襲い掛かる魔の手
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「…はっ!!」
ガバッと覚醒したジェハは上半身を勢いよく起こした。既に室内に唯一ある窓から差しこむ明るい日差しに日が昇っていることは明らかだった。随分と眠らされていたものだ。
「本当に眠らされてた」
恐ろしい子たちだ…
その事実にジェハは苦笑いしながら、状況を確認しようと周囲を見渡した。すると、すぐ傍に寝落ちしたのか毛布を掛けずに自身の腕を枕にしてスヤスヤと寝ているルイを発見した。
「…ルイ、1人か」
この一室には自分とルイ以外いないことを把握したジェハは、深く息を吐きだした。
他の者はどこにいったのだろうか…
1人頭を抱えて悩むジェハ。そんな彼を他所にルイは気持ちよさげに、んっ…と吐息を漏らして身じろいだ。そんな彼女の無防備な姿にジェハはこの時ばかりは縛られていて良かったと内心で思った。が、このままだと理性が崩壊しかねないと判断したジェハは申し訳ないと思いながらルイの名を呼んだ。
「…ルイ…ルイ!!」
その声にルイは眠たげに目を擦りながら顔を上げた。
くぁぁ~~
気の抜けた欠伸を1つしたルイは、起きているジェハを視界に捉えると嬉しそうに目を細めた。
「…おはよ、ジェハ」
「………おはよ」
トロンっとした翡翠色の眼差しを向けられたジェハは、ドキッと心臓を高ぶらせた。そして、たどたどしく挨拶を返した。
「よく眠れた?」
「…お陰様でね」
「良かったじゃん!」
その後普通に何気ないやり取りをしていく二人。が、直ぐに状況を思い出したジェハは血相を変えた。
「…ってか、ルイ!
ヨナちゃん達は…!?」
「ヨナ??
あぁ…」
血相を変えるジェハと裏腹にルイは欠伸をかみ殺しながらのんびりと凝り固まった身体を伸ばす。
「皆は街に出かけて行ったけど?」
「出かけて行ったって、何しに?!」
「無論、情報収集だよ
取り合えず昨日ジェハが入った店周辺を洗ってみるっぽいけど」
淡々を話すルイが口に出した言葉にジェハは表情を豹変させた。そして、直ぐにこの状況を打開しようと袖口に手を伸ばすのだが…。
「……!?」
「ジェハが探してるのって、これ??」
目を大きく見開いたジェハを横目にルイはおもむろに懐からある物を取り出す。その声にハッと顔を上げたジェハは、クルクルと片手で容易く暗器を回すルイを視界に捉えた。そして、ルイの表情がしてやったかの満面の笑みなのを見て、ジェハはこれは全てルイがやったことだと理解するのだった。
「ルイ…
縄切って」
「ヤダ」
「ヤダじゃない!
今すぐヨナちゃん達を止めないと!」
「どーして?」
「どーして??って
ルイ!わかってるだろ!
キョトンと不思議そうにするルイに、苛立ちを露わにしたジェハが声を荒げていった。
「…わかってるよ
ここで横行しているのは厄介な麻薬だってことは」
「じゃあなんで止めないんだ!!
何故、”彼女”に教えてあげるようなことをさせるんだ!
この事実を知ったら首を突っ込むことは明らかだろ!」
「ヨナが自らそれを望んだからよ
わかってるでしょ?
彼女がジッとしていられないことを」
「だからこそストッパーが必要なんだろ!
危険すぎるものに”彼女”が首を突っ込まないように!」
「はぁぁぁ、ジェハこそ何をわかってないよ」
珍しく頭に血がのぼっているジェハに、やれやれとルイは大きく肩を竦めるとおもむろに立ち上がった。
「ヨナが旅を続ける目的はなに?
理不尽なことで苦しむ民を救う為でしょ
お気楽に旅をしているわけじゃない」
「だけどっ!!
下手したら死ぬぞ!」
「死なせないために私たちがいるんでしょ?
別に無鉄砲な彼女を止めるためじゃない、一緒に戦うために私たちがいる…」
そうでしょ??
