出稼ぎ
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「今日はちょっと出稼ぎに行きます」
「出稼ぎ?」
大きな荷物を背負いこんだユンはある日唐突に一同を見て言う。その言葉に各々の視線は一斉にユンの元に集まるのだった。”出稼ぎ”、その言葉に一同はキョトンとした。
「ユン、一体どこで出稼ぎするの??」
一同を代表してジェハの隣に腰を下ろしていたルイが恐る恐る尋ねる。が、ユンはもったいぶるように含んだ笑みを浮かべるのだった。
「来ればわかるよ
一先ず街に下りるからついてきて
あ…でもその前に…」
ユンは言葉を区切るとルイにこっちに来るように手でこまねく。それに導かれるままに近づいたルイなのだが、数分後悲鳴を上げる羽目になるのだった。
「ちょ!!ユン!!」
「うん!流石俺!!
バッチリだね」
「どこが~ッ!!」
「俺の魂胆のためだよ
嫌なら市場で新調していいから今はこれで我慢して!!」
暫く経ちユンと共に出てきたルイは女性ものの服装へとガラリと変えていた。出稼ぎに行くにあたり、ユンが秘かに用意していたものだったのだ。
「で…でも…
こんな格好…」
「ジェハ!!どう?俺のチョイスは」
「さすがユン君!
良いチョイスだよ」
縮こまるルイに痺れを切らしたユンがジェハに押し付ける。押し付けられたジェハは久々のルイの女物の衣装に嬉しそうに目尻を下げた。
「よし!!行こう!!」
そのユンの一声で一行は荷物を纏めて歩き出した。必然的に、ジェハと未だに渋るルイが取り残された。
「ルイ、僕たちも行こ」
「や…この格好で街に行くのは…」
「情報収集の時は平気なのに?」
「それとこれは話が別」
ルイは恥ずかしそうにふわりと揺れるスカートをギュッと握りしめてそっぽを向いた。そんな彼女の抱えている心情などお構いなくジェハは乾いた声を漏らした。
「そうなのかい?
まぁ、僕はその服似合っていると思うんだけどなぁ」
揶揄い混じりに笑いながらジェハは慣れた手つきで薄紫色の紐をほどき、細い指先で濃紺色の髪を梳く。その仕草に、己を見つめてくる桔梗色の眼差しにルイは視線を逸らすことができなかった。
最近の自分はどこか可笑しい
相手は長年ずっと生活を共にしたジェハだ
そんな彼の些細な表情に、仕草に、眼差しに、囁かれる甘い声に、心が掻きまわされる
何故だろう
それを嬉しいと思う反面、冷静な自分はダメだと諭している
だって彼の優しさに甘える資格は自分にはないのだから
そう心をモヤモヤさせているルイの髪をジェハは弄びながら、首に下げられているものに気づく。普段の服装では見ることができない白い首筋に光る金色のチェーン。ジェハはおもむろにそれに手を伸ばした。
「折角ペンダント持ってるのに隠しているなんて勿体なくない?」
いい機会だ。これを機に襟元が開いた服装にすればいいのにと、さりげなく呟いたジェハの言葉。だがジェハの予想に反して、ルイは蒼褪めた表情でジェハの手を振り払っていた。
「ダメ!!」
「…ルイ??」
「あ…ご…ごめん」
ルイは珍しく声を荒げて、慌てたようペンダントを懐に隠した。狼狽するルイの姿にジェハは驚きながら、彼女の名を呟いた。その彼の表情は罪悪感を滲ませていて、ルイは慌てて彼に向き直った。
「僕こそごめん
軽率すぎた」
「ううん、ジェハは悪くないよ」
ルイは小さく首を横に振るとペンダントを取り出して見せた。
ルイ…
このペンダントは決して見せびらかしてはダメだよ
ペンダントもルイが女の子であることも知られてはいけないよ
力を欲する悪い人に狙われたくなければね
幼い自分に視線を合わせるように屈んで優しく諭してくれた命の恩人の言葉が脳裏に過る。
彼の言葉の真意が今になってようやく理解できる。神話には出てこない”巫女”の
大切な者達を危険に晒したくない
