできないんですよ…」
最初は渚に教えるように芝居かかったようにおどけながら話す怜。だが、徐々に怜の瞳にはキラリとした涙が現れ、頬を伝る。
「怜??」
「レイちゃん??」
そんな彼の様子に遙・真琴・蒼は目を見開いた。
「あ…あれ?おかしいな?」
眼鏡を取り、涙を拭い隠すように左手で顔を覆う怜の声は震えていた。
「…レイちゃん」
見ていた渚も感情が高ぶり段々と瞳に涙が溢れてくる。
「嫌だよ!!ボク…まだ泳ぎたいよ!」
鼻をすすりながら渚は必死に訴える。
「ハルちゃんとマコちゃんとアオちゃんとレイちゃんと…
この5人でいつまでも泳いでいたいよ!!」
「僕だって!!!
やっと!!やっと……泳げるようになったのに…
これで終わりだなんて…」
しゃくり上げるように泣き始める怜。
「うぇぇぇん~~!!」
渚は子供のように泣きじゃくった。
「……ッ…そ…そんなこと言わないでよ
私だって、もっともっと皆と泳ぎたい」
つられるように蒼の目に涙が光る。
静かに涙を流す彼女を真琴はそっと胸に引き寄せ、宥めるように優しく蒼の頭を撫でる。
怜と渚の泣き声は夜の海に響き渡った。
暫くして落ち着きを取り戻した蒼は、大丈夫だよと真琴の背をポンポンと叩く。
そして彼に二人を宥めてほしい蒼は、目で合図する。それに感づいた真琴は小さく頷くとそっと蒼から離れ二人の元へ。
「泣くな!!渚…怜…男だろ?」
そっと二人の頭に手を置くと優しく真琴は語り掛ける。
そんな真琴に二人は振り向き、子供のように泣きすがった。
「それに泣くようなことなんて何もないよ
明日は5人で泳ぐんだろ?
まだ終わっていない」
真琴は二人の顔を見て、微笑む。
それに賛同するように遙も笑みを浮かべ海を見ながら口を開く。
「俺たちはリレーをつないで泳いできた
だからたとえ別々の道を歩んでいくとしても、
俺達はずっと繋がっているんだ
俺達に終わりなんてない」
「遙先輩…」
「そうだよね…」
「うん!」
「そうだね!」
遙の言葉に皆明日の試合に想いを優しく吹く潮風に馳せるのだった。
ここは先生のおごりよ!」
遠征を積んでいくうちにレストランの高級度が増していく中、天方が太っ腹なセリフを言う。
その言葉に一同は凝視していたメニューから目を離すと、目を輝かし始める。
「それじゃあ…」
渚がメニューをパッと手に持つと…
「ポテトサラダに、シーフードサラダ
フィッシュアンドチップスに、ローストビーフ…
オニオンスープに、ヨークシャ・プティング
ボンゴレ、アラビアータ、ペスカトーレとウナギのゼリー寄せ
スパイシーポテトフライにチーズオムレツにポルチーニ茸のクリームリゾット、ロブスターの黄金焼きにロブスターのグリル、ロブスターの…」
永遠に止まない渚の注文。
聞きながら眉をピクピクト動かしていた天方は遂にストップをかける。
「葉月君?そのへんにしときましょうか?
あと、ロブスターは無しの方向で…」
ニコニコと笑いながら天方は渚からメニューを奪い取る。
「えぇーーーーー!!」
「渚君、容赦なさすぎです」
不平を漏らす渚に怜は呆れた表情を浮かべる。
「……鯖みそは??」
ふと漏らした遙の言葉に一斉に怜と真琴はメニュー表に目を凝らす。
「それは流石にないんじゃ…」
「あ!鯖のムニエルならありますよ!」
怜が鯖の項目を見つける。しかし、遙は味付けにもこだわる。
「…塩焼きは??」
「だからないってば!!」
「早く注文しよ!!すみませーん!!」
痺れを切らした蒼がウエイターを呼ぼうとする。
「蒼!!まだ呼ばないで!!そして、ハルは鯖から離れて!!」
軽快に真琴の突っ込みが飛ぶ。
少し前まではぎくしゃくしていたのに、今は今まで通りの関係に戻っている彼らを見て、江から事情を聴き終わると天方は嬉しそうに微笑んだ。
「ふうー、食べた食べた!!」
「美味しかった!!」
満足気にお腹をさするのは渚と蒼
「ちょっと食べすぎたんじゃないか?渚に蒼?」
真琴の言葉に二人の反応は真逆。
「…確かに、食べすぎたかも」
ズドーンと落ち込む蒼に対し、渚はへっちゃらそうに笑う。
「大丈夫!ボク、食べ盛りだから」
「そうだな」
渚の言葉に遙が小さく笑う。
「…全く、全国大会で泳ぐんです。
気を引き締めていかないと」
「あぁ!!海が光ってる!!」
怜の説教じみた言葉をスルーし、渚は道を横にそれる。
目の前に広がる海に渚は興味を持ったのだ。
つられる形で怜・遙・真琴・蒼と横に並ぶ。心地よい潮風に髪をなびかせながら、皆黙ったままこの時間に酔いしれる。
「いよいよ明日だな」
遙の言葉に、真琴は頷く。
「思えば水泳部を作るところから始まって...