座り込んでいるジェハを見下ろしてルイは言葉を投げかけた。その投げかけはジェハがどう返答するかわかっているかの口ぶりだった。その問いかけにジェハは目を伏せてギュッと唇を噛みしめ拳を握りしめた。
わかっている
素直に退けと言っても言う事を聞かないことを
今は水の部族領で留まっている麻薬の横行がいずれは高華国全体に広がる恐れがあることを
それを高華国の王の娘の彼女が黙って見過ごすわけがないことを
それでも避けられる危険ならば回避させてあげたかったのだ
「まぁ有り得ない話だけど…
もし仮にヨナが首を突っ込まなかったとしても、
今回の件だけは私自身は見過ごせない」
すぅっとジェハの目前で腰を下ろしたルイは真っ直ぐにジェハを見た。突然の行動に顔を上げて素っ頓狂な表情になったジェハにルイは怒りを押し殺しながら言葉を紡いだ。
「だって、許せないから
ジェハを苦しめた
コテンパンにしないと私の気が晴れない」
真っすぐ見つめてくる真剣な翡翠色の眼差しにジェハは呼吸をするのを忘れてしまうほどに吸い込まれていた。
自分が惚れた透き通った綺麗な眼差し
普段の凛とした力強い眼差しに加え、今はその裏には怒りの色が入り混じっていた
それが自分を想っての怒り
不謹慎ながらジェハは無意識の内に心躍るのを感じた。その時点で、既に二人の攻防戦には決着がついていたのは明らか。
惚れこんでしまっている時点で既に負けなのだ
「…ずるいじゃないか、そんな言い方」
参ったと溜息を吐いたジェハは視線を逸らして拗ねた声を出した。その反応にようやく納得したかとルイは彼を縛る縄を切った。
そして、そのままの勢いでルイはジェハの腕を取り引っ張った。
「…っ?えぇ!!」
予期してなかったルイの行動に、不意を突かれたジェハはルイと一緒に床に倒れ込んだ。慌ててジェハはルイの上から離れようとする。が、首に回されたルイの手によりジェハは動くことができなかった。
「……怖かった」
「…?!」
ボソッとか細く小さな声で呟かれた一言に、ジェハの思考は止まった。
「ジェハがこのまま目を開けなかったら…
このまま薬漬けになっちゃったら…って
どんどん最悪な展開が頭を過るの」
「大丈夫…大丈夫って
言い聞かせても…
恐怖で震える身体の悪寒が無くなることはなかった」
無意識だった。彼を引き寄せたのは。一緒に倒れ込んで彼に密着したことでドクッドクッと心音が…、彼の温もりが伝わってきた。その途端、唐突に数時間前の記憶が蘇ってしまったのだ。思わず、この温もりを離したくないとルイは驚くジェハにしがみついてしまった。
「…ごめん
怖い思いさせて…ごめん」
ジェハは華奢な身体を震わせるルイの背に両手を回した。そして、体位を反転させたジェハは力強く抱きしめ返した。
「ごめん…
ホントにごめん」
「もう1人にしないで…」
「…うん」
「勝手に危険なことしないで」
「そりゃあルイだって…」
「…ッ、1人ぼっちにしないで…
置いていかないでッ…
傍にいてッ…」
ルイの震える声に言おうとしていたジェハの言葉は喉に引っ込んだ。ガタガタと自分の腕の中ですすり泣くルイはまるで何かに怯える小動物のよう。ジェハは目尻を下げてそっと片手を持ち上げて彼女の頭に乗せた。
「大丈夫だよ
とっくのとうに僕はルイのものなんだから
僕はどこにも行かないよ」
淋し気に微笑んでジェハはゆっくりとルイの頭をポンポンと叩いた。その優しく温かいものに誘われるようにルイはジェハの胸元で意識を手放した。
そんな事言われたら勘違いしちゃうよ
腕に収まり安堵したかのように穏やかに眠るルイにジェハは困ったように目を細めた。
相棒として
気の許せる友として
大切な者として
言っていることはわかっている
それでも、他の奴にはその言葉を口にしてほしくないと密かに願いを込めて、瞳を閉じたルイの額にジェハは軽い口づけを落とすのだった。