ルイは断片的にどうしても譲れない理由を話した。彼の存在を隠して。その彼女の口から発せられた事実にジェハは大きくため息を吐いた。
「なるほど
ルイが頑として女物の服を着るのを渋るのも、ペンダントを隠すのも納得できたよ」
ヤレヤレとジェハは肩を竦めた。いつまでもこの状態は駄目なことは重々わかるものの、ルイの決意が固すぎるのだ。これを崩すのは至難の業だ。
いい加減わかって貰いたいものだ
どんな危険があろうとも、自分も含めて誰一人としてルイのことを見捨てないことも、全力で守ることも
この事実を知ったら皆して、「気にすんな、任せろ」と晴れやかな表情で豪語することを
納得してもらえたと安堵するルイにジェハはグッと顔を寄せる。
「でも覚悟しといてね
いつか、堂々と街を歩いてもらうからね」
耳元で囁かれた言葉にルイはゾワッと背筋を凍らせた。だが、それは秘かにずっと望んでいた言葉かもしれないと矛盾する感情にルイは内心で笑った。
ルイの纏う些細な雰囲気の変化に気づきジェハは柔らかく微笑む。
「ほら、行こう」
知らないうちに付けられた簪の重さに目を見開くルイの目の前でジェハが手を伸ばす。考える間もなくルイはその手に己の手を伸ばすのだった。
*****
「うわぁ〜!!」
ユンについていく形で山を下るとそこに広がるのはたくさんの人で賑わう市場だった。野菜や果物等食料はもちろんのこと、衣服や装飾品、雑貨等様々な物が売られていていた。その賑わう道を一同はキョロキョロと物珍し気に辺りを見渡しながら抜けていった。
「凄い賑わってるね」
「色んな店があるのね」
感嘆の声を上げるルイとヨナ。そんな彼らを含めて、ユンは市場の説明をした。
「期間限定で市が開かれるって聞いたんだ。
流浪の商人も旅人も自由に店を出せる。」
「なるほど、出稼ぎするにはうってつけの場所ってわけだね」
「そーいうこと!」
これだけ色々な人がいれば容姿が目立つ自分たちが紛れていても騒ぎまでには発展しないだろう。ルイは納得したように相槌をし、それに得意げにユンは答えた。
「ユンは何を売るの?」
「俺はいつも通り薬売り。
たくさん薬草摘んで来たからね」
ヨナの問いかけにユンは薬草を載せた籠を背負い直して見せると、クルリと身体を反転させて一同を見渡すのだった。
「そしてここからが重要
知ってると思うけど俺らは貧乏です」
真剣な表情のユンに対して、一列に並んだ他の皆は彼に向けてコクリと小さく頷いた。それを確認すると、ユンは早口で強い口調で言葉を紡いでいくのだった。
「肉は狩猟で何とかしてきたけど、米も塩も武器も衣類も欲しいですよね!?
つまり何としてでも金が要る!!
つーわけで客引きしてきて」
「確かにそうだけど…」
「目立たねェ方が良いんじゃねーか?」
有無を言わせないユンの言葉に対して、ルイとハクが言葉を濁らした。確かに旅を続けていくにあたりどうしてもお金は必要だ。だが、客引きをして目立つ行動をしてはいかがなものかと思ったのだ。それに関してはユンもわかっていると大きく頷いてみせた。
「それは大前提
でもここは他国の商人や旅芸人も来るから変わった面してるシンアでもあまり気にされないと思う。」
「しかし、客引きなどやった事が…」
「連れて来なかったら飯抜き!!
あ、ルイはコッチね」
未だに渋る一同。そんな彼らに最終手段と言わんばかりにビシッとユンが言葉を突きつける。もちろんそれを提示された一行は首を横に振れるわけがなかった。
「「「「「行って来ます!!」」」」」
ユンに手を引っ張られたルイを除いた一同は、身体をクルリと反転させイソイソと客引きのためにその場を離れるのだった。
「えっと…ユン
私は??」
「ルイはここで売り子やって」
「え?!」
「できるよね?」
ある一区間をゲットして布を広げて薬草を並べ始めるユンにルイは恐る恐る尋ねる。そんな彼女にユンは黒い笑みを浮かべた。もちろんルイがユンの要求を断れるわけがなく顔を引き攣らせながら渋々と頷くのだった。