深い闇
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「うーん」
「…これ以上闇雲に調査してもいい収穫は得られなさそうですね」
「…致し方ないか」
数日街中で調査していたヨナたちは途方に暮れていた。聞き込みしても自分たちが知りたい詳しい情報を得ることが叶わなかったからだ。さて、どうしたものかと考える中、神妙な面持ちをしていたルイが組んでいた腕を解いて口火を切った。
「なにかいい案があるの?」
「ホントは取りたくない手段だったんだけど…
夜の酒場で中毒者や密売人を誘き寄せる」
「…!どうやって!?」
「喰い付きそうな餌を置くんだよ」
もったいぶるルイの話に早く方法を知りたいヨナは身を乗り出した。そんな彼女にルイはグッと顔を近づけて悪い笑みを浮かべるのだった。
「ユン君、ちょっとどこか人が多く集まりそうな店を手配してくれるかい?」
「え…っ、あ…うん。わかった。」
ジッと見つめていたジェハがユンに指示を出す。それに真意を汲み取っていたユンは困惑しながらも慌てて街中へ走り出した。それを確認するとジェハはヨナに向き直った。
「ヨナちゃん
餌になる覚悟ある?」
「私が餌になるの?」
「そうだよ
ヨナにしか頼めない仕事だ」
「何言ってるの?
ルイもやるんだよ
言い出しっぺでしょ」
「え”っ…私はっ…いいよ」
ジェハの思いもしなかった言葉にルイは視線を泳がして言葉を詰まらせた。
「色仕掛け専門者が何遠慮してるんだよ
専売特許だろ」
そんな彼女の頭を黙って聞いていたハクが拳をため息混じりに落とした。
「色仕掛けすればいいの?」
「間違ってもそれだけはしないでください」
「じゃあなにするの?」
「ヨナちゃんには酒場の中央で踊ってほしいんだ」
何をすればいいかわからないと首を傾げるヨナにジェハはニッコリと笑いかけた。
「大丈夫
今回はルイも一緒にやってもらうから
ねぇ?」
「…わ、わかったよ」
退路を絶たれて八方塞がりにされてしまったルイは渋々と同意した。
「…話つけてきたよ」
「流石、ユンくん
交渉早かったね」
店に話しをつけたユンは駆け足で戻ってきた。が、その表情は不安気だった。
「でも俺やっぱり反対だよ
ルイ、ホントにやるの?」
「これが一番手っ取り早い気がするからね」
「…ジェハ」
「僕はもう何も言わないよ」
2人の反応を確認したユンはガクッと肩を落とした。いつもなら危険ぎる場合は一緒になって反対してくれるルイは今回は逆の立場。そして、彼女のストッパー役である相棒は、もうすでに一悶着やったらしくもう何も口を挟むつもりはないらしい。
ユンは小さく息を吐き出すと今回も渋々ながら折れるのだった。
「私は踊ればいいのよね?」
ヨナの言葉にジェハは小さく頷くと説明を付け加えた。
「君たちには”幸せな踊り子”になってもらう
暗い夜の町で華やかで幸せそうな人間を演じるんだ」
「人は大抵、幸福そうな人を見ると妬み羨む
今回はそれを使って、酒場にいる人たちの嫉妬や凶暴な感情を抉り出して、ナダイを使っているであろう人、持っている人を探すの」
ジェハの言葉に続けてルイはポツリポツリと話し始めた。その表情は影を落とし憂いていた。
「麻薬ってさ…
心の弱い人の隙をついて、取り付く悪霊みたいなものなの」
「その悪霊は元々人間が抱えている嫉妬や怨嗟を暴発し凶暴化させる。特にこの薬はそういった凶暴性に長けているらしい。だから、すぐに炙り出せると思うよ」
ルイとジェハから一通り話を聞き終えたヨナは疑問をぶつけた。
「どうして酒場なの?」
「こういう街の酒場ではどこかに人間の暗い闇が潜んでいるんだ
だから今回の作戦を実行するにはいい場所なんだ」
「上手くいけば
凶暴化した人間もしくはその周囲の人からナダイの詳しい情報が手に入るかもしれない
けどそれなりにリスクを犯す必要がある
なんたって飢えた中毒者が襲いかかってくるからね…
どうするヨナ、引き返すなら今のうちだよ」
ルイは敢えて彼女を試すような口ぶりをした。その言葉に試されていると理解したヨナは力強い紫紺色の眼差しをルイに向けて言い切った。
「舐めないで
そんな脅し文句で怖じ気付いて逃げるつもりはないわ
覚悟はもう決めてるんだから」
「それこそ私が見込んだヨナだよ」
動じることがないタフさ。決意の漲った綺麗な紫紺色の双眼。ヨナの凛とした立ち姿にルイはニヤッと口角を上げて笑うのだった。