惹かれあう
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カランコロン
店の扉につけられていた鈴が音を鳴らす。
「いらっしゃいませ!」
その音に気づいた少女が振り返る。フードを深く被った彼女は来客するお客に愛想よく対応をする。
「ミーシャ!!
追加注文頼むよ!!」
「はーい!今行きます!!」
とある席で飲んでいた客に呼ばれたその少女、ミーシャは声を上げると急いでオーダーを取りに行った。
「ミーシャ!!
次俺のも頼むよ!!」
「じゃ、俺はその次!!」
ミーシャにお願いする注文は後を耐えない。ミーシャは不満げな顔を何一つせず、対応をしていく。
そんな彼女の仕事ぶりに、一人カウンター席に座っている青年がつまらなそうに横目にその光景を眺めていた。
そんな青年の様子を見て、マスターは小さく笑う。対してマスターの反応に青年は不機嫌そうにカウンター越しにマスターを見上げた。
「...なんだよ」
「別に何もありませんよ」
そう言うとマスターは、青年の空いたグラスに注ぎ足しする。
「今や彼女はこの店の看板娘ですよ...
巳早」
「そんなの見ればわかる」
手に持ったグラスを煽りながら青年…巳早は、注がれた透明な液体を口にする。
そんな彼を横目にマスターは懐かしむように目を細めた。
「貴方が連れてきた当初は、引っ込み思案でしたのにね」
「まぁーな
あんなことがあれば人間不信にはなるだろ」
そんなマスターの言葉に、巳早自身も飲む手を止めると、あの頃を思い起こすように目を細めるのだった。
*****
「...巳早、どこいくの?」
「俺の信用している人のもとさ」
巳早に手を引かれながら少女はおどおどと不安げに彼を見上げる。見上げられた本人は、彼女に視線を落とすことなく目的地へと歩を進めた。そして、一つの店の前で立ち止まるとまだ準備中にも関わらず、その店の扉を躊躇することなく開けるのだった。
「お客様、まだ開店時間ではないので…って
貴方でしたか、巳早」
「おぅ、ちょっと邪魔するぞ、マスター」
「はぁ…今度はどんな厄介事って…」
この店を経営しているマスターは、入ってきた巳早に小さく息をつくのだが、彼の連れてきた少女の存在に気づくと押し黙った。そして言葉を失ったマスターは見定めるようにジッと少女を見る。その視線に気づいた彼女は、慌てたように巳早の背に隠れた。
「巳早…
どうしたんですか?彼女は?」
「あぁ…コイツはミーシャだ」
マスターの投げかけに巳早は隠れてしまった少女を彼の前に連れてくると、挨拶しろと彼女を促す。それに促された少女は小さく会釈するとすぐに巳早の後ろに戻った。
「…で?」
「あぁ??」
「どこから連れてきたんですか?」
「没落貴族から盗んできた」
マスターの投げかけに巳早はあっけからんと答えた。その答えに予想通りだとマスターは小さく息をついた。
巳早の背後からチラチラと顔を覗かせるその少女の髪は、珍しいホリゾンブルー色。おそらく、売り飛ばされそうになる前に巳早が目をつけて連れてきたのだろう。
「…なんだよ」
「いえ…なにも」
ジッと黙ったままのマスターに、巳早は眉を顰める。そんな彼に小さく首を横にマスターは振ると本題を切り出す。
「で?私に何をしてほしいんですか?」
「マスター、コイツを預かって欲しい」
催促するマスターを巳早は真剣な眼差しで見る。
「コイツが…ミーシャが…
世間慣れできるようにしてほしい」
そう続けた巳早にマスターは己の耳を疑った。その言葉が巳早の言葉には思えなかったのだ。しかし彼は、その疑問を仕舞い込んだ。
「…わかりました」
そう了承するとマスターは腰を屈めて、少女を覗き込むのだった。
*****
「大丈夫ですよ
昔も今も彼女は貴方に一番懐いてます」
「…」
「まぁ私も常連のお客様もミーシャのことが好きです。
なのでくれぐれも彼女を悲しませることがないように…」
「脅しか?」
「いえ…忠告ですよ」
小さく鼻で笑いおどけてみせた巳早にマスターは眼鏡の奥の瞳を光らせる。両者の間に不穏な空気が流れる。が、その空気を断ち切るかのように彼らが大切に想う少女の悲鳴が店内に響き渡るのだった。
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