ホントに良くここまで来られたよね」
苦笑気味に真琴は懐かしむように話し出す。
それは去年の高2の春...
最初は、雑草が生い茂り、亀裂が入ったプールを懸命に遙・真琴・渚・江は補修。
その時の遙は泳ぎたい一心。
それは、ホームセンターに行ったときに遙が水の入った水槽を見て服を脱ぎだすほど。
「...ありえない」
クスクスとあの頃を思い出しながら笑う渚の話に、その時居なかった怜はありえないと頭を抱えた。
「その頃はまだ怜は入部してなかったんだっけ?」
「元々陸上部だったもんね」
「えぇ...最初は意味わかりませんでしたよ」
部活を成立させるために、部員を募っていた水泳部。だが、一向に入る兆しがない。
その中で、渚が目につけたのは同じクラスの怜。
何とか入ってもらおうと、怜を必要以上に追いかけ回したのだ。
そして、怜は結局遙の泳ぎに魅せられて入部。
でもなかなか他の皆に付いていけず葛藤した。
合宿では、夜の嵐に巻き込まれ真琴に助けられた。
「皆がいたから僕は水泳のリレーの楽しさを知って、ここまで来ることが出来た」
怜は思い出すように夜空を見上げる。つられる形で皆夜空を目を向ける。
雲一つない空に瞬く星があのとき無人島で見た満天の夜空に重なって見えた。
「渚が水泳部作ろうって言ってくれたお陰だな」
目を閉じて遙が答える。
「その話はもういいよ、ハルちゃん」
照れくさそうに遙に言う渚を真琴は真っ直ぐ見て口を開く。
「渚はホントに頑張ってると思う」
「家出してわたしの家に押しかけて来たときは驚いたけどね」
苦笑いしながら蒼はあの時の必死な渚を思い起こす。
テストの結果が思うように奮わず、水泳部をやめさせられそうになった渚は、遙や蒼の家に転がり込む。
でも、今までで我慢してきた渚は皆のお陰で想いを両親にぶつける事が出来た。
「でも、その後勉強と部活を両立させるために頑張っている」
怜の言葉に渚は恥ずかしそうに顔を赤らめそっぽを向く。
「僕より、レイちゃんのほうが凄いよ」
渚は矛先を怜に向ける。
「金槌から始まって、バッタを泳げるようになって...ゴーグルがズレたときも懸命に泳いでたよね?」
「...あれは美しくない」
顔をしかめる怜を見て、そんなことないと皆笑う。
「そんな怜が今では全種目泳げるようになったんだからやっぱり凄いよ」
「いや...でも、それは凛さんのお陰...
