深い闇
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「ナダイのせいとはいえ女の子を殴るなんて万死に値するね」
「…幸い鼻骨は折れてないし、これなら数日で腫れは引くよ」
「良かった」
店内の暴動を収束させた1行はリリを連れて近くの河岸に来ていた。中毒者に殴られたリリをユンが手当ついでに急いで診ていく。それを固唾を呑んで見守っていた1行はユンの口から告げられた事実にホッと胸を撫で下ろした。
この連中…
私を助けてくれたし手当ても…
密売人ではないのかしら…
一方で、リリはこの状況に困惑していた。そんな彼女にヨナは柔らかい笑みを向けた。
「あなた名前は?
あなた私達をずっと見てたわよね?
訳を聞かせてくれる?」
ヨナの問いかけにリリはビクッと身体を震わした。自分の尾行がバレているとは1ミリも思っていなかったのだ。だが、ここで動揺しているのを悟られるわけにはいかないとリリは顔を強張らせながらも虚勢を張り言い返した。
「自分から名乗るのが礼儀ではなくて?
あんた達怪しいのよ!
格好も変だし、町の中調べまわってるし。
踊り子やってると思ったら飛び蹴りするし!」
その言葉に一部を覗いてキョトンとした表情を浮かべた。そして、数秒後、言葉をようやく呑み込んだ彼らは互いを見あった。
「ヨナちゃん、君だろ?
悪いのは」
「えーっ、戒帝国の服着てるジェハだって」
「やはりシンアの面だろうか」
「何を今更驚いてるの」
「気付け!全員怪しいんだっつの!」
矢次に各々互いの見るからに怪しい点について言い合う彼らを見て、ルイとユンは呆れたようにため息を吐き出した。
「私はヨナ
色々あってあちこち旅していてここで麻薬が横行してると聞いて調べていたの」
「ヨナ…
緋龍城の失踪した姫の名前ね
そういえばさっき誰かが姫様とか言ってたけど…」
リリは神妙な面持ちを浮かべて考え込む。が、リリから出た一声にヨナとキジャは顔を真っ青にした。すかさず放心状態の彼らに変わって苦笑いしてユンとルイがなんとか誤魔化そうと機転を利かした。
「そう!ヨナ姫と同じ名前なんだ」
「皆シャレで姫ってあだ名で呼んでるんだ」
顔を引き攣らせる2人の必死のはぐらかし。だが、リリは別に疑いもせずに素直に2人の言葉を受け入れた。
「ふぅん…そんな事だと思った
大それたあだ名つけるのね
それにしても麻薬を調べてたって何の為に…」
「おい、暴れてた奴は縄で縛っといたがあれはかなりの中毒者だ。
薬を欲しがってまだ暴れてる」
核心に迫ろうと口を開くリリ。が、その時取り押さえた中毒者を縛っていたハクが戻ってきた。そのハクの口から出た言葉にリリは恐怖で顔を青褪めた。そんな彼女を他所に1行は話を進めていく。
「入手経路は?」
「数人は人伝で入手したらしいが残りは…
おい、タレ目」
ユンの問に神妙な面持ちを浮かべたまま、ハクは途中で言葉を区切るとジェハの名を呼んだ。呼ばれたジェハは岩に腰かけたままハクを見上げた。
「
お前が薬飲まされたとこじゃないのか?
さっきの奴らもそこから買ってるんだとよ」
”
その単語に反応したジェハは瞳孔を大きく開いた。その彼の動揺している様を見て、ユンとルイとハクは畳み掛ける。
「やっぱりその店に行くしかないよ、ジェハ」
「もういい加減、口割ったらどう?」
「お前が黙っててもあいつらから聞き出せんだぞ」
「…………わかったよ」
もうはぐらかすのは不可能だと判断したジェハは大きく息を吐き出し項垂れながらも条件付きで了承した。
「ただし踏み込む時は僕の指示に従ってもらう」
「それでいいよ
じゃあ明日にでも乗り込もう」
「いや、中にいる女の子達には危害を加えたくない
まずは潜入して様子を探る」
「確かにそうした方がいいね
なるべく巻き込まれた人に危害を加えないためにもね」
ジェハが同意したことでトントン拍子で話が進んでいく。その中、置いてけぼりのリリが声を上げた。
「えっ…何?何をするの?
麻薬を調べてるって言ってたけど…」
「ナダイって麻薬を客に渡してる店があるの
その元凶を突き止めてやめさせるのよ」
ヨナが発した言葉にリリの脳裏に先程の悍ましい記憶が駆け巡った。
やめさせるって…何言ってんのよ。あんな凶暴な人達がいっぱいいるかもしれない所に行くっていうの?
私は嫌…二度と嫌よ
あんな怖い思いをするのは!!
「どうしたの?
傷が痛む?」
ギュッと身体を縮こませて震えるリリを心配してヨナは彼女の顔を覗き込んで心配そうに見つめた。
その声にハッとしたリリは恐る恐るヨナへ顔を上げた。
何よ…
よく見たら別に何の変哲もない普通の子じゃない…
旅芸人とかしながら生活してるんならきっと田舎で育った娘ね…
「あんた…
この町の人間じゃないんでしょ
四泉出身でもないのにどうしてわざわざ危ない事に首を突っ込むの?
