次男坊の改心
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「ミレイおばさん!お邪魔するよ!」
「なんだい?また来たのかい?」
ガラリと引き戸を開けて入ってくるルイを一瞥した彼女はぶっきらぼうに返した。だが本当は誰かが来てくれて嬉しいのだとミレイの本心を知っているルイはお構いなしに彼女の近くに腰かけた。
「どう?調子??」
「相変わらずだよ
んなことより、私のところじゃなくて別のとこに行ったほうがいいんじゃないのかい??」
「いいのいいの!
好きで来てるだけだから」
邪険に扱おうとするミレイに対してルイはあっけからんと答えた。そんな彼女にもう好きにしなといわんばかりにミレイは肩を竦めるのだった。
「じゃ、肩揉んでくれるかい?」
「もちろんですよ」
ミレイの言葉にルイは嬉しそうに微笑み、彼女の後ろに回るのだった。
*****
「なんだい?もうへばったかい??」
「そんなことないですよ~」
「ウソだね、現に揉む力が弱まってるよ」
ミレイの鋭い指摘にルイはウッと言葉を詰まらせた。が、直ぐ外にある気配を感じニッコリと笑みを浮かべた。
「じゃ、別の者に変わってもらいましょう!」
「誰か宛があるのかい?」
ミレイの言葉に大きく頷くとルイは急いで扉を開ける。勢いよく開けた扉はギシリと音がなり、目の前を通りかかっていた者が視線を向けた。
「あれ?ルイ??」
どうしたの?と不思議そうに見るのはジェハだった。そんな彼をルイは笑みを浮かべたまま手をこまねいた。その手に導かれるようにジェハは近づいた。
「なんだい??」
「ミレイおばさん!肩揉み要員連れてきました!」
ジェハの手を掴むと意気揚々とルイは家に引っ張り入れて扉を閉めた。この展開についていけずジェハはキョトンとするのに対してミレイは眉をひそめた。
「なんだい、黒髪の男じゃないのかい」
「黒髪って...ハク!?」
「なんかミレイおばさんのお気に入りなんだって!」
驚くジェハにルイはミレイに聞いたことを伝える。それに意外だとジェハは声を上げる。
「へぇ〜〜
あのハクがねえ〜〜」
「なんか、昔じっちゃんの按摩させられてたから年寄りのツボは心得てるんだって!
意外だよね〜」
「アンタ達揃いも揃ってアタシを年寄り扱い済んじゃないよ!」
「なんか凄い懐かしい感じがするのは気のせい??」
「私も同じもの感じてるよ」
久々の罵声を浴びたジェハは苦笑しながらも懐かしそうに眼を細める。そして、彼ならそう言ってくれると思っていたルイは相槌をしながら彼と同じように遠くの海に思いを馳せるのだった。
「というか、ココでは素なんだね」
「実は、瞬殺でバレちゃったんだよね」
ルイはジェハの言葉に苦笑いして答えた。一番最初にこの家を訪ねた時にすぐに男装してんじゃないよと叱られたのだ。彼女の鋭い女の勘に恐れ入ったルイはそれ以降は取り繕うことをせずに彼女と接するようになっていたのだ。
「とりあえず手が空いてるなら揉んでちょうだい」
「はっ!?僕としたことが女性を待たせてしまった!!」
ミレイの言葉にハッとしたジェハは慌ててミレイの背後に回り肩を揉みだす。それによりルイはすっかりと手持ち無沙汰になってしまう。
「他にすることある??」
「そうだねぇ~」
ルイの申し出にミレイは言葉を区切ると顎に手を当てて考え始める。そして少し思考を巡らした彼女は何を閃いたのか企んだ笑みを浮かべるのだった。
「じゃあたまには私を喜ばせて頂戴」
「喜ばせる??」
「女なら女らしい服装をしてらっしゃい」
「へぇ!?!?」
「言われちゃったね~、ルイ」
固まるルイに、ミレイの背後から顔を覗かせるジェハはニヤリと口角を上げた。そしてミレイはさっさとしろと急かす言葉を発する。
「出来るの?出来ないの!?」
「やっ…やります!!」
ミレイの勢いに押されルイは反射的に声を上げる。そして直ぐに戻りますと言い残して慌てて家を出るのだった。そんな彼女の慌てぶりにジェハはクスリと笑みを溢した。
そして二人っきりになった場でミレイがぶっきらぼうに声を上げる。
「黒髪ほどじゃないがアンタも意外と上手いじゃないか」
「僕は女性を真綿でくるむように大切にする主義でね」
「そうかいそれはいい主義だね
それを彼女にはしてやらないのかい?」
「……!?」
ミレイの切り返しにジェハは手を止めることはなかったが驚き息を呑んだ。そんな彼に更にミレイは言葉を続ける。
「好いてるんだろ?ルイのこと」
「そんなに顔に出てましたか?」
「そうだね~
アンタのルイを見る表情は愛情に満ち溢れていて
大切に想っていることがよくわかるよ」
まるで孫を見ているように感じるミレイは目を細めて柔らかい声を発した。その声音にジェハは彼女がルイのことを大切にしていることがわかり思わず口元を緩めた。その柔らかい空気が伝わったのかミレイは顔を顰めた。
「じれったいね~
伝えないのかい?」
「昔からずっと一緒にいるから中々この一歩先に踏み出せなくてね」
「なんだい、意気地なしかい
少しは思い切った行動をしたっていいんじゃないかい?
