戦の火種
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「何だ、戦か?」
ドドドっと駆け抜ける馬の蹄の音。
遠くから土埃を起こしながら駆ける馬を遠目に眺めていた旅人らはその音を聞きながら不思議そうに突っ立っていた。が、その先頭を走っていた馬は目の前を通り過ぎるわけではなく彼らに勢いのまま向かってきた。その馬に乗る兵士が持つのは鋭利な槍。その槍は恐怖で怯えあがり足がすくんでしまった彼らに襲い掛かろうとしていた。その兵士たちは、敗走していたリ・ハザラ軍。物資が底をついてしまった上に、スウォンの術中の罠に嵌り返り討ちを喰らったリ・ハザラはこのまま千州に帰るだけでは腹の虫がおさまらなかったのだ。その腹いせのためにリ・ハザラは指示を出した。
近隣の村から物資を奪ったうえで蹂躙し焼き付くせと
運が悪いとこに、たまたまその道を通りかかっただけの旅人らはターゲットにカウントされてしまったのだ。死を覚悟する旅人らだが、彼らは九死に一生を得る。旅人らの背後から突如現れた1頭の馬に乗る1人の男が大刀の刃を思い切り槍を持つ兵に向けて風を切りぶった切ったのだ。旅人の目の前で槍を持っていた兵は赤い鮮血を噴き出して落馬しバッタリと地面に倒れた。
「…なっ」
リ・ハザラはその光景に息を呑んだ。そのリ・ハザラの前に姿を現したのは1頭の馬に乗る青年と少女。勢いよく振った大刀をブンッと音を立てて肩に担ぎなおした青年は青藍色の瞳を鋭く光らせる。そしてその青年の前で馬に跨る少女も紫紺色の瞳を凛々しく光らせていた。その彼女の深く被る白い外套から覗かす暁色の髪は風で靡く。そんな彼らの後方からは遅れて3頭の馬が姿を現していた。
「ひ、ひィ…」
この状況に腰を抜かした旅人は悲鳴を上げた。そんな彼らにヨナは淡々とした口調で立ち去るように促すのだった。
「ここは戦場です。
巻き込まれないうちに立ち去りなさい。」
「はっ、はい…!」
その声に促される形で慌てて立ち上がった旅人らは戦場に背を抜け走り出した。彼らが立ち去ったのを確認するとヨナは真っ直ぐリ・ハザラを見据えた。一方のリ・ハザラは困惑気味に尋ねた。
「空の兵士ではないな?」
「千州のリ・ハザラ、大人しく去れ。
高華国に侵入し、この上まだこの地の人々を脅かすならただではすまぬと思え。」
そんなリ・ハザラにヨナは氷のように冷え切った声色で言葉を言い放った。その上から目線の口調にリ・ハザラは訝し気に眉を顰めながら隣にいる兵士に淡々と指示を出す。
「蹴散らせ」
「はっ」
その指示のもとリ・ハザラ軍の兵が前に出た。そんな兵目掛けて一番後方にいた馬の背から2人が宙へ飛び上がる。1人は巨大化させた右手で1人の兵の顔を鷲掴みにして馬から叩き落す。もう1人は宙にいる状態で手を軽く横に薙ぎる。すると強い風が突如として吹き荒れ兵士を吹き飛ばした。その風圧は先に地面に舞い降りていた青年の素顔を露わにさせた。綺麗な白髪を靡かせ、キジャは背後に自分に遅れて降り立った彼に首だけ振り向かせる。
「そなたが起こした風のせいで剥げてしまったではないか、ルイ」
「それは悪かったね
なにせまだ扱いに慣れてないものでね」
そんなキジャに対して被っていたフードに手を掛けて、濃紺色の髪を露わにさせたルイがキジャに視線を投げながら平謝りする。そんな具合で軽口を叩きあいながらも二人はそれぞれ、紺碧色の瞳と翡翠色の瞳を細めて口角を上げる。その二人の一見すると美しい微笑に見えるものの、それを見た者からしたら背筋をゾッと凍らせるくらい黒い笑み。そんな彼らの横顔を見て兵士は恐怖で身体を小刻みに震わせていた。
「な、なんだあの手は…!!」
「ば、ばけもの…」
規格外の2人を目の当たりにした兵士は恐れで得物を持つ手を震わせながらも自分を鼓舞するように声を張り上げる。
「
虚勢を張っていることが丸見えな彼らにルイは小さく息をつきながら軽やかに短剣を取り出し右手に持つと、キジャと共に敵陣の中に飛び込む。一方で、得物を握り直す兵士に人影が差し込む。それを不思議に思った彼らは頭上を見上げ驚愕する。
「と…飛んでる…!?」
ありえないほど高い場所に浮かぶ一人の青年。太陽を背にした彼が被る白い外套から覗くのは深緑の髪。桔梗色の瞳を細めうっとりとした笑みを浮かべているのに反して、彼の長い指の間に挟まっているのは物騒なほどに漆黒色に輝く暗器だった。
暗器を持った手を頬の近くに寄せ妖艶の笑みを浮かべるジェハは唖然とする兵士に向け暗器の雨を降らせていった。
対して地上では馬から降りたシンアが鞘を抜いた剣を振り、ハクはヨナを抱えながら大刀を振り回す。そんな彼らの攻撃は次々と敵を薙ぎ払っていった。
なんだ…この国には得体の知れない化物がいる!!
その一方的な展開にリ・ハザラは怯えながら見ることしかできなかった。