って…ハァ!?!?」
口が滑ってしまったと慌てる怜。
だが、皆の驚かない様子に不思議がる。
「そうそう凛ちゃんのお蔭」
「なんで知って…」
ニコニコと笑う渚の言葉に驚く怜に蒼が口を開く。
「…ごめんね、レイちゃんが必死に隠そうとしてたから…」
「そ…それならそうと言ってくださいよ」
ニコニコと申し訳なさそうに笑みを浮かべる皆を見て怜は恥ずかしそうに頬を赤らめてそっぽ向く。
だが、凛のことを話し出すと柔らかい表情を浮かべるのだった。
「凛さんにはホントに感謝してます」
怜の言葉に遙が頷く。
「俺も凛には感謝してる」
凛と再会した遙は、戦って、すれ違って、自分を見失った。でもそのお蔭で皆の想いに気づくことが出来た。
遙はリレーを泳いでみようと思った
「でも、それ以上に蒼にも感謝してる」
「えぇ!?私!!」
フッと柔らかく微笑む遙の言葉に蒼は驚く。
「悩む俺に寄り添ってくれた、道を示してくれた」
「そんなことないよ、むしろ感謝したいのは私の方だよ」
アメリカから帰ってきて、泳ぐ理由・楽しさを見失っていた蒼。
だが、岩鳶の皆と水泳を通して楽しんだ日々は確実に蒼の心境を変えていった。
ただ純粋に泳ぐことが好きなんだと気づいた。
それでも、”試合”という言葉だけは聞いただけで全身が拒絶するように震え上がった。
もう試合に出たくなかった……
あんな思いはしたくない……
皆に拒絶されたくない……
そんな蒼に、真琴は優しく寄り添ってくれた。
皆という仲間の存在の大きさに気付かされたから、蒼は一歩踏み出せた。
凛と遙の二人の関係が崩れそうになって修復されたのを見たから、雪菜という大切な存在に気づいた。そして、一緒に泳ぎ気持ちをぶつけ合ったことで和解出来た。
「皆のお陰なんだ。
皆のリレーを見て、思い出せた。
一人じゃないって……仲間と全員で泳いでるんだって」
小さく柔らかく微笑む蒼の言葉に、皆の脳裏に今度はメドレーリレーの思い出が蘇る。
岩鳶の最初のリレーはぶっつけ本番だった。
最初は繋げるのに必死……
それからたくさん練習して試合に出た。
鮫柄に負けた時は悔しさがこみ上げた。でもその時、怜がたき付けたお蔭で引継ぎを猛特訓して、地方大会では雪辱を果たすことが出来た。
「来年はもっと凄いところまでいっちゃうんじゃない?
練習も合宿もたくさんして来年はもっと凄くなってるよ!僕たち!!」
嬉しそうに頬を染めながら笑う渚。
そんな彼の言葉に、3年生は表情を暗くする。
「なに言ってるんですか?渚君…
3年生は明日の試合で引退なんですよ~」
そっとはしゃぐ渚の肩に手を置いた怜は渚に語り掛けるように話す。
その言葉に現実を突きつけられた渚の瞳は揺らぐ。
「そっか…」
「そうですよ!毎日の練習も合宿も大会もリレーも…
もう来年はこの5人ではできないんですよ…」
最初は渚に教えるように芝居かかったようにおどけながら話す怜。だが、徐々に怜の瞳にはキラリとした涙が現れ、頬を伝る。
「怜??」
「レイちゃん??」
そんな彼の様子に遙・真琴・蒼は目を見開いた。
「あ…あれ?おかしいな?」
眼鏡を取り、涙を拭い隠すように左手で顔を覆う怜の声は震えていた。
「…レイちゃん」
見ていた渚も感情が高ぶり段々と瞳に涙が溢れてくる。
「嫌だよ!!ボク…まだ泳ぎたいよ!」
鼻をすすりながら渚は必死に訴える。
「ハルちゃんとマコちゃんとアオちゃんとレイちゃんと…
この5人でいつまでも泳いでいたいよ!!」
「僕だって!!!
やっと!!やっと……泳げるようになったのに…
これで終わりだなんて…」
しゃくり上げるように泣き始める怜。
「うぇぇぇん~~!!」
渚は子供のように泣きじゃくった。
「……ッ…そ…そんなこと言わないでよ
私だって、もっともっと皆と泳ぎたい」
つられるように蒼の目に涙が光る。
静かに涙を流す彼女を真琴はそっと胸に引き寄せ、宥めるように優しく蒼の頭を撫でる。
怜と渚の泣き声は夜の海に響き渡った。
暫くして落ち着きを取り戻した蒼は、大丈夫だよと真琴の背をポンポンと叩く。
そして彼に二人を宥めてほしい蒼は、目で合図する。それに感づいた真琴は小さく頷くとそっと蒼から離れ二人の元へ。
「泣くな!!渚…怜…男だろ?」
そっと二人の頭に手を置くと優しく真琴は語り掛ける。
そんな真琴に二人は振り向き、子供のように泣きすがった。
「それに泣くようなことなんて何もないよ
明日は5人で泳ぐんだろ?
まだ終わっていない」
真琴は二人の顔を見て、微笑む。
それに賛同するように遙も笑みを浮かべ海を見ながら口を開く。
「俺たちはリレーをつないで泳いできた
だからたとえ別々の道を歩んでいくとしても、
俺達はずっと繋がっているんだ
俺達に終わりなんてない」
「遙先輩…」
「そうだよね…」
「うん!」
「そうだね!」
遙の言葉に皆明日の試合に想いを優しく吹く潮風に馳せるのだった。