迫る不穏な火の手
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「…この道だよ〜」
陽気なゼノの声に誘われた一行の前に現れたのは、真っ暗闇の地下通路。いかにも長年使わられていなそうな細い古びた地下通路。だが、ココを通らないと外には出られないため、一同は文句を言う口を固く閉じて足を踏み出すのだった。
「ふはっ!白龍、糸だらけ~」
ようやく出口に辿り着いた一行は、キジャの大きな手により押し開けられた天井の通路を抜けて外に出る。そこは千州の軍が陣を張っている後方だった。真っ暗闇から太陽の光がサンサンと照らす外に出た一行は新鮮な空気を吸い込んだ。その中、ゼノがキジャの姿を見てゲラゲラと笑い声を上げた。
「恐ろしい…あの地下道クモの巣だらけではないか。ジェハ取ってくれ。」
対してキジャは笑っている場合じゃない。虫嫌いなキジャは全身に纏わりつく嫌悪感にゾワッと背筋を凍らせ、顔を引き攣らせていた。そのキジャの羽織る外套は蜘蛛の巣だらけ。でも、それを直様取りたいがキジャはそれを触れないため助けを求めるようにジェハに話を振った。
「僕、美しくないモノには触れたくないんだよね。
シンア君任せた。」
だが、震える声を発するキジャをジェハは辛辣に受け流した。そのジェハの羽織る外套にも、話を振られたシンアの羽織る外套にも同じように蜘蛛の巣がくっついていた。その彼らの押し付け合いにルイは呆れた表情を浮かべていた。
「そう言ってるジェハにもクモの巣ついてるがな…」
「え…嘘!?」
「あ…」
「っーか、シンアの場合はクモの巣どころかクモだらけだな。」
互いの姿を見合いながら、思い思いの言葉を口にしていく一行は場違いに騒がしかった。その唐突にどこからか現れた一行に対して、千州の兵士は怪訝な表情を浮かべていた。
「な…何だ、お前ら。」
「千州の皆さん、態々はるばる遠い所までご苦労さまです」
「ちょっとすみませんがここでの野営は彩火の皆様のご迷惑になりますので、撤収して頂けませんかね?」
その兵に対して、一歩前に出たルイとジェハがニッコリと取り繕った笑みを浮かべて、なるべく神経を逆なでしないように言葉を選んで交渉を始めた。その二人の後方では、シンアの外套に張り付いた沢山の蜘蛛に関して主にキジャが大声で騒いでいた。
「できれば穏便に場を収めたいので従っていただけませんか?」
「大人しく出てって頂ければ僕らは危害を加えませんので。」
背後の喧騒を右から左に流し、ルイとジェハはやんわりと遠回しにこの場を離れるように催促した。が、突如現れた不審人物の言うことを素直に聞き入れるはずがなく、兵達は鋭い眼光で彼らを睨みつけた。
「貴様ら、何者だ?」
「化物ですよ」
その問いに対してジェハは含みのある微笑を浮かべるのだった。その隣では言葉を発しはしないもののニッコリと場違いな笑みを浮かべるルイがいた。対して、彼ら二人の少し背後で黙って見ていたハクが一向に収まる気配がない騒動に鋭い一声を浴びせた。
「やかましいんだよ、白蛇てめーはよ!」
ハクが憤る相手はもちろん騒ぎの中心のキジャだ。そんな彼らを見て、ルイは深くため息を吐きながらハクに近づいた。
「まぁまぁ、ハク
虫嫌いの彼を怒鳴りつけちゃ駄目だろ?」
可哀想で不憫だと肩を竦めてみせたルイ。そんなルイにハクはじゃあこれどうすんだよとジト目を向けた。その痛い視線に気づいたルイは、軽く目を瞑ってみせた。そのルイの掌にはいつの間にか風が渦巻いていた。
「ルイ!!
この忌々しいものをどうにかしてくれ!!」
「ハイハイ
なんとかするから大人しくジッとしててね」
切実に訴えるキジャをルイは一声で大人しくさせると、キジャとシンアの周囲に疾風を巻き起こした。その風によって彼らに纏わりつく蜘蛛と蜘蛛の巣の糸は綺麗に飛んでいくのだった。
「おぉ!!
