その背には
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ええっと…
思った以上に僕は深い傷に触れてしまったらしい…
露天風呂から上がったジェハは浴衣に袖を通し、白いタオルを肩にかけ、濡れた髪を乾かしながら部屋に戻っていた。がその途中、ジェハは通路脇で頭を抱えて蹲っているキジャを見つけてしまったのだ。
「キジャ君、誰にも言わないから君は日が沈んでからこっそり温泉に入るといい」
「…もうよい
行きたくない…」
ジェハは恐る恐るキジャに声を掛ける。が、目線を上げることなくキジャは小さな声で答えるのだった。その拒絶とも取れる一声にジェハは谷底から落とされた心地に陥った。
重症だ…
馬鹿なのかと思うくらい前向きで気が強いキジャ君がここまで打ちのめされるとは…
茫然と立ち尽くすジェハ。その彼の脳裏には唐突に先代緑龍と共に生活した日々が蘇るのだった。
先代…か
これ以上踏み込むべきじゃないね…
過去の記憶を思い起こしたジェハは小さく息をつく。自分が触れて欲しくないように彼にも他人に干渉されたくない過去があるのだろう。
ジェハはキジャに静かに背を向けその場を立ち去ろうと歩き出す。
が、背後からした声に思わず立ち止まって振り向いてしまうのだった。
「あれ、キジャどうかしたの?」
「湯当たりでもしちゃった?」
湯上がりのヨナとルイが偶々この通路を通りかかったのだ。楽し気に肩を並べていた二人だが、頭を抱えるキジャを見つけ不思議そうに彼を見た。その彼女たちの声に対してキジャは小さく首を横に振った。
「いえ、私は入っていないのです」
「あら、どうして?」
「それ…は…」
テンポよく聞き返したヨナの言葉にキジャは言い淀む。そんな彼の身体がフラッと傾いた。が、その身体は咄嗟に駆け戻ったジェハのお陰で地面に倒れるのを回避したのだった。世話がかかると眉を顰めたジェハはヨナ達に愛想笑いを浮かべながら答えた。
「僕がやめろって言ったんだよ、顔色悪いから」
「そなたその様な事言ったか?」
「ニブいな。話合わせなよ。」
なんとかその場を凌ごうとするのだが、当の本人はキョトンとする。そんなキジャにジェハは呆れ、顔を顰めた。
「そういえば顔色少し悪いかも…
横になってた方が良くない?」
対して、ジェハの言葉を真に受けたヨナはすっとキジャに近付いて額に手を当てた。途端、近づいたヨナからはふわっと甘い香りが漂っていることに気づくとキジャは赤面した。そんなキジャは近すぎるヨナとの距離を開けるように身を慌てて引いた。
「へ…へいき…です…」
「それならいいんだけど…
そういえば、ジェハ」
「なんだい??ヨナちゃん?」
ヨナはよそよそしいキジャに首を傾げる。不思議そうに思いながらも、ヨナはキジャのことを後に回しジェハに向き合った。ヨナに呼ばれたジェハはなんだろうとウキウキしながらヨナの次の言葉を待つ。そんなジェハにヨナはある言葉を言い放つのだった。
「預かっていたルイ返すね!!」
その言葉と同時に、ルイは背中を強く押される。構えていなかったルイはヨナの思惑通りに咄嗟に腕を広げたジェハの胸の中へ。それを確認したヨナはご満悦そうにクルリと身体を反転させるのだった。
「「………」」
一方で取り残されたジェハとルイは慌てて半歩距離を取った。そして互いにほんのりと頬を染め、気まずそうに視線を逸らすのだった。そんな彼らの空気を察することができないキジャが口を開く。
「ジェハ、ルイよ…
私は汗臭くないか?」
その声にハッとした二人が見たのは青ざめるキジャだった。そんな彼を訝しげに思いながら二人は顔を近づけた。
「全然平気だよ?」
「…別に気にならないけど。」
匂いを嗅いだ二人は顔を見合わせ不思議そうに首を傾げるとキジャに視線を落とす。するとそこにいたのは複雑そうな表情を浮かべるキジャだった。
「姫様から良い香りがするのだ…」
「それはお風呂に入ったからだと思うけど…」
「ルイからも姫様と同じ良い香りがする…」
「ちょっとキジャ君…」
「風呂にも入ってない自分が恥ずかしい。」
「知らないよ。だから入って来ればいいだろ。」
キジャの一声に振り回されるジェハは段々と投げやりになっていく。もう心配して付き合うのも面倒くさいと思ってきたのだ。
なんかだんだん面倒臭くなってきた。
だいたい傷をどうするか、風呂をどうするかは自己責任だし、キジャ君もいい大人だし放っといてもいいんじゃない?