強くもないのに飛び蹴りなんかしてよくわからない子ね」
「そうね、強い飛び蹴りの練習をしておくわ」
「誰もそこに練習量求めてないわよ」
ふと見上げたヨナにリリは疑問をぶつけた。それに対して、ヨナはケロッとした顔でリリが求めていたものとは違う返答をした。それに思わず突っ込んでしまったリリは深く息を吐き出した。
「…あんたもその店とやらに行くの?」
「えぇ」
躊躇することなく直様答えたヨナ。そのヨナの凛々しい姿にリリは心を奪われて言葉を失う。
その中、作戦を立てていたハクが意気込むヨナを地に叩き落とすような、間延びしながらも鋭い有無を言わせない一声を上げるのだった。
「言っとくけど姫さんは明日の作戦不参加だからな」
「え―――っ!?」
「……ルイもね」
「言われなくても今回は大人しくしてるよ」
ハクに続き、ジェハは釘を刺す言葉を付け足し、隣りにいる彼女を盗見る。が、ジェハの予想に反して、ルイはそっぽ向きながらも素直に了承した。そんな珍しいルイの反応に拍子抜けしたジェハは目を瞬かせた。
一方、ルイと違い納得していないヨナはハクに詰め寄っていた。
「どうして?私も行く」
「危険なんだよ」
「ヨナちゃん、今回は僕らに任せてお留守番してて」
「そんな…皆が戦うのに…」
「大丈夫です、ユンとゼノは置いていきますから」
「どうしてユンとゼノと私とルイは置いていかれるの?」
「…ヨナ、
しょんぼりしながらも引き下がらないヨナを見かねて、ユンが横から投げかけるように口を挟む。それに、ヨナは目を点にする。
流石のヨナもどういう店なのかはわかっている。しかし、そこまで深くは考えたくないと、ヨナは大きく首を横に振り、再び詰め寄った。
「…でも作戦でしょ。遊びに行くわけじゃないんでしょ」
「ないですけど…
(そーゆー店に)姫さんがいるとやりづらいんです」
「やりづらいって何が?」
「
言い淀むハクの真正面に立って、疑問をぶつけるヨナ。そんな彼女に察しろと言わんばかりにハクは声を荒げていく。
そのやり取りを見せつけられた第3者側はハクを憐れむ眼差しで見つめる。その中、耐えきれなかったジェハが吹き出した。そして、身体を折り畳み屈み大爆笑するのだった。
「何笑ってんだ、タレ目」
そんな彼をジロッと睨んだハクは己の下にある彼の背を思い切り踏み付けた。踏みつけながらハクは人選を考え始める。
「とにかく行くのは俺とこいつとギリギリ白蛇……
シンアは…無理か…」
「なぜ私はギリギリなのだ?」
その独り言にシンアとキジャが首を捻る。
「あぁー、面白かった」
その中、ようやく笑いが収まったジェハは立ち上がり涙目になりながらヨナに笑いかけた。
「ヨナちゃん、冗談ヌキで危険なんだ
とっとと行って調べて来るから待ってて」
「…ヨナ」
ムスッと頬を膨らますヨナ。そんなヨナを見かねて、会話に参加せずどこか心あらずだったルイが彼女の名を呼んだ。
「今回はハクとジェハとキジャに任せて
…一緒に大人しく待ってようよ」
ねぇ?
ヨナに視線を合わせて、不貞腐れたヨナを覗いたルイは小さく笑ってみせた。それにヨナは渋々ながら頷いた。そんなヨナの頭をルイは優しく撫でた。
ようやく話が纏まり、一段落。と思いきや、リリを探して2人の女性が息を切らして現れた。現れた2人はリリの側近のアユラとテトラ。2人はリリを見つけ、ホッと胸を撫で下ろすのだが、リリの頬が腫れていることが気づくと態度を一変させた。
「あらあらまあまあどの殿方ですの?
リリ様に怪我させたのは?3倍返しでよろしくて?」
「「「「「えーっ」」」」」
「違うわ、ちょっと騒ぎがあって…助けられたのよ…」
今にも襲いかかりそうな勢いの2人。その2人をリリが慌てて制止させ、事情を説明した。それでようやく恩人に刃を向けてしまったと、自分たちの失態に気づき2人は深々と頭を下げて礼を述べていった。
「これはとんだご無礼を」
「リリ様がお世話に」
「よかった、身内の人が来て
これで無事に帰れるわね」
「一人でも帰れるわよ
バカにしないで!!」
ホッとするヨナを横目に癇に障ったリリが声を上げる。その微笑ましいやり取りの中、ハクは違和感を覚えて考え込んだ。
「本当に男前ぞろ…い…」
それはテトラとアユラも同様。ハクの真正面に来た途端、2人は言葉を失いマジマジと彼を見つめてしまった。
どっかで…?
リリに呼ばれたことでクルッと踵を返すテトラとアユラ。が、見覚えがあるもののどこで見た者までかは思い出せなかった。
ハクとテトラとアユラは違和感を抱きながら、ヨナ達1行と、リリ達1行は別れを告げるのだった。