出稼ぎ
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「ジェ…」
「ハァ~、無事で良かった」
彼の名を呼ぶ前にルイはジェハにより力強く抱きしめられてしまう。
「ジェハ…くるしい」
「生きた心地がしなかった僕の気持ちわかるかい?」
ふと振り返った視界の端に映る見覚えがありすぎる濃紺色。それを人混みの中見失いながらもようやく見つける。が、桔梗色の瞳に映るのは、複数の男により壁に追い込まれて今にも襲われそうな愛おしい女性。その光景を目の当たりにして平常心でいられるほど大人ではないのだ。
彼女が無事であることを実感するかのように強く抱きしめて温かい温もりをジェハは分けてもらうことでようやく冷え切った己の身体が温まるのを感じた。
「…ごめん」
ルイはただジェハの腕に包まれながら謝罪を口にするしかできなかった。不謹慎ながらジェハの温もりに包まれたことで先ほど感じていたモヤモヤしていた感情は吹っ飛んできた。我ながら単純だと、内心呆れかえるルイの頭上からジェハの疑問が降り注ぐ。
「なんで返り討ちにしなかったわけ?」
「うっ...実は」
普段ならあっさりと撃退しているのにと純粋に不思議がるジェハの問いかけにルイはギクッと身体を強張らせた。そして誤魔化すように半笑いしながら事の丈を述べた。
武器をもってないこと
服が動きづらいこと
力を使ったら騒ぎを起こしかねなかった
それらを伝えるとジェハは大きく深い息を吐いた。
「その姿勢は、いつも騒ぎを起こす彼らに習わしてあげたいけど...
自分の身を危険に晒してすることじゃないよ」
「ゴメン」
「たく…
ルイは目を離すとすぐこれだよね」
「今回ばかりは言い返す言葉もありません」
「ちょっとは危機感持って欲しいんだけど
毎度毎度これじゃあ僕の心臓が持たないよ」
「………」
ここぞとばかりに棘のある言葉を畳み掛けてくるジェハを直視できずルイは視線を逸した。そんな彼女をジェハは壁際に追い込むとニッコリと満面の笑みを浮かべるのだった。
「と、言うわけで…
僕を冷や冷やさせた罰として
これから僕とデートして」
「……デート?!?!」
当然の要求にルイは目を白黒させて素っ頓狂な声を上げた。口をパクパクしながらなにか言葉を発しようとするが、言葉にならない。そんな彼女の狼狽ぶりにジェハはクスクスと笑みを零しながら、逃げ道を防ぐ一手を打った。
「異論は認めないからね」
「わ…わかってるって!!」
グッと近づけられた彼の顔の近さにルイはあたふたしながら答え、心臓に悪いとジェハの身体を思い切り押し、距離を取るのだった。
「そういえば、どうしてこんなとこに迷い込んじゃったんだい?」
「あ…えっと…色々あってさ」
ふと降りてきたジェハの疑問にルイは言葉を濁した。それに対して、ジェハはこれ以上踏み込むのをやめて話を切り上げるのだった。
「まぁ、いいや
売り子の仕事は終わったんでしょ?」
「う…うん
なんか、急いでジェハのとこ行って一緒に回ってきてってユンに急かされた」
「流石ユン君、気が利くね
僕が求めていることをよくわかっていらっしゃる」
コクリと頷いたルイの言葉で、ユンの真意に気づいたジェハは嬉しそうに声を上げた。そんな彼にルイは不思議そうに首を傾げた。
「なんか、ジェハ機嫌いいね…」
「そりゃあそうでしょ
だってこんな綺麗な女性とデートできるんだからね」
柔らかく微笑んだジェハの口から紡がられた言葉にルイは高鳴る鼓動を感じ、胸に手を当てて目を伏せた。対してジェハは、ルイの目の前で恭しく腰を折った。
「…??」
「僭越ながら、僕がエスコートさせていただきます」
他人行儀な彼の言葉にキョトンとするルイだが、フッと息をつくと目尻を下げ頬を緩めていた。そのまま、いつの間にか伸ばされていた彼の片手に己の手を乗せた。
「よろしく」
「ルイがまた路地裏に迷い込まないようにちゃんと手は離さないからね」
「も…もう!!
蒸し返さないでよ!!」
「だって事実じゃないか」
ジェハの冷やかしにルイはムスッとする。そんな彼女をジェハはケラケラと笑いながら、彼女の手を引いて大通りへといざなうのだった。