ルイ、やるな!!」
「これでひと暴れできるよね??」
感嘆の声を上げるキジャに、ルイは含みのある笑みを浮かべてみせた。その表情にキジャは答えるように氷のように冷たい微笑を浮かべて、右手を大きくしてみせた。
「…もちろんだ」
「じゃあ交渉決裂ということで、暴れますか」
そのキジャのやる気に唆される形で、一同は戦闘態勢に入るのだった。
*****
「何だ!?こいつら!!」
「ばっ、化物だぁああ!!」
静けさを保っていた千州の陣が、一気に騒がしくなった。その原因はもちろんキジャ達の仕業だった。ハクは大刀を横に薙ぎり、風を巻き起こし兵を蹴散らす。キジャは大きな手を振りかざし、シンアは剣を静かに振るった。一方で跳び上がったジェハは空から地上に暗器を降らせ、地上にいるルイは軽快な身のこなしで相手の懐に入り短剣を使って切りつけていった。
その彼らの異次元な強さに千州の兵は悲鳴に近い叫び声を上げた。
「だから言っただろ…」
「せっかく忠告してあげたのに…」
悲鳴を上げアタフタとする彼らを見て、ジェハとルイは呆れた表情を浮かべ、ボヤく。が、憐れむものの自業自得だと切り捨てていくのだった。
「うわっ、天幕に火が!!」
一同が蹴散らしていく中、張られた天幕に火矢が刺さり、火が燃え広がる。その火矢が放たれた方向には凛々しく立つヨナがいた。暴れまわるハク達とは別に、ヨナとユンは陣の近くに生い茂る木々の影に隠れていたのだ。
「ヒュ~
ヨナちゃんかっこいいね〜
僕もあの矢に射抜かれてみたいね」
矢を射ったヨナの立ち姿に思わず見惚れていて隙を見せていたルイの背後に口笛を吹きながらジェハが舞い降りた。そして彼女に迫る攻撃の手を阻み、自分の背を預けたジェハはヨナを一瞥して軽口を叩いた。そんな彼に対して、ルイは周囲の敵を巻き起こした風で一掃すると背後にいる彼に声を上げる。
「だったら今度、僕が強烈な一矢を射てあげるよ」
「それはそれで願ったり叶ったりのお誘いだねぇ〜」
そのルイの一声にゾクリとしながらジェハは嬉しそうに頬を緩ます。が、すぐに先程の行動に対して苦言を漏らした。
「というか、敵陣の中で隙を見せちゃ駄目でしょ」
「見せてもジェハがなんとかしてくれるだろ??」
困ったように顔を顰めるジェハの言葉に対して、ルイは背にいる彼を見上げると口角を上げた。その言い返しにジェハは参ったと白旗を上げるのだった。
「これだけやれば千州軍を攪乱出来るし、スジン将軍も彩火に戻って来れるんじゃないかな。
あとはスジン将軍が帰って来たのを見計らってとっとと退散するよ。」
木陰にいたユンが現状を分析していく。その最中、ルイとシンアが明後日の方向に視線をやり固まった。
「シンア??」
「ルイ、どうしたんだい?」
目に当てた白い布を上げて金色の瞳で向こうを凝視するシンアに対して近くにいたキジャが不思議そうに声を上げる。対して、動きを止めて目を瞠るルイにはジェハが声をかけた。その彼らの声に対してルイとシンアが恐る恐る重たい口を開いた。
「「…軍勢が」」
「来たか?」
「やれやれ。じゃ、そろそろ退散しますか。」
二人の言葉を受け、スジンの軍が来たと思う二人。だが、そうではないとルイは小さく首を横に振った。
「スジンの軍はコッチに向かってきてないんだ」
「「何!?」」
「火の部族の兵…と千州の兵は…
南西へ…
南西へ向かってる。」
驚く二人を一瞥してルイは、シンアに視線を送る。その視線に応じる形でシンアは見えたものを説明するのだった。それは彼らの予想とは反するもの。4人、顔を見合わせると周囲にいたハクとゼノに声を掛けて一先ず退散するのだった。