襲い掛かる魔の手
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痛い
痛い!
全身の骨が砕けそうだ!!
「あああああぁあああ!!うあぁあ…ぐっ…」
身体全身を蝕む苦痛に苦しみ藻掻く彼の絶叫を背に受けながら、ハクは神妙な面持ちで部屋の外に出る。そして、後ろ手で襖を閉じたハクの元に外で待機していたヨナ達が駆け寄った。
「ハク…ジェハは?大丈夫なの!?」
「暴れてる
おそらく麻薬を飲まされたんだ」
中に入ってはいないが、部屋の外までも聞こえてくる、激しく暴れまわってぶつかる音や彼自身の悲痛な叫び声にヨナ達が不安を抱かないはずがなかった。
「俺が診るよ。中に入れて」
「ハク、私も…」
「誰も入らないで」
彼らが心から心配して傍で介抱したい気持ちはわかる。だが、その気持をわかっていながらハクはその懇願を跳ね除けようと声をあげようとする前に第3者の鋭い一声がピシャリと彼らの意を跳ね除けた。
その声に慌てて一同はその声の方向に視線をやる。すると、そこにいたのは、疲れ切って先程まで休んでいたとは思えないほど凛とした立ち振る舞いでズカズカと近づいてくるルイだった。
「…ルイ!?」
「駄目だよ!
まだ寝てなきゃ」
「ジェハが苦しんでるのに、
のうのうと休んでいるわけには行かないよ」
切羽詰まった声を上げるユンの言葉に耳を貸すことなくルイは、部屋の前に立ちふさがるハクの前に立った。
「どいて、ハク」
「テメェも同じだ
大人しくそこで待ってろ」
「嫌」
「こんぐらい聞き分けろ!」
「姉ちゃん!
兄ちゃんの言う通りだ。
これ以上、力を使ったら身体が持たないぞ」
鋭い眼光で見上げてくるルイに動じることなく、ハクは一歩もその場を譲ることはしなかった。だが、ルイも安々と引き下がるわけがなく目を逸らすことなく真正面からハクの青藍色の瞳を見つめ続けた。その押し問答に対して、ハクに加勢しようとゼノが滅多に見せることがない真剣な面持ちでルイを諭そうとする。が、ルイはゼノの言葉でさえも耳を貸さなかった。
「…構わない」
「…!?!?」
「その代償で助けられるんだったら構わない
逆に今、動かなかったら私は後で絶対後悔する
もう…後悔だけは…したくないんだ」
皆が自分を心配しているのは承知の上でルイは、揺らぎない力強い真っ直ぐな言葉を言い放った。そして、その言葉に唖然とする一行を他所に、ルイは影を落とした表情を浮かべて、声を震わして思いの丈を漏らした。
「お願いハク、部屋に入れて」
そして、伏せていた目を上げたルイは真っ直ぐジッと自分を見下ろすハクを見据えた。揺らぐことがない決意の籠もった力強い翡翠色の双眼。その双眼を暫く見下ろしていたハクは、表情を崩して困ったように眉を潜めて大きくため息を零した。
「こりゃあ、何言っても聞き分けてくれそうにねぇーな」
ガシガシと後頭部を掻いたハクは、しゃあないと先に折れるのだった。
「わかった
だが、無茶だけはすんな
それが部屋に入れる条件だ」
「…わかった」
言い聞かせるハクの言葉にルイは小さく頷く。対して、2人のやり取りを固唾を呑んで見守っていたヨナたちはじゃあ自分たちもと名乗りあげようとする。が、それを見通していたハクが先に先手を打って彼らに釘を刺すのだった。
「俺がいいっつーまで外で待ってろ」
襖に手をかけて納得していない2人に対して声をかけたハクは、神妙な面持ちで見守っていたキジャ達に頼むと目配せしてルイを引き連れて部屋へ姿を消すのだった。
*****
「何がなんでもお前だけには見せたくなかったんだがな」
「あぁあああ…があ…っ!!
ぐぅあああああ!!」
後ろ手で襖を閉めたハクは、薄暗い部屋でポツリと言葉を漏らした。その横でルイは藻掻き苦しみ暴れまわるジェハを見て、悲痛な表情を浮かべていた。
飲んだすぐは快感を覚えて痛覚が麻痺る
その後、徐々に幻影を見たり、全身が砕けるような痛みのせいで
精神がおかしくなって、最終的に凶暴化する
症状は聞いていたから覚悟していたが、予想以上だった。でも、なおさらこれを見て放っておくことができなかった。ルイは引き裂かれそうな痛みを覚える胸をグッと押さえた。
「ルイ
見てるの辛いなら外出てろ」
「…ハク、少し窓開けて」
ルイの様子を横目で見ていたハクが心配して助け舟を出す。が、端から外に出る選択肢を持っていないルイは彼の言葉が聞こえなかったように振る舞いつつ彼へ指示を出した。その小さな声で囁かれたのにも関わらず、有無を言わせない力強い声にハクは目を瞬かせながらも素直に従った。
「これでいいか?」
「…うん、ありがと」
窓が開いたことで、室内に新鮮な風が入ってくる。それとともに聞こえてくるのは先程よりも収まった雨音だった。その雨音を聞きながらルイは意識を室内に入ってきた風に向けた。
「ハク、吐き出させてくれた?」
「ん?
あぁ…さっきアイツの腹に一発、拳打ち込んだ」
「じゃあ、もう一発かまして」
「…りょーかいした」
ルイの言葉に拍子抜けしてたハクだが、瞬時に拳を鳴らして了承した。それを確認するとルイは腰を下ろして、祈るように両手を組んだ。
そんな彼女目掛けて、麻薬で正気を失っているジェハが飛びかかろうとする。が、互いの間に即座に入ったハクがジェハの取ろうとしている行動を制止させた。
「ッ…!」
腕を捻り上げたハクはそのままジェハを壁に縫い付けて彼の動きを封じた。
「何しようとしてんだ!
後で後悔すんのは、テメェーだぞ!」
思わずハクは血相を変えて声を上げた。こみ上げた苛立ちを声や押さえつける力に乗せながらも、猛獣のように閉じれない口から唾液をダラダラと出し呻き声を上げるジェハを見る青藍色の瞳は悲しみの色が入り混じっていた。
「…チッ
悪く思うなよ」
盛大に舌打ちをして詫びを入れたハクはジェハの鳩尾に重たい拳を入れ込んだ。
「…ッ!!あぅっ…」
「そのまま押さえてて!!」
そう言ったルイはカァッと翡翠色の瞳を開けた。光り輝かせたルイは室内を流れる風に癒やしの力を乗せたのだ。その途端、無機質で肉眼では見えないはずの風がまるで煙のように淡い緑色の輝きを放つ。そしてふんわりと優しくジェハの身体を包み込むのだった。
最低限の対処はした
後は、強い禁断症状に耐えてもらうしかない
「ジェハ…お願いッ…
耐えて…」
表情を歪めてルイは体力が持つ限りありったけの力を注いだ。その力が少しでも彼の力の足しになるようにと。
その想いが通じたのかはわからない
だが暫くして、苦痛を逃れようと身じろぎハクの拘束下状態で暴れていたジェハは糸が切れた人形のように寸とも動かなくなった。苦痛で歪んでいた表情は穏やかになり、拘束を解こうとしていた両手は力を失くしてダランと垂れ下がった。
それを確認したハクは、大きく息をつくと床に敷いてある寝床にジェハを寝かしつけるのだった。