ジェハがそう思っているとキジャがキョロキョロと辺りを見渡しながら尋ねる。
「井戸か何かあるだろうか?」
「彼処にあるけど??」
「ではそこで水浴びをしてこよう。」
「え??なんで??」
「えっ、ちょっと…」
キジャの問いに不思議に思いながらルイが井戸の場所を指差す。それを確認すると二人の戸惑った声をスルーしてキジャは井戸へ行ってしまった。
してこようってあそこだって人に見られる可能性が…
いや、傷を見られても見られた彼が阿呆なんだ、うん…
ジェハがキジャの矛盾した行動に困惑していると、隣りにいたルイが不思議そうに彼を見上げた。
「キジャ、どうしたの??」
その声に意識をキジャから戻してジェハは改めてこの状況を整理すると眉間に皺を寄せた。キジャに近づかれて匂いを嗅がれたこともそうだが、なによりもルイの今の格好だ。ジェハが着ている男物の山藍摺色の無地の浴衣と違ってルイが着ているのは花柄が散りばめられた桃色の女の子らしい色の浴衣だ。そしてその浴衣を緩く着ているルイの胸元は肌蹴ていたのだ。
「それよりルイ危機感なさすぎ
とりあえず胸元肌蹴てるから正しなよ」
「だって熱いんだもん…
それ言うならジェハだって同じでしょ?」
不思議そうに見上げてくるルイの上目遣いにジェハは理性を保ちつつ小さく息を吐いた。
「僕は男だからいいの」
「………」
「後、僕の目のやり場が困る」
「そんなの今更気にする??」
「気にするから!!いいからジットしてて!!」
コクリと首を傾げるルイに大きく項垂れたジェハは内心頭を抱えながらルイの帯を締め直した。
「で??キジャはなんで温泉入ってないの??
ジェハ知ってるでしょ?」
結局曇天巡りで話題が戻ったことにジェハはどう説明したらいいものかと表情を曇らせた。
「どうしてそう思ったんだい??」
「だって罪悪感満載の表情してるから…」
「……」
「どうせいつもみたいにおちゃらけてたら、深堀りしすぎちゃったんでしょ?」
「……」
「やっぱりね」
目の前の彼は確かに気遣いできるし、配慮も心得ている。人の心情には敏感で、触れてほしくないと思っていることに関しては自ら身を引いて相手側が話してくれるのを待てる。が、相手を茶化してたりしているとたまに墓穴を掘ってしまうのだ。その後の彼の表情は凄くルイからしたらわかりやすいのだ。やってしまったと人一倍、落ち込んでしまう。
的確に言い当てられてしまったジェハは表情に影を落として黙り込んでしまう。そんなジェハにルイは小さく溜息を零す。
「そんなに引きずるなら素直に謝ったら??」
「…うん、そうする」
「まぁ、キジャみたいな人は全然気にしてなさそうだけど?」
キジャのことを思い浮かべながらルイは小さく笑みをこぼす。その言葉に救われたのか普段の調子にジェハが戻り始めた。
「そこはルイとは正反対だよね?」
「せっかく諌めて上げたのに…」
「ごめんごめん」
「もう髪乾いてるよね??
紐頂戴、結うから」
全然悪気のない笑みにルイは溜息をつくとジェハの背に流れている深緑色の髪に手を伸ばした。その不意打ちの動作にジェハの心臓が跳ね上がったのを知らずに、ルイは彼のサラサラな髪に指を通すと、彼の背に回り込んで紐を出すように要求する。
「…無自覚って本当に怖い」
「……ん??なんか言った??」
「何も言ってないよ?
はいどうぞ」
彼女が背後にいて良かったと赤面する顔を隠すように手で覆い悶絶するジェハがボソリと嘆いた言葉にルイが首を傾げて反応を示した。それに不味いと慌ててジェハは白を切ると懐に入れていた橙色の紐をルイに手渡すのだった。
ルイはその紐を受け取るとジェハの髪を纏めていく。そして丁度結い終わったタイミングでルイの視界にハクが映る。それはジェハも同じでハクを捉えるとガバッと立ち上がるのだった。そして血相を変えて跳んでいってしまうのだった。
「え…??
どうしたの!?」
戸惑いながらルイは立ち上がると、彼らの行った場所の奥には確か水を浴びるといったキジャが居るなと気づく。
なにか見られたくないものがあるのだろうか??
不思議そうにルイは井戸の方に視線をやる。すると案の定、ハクの行く手を阻むようにジェハが立ちふさがっていた。そしてその奥には井戸で水浴びするキジャがいたのだった。