そんくらいしないとあの鈍感娘は気づかないよ」
ミレイの突っ込んだ話にジェハは心情を吐露する。そんな彼にミレイは呆れながら厳しい言葉を吐き捨てた。その言葉にジェハは遠い目をした。同じセリフをギガンにも言われたことがあったからだ。
「アハハ…同じような言葉を吐き捨てられたことがあるよ」
「怖いかい?拒絶されたら」
「そりゃあね
僕の世界の中心にはいつもあの子がいたからね」
ミレイの鋭い問いにジェハは弱弱しい声で答えた。そんな彼をミレイは鼻で笑い飛ばす。
「まぁ私は別にアンタたちの恋路なんて知ったこっちゃないがね
言うタイミングは逃すんじゃないよ
後悔したって知らないからね」
「肝に銘じておくよ」
ミレイの真剣な声色は生きている時間が長い分、ジェハの胸に重たく突き刺さるのだった。
*****
「只今戻りました!」
軽快なルイの声が扉の音と同時に家に響く。そのルイの姿にジェハは信じられないといった表情を浮かべた。
「なんだい、ちゃんとした服持ってるじゃないか」
「ルイ…それって…」
「ジェハが昔くれたやつだよ」
ルイは万が一のためにもう一着持ってきていたのだ。まさかこんな場所で使うとは思わなかったが。そしてルイはジェハの元に駆け寄ると持ってきていた簪をハイっと掌に乗せる。そのルイの行動の真意に気づいたジェハは苦笑しながら無言でそれを受け取ると背を向けたルイの薄紫色の紐を外して器用に髪を纏めて簪をつけた。
「はい…いいよ」
「ありがと」
ルイは礼を言うと立ち上がりミレイに見せつけるように彼女の前でクルクルと回って見せた。
「どうですか??」
「馬子にも衣装だね」
「そんなぁ~」
素直に褒めたくないミレイのキツイ言葉にルイは大げさに落胆して見せた。が、このままでは終われないとルイは一念発起する。
「じゃ折角なんで舞いを披露します!!」
「へぇ~、舞えるのかい」
衝撃的な言葉にミレイは疑うように軽口を飛ばす。そんな彼女はゆっくりと立ち上がると部屋の奥にあるホコリ被ったものをおもむろに取り出した。そしてそれは微笑まし気に見ていたジェハに突き出された。
「え??」
「舞うなら音が必要じゃないか?」
口角を上げたミレイがジェハに突き出したのは二胡だった。ジェハは驚きながらもそれを大切に受け取るとゆっくりと構えるのだった。そしてルイはジェハとアイコンタクトを取ると、ミレイのためだけの舞を始めるのだった。
優雅に力強く舞を始めるルイに合わせるように、ニ胡の美しい音色が響き渡った。そのルイの舞にミレイはうっとりと目を細めて見つめるのだった。
*****
「お邪魔しました」
ジェハは他の村のことも見て回らないと行かずそろそろとミレイの家をお暇することに。礼儀正しく礼したジェハにミレイは珍しく優しい声をかけた。
「楽しい一時だったよ
また肩揉みに来ておくれ」
「麗しき女性のためなら僕はいつでも跳んで駆け付けますよ」
「そんなこと言ってるから振り向いて貰えないんじゃないか」
普段のように軽口を飛ばしたジェハにミレイは冷ややかな目で呆れ口調で言い返した。その言葉にジェハは何も言い返せず苦笑をした。
「…気を付けてね」
すっかり普段の装いに戻ったルイがジェハに駆け寄る。その時ジェハの脳裏に過ったのはミレイの言葉だった。
そうだね…
もう少し僕のことを男として認識して貰わないとね…
小さくジェハはほくそ笑むと見上げるルイに近づいた。
「じゃあ、行ってくるね」
そう発したジェハはルイに顔を近づけるのだった。
「え…??どういうこと??」
既にジェハが跳び去ってしまった場所では未だに事情を呑み込めないルイがある部分を手で抑えて顔を茹タコのように真っ赤にしていたのだった。普段の揶揄うような口調ではなく甘く艶やかな声色と共にルイの頬には唇が落とされたのだ。
そんな行為されたことがないルイは彼の真意が掴めずにソワソワとする。
一方、一部始終を見ていたミレイはそんなルイを見て静かに笑みを溢すのだった。